猛攻!! サーディ・スーパ
草木も眠る丑三つ時、ノワレ以外のパーティーメンバーは眠りについていた。
静寂が真夜中のジャングルを包んでいた。
だが、すぐにそれは破られた。
「チリンチリン!! チリンチリン!!」
激しい鈴の音が鳴り響いたのである。
真っ先にガバッっとジュリスが半身を起こした。
他の者もすぐに反応して飛び起きる。
「来たか!! フォリオなら先行して向かえるが、グスモの格闘術を活かすために他と足並みを揃えてけ。ほれ、いくぞ!!」
ジュリス、カークス、ノワレ、アシェリィ、イクセント、フォリオ、グスモは音の鳴る方へ急いだ。
トラップの設置場所はそこまで距離がなく、すぐたどり着くことができた。
「アーーーー!!!! オーーーーー!!!!」
そこにはペタリシートFにベロがひっついたサーディ・スーパが居た。
「チャンスだ!! 一気に叩け!!」
真っ先に攻撃をしかけたのはイクセントだった。
素早く美しい装飾のこぶりな杖を取り出してバトンのようにクルクル回す。
「瞬光の射者!! ウィンキング・レイシューーーートッ!!!!」
一瞬パッっと辺りが明るくなると同時に光線が尾を引いて邪神に向けて発射された。
誰もが命中したと思ったその時だった。
サーディ・スーパの舌がペタリシートFから剥がれてしまったのだ。
すんでのところで呪文は相手にかわされてしまった。
「チッ!! やっぱり粘着力不足でやんしたか!!」
グスモは悔しげに歯を食いしばった。
「イクセント、立て直せ!! 二発目発射に備えて集中しろ!!」
ジュリスは焦燥感に苛まれている少女に声をかけた。
「ここからが本番でしてよ!!」
次いでシャルノワーレが弓を引き絞った。
「トライエ・クワイスですわ!!」
彼女は弓を立て続けに3発発射した。
微妙に狙う位置をずらしながら連射して近距離に逃げたときに当たるように工夫したのだ。
「ヒーーーー!!! ッハァァァッ!!!!」
邪神はテレポートでこれを軽くかわした。
テレポートも矢のスレスレで避けており、明らかにこちらを挑発している。
「ムッキーーーーー!!!!」
ノワレは激しく苛立った。
だが波状攻撃はこれでは終わらなかった。
「よそ見が過ぎるでやんすね!!」
「で、できるかな……で、できるかなぁ……」
サーディ・スーパの背中側からフォリオとグスモが突進してきたのだ。
グスモはホウキの勢いにのって高速で頭から相手に飛び込んだ。
リーチは短いが威力の高い手刀を突き出すように繰り出した。
だが、亡霊はそれもよけた。
近くに出現したのを確認したフォリオは手に持っていた拳ほどの大きさの球を投げつけた。
「くく、くらえ!! ぽ、ポップ・ポップコーン・ホッパーだ!!」
そのマジックアイテムは弾けると小さな黄色い気弾をあたりに撒き散らした。
「いいぞフォリオ!! カークスほどじゃないが、巻き込めるかもしれん!!」
しかし、またもやテレポートを繰り返して相手はそれをギリギリで回避しきった。
「や……や、やっぱりダメかぁ……」
フォリオはがっくりとうなだれながらグスモを拾いに向かった。
その直後、イクセントの二発目が発動した。
「瞬光の射者!! ウィンキング・レイシューーーー・トゥワイス!!!!」
わずかに転移速度が落ちていた邪神にこの呪文がかすった。
またもやサーディ・スーパは耳を切り離される羽目になった。
「いいぞ!! 後少しだ!!」
だが、イクセントは膝に手をついて完全にバテきってしまった。
ウィンキング・レイシュートは高度な呪文なので極めて燃費が悪かった。
もっとも彼女自身のバテやすさも影響しているのだが。
被弾したせいか、テレポート速度が目に見えて落ちてきた。
それをエルフの少女は見逃さなかった。
「これなら!! シード・アウェイキング!! 1secグラス!!」
彼女は腰から下げた小袋から種を取り出して力を込めた。
シード・アウェイカーとは植物の種を瞬時に成長させる魔術である。
ただの雑草や野菜、花の種でも特殊な魔法植物に変換できる。
種が成長し、白いツルが猛スピードで伸びて相手の大きなピアスをひっかけた。
「ふふ!! やっと捕まえましてよ!!」
手応えを感じていたが、サーディ・スーパは自分から残った方の耳を切り落として逃げた。
「ヒーッヒ!! ゥイーッヒ!! ハハハハ!!!!!」
両耳を落としてもまったくこたえている様子がない。
アシェリィは戦いの展開の速さに手が出せずに焦っていた。
召喚術ではどうしても遅れが生じてしまって、邪神に攻撃が当たらなさそうなのである。
だが、このまま何もしないわけにはいかない。
厳しいとわかりつつも彼女はできるだけ速い幻魔を召喚した。
「サモン・コバルトリィ・ブルー!! ヒスピス!!」
美しい蒼い鳥が出現した。
すばやく彼女はヒスピスを魔物にけしかけた。
だが、予想通りテレポートで避けられてしまった。
「アシェリィ、ナイスな判断だ!! お前のことを遅いとはいったが、相手をバテさせるという意味では役に立つ。俺は召喚術に関しては門外漢だから使える幻魔は把握できなかったが、それならある程度はいけんだろ!!」
邪魔者の乱入も無さそうだったのでジュリスは腕組みして戦いの様子を見守っていた。
「い、いイクセントくん!!」
少女が俯いた状態から顔をあげるとマナを回復させる青いpotが飛んできた。
「の、の飲んで!! はは、はやく!!」
小さめなフラスコに入ったpotを彼女はラッパ飲みした。
シュワシュワと爽やかな炭酸と甘味が口に広がった。
「……スパークリング・ブルーハワイか!!」
するとかいていた汗がひっこみ、徐々にけだるさが抜けてきた。
失いかけていた戦意も戻ってきていた。
イクセントは無言でフォリオに向けて手を振った。
サーディ・スーパへの猛攻はまだ続いていた。
スキを与えるとおそらく象の雨が降る。
なんとしてもそれだけは避けなければならなかった。
当たりそうな手応えはないが、ノワレとアシェリィの二人で攻めていると手数は稼げていた。
一番もどかしく感じていたのはカークスだった。
彼女は今まであえて手を出していない。というか出せないのだ。
戦場は味方が転移する邪神めがけて入れ替わり立ち替わりフォーメーションが変わっている状態である。
この状態で彼女の花火弾、スパーク弾を放つとその場の全員が爆撃されることになる。
だからこそ最終手段として待機しているのだが、やはり焦りは拭えない。
「みんな~……頑張って!!」
その時だった、マナが回復したイクセントが白く光り始めた。
「……同じ魔法を連続した事によって今なら連続特性追加魔法……コンテニュー・グリモアティングが発動できる!! 一発でバテてしまうが、これならどうだ!!」
イクセントは杖を器用に片手でクルクルと回した。
「追魔の聖閃!! ウィンキング・レイシュート・アド・チェイサー!!!!」
魔法少女が思い切り振りかぶるとまたもや辺りがピカッっと光り、昼のようになった。
飛んでいった光線は後少しというところでまた避けられてしまった。
見た目は今までと変わらなかったが今度の呪文は一味違った。
一直線に密林の奥に消えてしまうわけでなく、その場に留まったのだ。
その直後にサーディ・スーパが出現すると光弾は相手を追いかけだした。
追跡、テレポート、追跡、テレポートとイタチごっこが始まったのである。
ジュリスは大きめに声をかけた。
「いけるぞ!! 当たる可能性もあるし、何より相手の転移精度を落とせる。攻撃できるやつは一気に畳み掛けろ!!」
イクセントの呪文にノワレの弓とアシェリィのヒスピスが加わる。
フォリオとグスモは攻撃に巻き込まれないように待機していた。
それでもなお亡霊に攻撃が命中することは無かったが、猛攻によって敵のテレポート回数は跳ね上がった。
心なしか転移の速度と精度が落ちてきている。
「フヒィ!?」
邪神の顎先にウィンキング・レイシュートがかすった。
だが、その直後にイクセントはマナ切れで倒れ込んでしまった。
それを見ていたフォリオはホウキですぐにかけつけ、なんとか彼女を抱き起こすとトランクから液体状の薬を取り出して飲ませた。
「き、強烈な気付け薬だけど……か、勝つにはイクセントくんの力が必要なんだ!! ご、ごめんね!! し、しっかり!!」
ホウキ乗りが黄金色に光る薬を気絶した少女にのませると彼女は瞬時に飛び起きた。
「ううう……なんだ……これは……。全身が……ビリビリするぞ……」
フォリオはのませた薬の解説をした。
「えええ、エレキショッカーっていうんだけど、ききっ気絶から立ち直って気力も満ちてくる強壮剤の一種だよ。でで、でも副作用で体がしびれて運動能力は格段に落ちちゃうんだ。た、ただイクセントくんの場合は呪文ベースだし、戦闘にあまり支障がないと思って飲ませたんだよ」
イクセントは片目をつむって顔を歪めた。
「お前……これ結構キツいやつだろ……。あとできっちりお返ししてやるからな……」
彼女はフォリオの行動に感謝していて、冗談交じりにそう言っただけだったが少年は明らかに怯えていた。
魔法少女は起き上がり、地面に膝をついて杖を突き出した。
「……これで……終いだ!! その力を解き放ち、大いに暴れよ!! リリース・スペル・エン・ランペイジ!!」
すると一度は消えた聖閃が再度出現して小爆発を起こした。
放った呪文の勢いをその場で開放して炸裂させるリリース・スペルという高等テクニックだ。
辺りが白光で眩しくチカチカと点滅する。
かなりの範囲を巻き込んだのでアシェリィのヒスピスは一瞬で幻気体になってしまった。
だが、これなら流石に命中しただろうとその場の全員が確信した。
だがその見込は甘かった。サーディ・スーパは頬を抉られてはいたがまだ健在だった。
イクセントは再び大量のマナを消費し、四つん這いになってしまった。
シャルノワーレはここぞとばかりに追い打ちの矢を手に取ろうとした。
だが、気づけば矢筒にはもう矢が残っていなかった。
チャージには少し時間がかかる上にシード・アウェイカーと同時に生成することは出来ない。
このほんのわずかな瞬間、邪神が動けるわずかなスキが生じてしまった。
イクセントはまたバテてしまい、フォリオはまだ彼女のそばでコンテナを展開したままだった。
ノワレは矢かシード・アウェィカーのチャージ時間とどちらを使うかでわずかな迷いが生じた。
アシェリィのヒスピスは消えてしまったし、別の幻魔を呼ぶまで少し時間がかかる。
グスモは位置関係が悪く、リーチも短いのですぐに攻撃をしかけることは出来なかった。
ジュリスは魔物の攻撃に備えて回避体勢をとっていた。
邪神サーディ・スーパがブルブルと震えだした。
間もなく象の雨が降って来る。
パーティーメンバーの多くは腹をくくって覚悟を決めたが、同時に拭いきれない恐怖心を感じていた。




