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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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ファントムズ・ヘイツ

7日目の朝、美しい赤髪を振り乱してリーチェはジャヤヤぞうから逃げていた。


だが、その表情には余裕か浮かぶ。


「へへ~ん。こっちだよ~~~」


「パオーーーーーーーーーーー!!!」


彼女は適度な距離をとったまま走って密林を走っていた。


「おっ、ここらへんいいんじゃないかな?」


次の瞬間、彼女は両脇りょうわきに伸びている樹木に髪型をツインテールに分けて結びつけた。


そのまま、鉄棒の大車輪のようにぐるりと回って一気にモンスターの背中側に回り込んだ。


すぐさま枝から髪を離すと両拳りょうこぶしにぎったような形状に髪の毛を変化させ、硬化こうかさせた。


「せええやああああ!!! デュアル・スタンプ!!」


ズズン!!


急所を突いた確かな手応えがあった。そして一撃でジャヤヤぞうはのびてしまった。


「はい。いっちょありっと。アクスル先生の修行のおかげだな~これは。死ぬほどキツかったけどさ……」


勝利の余韻よいんひたっている暇は無かった。


リーチェは強烈な悪寒おかんを感じた。何か、得体えたいのしれないものが接近している。


すぐに彼女は再び髪の毛を上に伸ばして樹木の上に緊急避難した。


あまりのプレッシャーに嫌な汗をかいてきた。


少女はツバを飲み込みながら辺りをながめて索敵さくてきした。


その気配の正体はすぐにわかった。見た目はぞうなのだが、青くぼんやり光っている。


(なに……あれは? あれがサーディ・スーパ? いや、多分そうじゃない。あれはぞう……だとは思うけど、ただのジャヤヤぞうじゃないね。きっとおそろしく強い。アンデッド化とも違うみたいだし、やっぱり邪神がからんでいると見て間違いないかな)


青白いぞうはズシンズシンと足音を立ててこちらに接近してきた。


(まずい!! 位置がバレてる!? 無策むさくで突っ込むのはマズイ!! ここはとりあえず距離をとって……)


彼女が逃げの構えをとったときだった。その青白いぞうは長い鼻をムチのように使って辺りをなぎ払い始めた。


(なんだあの鼻!! あきらかに伸びてるじゃないか!! くっ!! 逃げ切れるか!?)


今まで乗っていた樹木が次々と倒されていく。


走る速さも赤いぞうより速く、このまま逃げていたら巻き込まれる一方だ。


(くっ、やるしかないか!!)


リーチェは素早く無数の細い髪のたばを伸ばしてぞうの鼻にからませた。


同時に彼女は鼻の回転に巻き込まれ、グルグルと空中で回転させられた。


(うっ!! なんてバカぢからだ!! このままでは叩きつけられて終わりだ!! ならばいっそ!!)


少女は釣具つりぐのリールのように赤い髪を手繰たぐり寄せて一気に敵との距離をめた。


「いくら化物でも弱点を突けば!!」


彼女は激しく振り回されていたが、ぞう眉間みけんめがけて突っ込んだ。


ギリギリまで引きつけると髪に反動をつけて鼻の一撃をかわした。


こういった局面でのバトルセンスや反射神経はんしゃしんけいが彼女の秀でたところだった。


「ドラゴンフライ・オーバーヘッズ!!」


髪の毛の拳を背中から思いっきり振りかぶってぞうの後頭部のコブに叩き込んだ。


「オオオオオォォォォ……」


青白い魔物はぐらりとバランスをくずした。


「やったか!?」


弱点を突いたという思い込みが彼女にスキを生んだ。


背中に相手の長い鼻が伸びてくる。


「うぐぅっ!!」


リーチェは青いぞう拘束こうそくされてしまった。


ギリギリと絞め上げられる。並の使い手なら全身骨折は避けられない。


骨折どころではなく、トマドのようにつぶれてしまうだろう。


そんな強烈な力だったが、少女はすぐに対策をとった。


鼻に包まれた部分の内側に無数の細い髪を進入させて、内側から外側へ押し出し始めたのである。


これで直接、締め付けられる事態は回避できた。しかし、身動きが全く取れない。


そうこうしているうちにぞうはしびれを切らしてまた鼻をムチのように振ってリーチェを地面や樹に叩きつけ始めた。


「あだっ!! いっつ~~~!!!!」


最初の数発は喰らったが、それ以降の攻撃は体を髪で覆ってガードした。


しかし、ますます反撃のチャンスが無くなっていく。


「まずい!! このままじゃ削り負ける!! でも、何も出来ないまま負けたくない!!」


髪の毛の乙女は一気にその美しい毛髪もうはつをぐんぐんのばした。


そして、青白いぞうを真っ赤に包み込んでしまった。


「どうせやられるなら弱点をさぐってやる!! ついでに逃がすわけにもいかない!! お前みたいな厄介なヤツの相手はあたしだけで十分だ!!」


しばらく彼女の毛は魔物を包んでいたが、エネルギー切れで毛は元の丈に戻ってしまった。


相手に確かなダメージは与えたものの、倒すまでは至らずに少女は大地にした。


すぐにヘルプが入って彼女は野戦病院へと運ばれた。


その頃、ポーゼとミラニャンのコンビは堅実けんじつにジャヤヤぞうを倒していた。


「……………………………………」


(う~ん、ポーゼくんって無口だからなんかやりにくいんだよね。まぁもうだいぶ慣れたけどさ……)


ミラニャンは少しだけ困惑した表情を浮かべていた。


「来た!!」


ポーゼが赤い巨体をとらえてポータブル・灯台とうだいを構えた。


ジジ……ジジジ……


少年はエネルギーをチャージした。


発射の反動で彼の小さな体が吹き飛んでしまわないように、少女は背中でポーゼの背中をぐいっと押し込んだ。


ビーーーーーーーーーッッッ!!!


強烈な光線がぞうの頭部めがけて照射しょうしゃされた。


熱を持った光でターゲットの頭は溶けるように焼け落ち、その場で息絶いきたえた。


「ふう……結構倒したけど、まだまだだね。やっぱりみんなと合流する必要がありそうだ」


ミラニャンの顔が明るくなった。


「うん。私もそう思うよ。はい。お疲れ様!! パルーナの特製バナナパフェだよ」


ポーゼはひかえめににっこり笑った。


「ありがとう。ミラニャンはすごいよね。同じバナナなのに、毎回飽きないメニューを作ってくれる。楽しみにしてるんだ。ありがたいよ」


彼は割と無口ではあるが、まったくしゃべらないというわけでもなかった。


時々かける優しい言葉はそのたびにミラニャンの緊張やあせりをやしていた。


2人でバナナパフェを食べてのんびりなごんでいたが、急にポーゼもミラニャンも中腰になって身構みがまえた。


「うっ!!」

「これは……!!」


思わず互いに顔を見合わせた。


「このゾワゾワする感覚……まさか、サーディ・スーパ!?」

「うう……悪寒おかんがするよ。今までのとは比べ物にならない!!」


2人は息ぴったりに背中どうしを合わせて協力して360度、周辺を見渡した。


「あ、あれだよきっと!! 見て!! ほら、青白いぞうがいる!!」


すぐにポーゼもミラニャンと同じ方向を向いた。


「な……なんだあれ……。サーディ・スーパでは無いみたいだけど……」


向こうはこちらに気づいたのか、鼻を円形にグルグルと振り回してこっちに接近してきた。


それはまるでスクリューのようであり、巻き込まれたらただではすまなそうだった。


「くっ!! 頭を焼いてしまえば!!」


すぐに少年は片膝かたひざをついてポータブル・灯台とうだいを構えた。


後ろから肩に手をおいてミラニャンが支える。


「全力だぁ!! フル照射しょうしゃ!! いっけぇぇぇぇぇ!!!!!!」


ビーーーーーーーーーーッッッッ!!!!


昼間なのに辺りが明るくなるほど高出力の光線が発射された。


この攻撃で仕留められるとポーゼもミラニャンも確信していたが、相手は一枚上手だった。


まず、鼻を伸ばしてひたいおおい、脳への直撃ダメージをけた。


さらに目をつむって視覚へのダメージもガードした。


結果、顔面にやけどを負うことになったのだが、今までの赤いジャヤヤぞうに比べて明らかにダメージが少ない。


皮膚ひふ分厚ぶあつくなっているのは一目瞭然いちもくりょうぜんだった。


高出力ビームのパワーがきると同時に青白いぞうは再び鼻を円形に振り回しながらひるむこと無くこちらに突っ込んできた。


猛烈な鼻の回転は息ができないほどの旋風せんぷうを生んだ。


かまいたちでポーゼとミラニャンの身体がスパスパと斬れていく。


「っぐっ!! ミラニャンさん、大丈夫!?」


「ううっ!! 痛っ……。ポーゼくんは―――」


次の瞬間、2人の体は風圧でふわりと宙に浮いた。


小さくて軽い彼らを吹き飛ばすのは相手にとって造作ぞうさもないことだった。


「う、うわあああああああああああ!!!!!!!!!」


「きゃ、きゃあああああああああああ!!!!!!」


風にもみくちゃにされながら、少年少女はバラバラの方向へふっとばされてしまった。


「ほいよ~。おふたりさまキャッチっと」


敷物しきものに乗って空を飛んでいたリジャスターがすかさずフォローに入った。


ポーゼとミラニャンは風呂敷ふろしきに包まれて保護された。


しかし肉体的に負ったダメージは大きく、野戦病院直行だった。


運び込まれた2人は重傷とまではいかないが、深い傷を負っていた。


これが手堅てがたく活躍してきた名コンビの思わぬ解散となった。


リーチェも既に運び込まれて治療中ちりょうちゅうだった。


様子を見に来たナッガンはこの異変を把握はあくしているようで、渋い顔をした。


「やはり来たな……。FファントムズHヘイツだ。ジャヤヤぞうの恨み(ヘイト)を集めて練ることによってサーディ・スーパが生み出すぞう変異種へんいしゅだ。一見すると不死者アンデッドのように見えるが、実際は純粋なパワーアップ版だな。鼻周りが特にパワフルになっている。さて、こいつらをどうする?」


教授はクラスメイトを試すと同時にその身を思いやっていた。


同時に回復したとしても彼らはまた孤独な状態でジャングルに投げ出される。


おまけに今度はジャヤヤ象FHファントムズ・ヘイツまで相手にせねばならない。


密林遠足は一筋縄ではいかない、ますます厳しい様相ようそうていしてきていた。


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