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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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1人でダメでも仲間となら

カランカラン……カランカラン……


ジャングルの片隅かたすみで相手を察知さっちするわなが鳴った。


「ふむ。このパターンは、またあの青白い巨象きょぞうが近づいてるでやんすね。見かけたから様子を見ようとしたがいいものの、痛い目を見たでやんす。幸いケガはねぇが……」


黒髪短髪に狩人の帽子を被ったグスモは自分の体をペタペタと触って身の安全を確認した。


「ありゃ1人じゃ分が悪いでやんすね。良くて相打ち……。チームでかからねぇと勝ち目が薄い。あぁ、ファーリスさんとフォリオくんは今頃どうしているやら……」


背後に赤いぞうの気配を感じると同時に彼は宙に舞った。


体にひねりを加えながら魔物の背中に飛び乗って後頭部のコブを的確に手刀で貫いた。


鮮血が吹き出て少年の顔が汚れる。


「ごちそうさまでした……」


彼はヒュンと腕を振り抜いて血を払った。


気を取られているうちに、ファントムズ・ヘイツは予想以上に接近してきていた。


「まずいでやんす!! 逃げ遅れる!!」


その時だった。グスモは象の背中の上から地面を見下ろすとレールのような明らかな人工物がいてあった。


「あれは……多分、レールレールさんのカタパルトでやんすね!! 渡りに船とはまさにこの事!!」


小さな罠師わなしは死骸を蹴飛けとばして飛び、レールに飛び乗った。


すると勢いもつけていないのに上に乗るだけで物凄い勢いで加速した。


彼の新魔術であるカタパルトに乗ったことはなかったのでグスモは酷く驚いた。


「お、お、お、おわあああああああああーーーーーー!!!!」


あっという間に最高速に加速すると急にレールが途切れて空中に向かって伸びている。


「先がないじゃないでやんすかぁぁぁ!!!!!」


焦っているなりにジャンプの姿勢を整えた彼は密林の上空をしばらくんだ。


「これ、着地は!? うわあああああああ!!!!!」


重力には逆らえない。少年は急速に落下していった。


どう着地したものかとパニックになっていると足元に再びレールが出現した。


「あ! なるほど!! 射出と着地機構はセットなんでやんすね!!」


鳥より高く飛んだ少年は胸をなでおろした。


再びレールの上にガッチリはまるように着地すると今度は減速し始めた。


やがて、少し開けた場所に出てカタパルトはそこで終わっていた。


誰かが腕組みにあぐらをかいてこちらを向いて座っている。


「やはり!! レールレールさんだったでやんすね!!」


グレー色の髪のレールレールは来る方向がわかっていたようだ。


かなり体が大きく、距離があるのにとても大きく見えた。


「Oh……グスモ。ロングタイム・ノー・シー。我ながら知恵を絞ったほうだったが、この広大なジャングルではやはり集まりが悪いか……。ま、シッダン」


少年は座って深呼吸し、心を落ち着けた。まだ空を飛んでいる感覚がする。


心臓には悪かったが超高性能なカタパルトをグスモはめた。


「レールレールさんちょっと怖かったでやんすが、素晴らしいでやんすよ。きっともう少し待っていれば誰かがこれを見つけて合流してくれるでさぁ」


だが彼は不満げに首を左右に振った。


「ノン。始まってからしばらくは逃げることにしか使っていなかったからな。カタパルトタックルとかにも挑戦してみたが……ゴー・ホスピタル……。そういうグスモこそいつのまにそんな格闘術を?」


本来は罠使いだけだったはずの少年はほほをかいた。


「まぁ話せば長くなるんすが、休み中にソエル大樹海の集落に帰郷しようとしたら強力なモンスターに丸呑まるのみにされちまって……。あっしはその時、一度”死んだ”でやんす」


「Um……hum……ソエル樹海……」


この場所はある程度、レールレールが開拓していたので2人ともあぐらをかいて割とくつろいでいた。


決して楽ではなかったろうが、カタパルトの集合基地にするには整備は欠かせない。


鉱山という厳しい環境で育った大男だから成せる行動だった。


だからこうして落ち着いて会話していられるのだ。


「で、やんすね。奇遇きぐうにもリジャントブイルの”ザティスさん”って人が助けてくれたんすよ。制服は深緑色で中等部ミドルだったんすけど、あの強さは研究生エルダーレベルいってると思いやんした。全身があおく燃える格闘魔術の使い手でやんした。その方に稽古けいこをつけてもらったからここまでやれるようになったんすよ」


グスモは自分の手をにぎったり開いたりした。


「お前も自分の拳術を極めれば発展形が見えてくるってザティスの旦那だんなは言ってやしたが、あっしにはまださっぱり……」


パチパチパチパチ……


レールレールは無言のまま称賛しょうさんの拍手を送った。


パチ……パチ……パチパチパチパチ


少年も大男に向けて拍手で返した。自然と2人は和やかな笑顔になっていった。


「ホーネスティ、俺はカタパルトでの合流をあきらめようと思っていた。だが、ユーが来てくれて、しかもめてくれた。自分の努力が報われたのだからうれしくないわけはない。タァイムはかかるかもしれないがレールに乗ってくれるクラスメイツを待とう。だがいつまで待とうか?」


レールレールは迷っているようだった。


それに対してグスモは迷わず答えた。


「あまり待ち続けるのも得策とはおもえないでやんす。あと1人ってところでやんすかね。あっしが見た手強いヤツは2人じゃ無理そうでやんしたし。多ければ多いに越したことはないでやんすが、このペースだと4人目を待つより探索したほうが早く見つかるでやんしょう」


大男はビシッっと人指を立てた。


「OK,boy……俺のレールは瞬時に消すことができる。だから解散後にうっかりレールでここに来るという心配はいらない。あと1人来てくれたらこのベースは解散としよう」


2人が意気投合している頃、苦境に立たされている女性が居た。


魅惑みわく魔術のヴェーゼスである。


彼女は1体のジャヤヤぞうを誘惑して従えていたが、いきなり襲ってきたファントムズ・ヘイツに不意をつかれた。


「何あの青いヤツ!? 今までとぜんぜん違うんですけど!! 赤象あかぞうちゃんいっちゃって~!!」


素早くそばを歩いていた魔物を新手めがけてけしかけた。


「オーーーーーーーーーーームッッッ!!!!!!」


ジャヤヤぞうは青白いぞうへ体当たりを仕掛けていったが、赤子の手をひねるように鼻で投げ飛ばされてしまった。


このパワーの差にヴェーゼスはとても驚いたが、すぐに次の手を打った。


「ディスペル魅惑チャーム!! からの浮気な投げKISS☆」


グラマラスな女性は怖気おじけづくことなくファントムズ・ヘイツに色仕掛いろじかけをしかけた。


30秒間くらいヴェーゼスも相手も動かなかった。


だが、すぐに誘惑テンプテーションは破られ、青白い巨象きょぞうはこちらにむかってきた。


「ですよね~~~!!!!! ひえ~~~~!!!!!」


彼女は背を向けて一目散いちもくさんに逃げ出した。


すぐに捕まりそうなものだったが、こういう逃走時に魅了系チャーミングの術者は強い。


相手にチャームが効かないとわかったらとりあえず逃げるのが第一なため、徹底的に逃げ足の速さをきたえるのだ。


こういう場合は一旦、その場を離れて別のターゲットを誘惑テンプテーションする。


そして再度挑むというスタイルが割と一般的であるので、逃げるというのは非常に重要なファクターとなってくるのだ。


ヴェーゼスも例にれず、かなり高速な青白いぞうに追いつかれそうになりながらも距離を保っていた。


だが、彼女にはスタミナがなかった。追いたてられるうちにバテて来たのだ。


「ハァ……ハァ……。もう限界!! でも痛いのはや~よぉ~!!!!!」


なにげに彼女はまだ野戦病院行きになったことのない数少ない生徒だった。


「も、もうダメっ!! ああっ!!」


足がもつれてヴェーゼスはつんのめってしまった。


もうダメだ。ファントムズ・ヘイツに踏み潰される!! そんな時だった。


「ん……? 何かしらコレ……。金属……?」


伏せていた彼女が顔をあげるとそこにはレールレールのカタパルトがあった。


「あっ!! これは!! タッチィ!!」


彼女は歯を食いしばって手をレールめがけて伸ばした。


ドシン!!


ファントムズ・ヘイツの超重量級ちょうじゅうりょうきゅうの踏みつけが決まった。


だが、その足跡には誰も居なかった。


レールに触れたヴェーゼスは体をうつ伏せにしたままカタパルトで加速していった。


「キャーーーーー!!!! こんな姿勢でレールに乗るなんて!! フツー足で乗るでしょ!? ギャーーーーーーーー!!!! 胸がちぎれる~~~!!!」


胸がカタパルトに接することによって衝撃は和らいで安定していたが、胸が激しくこすれて激痛が走っていた。


「もう少し……もすこしこらえれば射出ポイントが来るはず……。あった!!」


彼女の目に天に向けて伸びて、途中で途絶えた部分が目に入った。


ヴェーゼスはジャンプする直前に腕で地面をね上げると姿勢を直立に近づけた。


「あ~~~痛った~い……自慢の胸がもげるかと思ったわ……」


巨乳をマッサージしながらさすっているとだんだん冷静になってきた。


「ふぅ。助かったってとこかな。……あれ? これ着地どうすんだろ……」


空中高く飛んだ女性は現状を整理してすぐに焦り始めた。


「落ちちゃう!! 落ちちゃう!! このままじゃ地面に衝突してダメージ受けちゃう!!」


彼女は身構えたが無傷で着地する手段が思い浮かばない。


「くっ!! 痛いの覚悟で!!」


受け身の姿勢をとったまま森に落下した。だが、なぜか体は痛まない。


いつのまにか不思議なレールに体が乗っていた。


「これは……着地機構? 焦ってたし、見たことなかったからわからなかったけれどこれは……レールレール君の魔術か!!」


そのまま森の中をレールにのってすいすいと進んでいくと開けた場所にでた。


そこには2人の男子があぐらをかいて雑談していた。


「あれは……レールレール君!! それに、グスモ君も!!」


やっとクラスメイトに会えて、ヴェーゼスは思わず泣いていた。


「ラスト1名……揃ったな。ヴェーゼス……グッド」


「ええ。揃いやしたね。いきなり青白いヤツと当たるのは危険でやんす。まずはこの3人で慣らしやしょう。大丈夫。このパーティーなら青白いぞうに一泡吹かせられるでやんしょ」


合流できたのは嬉しいが、青白いぞうは恐ろしい。


それでもレールレールとグスモの浮かべている笑顔を見ているとだんだん勇気が湧いてくる。


1人でダメでも仲間となら―――


ヴェーゼスは涙をそでぬぐうとすぐにたくましい顔つきになった。


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