木漏れ日の中を往く
ファイセルはリーリンカの家族との親睦を深め、家族として受け入れられていた。
ただ、本人たちの関係に大した進展は無かった。
長いことリーリンカと2人っきりで過ごす時間はあったものの、2人とも奥手で決め手に欠けた。
それでもお互いに夫婦であるという自覚は徐々に芽生えつつあった。
裏亀竜の月の1日、2人はファイセルの帰郷である南部に旅立つことにした。
「ファイセル君、娘を本当にありがとう。そしてよろしく頼むよ」
「2人とも、また近いうちに帰って来なさいね。ファイセル君にとってもここはもう実家のようなものなのだから」
リーリンカの友人達も旅立ちを知って駆けつけていた。嬉し泣きしながら声を掛け合っていた。
皆に見送られ、2人はロンカ・ロンカを旅立ち、最寄りのドラゴンバッケージ便のある街へ向けて歩き出した。
「なぁファイセル、私は南部に行った事がないがどんなところなんだ?」
「ロンカ・ロンカほど暑くなくて、年中春みたいな気候かな。あとおいしい料理が多いところも特徴だと思う。ここよりも森が豊かで、森林浴が気持ちいいよ」
リーリンカはウキウキした様子で語りかけてきた。
「ふふっ。これが新婚旅行って事になるんだな」
少年はなんとも言えないといった顔で頭を軽く掻きながら答える。
「とは言っても僕にとってはただの帰郷だしな~」
ファイセルは勝手な態度で別れを決めたリーリンカにお灸をすえてやろうと決めていた。
しかし、逆にすっかり彼女のペースに飲まれて、もはやそれはどうでも良くなってしまっていた。
早くも尻に敷かれている感が否めない。
少し先を歩いていたリーリンカが振り向きざまにつぶやいた。
メガネからマギ・レンズに変えた素顔のままの瞳で上目づかいで見つめてくる。
「な、なぁ……手、つないでもいいかな……?」
2人は互いに少し恥ずかしがりながら、恋人つなぎで手をつないで森の街道を歩いて行くのだった。
「ねぇリーリンカ。僕、思いついたことがあるんだ」
嫁は首を傾げた。
「僕は君みたいに富豪に買われる少女……いや、奴隷みたいな酷い目に合う人をこの世から消したい。だから楽土創世のグリモアを探してみたいと思うんだ」
それを聞いたリーリンカは腹を抱えて笑いだした。
「ははは!!! お前、あんなお伽噺のマジックアイテムを信じているのか? 現実はそう簡単には変わらん。地に足をつけた生き方をするんだな」
説教されてしまった。それでもファイセルは楽土創世のグリモアを探してみよう。そう思うのだった。
2人の物語はここで一段落する。
だが、ある2人の少女もまた運命の渦に巻き込まれていく。
対照的な2人の彼女たちは何を成し、何を感じるのか。物語はまだ終わらない。




