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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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崖の上のインターミッション

特にその後の動きはないまま6日目は幕を閉じた。


今日も高台のふちに仁王立におうだちしてナッガンはクラスメイト達を見守っていた。


「さて、1週間経ったな。現状確認をしよう。リジャスターの諸君、それぞれの状況を聞かせてくれ」


そう言いながらナッガンは筆記用具を取り出して報告をメモし始めた。


「…………ふむ。なんだかんだで半分くらいは他のクラスメイトと合流できているのか。広大なジャングルに獰猛どうもうなモンスター。それをかいくぐって合流するというのは運だけではどうにもならん。実力だと見ていいだろうな。これは嬉しい誤算だ」


担任は満足げにうなづいた。


回ってきたデータやレポートなどに教授は目を通す。


そしてすべてのセミメンターに現状を共有すべく、生徒たちの状況を伝え始めた。


かなり厳しい環境だが、なぜだかラーシェの班は誰も野戦病院送りになっていなかった。


運か実力かはわからなかったが、彼女はきっと実力だろうと信じた。


そして出来たての彼氏であるジュリスの事を案じた。


「まずは未だに一人きりの生徒達か……。肉体面、精神面ともに追い詰められている者もいる。なんとかしてこの苦境くきょうを乗り切れるかといったところだろうな」


ナッガンはペラリペラリと資料をめくった。


「リーチェはこの1週間、一人で戦い抜いているな。野戦病院も消耗しきって戦闘継続不可のケースのみでほとんどKOノックアウトされていない。ソロでもやっていけるタイプだな。それにこの伸びは休暇中にこってりしぼられたと見える」


1人でも高い戦闘能力があると事前に評価はされていたが、ここまでとは誰も思っていなかった。


田吾作たごさくも普段はいまひとつな感があるが、ジャングルという環境が彼の野菜でパワーアップという条件にハマったようだ。こっちもリーチェと同じくらいに健闘けんとうしている」


これには意外だという者も多く、田吾作の実力を見直す人も増えた。


「アンジェナは……クラティスと組んだこともあるが、今は1人だ。度重なる魔術の酷使こくしでマナへの蓄積ちくせきダメージが多い。特殊な魔術故まじゅつゆえに根本的な治療・回復は出来ない。また占えるようになるまでこらえるほかないな。極めて厳しい」


ナッガンは顔をしかめて瞳を閉じ、首を左右に振った。


「次だ。シャルノワーレだな。彼女……エルフは森の民とも呼ばれる。よって、樹上での立ち回りに勝るものは居ないと言われるほどだ。密林で敵を倒したり、戦闘回避するのは朝飯前といったところか。今は特に大きな交戦もなく、仲間を探し回っているようだ。もっとも、まだ彼女は他のクラスメイトに接触てきていないようだが……」


珍しいエルフの習性を知って一部からは感嘆かんたんの声があがった。


「続いてアシェリィだ。サモナーズ・ブックの魔術で森に一体化しているとの報告がある。もちろんこの状態ならば怪我をして出血でもしない限りは魔物との戦闘は避けることが可能だ。だが……これはやりすぎだな。あまりにもカモフラージュしすぎて他の生徒に気づかれていない。本人が気づかない限りはこのままだぞ……」


それを聞くと同時にラーシェはとても心配そうな顔をした。


「ファーリスは一度、パーティーを組んでいたこともあるが今は孤立している。ビットのようにピアスを使う魔術の使い手だ。だが、攻撃範囲が中~遠距離という特性からして、突っ込んでくるぞうとはかなり相性が悪い。確かに成長してはいるが、かなり苦戦しているようだ」


ファーリスは相手との組み合わせ次第では一方的な展開も可能なのだが、今回は相手が悪かった。


「レールレールは密林にカタパルトをいているようだ。一見して適当に作っているように思えるが、カタパルトの行く先は共通の地点を指している。もし、誰かがそれに乗ってジャンプすれば着地地点で合流することができるはずだ。ただ、まだ今の所は誰もカタパルトには乗っていないな。うまく行けばあるいは……」


意外と器用な作戦に見守る者たちは感心した。


「ヴェーゼスは順調だ。ぞう魅惑チャームしまくってるらしいぞ。敵にすると恐ろしいが味方にすると頼もしいといったところか。モンスターを乗り換えながらジャングルを渡っているようだ。この魔術からすると彼女もソロ向きかもしれん。あくまで効果が保証されたここに限っての話だがな」


彼女の実力も疑問視されているところがあったが、魅了テンプテーションの腕前は確かで、その認識は改められた。


「そしてグスモだが、近距離には格闘術、中~遠距離は罠と全くスキがない。というか休暇中に一番伸びたのは彼だ。おそらく、本当に死にかけたはずだ。間違いない。特に今まで目立たなかった格闘面が飛躍的に強くなった。あいつこそ生き延びるには1人でもなんとかなってしまうだろう。以上が現在、単独で行動しているクラスメイト達だ」


グスモに関しては非力という印象があったが、どうやらそれも克服こくふくしたようである。


サポートに来ている在校生やリジャスター達はここまでの報告を念入りにメモした。


特に彼らは孤立しているので、場合によってはヘルプに入るタイミングを早める必要があるからだ。


「次はパーティーを組んでいるメンバーの状況を伝える。まずはポーゼとミラニャンだな」


なんだか意外な組み合わせにその場の面々はあれこれと話した。


「なんだかんだで一番早い段階で合流したコンビだ。ポーゼのポータブル・灯台でジャヤヤぞうの頭部を焼いて撃破している。そしてそれをミラニャンがスイーツを中心とした料理で回復しているな。移動速度は極めて遅い。籠城ろうじょう作戦に近いな。リスクは低いが、代わりに仲間との合流の確率はがくっと下がる。それでも撃破数的に他のチームを十分助けていると言えるだろう。用心深いポーゼらしい戦い方だ。もっともミラニャンは他のメンバーを探したくてしょうがないだろうが……」


男女2人で長期間、同じ場所に居ると色々とありそうだ。


だが、ポーゼはアクティブ系では無いし、ミラニャンからは男子として見られていなかったので皆がその点についてはスルーした。


「あとは……ニュルとドクだな。ニュルの大怪我をドクが無事に治療したようだが、ニュルは副作用で涙が止まらないらしい。純粋なヒーラーだったならば良い組み合わせだったのかもしれんが、ドクではな……。こればっかりは運としか言いようがない。比較的軽い副作用だけならあるいは……」


ナッガンはため息をついて途中で資料をめくった。


「お、こっちの2人は期待できるかもしれんぞ。ガンとキーモだ。なんでもジャヤヤぞうへの殴り込みに成功したらしい。相当、鬱憤うっぷんが溜まっていたのだろうな。正直、返り討ちに合うかとヒヤヒヤしていたが、思ったよりこのコンビは相性が良かったようだ。この調子なら野戦病院の常連にはならずにすむだろう。撃破数も伸びてゆくはずだ」


熱い男2人組の健闘けんとうに歓声が上がった。


「それと……ジュリスとカークスが合流しているな。ジュリスの余計な入れ知恵ぢえでカークスがパワーアップしたようだ。まぁコンビとしては悪くないだろう。せっかくだ。カークスの更なる修練の手助けをしてもらおうか。誰かアイツに単位はやらんと忠告の使い魔を送っておけ」


単位はやらんという言葉にあたりはザワついたが、すぐに誰でもなく妖精の姿をした使い魔を放った。


「あとは……百虎丸びゃっこまるとカルナの組み合わせだな。カルナの蝋燭ろうそくに邪神が引き寄せられるというのは実は予定通りだ。カルナを含んだパーティーを起点として叩くことを想定している。そのかわり、彼女は魔術を使いにくい環境にあるが……しばらく百虎丸びゃっこまるには苦労してもらうことになるな」


それを聞いた同伴者達はざわついた。


教授はそれを無視して確認を続けた。


「ここからは3人組だ。クラスの連中には伝えていないが、邪神サーディ・スーパは人数が多いパーティーを襲撃する傾向けいこうにある。かといって少人数のパーティーでは歯が立たない。いずれにせよ邪神との衝突は避けられないということだな。相性にもよるが、大人数パーティーでも襲撃を受ければ壊滅かいめつさせられる可能性がある。今、ある程度のパーティーが成り立っていても一寸先いっすんさきはどうなるかわからん。パーティーの連中は安心しきっているだろうがここからが本番だ」


けわしい顔をしてナッガンは背後の森を指さした。


「さて、まずはイクセント、はっぱちゃん、レーネのトリオだ。ともするとパニックになりがちなメンバーをドライアドがうまくカバーしている。火力は間違いなくイクセントが飛び抜けているが、レーネもぞうの弱点を把握はあくしているらしい。悪くない撃破スコアだ。おまけに逃げられはしたが、サーディ・スーパも退しりぞけている。問題は今後、順調に戦力を確保できるかというところだな」


普段のクラス生活ではありえないチームだったが、相性は抜群ばつぐんだった。


その意外性に聞いている者たちもメモをとったりしていた。


「最後にフォリオ、クラティス、スララのパーティーだ。この中では圧倒的にスララの戦闘能力が上回る。それに加え、リーチの長いクラティス、サポート力の高いフォリオが揃っている。スララの破壊力が過剰かじょうなのに目をつむれば一番バランスとチームワークが良いと言えるだろう。以上で経過報告は終わりだ。これから戦いは一層、苛烈かれつを極める。魔術修復炉まじゅつしゅうふくろの利用も想定して動くように!!」


ナッガンが姿勢を整えてビシッっと経つと上級生たちも姿勢を正した。


「本当のジャングルはこれからだぞ……」


教授は再びがけの上に立って腕組みし、密林を見下ろした。


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