あなたと私の連携魔術
ジュリスとカークスは順調にジャングルを進んでいた。
上級生が囮になって後輩が花火弾とスパーク弾を鍛える形で密林を歩んでいく。
「ふむ。悪くねぇな。俺の裏テクもあってか、威力も安定性も上がってきている。いまんとこ問題なく倒せてる感じだしな」
長いこと自信を失っていた少女はだんだんとコンディションを上げてきていた。
「だが、ここで油断するなよ。こっからは微妙な差で勝敗が来まるからな。あとくれぐれも俺に期待しないこと。ナッガン先生に手出ししすぎるなって口を酸っぱくして言われてるからな」
それを聞くとにっこりわらってカークスは微笑んだ。
「あ~……お前、笑ったな? 手伝ってやんね~ぞ?」
急にカークスはあたふたしだした。
「あ~、わ~、ごめんなさ~い。もうわらいませんから~~~」
ほのぼのムードで進んでいくとジュリスがピタッっと立ち止まった。
「ふ~ん。上手く隠れてるじゃねぇか。よっ!!」
彼が頭上に向けて小石を投げるとかすかに葉が揺れる音がした。
ガサガサッ!!
「一人はノワレだろ? あと一人は……。この感じ、サモナーズ・ブックか? アシェリィだろ。降りてこいよ」
ジュリスの言い当ては見事に当たってノワレとアシェリィが樹の上から飛び降りてきた。
カークスは2人の気配に全く気づくことが出来なかった。
「えっへへ……やっぱジュリス先輩にはかなわないね……」
「全くですわ。こちらから声をかけようと思ってましたのに……」
紅蓮色の制服の上級生は頭を軽く掻いた。
「あのなぁ……お前ら小生意気に俺らをつけてやがったろ? 研究生をナメてもらっちゃこまるぜ。下級生の小手先が通用するかよ。それよりお前ら、もう気づいてるな?」
ジュリスは特に動じていない様子だったが、カークス、ノワレ、アシェリィはブルブルと身震いした。
「うわ~……ゾワッとする……」
「はわわ~~……気持ち悪~~~っ……」
「わ、わたくしも……寒気が……これは……!!」
先輩は真剣な顔をして首を縦に振った。
「あぁ、そうだよ。こいつが青白い象、ファントムズ・ヘイツだ。もう狙われてるぞ。臨戦態勢に入れ!!」
ピュン、ピュン、ピュン!!!!!
白いレーザーが森の奥へと跳弾しながら飛んでいく。
当たったかどうか目視できなかったが、長い鼻がジュリスに襲撃をかけてきた。
「よっ、ほっ、はっと!!」
彼は側転、バク転と避けてから前宙返りして青白い象の鼻にしがみついた。
まるで曲芸師のようなその挙動に残りの3人は見とれた。
「ほれ!! ボサッとしてんなよ!! どうやったら3人でコイツを撃破できるか考えるんだよ!! 俺が居なきゃもうこの時点で1人やられてんぞ!!」
長く伸びた鼻の上に乗った青年は鼻にぐるりと腕を回すと、ぐるんぐるんと大車輪のようにゆさぶった。
その結果、ファントムズ・ヘイツの溶解液の狙いを妨害することに成功した。
そのまま、彼は勢いをつけて象の鼻に捻りをくわえて地面に叩きつけた。
衝撃は本体にも伝わっていって、巨体がひっくり返ってドシンと大地に打ち付けられていた。
「あ、やっべ。やりすぎたか? まだ加減がわかんねぇな……」
ジュリスが様子をうかがっていると青白い象は立ち上がった。
「あぶね~。一発KOしちまったかと思ったぜ。手加減手加減。これ以上やりすぎるとマジで更に単位がもらえなくなるっての!!」
女子3人組は互いに背中を合わせてスキを減らしつつ、策を練った。
「ジュリス先輩が攻撃を引きつけていてくれていますわ。私達は全員攻撃に回りましてよ。私は樹上を中心にアイツの死角を突いていきますわ!!」
ノワレは素早く大弓を抜くと矢を筒から引き抜いて引き絞った。
「私はサモナーズ・ブックで密林の気配に紛れつつ、死角から攻撃を仕掛けていくよ!!」
腰についていた本を取り外すとアシェリィはブックを構えた。
「じゃあ~、わたしは~……正面から一気に攻撃します!! ジュリス先輩との戦いには慣れてるから、当てずに高火力な呪文を当てていけると思うから!!」
3人は同時にOKサインを視線で送りながら散開していった。
(うわぁ……カークスのやつ、また遠慮なしにぶっぱなす気だな。俺じゃなきゃ直撃なんだぞあれは。またお説教しねぇとならんのか……。まぁ手のかかる弟子はなんとかっていうしな。別に弟子じゃねぇけどさ……)
ジュリスは反復横跳びのように素早くサイドステップを踏んだ。
背後から飛んでくる電流の塊であるスパーク弾を背中越しに危なげなく回避していく。
ジィジィ!! ハリバリバリバリ!!!!!
スパーク弾はそれなりに効いているらしく、青白い象は前足を上げてのけぞった。
「ほぉ。ファントムズ・ヘイツ相手にあれだけの威力は嬉しい誤算だぜ。ただ、攻撃範囲が広いのは長所でもあって短所でもある。命中率は及第点だが、あの調子じゃ耐久力の高いヤツか、回避の出来るヤツと組まないとやってられんだろうな。もしくは前衛にこだわらず、カークス単身で突破するかだ。意外と後者も悪くねぇとは思うんだが……」
青年は器用に背後からの電撃弾を避けながらあれこれと考えた。
その頃、ノワレは象の頭上に到達していた。樹上に高く跳ねる。
「いくら頑丈な獣でも流石に後頭部を貫けばただでは済まないはずですわ!! 受けてみなさい!!」
特別に持ち込んでいた銀の矢を3発連続で発射した。
ストッ!! ストッ!! ストッ!!
本気で放ったつもりの矢は魔物の表皮で受け止められてしまった。
「まぁ!! 後少しのはずですのに!! なんて硬いのかしら!! 小憎らしいですわ!!」
ノワレは苛立った様子で舌打ちした。
そのまま、空中で宙返りしながらまたもや射撃のチャンスを狙った。
今度は1発に全力を込めて矢を引き絞る。
「一弓入魂!! 一流星之瞬!!」
(これは脳天を射抜きましたわ!!)
渾身の一弓に勝利を確信たエルフだったが、ファントムズ・ヘイツの反応は恐ろしく早かった。
「オオオーーーーームッッッ!!!!」
長い鼻を振り回してその根本で矢を弾いたのである。
「なっ!?」
それと同時に魔物は鼻の先端を高く高く持ち上げた。
「うおわっ!!」
反動でジュリスが一気に高いところに持っていかれた。
「あら~、ジュリスさ~ん」
「ジュリス先輩!!」
「先輩ッ!!」
上級生は高所から象を見下ろした。
「さて……どーすっかな。このままひっつかんで本体ごと地面に叩きつけてもいいんだが……。それだと俺、一体何の使い手か? ってなるじゃん。それにそれは手を出しすぎな気もするし……。あー、面倒くせ~」
宙ぶらりんになった青年は足元に向けて声をかけた。
「俺は大丈夫だ。お前らだけでなんとかしてみろ。溶解液はこっちでなんとかしてやるから。これ、イージーモードだぞ」
矢が決まらなかったことに不満を抱えたノワレは再び樹の間を飛んだ。
そしてすれ違いざまに化物の片目を射抜いた。
青白い象は鼻の先に集中していたので、これに対応することが出来なかった。
「今度こそッ!!」
直撃したのを目視して樹木にくっつくように張り付いたノワレを反撃の牙が襲う。
あわや跳ね飛ばされるかというところだったが、カークスがスパーク弾を放った。
バン!! バリバリバリ!!!! バリバリバリバリ!!!!!!
電撃弾は炸裂して象を痺れさせた。
一方で敵の後方に回っていたアシェリィのサモナーズ・ブックに反応があった。
「これは……フェンルゥ? う~ん……そうか!! カークスちゃんの使ってる術式と幻魔のフェンルゥの属性が近いんだ!! これなら威力上乗せでフェンルゥを召喚できると思う!!」
召喚術師の少女はカークスに同調するように念じ始めた。
すぐにカークス側にも反応が現れ始めた。
「お……あ……なんだか力が強まる。特に魔法円にくわえてはいないは……って、うわぁ!!」
誰も陣に触れていないのに勝手に展開する術式に新たなシンボルが加えられていった。
「こ、これが本当の……フェンルゥの力!?」
アシェリィとカークスは距離も離れていたし、直前には一言も交わしていなかった。
それでも幻魔を介して2人はシンクロした。
「いきます!! サモン・ブリリアントリィ・イェロゥ!! フェンルゥーーー!!!!」
「いくよーーー!!!! スパーキング・バレット!! フェンルゥーーー!!!!」
ジュリスは高く飛んで電撃の波からうまい具合に逃げ出すことに成功していた。
「ヒュー。即興での連携魔術とはなかなかやるじゃねぇか。偶然の産物とは言え、上出来だな。だが、この魔術も味方を巻き込みがちだ。あとで指摘しといてやんねーとケガ人出るからな。まぁ威力は文句なしだぜ」
エルフも樹木から高く飛んで難を逃れていた。
「アシェリィとカークスの連携技かしら!? あそこまで威力が上がるものなのですわね……」
青白い象は焦げ臭い煙をあげて骸と化した。
それを確認するとアシェリィとカークスはバテてしまい、同時に膝をついて前かがみになった。
ジュリスはカークスの元へ、ノワレはアシェリィの元へ向かった。
「よくやったな。お前はもう1人でも通用するよ」
カークスは笑いながら首を横に降った。
「いえ……わたしなんかまだまだです。まだ先輩にも教わりたいことありますし」
すぐに先輩は後輩にデコピンした。
「あだっ!!」
「甘えてんじゃねぇよ。自分でやれ自分で」
ジュリスは意地悪気に笑みをうかべた。
一方のノワレもアシェリィを気遣っていた。
「アシェリィ、大丈夫でして?」
「ん、ああ。大丈夫だよノワレちゃん。でも連携魔術は思ったより疲れるね~」
エルフの少女のは優しく手を差し出した。
「今度は私ともご一緒してくださる?」
緑髪の少女は熱気に髪をかき上げながら答えた。
「うん!! いいよ。どんな技にしよっか?」
そうこうしているうちにジュリスとカークスが向こうからやってきて4人パーティーが成立した。




