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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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とっておきのグラヴィトン・ボム

「お、大きくなるなんて聞いてないよ!!」


フォリオは5mほどに巨大化した青白いぞう、ファントムズ・ヘイツを見下ろしてうろたえた。


「フォリオ!! 気をしっかりもてッ!! ちょっと図体ずうたいがでかくなっただけじゃないか!! さっきと同じフォーメーションでスララがあの化物を飲み込むのを援護するぞ!!」


だがクラティスの見込みは甘く、パワーアップした青白い象は鼻を勢いよく円形に振り回した。


「う、うわぁっ!! か、風にあ、あおられる!!」


旋風せんぷうの威力もアップしていて、ホウキの飛行が不安定になった。


これでは一撃離脱戦法は使えない。それどころか、クラティスをぞうの頭上まで運ぶのも厳しくなってしまった。


スララは孤軍奮闘こぐんふんとうしているが、後ろ足まで飲み込んでいる部位が後退してしまった。


悪魔エ・Gの事だ。みすみす逃すことはしないはずだが、このままではとても丸呑まるのみには出来ないだろう。


それどころか踏ん張りが効かず、スララごと引きずられていってしまう可能性が高い。


一気に形勢は不利になってしまった。


上空のクラティスはフォリオの肩をゆすった。


「おい!! 何か役立つマジックアイテムとかないのかよ!? サポート系しかないのか!?」


首をカックンカックンさせながら少年は小型のトランクを開けた。


「え、えーと、えーと!! ととと、とっておきが、ああああるにはあるけどこれはヤバイよ!! ふふふ、フライトクラブ全員の署名しょめい付きで1個だけ持ち出しが許された攻撃系マジックアイテムなんだけど!! ささ、サーディ・スーパ用にとっておいたんだけど、そんなこと言ってられない……よね……」


少年は渋々(しぶしぶ)、トランクから人の頭より一回り小さい白くて四角い何かを取り出した。


「なんじゃそりゃ? デカい角砂糖みたいだなぁ?」


後ろに座るチアガールは首をかしげた。


「じゅ、授業でやったでしょ!! どどどうせ居眠りしてたんだろうから……。ここ、これはね”グラヴィトン・ボム”って言うんだ。対象が重ければ重いほどかかる重力が強化される範囲攻撃武器だよ」


少女はちょっと間を置いて胸を張った。


「あ、あたしは軽いからノーダメージだな!!」


フォリオは首を左右に振った。


「い、いや……それがね、いくら体が軽くてもそれなりのダメージにはなるんだ。クラティスさんでもスララさんでも直撃すれば即野戦病院行きだと思う。エ・Gには多分効かないと思うけど……それに……」


後ろからクラティスがのぞき込む。


「それに?」


少年はシリアスな顔をした。


「こ、この”グラヴィトン・ボム”は部外者の利用は出来ないようになってるんだよ。ろ、ロックがかかってて発動に条件があるんだ。く、空中のはるか高いところで、ぼ、ボク一人っきりで、かつ集中コンセントレーションしなきゃ発動できないんだ。く、クラティスさんには降りてもらわなきゃならないんだけど、ぼ、ボムが巻き込む範囲が結構広いんだ。ち、地上の2人には逃げてほしいんだけど、ふ、2人が逃げたらぞうも追うでしょ? そうすると当たらないと思うんだ」


フォリオは伏し目がちにそう語った。


「しょうがねぇなぁ。あたしらがおとりになってやんよ。野戦病院? 上等じゃねぇか。リスクのねぇ戦いなんて面白くねぇからな!! スララーーーッ!!! グラヴィトン・ボムいっちょな!!」


地上に居る悪魔憑あくまつきはあきれた顔をした。


「まッたク……。かッてナこトいッっテ……。でモ……もシかシて……。あレを、たメしテみルかチはアるワね……」


何かさくがあるのか、彼女は至って冷静だった。


上空のクラティスはニカッっと歯を見せて笑うとホウキを飛び降りた。


「フォーーーーリオッ!! お前ならやれる!! 絶対ここを切り抜けろ!! そんで他の連中を助けてやってくれ!!!」

「くくく、クラティスさーーーーーーーん!!!!!」


チアガールの少女はスカートをはためかせながら応援旗をバサッっと開いた。


ファントムズ・ヘイツの猛烈な風圧をなんとか打ち消しながら降下していくが、かまいたちで柔肌やわはだが傷ついた。


かなり打たれ強い方のクラティスがみるみるボロボロになっていく。


その光景を呆然ぼうぜんと見ていたフォリオは我に返った。


「はは、はやく”グラヴィトンボム”を打ち込まなきゃ!! くく、クラティスさんも、すす、スララさんの頑張りをムダにするわけにはいかない!!」


フォリオ少年は天を駆けるライネン・イーグルのように高速上昇した。


みるみるうちに彼は豆粒まめつぶほどの大きさに見えるまで高みまでたどり着いた。


「えええ、ええと!! ぐぐ、グラヴィトン・ボム展開!!」


ホウキ乗りは両手ではさむように白い正方形のマジックアイテムをかかえた。


「その重きなるもの、おの鈍重どんじゅうであらんことを悔いたるべし。せめて来世らいせでは空を揺蕩たゆたう雲の夢を見るがいい……。グラヴィトン・ボム、ファイエ!!」


フォリオが詠唱えいしょうを終えるとボムは鈍くて重そうなダークグレーに輝いた。


そしてその光は収束し、垂直すいちょくに地上に向けて発射された。


グググ……グガゴゴゴゴゴ…………


大地がうなるような鈍い音がする。


その直後、円形のかなり広い範囲に強烈な重力プレッシャーがかかった。


樹木は上から押さえつけられるようにほとんど折れ、飛んでいる鳥は落ち、地上の動物も立っていられなくなった。


中でも重量の重い青白いぞうは効果てきめんで、地面深くにめり込むほど圧力がかかってすぐに絶命した。


滞空していたクラティスもすぐに押さえつけられ、大地にいつくばっていた。


「うげぇ……こりゃキツいよ……ゴホッゴホッ……かっこ……つけて……グホッ……オトリになるとか……言うんじゃなかった……スララァ……だいじょうぶ……か?」


一方のスララだったが、なんとこのマジックアイテムをうまくやりすごしていた。


彼女は真っ暗闇に居た。


「エ・Gをウらがエしにシてクちノあナのポけッとニひナんスるサくせン……。うマくイっタわネ……。エ・Gはリばーシぶルなノよ」


裏返しになって身を守った彼女を見てクラティスはぼやいた。


「ス……スララァ……ゲッホゲホ……そんなのアリかよ……ヒキョーだぞ……ガクッ」


少女は全身キズだらけ、あちこちを複雑骨折して気絶を失った。


どこからともなくOB・OG集団のリジャスターがやってきて彼女を優しく回収した。


上空ではフォリオがふらふらと滞空していた。


「は、はぁ……はぁッ……。や、やっぱりこれだけ威力の高いマジックアイテムを使うと……ま、マナが万全でもここまで消耗しちゃうか……。意識が遠のく……」


糸がプツンと切れるようにホウキ乗りは気を失って地上へと落下していった。


だが、彼の相棒のコルトルネーはあるじの魔力が切れても地面に激突しないようにゆっくりと降下していった。


それを見ていたスララは悪魔のエ・G口の中のポケットから飛び出して、再びリバーシブルから元通りに戻った。


そして、しばらく全力で降りてくる少年めがけて走るとエ・Gでフォリオをキャッチした。


悪魔の背中を滑り台のようにして小さな体がこちらにやってきた。


「がイしョうハなシ……。まリょクぎレっテとコね。エ・Gはヤくヒんノたグいはキらイなンだけド、もッてキてオいテせイかイだッたワ……」


しゃがんでフォリオを抱えながら、スララは悪魔の口の中のポケットをふるわせた。


「ゲェ!! ゲェフゲェフ!!!!」


「どウどウ……ほラ、ちョっトくラいガまンなサいな……」


すると水色の水薬の入ったびんをエ・Gが吐き出した。


「こレでモのンでしバらクあンせイにシてイれバさイキかノうなハずよ……」


悪魔憑あくまつきの少女はホウキ乗りの少年の口に水色のpotポットを流し込んだ。


「さテ、あトはキょウてキにシゅウげキさレなイよウ、いノるノみネ……」


スララはエ・Gを口の中に引っ込めて、フォリオを自分の膝枕ひざまくらに寝かせた。


「あッ……くラちャんドうナッたカしラ……。あレじャりアくターいキかナぁ……」


クラティスは迅速じんそくに野戦病院に運ばれていた。


すぐにベッドの上に寝かせられる。


「あぁ……いって~……ゴホッ!! ゲフッ!!」


彼女は激しく吐血とけつした。


かなりの重傷だったが付添つきそいの治療班は精鋭揃いで皆が冷静だった。


「ナッガン教授、これは魔術修復炉まじゅつしゅうふくろ……リアクターの起動が適切です。我々でも完治に持っていけますが、時間もかかるし、なにより負傷者の負う苦痛が大きすぎます」


それを聞いた教授はすぐに指示を出した。


「よし、リアクターNo.1を立ち上げろ。治療班もそちらについて機能の補助をしてクラティスの集中治療を頼む」


さすがに全身あちこち骨折は魔術と薬のみでの治療では時間がかかってしまう。


その気になればよっぽどのことがあってもリアクターを使わず治せなくもないが、ここで治療班を消耗させるのは得策ではない。


それにクラティスを長時間、苦痛にさらすこともだ。


こういう時や万が一、瀕死ひんしの生徒が出た時のために魔術修復炉まじゅつしゅうふくろを大金はたいて設置したのだから。


ナッガンは運ばれた直後のクラティスの様子をしっかり見ていた。


「ふむ……。遅かれ早かれリアクターは使うことになると思っていたが……。しかしなんだあれは? ファントム・ヘイツにこっぴどくやられたとしてもああはならんだろ。さっきの振動が原因か?」


そう彼がたずねるとクラティスを回収したリジャスターが答えた。


「先生、ホウキに乗った少年がグラヴィトン・ボムを使用したのを確認しています。彼女はそれに巻き込まれて……。もうひとり、悪魔憑あくまつきの少女は無事やり過ごしたようですが……」


報告を聞くと教授は笑みを浮かべた。


「フフッ……フォリオがグラヴィトン・ボムを? 仲間を巻き込んでまで撃つとはまた大した度胸と決断力がついたものだな。いい意味で驚かせてくれる。使いようによっては大量破壊も可能なボムの使用許可が降りた。と、いうことはその人物の人となりが評価されたということだ。頼りないように見えて実は信頼されていることだな。まぁクラティスにとってはとんだ災難だったが……」


他より頑丈がんじょうに作られたテントの中に少女が運ばれていく。


女子だけが中に残り、クラティスの制服を切って脱がせた。


数人がかりで彼女を支えて緑の怪しい液体にひたした。


彼女は眠るようにして魔術修復炉まじゅつしゅうふくろかった。


ゴボゴボと口と鼻から気泡を出している。


リアクターには仕切りがあり、全裸になっても他の場所からは見られなくなっていた。


「はーい、男子と教師特権でナッガン先生。念の為に言っておきますがぐれぐれも個室をのぞかないように~~~!!」


特設テントの入り口で女子リジャスターがわざとらしく声をあげた。


ナッガンは腕を組んで、大きなため息をつきながら首を左右に振った。


「ハァ……年頃の娘の裸なんぞ誰が見たがるものか」


それを聞いていたその場のメンバーは思わず苦笑いした。


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