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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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面倒見の良さが仇となって……

ジュリス、カークス、シャルノワーレ、アシェリィ達のチームとフォリオ、イクセント、グスモのチームが合流した。


円形に向かい合って座り、現状報告だの、今までの出来事だのを共有した。


ジュリスがため息をつく。


「ハァ……サーディ・スーパにはイクセントの最速呪文でも攻撃が当たらんか。予測はしていたが、やはり複数班で連携をとりながら集中砲火を浴びせるしか無いな」


彼はうつむきながら黙りこくっていたが、周りからの視線に気づいて顔を上げた。


「なんだお前ら、俺をアテにしてんのか? 散々言ったように、俺は単位を人質にとられてんだよ。あんまお前らを手助けしすぎると単位を没収されて教員課程への進級条件を満たせなくなる。そういうワケで、邪神への攻撃は一切NGだ。俺に出来るのは周りのぞうをツブすくらいだ。こればっかりは自力でどうにかしろとしか言いようがない」


今度は聞いていた下級生が暗くなって皆がうつむいた。


そんな彼らにジュリスはげきを入れた。


「ほら!! お前らしょぼくれてんじゃねーよ。こーいうときはな、出来る範囲でベストを尽くすんだ。それに、結構カードは揃ってるじゃねぇか。3チームくらいで囲めればベストなんだが、このメンツなら2チームでの撃破も狙えなくはない」


それを聞いてまたもや視線は紅蓮色の制服の青年に移った。


「まぁ作戦立案くらいならセーフだろ。まずこっちのチームだが、カークスの花火弾の強みとして強力な範囲巻き込み能力がある。味方として戦う時は厄介な魔術だが、亡霊ファントムみたいにテレポートするやつには効果てきめんだ。適当にぶっぱなしてると逆に当たるかもしれん。まぁそれはリスキーすぎるからむやみには使えねぇが……」


ピンク髪の少女は自分を指さしてキョトンとしていた。


「次にシャルノワーレ。まぁお前はお得意の弓矢で決まりだな。イクセントの最速呪文に少しだけ劣るかもしれんが、それでも十分速い。サーディ・スーパを仕留めるにはこういう高速攻撃を微妙な時間差で叩き込む必要があるんだ。なにもテレポートったって無敵じゃねぇ。相手にもよるが、連発してりゃ転移速度も性能もほんの少しずつ落ちる。そのわずかなスキを狙うことを考えるんだ」


テレポートは無敵ではないし、絶対でもないと学院では教わっていたがこの遠足に来ていなければそれを実感するのは後になっていただろう。


もっとも、弓矢がイクセントの呪文に比べて遅いと評されたノワレはムスっとしていたが。


「次にアシェリィだ。正直言うとこの中ではスピードが遅い。便利な幻魔げんまも多いんだが、どうしても幻魔選択、詠唱とワンクッション挟まるからな。実戦では気にならないレベルまで洗練されてはいるが、流石にテレポート持ちとは相性が悪い。ここは今後の課題だな。早めに克服こくふくしておかないといざという時に痛い目を見るぞ。う~む……マナボードもジャングルでは使えねぇしなぁ……」


いきなりの厳しい指摘にアシェリィはちょっとヘコんだ。


それを見逃さずちゃんと先輩はフォローを入れた。


「だが、釣りの腕は確かだからな。直接攻撃はあまり期待できないが邪神を釣ってみるのはアリかもしれん。ただ、エサに何を使うかが問題だが……」


下級生全員が怪訝けげんな顔をしてその発案者を見つめた。


「ばっか。冗談じゃねーよ。マジで言ってんの。俺の先輩のウィナシュって人は三度の飯より釣りが大好きな変じ……いや、ちょっと変わった人でな。水辺だけに飽き足らず、陸上の生物……しまいにゃ次元の狭間はざまに釣り糸垂らしてたぜ。無論、亡霊ファントム不死者アンデッドもターゲットだ。アシェリィは召喚術師サモナーだからいびつな空間が目視出来るはず。そこにサーディ・スーパの釣れそうなエサをつけて糸をらせば……」


アシェリィはその話を真面目に受け止めた上で首をかしげた。


「う~ん……でも、邪神が好きなものってなんでしょう?」


ジュリスは目を閉じて腕組みした。


「それがわかれば苦労はしねぇよ。それを考えるのが今のお前の役割だ。こまめに試してみて大当たりを狙ってけ。それもちゃんとした戦力のうちだからイジけんじゃねーぞ。あ、無事に帰ったらウィナシュ先輩を紹介してやるよ。釣りに関しては異次元だからなあの人。きっと力になって……くれるか……?」


青年はなんだか自信なさげに話題を区切った。


「次はそっちだな。アンジェナは賢い決断をしたよ。人数が揃っても分が悪いと踏んだら解散する。んで、すばしっこいのを用意してきたと。フォリオに、グスモにイクセント……か」


先輩は考え事をしながら3人を見た。


「イクセントはまぁ言うまでもねぇな。小細工こざいくなしに第一にスピード、次いで威力の呪文で攻めていけばいい。当たりさえすれば一発KOできると思うぜ。問題は集中力を維持するのとネックの持久力をなんとかもたせることだ。あと、剣にこだわる理由は知らんが、お前はワンドのほうが魔力の鋭さが増す。余計なお節介せっかいかもしれんが素直に使い慣れている武器を使うことだな」


イクセントは無言のままポケットに手を突っ込んだ。


そして彼女は華奢きゃしゃで美しい真紅の大きな宝玉のついたワンドをかばうように姿勢を変えた。


今までずっと剣で戦っていたのに急にワンドに持ち替えたようにクラスメイト達には見えた。


しかし、実際は幼少から武士として鍛えてきたのはワンドのほうだったのだ。


今まで剣を使ってきたのはウルラディール流剣技を想定してのものだったのだが、肝心の流派が絶えてしまっていた。


そのため、応急的にサユキが西華西刀さいかさいとう稽古けいこをつけてきた。


その結果、出来上がったのがイクセントの我流魔法剣技だった。


ただ、その我流剣技は魔法と剣のコンビネーションがマッチしたウルラディール流剣技とは比べ物にならない不完全なものだ。


次期当主、ヴァッセの宝剣、そして剣技の3つが揃わないことには真価を発揮できないのである。


もっとも、今まで使ってきた剣は市場で売っているようなありふれた代物しろものだった。


それをイクセントが魔力でだまだま強化エンチャントして戦い抜いてきていた。


間違ってもヴァッセの宝剣……SOVソーヴを持ち出したりはしない。


それは大切に仕舞ってある、というか封印されている。


もしそれが日の目を浴びるときが来るとしたらそれはウルラディール奪還の準備が整ったときだろう。


いずれにせよ今はまだ時期尚早じきしょうそうROOTSルーツ達が世界中の同志を集めてくれるのを待つしか無い。


イクセント、いや、レイシェルハウトは普段からもどかしさを感じていた。


そんなことに考えを巡らせているとアシェリィがワンドについて感想を述べた。


「そのワンド、女の子のステッキみたいで可愛いね。イクセントくんが使うのはなんだか意外だなぁ」


全員の視線が再びイクセントに集まる。


それを聞いてシャルノワーレは若干、焦った。本当の性別を勘繰かんぐられることを懸念けねんしたのだ。


だが、レイシェルハウトはスマートにかわした。


「これは僕の姉さんのおふるだ。男なのにそんなステッキとバカにされた事があってな。それ以来、剣を使っていた。だが、ジュリスの言う通り僕にはこちらが合っているみたいだな。今更、お前らに隠すこともあるまい」


ノワレなりに彼女の複雑な事情は知っているつもりだ。


だが、性別を偽っておいてよくもそんなでまかせが叩けるものだと彼女はあきれた。


そのわりには態度は堂々としており、おまけに咄嗟とっさの矛盾をかわす賢さもある。


武士の名家の出身というのがウソではなく、”本物”であるとひしひしと感じられる出来事だった。


「ほれ、お前ら」


ジュリスも気を利かせて手を叩いて注目をそらした。


もっともこちらは彼女の正体を知らないが。


「次はグスモだ。格闘術がぐーんと伸びてるからそっちに目が行きがちだが、罠師わなしとしての才能、技術力を活用しない手はねぇ。アシェリィと同じように一発当て狙いでトラップをしかけてみると良いと思うぜ。作成難易度は高いが亡霊ファントムホイホイに近いものが作れればベストだ。まぁ邪神はそう簡単にはひっかからないとは思うが、おびき寄せるくらいは出来るだろう」


グスモは背中の大きなリュックをゆすってガシャガシャと音を立てた。


「もちろん格闘面でも活躍できるはずだ。お前ちっちゃいからイクセントやシャルノワーレに比べてリーチがとても短いが、そこはフォリオとタッグを組んで加速からの格闘術でカバー出来ると思うぜ。技の速さでいえばノワレにひけをとらんからな」


ホウキに乗って勢いをつけて殴る。シンプルだが意外と思いつかない連携だった。


「そしてフライトクラブのエース(笑)のフォリオくんな。偵察、索敵、運搬、補助、追跡とざっと考えただけでもお前の役割ロールは山ほどある。難しいことだがその時その時で自分が何をしたら良いか瞬時に判断しろ。アシェリィほどじゃないが、お前も出来ることは多い。まだそのコンテナにもマジックアイテム隠し持ってそうだしな。期待しとくぜ」


これで先輩は全員のやるべきことを解説し終えた。


「で、だ。問題はこのメンバーをどう振り分けるかだが……。っていうか今更気づいたが、アシェリィの班員が皆揃ってるじゃねぇか。偶然にしちゃ出来すぎてる気もするが……。まぁいい」


そう言いながら研究生エルダーは両指を別方向に差した。


「イクセントとノワレはこの作戦の主軸しゅじくだ。別方向からサーディ・スーパを撃つ必要があるから別行動だ。次に、アシェリィとグスモも別行動。一発当てる系はそれぞれ1人でいい。そんで、フォリオとグスモはセット。攻撃補助面でだな。あとはテキトーに割り振ると……」


「アシェリィ、イクセント、カークス」と「フォリオ、ノワレ、グスモ」だ。


「それぞれリーダーはアシェリィとフォリオがやれ。フォリオの方はお世辞にもリーダシップがあるとは言えないが、一番冷静でいられる立ち位置だからな」


「ぼぼぼ、ぼくがりりりりぃだあ!?」


素っ頓狂とんきょうな声を無視してジュリスは続けた。


「俺はどちらのチームにも属さない遊撃手ゆうげきしゅってとこだな。あらかじ邪魔者じゃまものを潰したり、どっちかが不利になったら手伝ってやるよ。ただし、繰り返しになるが邪神に直接攻撃は一切しない。いいな。遠足はお前らが終わらせるんだぜ」


話が終わる頃にはジャングルは美しい夕焼けに染まっていた。


「うし!! まだ日暮れまで時間はある。いいな、付かず離れずで行動するんだぞ。俺を挟むように意識して連携の距離と間合いの感覚をつかんでいけ。この人数ならファントムズ・ヘイツ程度は集中攻撃で蹴散けちらせる。どっちかがエンカウントしたらヘルプに入れ。ただし、邪神の気配がしたら慎重にな」


ジュリスはニカッっと笑いながら親指を立てた。


こんな先輩が居て本当に助かったと下級生は心から感謝した。


だが、一方でこの親切丁寧しんせつていねいな作戦アドバイス……というか作戦立案そのもののせいで彼には更に課題レポートが上積みされていることを本人はまだ知らなかった。


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