たまにはヤリが降ったって
グスモ、レールレール、ヴェーゼスは青白い象3体に囲まれていた。
「グスモ、カタパルツ、GO!!」
大柄で筋肉質な青年が狩人の帽子をかぶった小さな少年をレールで打ち出した。
グスモは勢いをつけつつ、猛回転をかけて象の後頭部のコブを手刀で突いた。
「オオオーーーーーーーーームッ」
確かに攻撃は決まったが、それだけで魔物は倒れなかった。
「くっ!! 相変わらず頑丈なヤツなんでやんすね!! しかも赤い象とは弱点が違う!! そもそも弱点があるんでやんしょか?」
少年は手刀と同時に象の背を強く押して垂直に飛び上がった。
「このメンバーでは殲滅力が低いでやんす!! 1体ならともかく、3体に囲まれるとなるとどうしても押し込まれてしまうでやんす!! ここはあっしが踏ん張らにゃ!!」
別の象にはヴェーゼスが当たっていた。
彼女は1体の赤い象を魅了して従えていた。
迫りくるファントムズ・ヘイツにむけてその魔物をけしかける。
「この赤い象さんじゃ青い象さんに力負けしちゃう……。かといって青い方は魅惑呪文が効かない!! なんとか……なんとかならないの!?」
赤いジャヤヤ象は青白い象にタックルを決めたが、あっさり鼻で持ち上げられてしまった。
まるで子供を投げる大人のようにヴェーゼスの虜になっている方の象は放り投げられた。
レールレールは己の無力さを噛み締めていた。
「No!! 俺の能力では打ち出すカタパルトくらいしか戦闘を援護することが出来ない!! このままでは俺たちは全滅して野戦病院行き!! Damn it!! なにかまだ、まだできることがあるはずだ!!」
彼は転んだヴェーゼスの赤い象をカタパルトで敵に向けて発射したが、これもあっけなくはたき落とされてしまった。
じわじわと3人は3体の象に追い詰められていく。
するとファントムズ・ヘイツは一斉に鼻をぐるぐる振り回し始めた。
このままだと強烈な風圧で発生するかまいたちが隙間なく直撃してしまう。
ましてや今回は3匹分だ。切り傷による重症は避けられないだろう。
「まだだ!! まだでやんす!!」
「ドン、ネバギバッ!!」
「え~い!! 苦し紛れの恋色☆KISS!!」
グスモ、レールレール、ヴェーゼスは互いに背中をくっつけながら歯を食いしばって攻撃に身構えた。
そんな彼らは空から気配を感じて思わず見上げた。
「居た!! 3人パーティーだ!! 割とリスクが高めだな。かなり危険に晒されている!! なんとかして助けないと!!」
アンジェナは上空からそう叫びながらホウキから飛び降りようとしていた。
イクセントがそれをにらみつける。
「阿呆。お前、占い以外は足手まといだろ。フォリオ、戦場の近くでコイツを降ろせ。お前は戦闘中、じっと息を潜めてろ。連中は僕とフォリオと後から追ってくるスララで殺る」
ホウキ乗りの少年はコクリコクリと頷とすぐに地面に近づいた。
そして、アンジェナを降ろすとすぐに襲われている3人のもとへ飛んだ。
「くそっ!! こういう時になにか他の魔術があれば……。これじゃ本当に足手まといじゃないか……」
青年は自分の魔術では満足できず、無力感を感じて地面を殴りつけた。
もっとも、彼の魔術はレアで貴重なものだ。
それだけで価値があるのだがまだ若い彼にはそう割り切ることが難しかった。
フォリオとイクセントは速度を落とすことなく飛んだ。
スレスレで密林の樹々を左右に回避しながら危機の元へと接近していく。
途中でイクセントが飛び降りた。
「フォリオ、お前はレールレールとヴェーゼスを回収しろ。グスモは多分、そのままでもやれる。僕がヤツの援護に入るからお前らは上空で何が出来るか考えるんだ。このままパーティーを維持するならお前らの助けが必要だ。頼んだぞ!!」
イクセントが人を頼るなんてヤリが降るんじゃないかとフォリオは思った。
「う、うん!! レールレールさんとヴェーゼスさんはまかせて!! ぼ、僕らもなにか出来ないかって考えるから!! だ、だからグスモくんもイクセントくんも持ちこたえて!!」
戦いの場に到着すると頭上から巨大な魚が降ってきた。
象のかまいたちを防ぐようにレールレールとヴェーゼスの間に着陸した。
「うふ~ん♥ 私のミリョクに魅惑されちゃった?」
苦し紛れの恋色☆KISSが直撃したのだ。
女生徒が胸元を見せている。黒い下着がチラリと見えた。
この巨大なクジラが盾になってファントムズ・ヘイツの攻撃をなんとかやり過ごした。
フォリオはその色っぽさにドキドキしたが、我に返るとレールレールとヴェーゼスの間にホウキで滑り込んだ。
「ふ、2人とも!! は、早くホウキに乗るなり、つつ、つかまるなりして!! ぼ、ぼくらは、い、一旦、そ、空に逃げるよ!! だ、大丈夫。も、もうかまいたちくらい避けてみせるから!! そ、それにイクセントくんも来てるんだ!!」
それを聞いて2人の表情は明るくなった。
色香の女性は胸元を閉じてホウキ後部のトランクの上に飛び乗って横座りになった。。
路線の敷き手はホウキの柄の先の方を両手で握った。
「レールレールさん、大丈夫? 落ちないで耐えられそう?」
浮き上がるホウキでグレーの短髪を揺らしながら彼はこたえた。
「ノン・プロブレム。鉱山時代に鍛たから筋力にはそれなりに自信がある。それより、ハリーアッ!!」
フォリオは大声をかけられて驚き、カックンカックンと首を振った。
「う、うん!! い、いくよ!!」
ふわっっと鳥の羽のようにホウキは軽やかに浮き上がった。
空から見るとはっきりわかったが、象は1体と操られた巨大魚によって2体に分断されていた。
「あまりにもエレファンツはヘヴィ。だからトライしてこなかったのだが、これだけ余裕のある環境ならばグッ・チャンス!!」
レールレールは念じるように瞳を閉じた。
すると分断された2体のうち、1体の足元にレールが出現した。
戦場の中心とは逆方向に伸びていく。
「Go!! アゲンスト・エネミー・カタパルツ!!」
彼が力を込めると1体の青白い象が引きずられるようにゆっくり動き出した。
「Ugugugu……ぬおおおおおお!!!!!」
なんと象が1体、加速していくではないか。
そのまま、樹々をなぎ倒しながら密林の向こうへと押しやられていった。
「かなりハードな抵抗にあっているが、時間稼ぎはできそうだ!! こっちはまかせてくれ!!」
レールレールは手応え有りげな表情でフォリオたちを見上げた。
「クジラちゃんやっちゃって~!!」
ヴェーゼスがそう命令するとキズだらけのホエールは2体のうち1体に体当たりをぶちかました。
明らかにパワー負けしているが、こちらも少しの足止めにはなりそうだ。
「飲み込めるかな? 厳しいかな?」
ジャングルのクジラは大きな口を開いてファントムズ・ヘイツに襲いかかった。
だが、鋭い象牙で口の内側から貫かれてしまった。
「やばい~。これじゃグスモくんとイクセントくんのとこに行っちゃうよ~」
操り手ががっくりしたその時だった。聞き慣れた不気味な音がした。
「ガァフッ、ゴォフゴフ」
上空の3人が見たのは青白い象を飲み込むスララのエ・Gだった。
「や、やった!! す、スララさん追いついたんだね!! ま、間に合った!!」
白くて赤い紋様のついた悪魔は象の後ろ足の部分まで既に飲み込んでいた。
「ゔェーぜスちゃン、あキらメなイで!! こノまマはサみウちニしテまルのミよ!!」
悪魔憑きの叫びを聞いてヴェーゼスは一気に気力が戻ってきた。
「ホラホラ!! まだ持ちこたえられるでしょ!? 命ある限り私のデートに付き合ってもらうわよ!!」
(う、うわぁ……おお、おっかないなぁ……)
(Oh……beautiful flowers have thorns……)
フォリオとレールレールは思わず身震いした。
こちらの象に対しては優位に戦えていた。
残るはグスモとイクセントである。
「コイツに弱点という弱点はない。攻撃力で押し切るぞ!!」
イクセントは腰から杖を引き抜いた。
「せいぜい巻き込まれないように立ち回るんだな」
嫌味に満ちた物言いでグスモにそう伝えた。
「こりゃ手厳しいこって。んじゃ、まずはあっしから!!」
今までは守らなければいけない状況だったが、今度は攻める番だ。
思い切り少年は跳んだ。
「なんだか格闘術の稽古をつけてもらってからこればかりに頼るようになっちまいましたね。一応、罠師を極めていきたいと思うでやんすが、まぁこういう場合はやはり格闘が便利でやんすね」
彼は空中で回転をかけて、青白い象の中心とはズレた位置めがけて飛んだ。
「左目いただきでやんす!!」
グスモは手刀で相手の目をえぐりぬいた。
突然のことでパニックになったらしく、相手はドシンドシンとその場で足踏みした。
「この間みたいにマナ切れで気絶なんて無様なマネはしないからな。覚悟しろ」
彼女はクルクルと器用にワンドを回した。
「地の利を活かしていく!! 縛命の茨海!! ローゼンナ・タイト・バインディ・オーシャネル!!」
イクセントが詠唱するとどこからともなくトゲだらけのツルが伸びてきてファントムズ・ヘイツを縛った。
ギリギリ……ギリギリギリ……
四方八方からまるで引きちぎれんばかりの勢いで縛り上げる。
「オオオオーーーーーーーーム!!!!」
象は全身に食い込んだ大きなトゲに貫かれて血だらけになった。
暴れてもツルが切れる気配はまったくない。抵抗も虚しく、そのまま魔物は息絶えた。
グスモはなんとか呪文に巻き込まれず、地面に伏せて回避していた。
「ずいぶん遠慮なしでやんすね!!」
嫌味を返すように答えるとイクセントは肩をすくめた。
「ああ、お前なら避けられると思ったんでな」
グスモは狩人帽子をクイッとかぶり直した。
「まったく、かなわねぇでやんすよ……」
この後、スララが飲み込みかけていた1体と、戻ってきた1体を危なげなく倒し、7人は無事に合流出来た。
いよいよ打倒サーディ・スーパが現実味をおびてきたのだった。




