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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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先輩のとっておきのウラ技

火にかざすように急いで乾かしたのでカークスの服は小一時間もすると着られる程度には乾燥かんそうしていた。


少女はまゆをハの字にしながら生乾なまがわきの下着と制服を着た。


「あ、あのぉ……ジュリス先輩~。服、乾きました~」


声をかけても彼は反応しない。後ろから覗き込むとなにやら書き物をしていた。


「あ~、めんどくせ~!! こんな長文レポート書かせやがって!! 遠足中に仕上げないと単位くれねぇとか俺にまでスパルタで接するのなあの先生は!!」


青年は魔念筆まねんひつを放り投げた。


「お、終わったか。ほれ、とっとと火を消すぞ」


ジュリスは青いレーザーを放ち、瞬時にき火を消火した。


まだ昼過ぎだったので光源の心配はいらなかった。


「で、お前、今までどんな感じで活動してたんよ?」


そう言いながら上級生は腰のポーチから火の通った魚を取り出した。


「とっておきだけどやるよ。どうせバナナしか食ってねぇんだろ。顔が黄色くなってんぜ?」


「ウソお~ッ!?」


カークスはあわてて両手でほほはさんだ。


「ハァ……んなわけねーだろ。ウソだよ。ウソ。それより、魚食えば?」


短めのピンク髪をした少女は手渡しで食糧を受け取ると焼き魚をむさぼった。


「うっ……うう……おいしいよ~~~」


少女は久しぶりに味わった魚の味に感動して涙した。


ジュリスはあきれて赤髪をワシャワシャといた。


「ったく。メソメソ泣くんじゃねぇよ。で、どうだったんだ?」


少女はしっかりした物を食べて落ち着いたようで、今までの活動を振り返ってジュリスに報告した。


「とにかく、私の花火弾では全く歯が立たなくて~。ぞう以外には効いたりするんですけど~、肝心のジャヤヤぞうには火属性効かないみたいで~…」


しばらく相談相手は黙っていたが、複雑な表情をしていた。


「お前、確かに特訓の成果は見えるんだが、ナッガン先生がやったのはあくまでチームワークの訓練だからな。しかもダークシルエットにボロ負けしてるし」


カークスは目を見開いて驚いた顔をした。


「ど、どうしてそれをジュリス先輩が~!?」


大きな声を出した少女に沈黙をうながすすジェスチャーをする。


「シーッ!! 声がデカいよ!! 前も言ったけど俺は半分、教職課程に足突っ込んでるようなもんだからお前らクラスメイトのプロフィールやデータ、魔術、近況なんかをすべて把握してんだよ。もちろんお前の休暇中の事もな。修行をのぞきにいったこともあるくらいだ」


少女は渋い顔をした。訓練が敗北で終わったのだからいい顔はしないだろう。


「それはいい。話を戻すぞ。あの修行ではお前個人はさほどパワーアップしてないって事だよ。だってお前のカードが増えたわけじゃないんだからな。確かに策を練るのは上手くなったのは認めるけどな」


今まで誰にもめられなかったがジュリスにそう言われて彼女は救われた気がした。


そして先輩は現状を確認した。


「えーっと。カークス、お前の魔術は花火を打ち上げる事だったな。打ち上げると言っても横とか下も狙える。しかも、特にマジックアイテムを使うこと無く裸の状態でも打てるのは大きなメリットだ。だが、お前の魔術はかなりかたよってる。打ち上げ花火以外の花火を修得するのにとても苦戦するはずだ。すべてのスキルを花火弾に極振きょくふりしてるわけだな」


図星をつかれてしまってピンク髪の少女は反応に困ってしまった。


「ちなみに打ち上げ以外にはどんなのが使えるんだ?」


「……コー……ビ……です」


彼女はモジモジしながら言葉をにごした。


「あんだって? 聞こえねぇよ」


ジュリスが再度、聞き返すとカークスは開き直って答えた。


「特になんでもない普通の線香花火せんこうはなびです~!!」


エルダーの上級生はてのひらをひたいに当てた。


「ハァ……マジでデータ通りかよ。そっちはまだ戦力として期待できそうにねぇな。おっしゃ、しかたねぇ。俺がウラ技教えてやんよ。おっと、こいつぁ他言無用たごんむようだぞ。他の連中は苦労して達成することなんだからな。うし、まずは俺に向けて花火弾を構えてみろ。実際に発射すんじゃねーぞ。スタンバってみ」


戸惑いながらも花火少女は蝶々(ちょうちょう)のように両掌りょうてのひらをくっつけて発射準備した。


足元に魔法円が浮き上がる。


「あー、足元のじんは隠せるようにしとけ、属性がバレんぞ。ん~、お前やっぱ独学だな。すごくとんがった魔法円をしてる。それを後から誰か指導者に矯正きょうせいされたって感じだな」


炎焔えんえんのファネリから教えを受けたことをさとられたようだ。


図星ずぼしをつかれて驚いてばかりのカークスはジュリスに聞いた。


「これ見ただけでそんなにわかるもんなんですか~?」


青年は首を左右に振った。


「いや、俺も初等科エレメンタリィの時はサッパリわからんかった。そのうち、いつの間にかって感じだな。で、こっからがウラ技だ」


彼は木の棒を拾うとカークスの魔法円にちょっとした模様を加えた。


「ここらへんに、こうやって直接書いて雷の”フェンルゥ”のシンボルを加えるんだ。なにも全部念じて発動させる必要はないってこった。これは邪道だが、こういう事もできる。本当は正しいフォームとはかけ離れてるから基本的には学院では教えねぇけど、お前みたいなとがった術式にはよく馴染なじむんだ。ちょっとりきんでみ」


言われたとおりに少女は魔力を両手に込めた。


バチバチ!! バリバリ!! バチバチ!!! ジィージィー!!!!


するとカークスの両手が電撃でスパークし始めた。


「こ……これは……すごい。雷のエレメンタル・チェンジだ……」


ジュリスは満足げに笑みを浮かべながらうなづいた。


「ああ。これはもうただの花火弾じゃない。スパーク弾だな。他にも色々属性はあるが、出が早くて大地属性以外の仮想敵にはそこそこ通用する雷属性からマスターしていくといいぞ。その魔法円をよ~~~く覚えておけ。んで、スキを作らずすぐに撃てるようにしとくんだ。まずはそっからだな」


少女はしゃがみながら先輩が書き加えた術式をなぞった。


パチパチパチ!!


軽く静電気が起こった。


「そうだ。ちょうどいい。しばらくはお前についてやるよ。ナッガン先生から遠足に影響するほどやり過ぎんなって釘をさされてんだよ。その加減が難しくてな。でもお前のおりしてる分にゃあ文句もんくは言われねぇだろ。いいか、俺がおとりになってやるから1人でジャヤヤぞう撃破げきはできるようになれ。お前の持ち前の火力でスパーク弾を使いこなせばなんとかなんだろ」


未だにカークスは自分の魔術だと信じられないらしく、両手をながめた。


バチバチと電撃が両掌りょうてのひらの間を走っていた。


「ジュリス先輩、これ、試し打ちしてもいいですか~?」


上級生は腕を組むと空を見上げて返事をした。


「おお、いいぞ。やってみ。俺、あの飛んでるデカい魚を喰ってみてぇな」


ピンク髪の少女は集中し始めた。


すると足元に魔法円が出現した。ここまではいつもと変わらない。


だが、今回は素早くしゃがんでそこに指先で”フェンルゥ”の術式をプラスする。


そのまま勢いをつけて立ち上がった彼女の拳から球体状の電撃弾が発射された。


ターゲットに近づいた瞬間、少女は思いっきり手を開いた。


「クラッシュラッシュ・スパークリング・パリリゼーション!!!」


バリバリ!!! バババババ!!!!!!


円形に雷の花火が炸裂さくれつした。攻撃を喰らった巨大な魔物が落ちてくる。


「初めてにしちゃ上出来だ!! 降ってくるのを避けろよ!!」


「は~い!!」


ズズーーーーーーーーンン!!!!


空を飛んでいた魚は息絶いきたえて落下した。


それをジュリスとカークスは頭から飛び込んで回避した。


その他、巻き込まれた空中のモンスターも多数撃破して、それらも墜落ついらくしてきていた。


「う~ん……やべぇな。”フェンルゥ”のエレチェンを教えたのはやりすぎだったかもしんねぇ。……ま、いっか。独学。独学つーことで。それより、こんなに大量に焼けたモンスターの死骸しがいがあるんだ。周りから他の魔物が寄ってくる。食えそうな肉だけ回収してとっととずらかるぞ!!」


少女はサバイバルナイフで地道に肉をカットしていたが、研究生エルダーは器用にレーザーで切り取っていた。


2人揃って食糧を確保すると息を合わせてすぐにその場から離脱した。


走りながら突如とつじょ、ジュリスが笑いだした。


「くっくっくっ……あーっはっはっはっは!!!!!」


彼の後をついていくカークスは不思議な顔をした。


「いや、なんかこうも一気に成長されると面白くってな。正直、失敗すると思ってたんだが、成功しちまったよ!! きっとナッガン先生もこういうところに教員としての魅力を感じてるんだろうな。うっし、この調子で今度は象狩ぞうがりだ!! 結局、巡り巡って狩られる身になるってのは気の毒ではあるが、ダッハラヤの平和の為には仕方がない。さっきの感覚を忘れないうちに赤いぞうを探すぞ。ボッコボコにリベンジしてやれ!!」


「は~い!!」


カークスは凛々(りり)しい顔つきで応えた。


「あ、ついでに教えといてやるよ。ジャヤヤぞうは体のどこかに致命的な弱点があるんだ。どこが弱点かはヒミツだ。自分で探すんだな。ねらうのは難しいがクリティカルヒット出来れば花火弾でもダウンさせられると思うぞ。今後、奴らと戦う時は弱点を意識して戦ってみろ」


それを聞いて少女はまた驚いていた。


「え~、花火弾でもなんとかなったって事ですか!?」


ジュリスは首を左右に振った。


「いや、いくら弱点があると言ってもやはりジャヤヤぞうそのものはやはり火に強い。弱点も大きくはないから別属性が使えるにこしたことはねぇ。雷はスタン効果も期待できるからな。動きを止めれば特定の部位を狙いやすくなるだろ。あとは経験だな。さっきも言ったがまずはスパーク弾の練度を上げることだな。余裕があれば他の属性も教えてやる」


それを聞いたカークスはギュッっと拳をにぎって気合を入れた。


その頃、はるか遠くで炸裂さくれつしたスパーク弾をナッガンは確かに見ていた。


「……あれはジュリスのヤツの入れ知恵だな。カークスに邪道を教えたな。あんなやり方は教育でもなんでも無い。レポートを上げたとしてもアイツのこの遠足での単位は無しだな。あと、説教確定だ」


鬼教官の視線を知らずにジュリスはカークスと呑気のんきに笑い合っていたのだった。


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