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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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FフィッシングとペタリシートF

ジュリスの作戦が開始していた頃、百虎丸びゃっこまる、カルナ、ドク、ニュルはピンチにおちいっていた。


カルナの蝋燭ろうそくがサーディ・スーパを呼び寄せている上に、その前の戦闘で切り落とした邪神の耳とピアスが余計に敵のうらみを買っていた。


まるでゲリラ豪雨のように空からファントムズ・ヘイツが降ってくる。


相当、亡霊ファントムはご立腹りっぷくらしい。


「ええい!! こんなモンがあるからこんなことになっちまったんだ!! コイツを捨てりゃあるいは!!」


ニュルはドクが荷物に引っ掛けていたピアスつきの青白い耳をぶんどった。


「……貴重な薬の材料にでもなるかと思って保存しておきましたが……やはり呼び寄せてしまいました……。迂闊うかつでしたね」


ニュルはドクをどついた。


「ウカツでしたね……じゃねぇよこんのアホ!! ピアスと耳で薬が出来るか!! おらよぉ!!」


タコ人間は全力で邪神の一部を密林の空へと山なりに放り投げた。


しかし、サーディ・スーパはぞうの雨をやめなかった。


徹底的につぶしていくつもりなのだろう。


「オホー!! ヒィーッハッハッハァ!!!!」


ボグッ!!


まず、機動力の低めなカルナがぞうにはねられて気絶した。


痛そうな鈍い音がした。いや、痛いではすまないだろう。


更に、ドクも肉体強化エンチャントが得意ではなかったので巨体の下敷きになってしまった。


「ごえっ!!」


カエルをんづけた時のような嫌な悲鳴が聞こえた。


ニュルは盾で防御しつつ反撃も行っていたが、とにかく数が多すぎる上に勢いよく空から降ってくるものだから耐えきれなかった。


「うおああっっ!!! む、無念……」


最後に残った百虎丸びゃっこまるはずば抜けた反射神経で降ってくるぞうの背中を駆け上がっていった。


「み、みんな!! かくなる上は!! 邪神、覚悟――――ッッッ!!!!」


魔物の波をかいくぐって素早く亡霊ファントムを斬りつけた。


だが、テレポートであっさり回避されてしまった。


「ヒーッヒイヒホホォアハ!!!」


とてもではないが攻撃を当てられそうにない。ウサ耳亜人は敵に背を向けた。


「くっ、ここは一旦、退散するでござる!!」


なんとか逃げ切ることができたが、百虎丸の班は3人が一気に野戦病院行きになってしまった。


その結果、この班は離散してしまい振り出しに戻った。


だが、このチームが残したものが思わぬ進展を生むことになった。


もうすぐ日暮れというところの美しい夕焼けをながめながらフォリオは上空で偵察ていさつをしていた。


時々、こうやって他の班が近くに居ないかチェックするためだ。


とはいってもこの広いジャングルだ。アンジェナやキーモの手がかり無しに人を探すのは難儀なんぎなことである。


どうせ見つからないだろうとフォリオがあくびをしていたその時だった。


不気味にぼんやりと青白く光る何かがこっちへ近づいてくるのである。


きっとサーディ・スーパに違いない。驚いて思わず彼は声をあげた。


「ううう、うわあ!!!!」


その声は地上の6人にも届いており、すぐに全員が警戒の姿勢をとった。


邪神が襲撃をかけてきたとフォリオは思い込んでいたが、どうやら様子が違う。


テレポートもしないし、不気味に笑いもしないのである。


しかも割と規則的な軌道で接近してくる。何かが飛んできているだけのようだ。


フォリオはビクビクしながらその青白い何かをナイスキャッチした。


目を細めて手にひっかかったものに手をやる。


わっかのようなものをつかんでいた。


視線を移すとそこには人間の形をした耳がついていた。


「う、う、う、うわあああああああああ!!!!!!!! み、み耳だぁーーーーーーーッ!!!!!!」


ホウキ少年の言葉足らずのせいで地上のメンバーは混乱した。


すぐにビビりの少年は地表近くに降りてきて集まってきたメンツにそれを見せた。


「ほほほっ、ほらぁ!! ここっ、これって耳だよ。ささ、サーディ・スーパの。あ、あ、あいつは特徴的なピアスをしてるんだ。間違いないよ」


ニュルが強肩きょうけんで投げた耳とピアスがかなり遠距離のフォリオまで届いたのである。


ジュリスは釈然しゃくぜんとしない様子だ。


「へぇ……。これがサーディ・スーパの一部か。しかし、なんでそんなものが宙を舞ってたんだろうな? 今んとこ本体も来てねぇみたいだし。もしかして、他の班が交戦して切り落としたのかもしれねぇな。だが、これが残ってるってことはまだ本体は成仏してねぇ。しいとこまではいってたのかもしれんな……」


先輩の読みは的中していたが、そのパーティーは既に壊滅かいめつしていた。


よく見ると耳よりはるかに大きい縦長のリング状のピアスがついている。


先輩はフォリオからそれを受け取るとリングに指をひっかけて耳ごとクルクルと回してもてあそび始めた。


「あ、あわわ……。そ、そんなことしたら、あ、あいつが怒るんじゃ……」


周囲のメンバーもこのきもっ玉の座りっぷりにはちょっと驚いた。


「んだよ。オバケ風情ふぜいが。ま、体の一部を取り戻しに来るのは間違いねぇ。持ってるだけで向こうから来てくれ……」


話の途中で彼は黙ってしまった。


「あっ……」


思わずアシェリィの口から声がもれた。


ジュリスはなんだかすごく楽しそうに笑い、アシェリィに耳とピアスを手渡した。


「コレをエサに釣ってみろっていうんですね? うげぇ……なんか人の耳って気持ち悪いなぁ……。あ、人じゃないけど……人の耳とそっくりだし……」


上級生は満足げにうなづいた。


「そういうわけだから頼むぞ。うまく釣り上げることができれば相手にかなり大きなスキが出来る。そこをイクセントとノワレで突けばいけそうだ。フォリオの話によるとぞうを雨あられのように降らすこともあるみたいだから呼ぶスキがないほど集中砲火だ。あと、最終手段の発動をカークスに任せる」


カークスはちょっと困ったような表情になった。


「ど~してわたしなんですか~?」


ジュリスは人差し指を振りながら答えた。


「さっき説明したが、お前の魔術の周囲を巻き込む範囲はかなり広い。手当たり次第に撃っても邪神に当たる可能性があるんだよ。まぁそのかわり味方も容赦なくかなりのダメージを受けるが。その結果、一気に不利になるかもしれん。だがそれでも俺はいざとなればカークスにけるべきだと思ってる。だから取り逃しそうになったら躊躇ちゅうちょせずとにかくぶっぱなせ。以上だ」


彼がそう説明し終わるとアシェリィが声をあげた。


「あ!! 早速さっそく、釣りスポット発見です!!」


彼女はなにもない空間を指さしている。


一同はそろって首をかしげたが召喚術師サモナーの能力と割り切った。


「えっと……この耳を針につけて……えいっ!!」


釣りガールはリール付きの竿ロッドを空中に放り投げた。


するとエサがパッっと見えなくなった。


そこに空間の割れ目があると明らかにわかり、その場の人間は懐疑的かいぎてきな姿勢を改めさせられた。


30秒と経たないうちに反応があった。


「あっ!! ふっ!!」


アシェリィはエモノに針をひっかけるアワセを試みた。


だが、手応えはないままだ。彼女がそっと糸を巻き取るとそこには針だけが残っていた。


「あぁ~~~~!!!! エサだけとられた~~~~!!!! 貴重なチャンスだったのに~~~!!!」


相手のほうが一枚上手だったのだ。


少女はひざをついてがっくりとうなだれた。


すぐにジュリスが声をかける。


「ほら。こんくらいでしょげんじゃねぇよ。責任も感じるんじゃねぇぞ。次を考えろ。切り替えてけ」


そして日が暮れた。


みんながジャングルの食材で作った夕食を食べながら次の計画についてあれこれ話していた。


そんな中、グスモはひたすらなにやらガチャガチャやっていた。


何度もリュックサックの中ののぞき込んではせわしなく何かを出し入れしていた。


「ふぅ……これならなんとかなるかもでやんす」


彼は板のような薄い物をかかげてみせた。


ちいさな鈴がついており、チリンチリンと音をたてた。


「これ、亡霊ファントムをおびき寄せて捕まえる駆除アイテムでさぁ。名付けてペタリシートFファントムでやんす!!」


一同はいい意味で驚いた。


特にジュリスは目を丸くしていた。


「お、お前……亡霊ファントムホイホイ類はかなりレベルの高いトラップだぞ。それを1時間そこそこで自作したのか!?」


ちょっと照れくさそうにちっちゃい少年は笑った。


「いやぁ、あっしの才能というか住んでる里のおかげでやんすよ。あすこじゃ罠を作れねぇと生き残れねぇでやんす。それに、罠のアイディア自体はジュリス先輩に教えてもらったわけでやんすし。まぁ亡霊ファントムはその性質上、くっつけるのが難しいので粘着性には難がありやすが、おびき寄せる効果は確保できたとおもいやんす」


彼は平たいシートを手のひらにのせた。


「手持ちで作れたのは3つ。獲物がかかると鈴がなる仕組みでやんす。これをある程度ばらけて設置してくるでやんす。それぞれを星座みてぇに大きな三角形の頂点に設置してきやす。その中央……つまりここでキャンプを張っていればすぐにどこの鈴が鳴っているのかわかるはずでやんす。あっしはフォリオさんと協力してペタリシートFファントムをしかけて来まさぁ」


グスモが目線をフォリオに移すと彼は首を縦に振った。


「じゃ、トラップの方はあいつらに任せるとして俺らはキャンプだ。いつ引っかかるかはわからんが、とりあえず体を休めておけ」


ジュリス、シャルノワーレ、アシェリィ、カークス、イクセントは各々がリラックスした姿勢をとった。


そんな中、いじけたように体育座りしたアシェリィが明らかに落ち込んでいた。


隣に寄り添うようにノワレが座る。


「あらあら。どうしましたの? 落ち込むなんてらしくないですわよ?」


彼女は優しくアシェリィの肩に手を置いた。


「……だって……遠足に来てあんまりいいとこないんだもん。そりゃパルーナ・ジャングルを冒険してるのは嬉しいよ? でもさあ、死ぬほどつらい思いをした修行が全然、生きてないんだよ。私ってまだまだだなぁって……」


落ち込む彼女をよそにエルフの少女は笑いだした。


「ふふ。ふふふ……」


アシェリィは信じられないと言った表情でそれを見返した。


「あっ!! ひど~い!! 笑い事じゃないんだよ!?」


シャルノワーレは口元をおさえた。


「ふふ。ごめんなさい。だって、アシェリィっぽいなって思っちゃって……」


その意図をみかねて少女はなんとも言えない顔になった。


「だって、普通、死ぬほどつらい思いをしたならもうこれ以上は嫌だ、やりたくない。私の努力は!? ってなるでしょ? でも貴女、言ったわよね。私ってまだまだだなぁ……なんて。やっぱ貴女、変わってますわ。もっともそういうところが魅力的なのだけれど」


それを聞いていた周りは笑いだした。


「くくっ、あはは。確かにアシェリィらしいな!!」

「ふふふ。がんばりやさんですね~」

「フッ……」


アシェリィは目を見開いてイクセントを指さした。


「みんなひどいよ~!! イクセントくんまでも笑って~!! も~!! こうなったら意地でもスランプを乗り越えるっきゃ無いよね!!」


ジュリスはフラマー草に寝そべりながらアドバイスをした。


「ああ。天才でもない限り、スランプは誰にも来るもんだ。だが乗り越えりゃ確実に伸びる。粘り強く取り組むことだな。ただ、俺が見るにその程度じゃスランプとは言えねぇな。マジモンのスランプを覚悟しとけよ」


話が一段落するとグスモとフォリオが戻ってきた。


「トラップ、設置完了でやんす。あとは待つのみでやんす」


7人全員が顔を見合わせて邪神サーディ・スーパ討伐とうばつちかったのだった。


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