表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
382/644

罪作りな男ってなんだよ

樹木を蹴散けちらしながら銅色をした狂った歯車が爆走していた。


「おらおらぁッ!! クソぞう出てこいっす!!」


「そうでござる!! 出てくるでござる!!」


ジャヤヤ象に痛い目を見せられて不満の爆発したガンとキーモはマッドネス・ギアーに二人乗りしていた。


勝てるという保証はどこにも無かったが、さんざん自分たちを苦しめた相手への反撃ムードは抑えきれない。


ギアーは中央の穴に操縦席そうじゅうせきがついており、回転する方向と同じ向きでついている。


正面は透けて見えるのでパイロットの視界がさえぎられることはない。


操縦席そうじゅうせきには進行方向とは後ろ向きにキーモがヒモでぐるぐる巻きにされていた。


ただ、腕の自由は保たれておりチェルッキーでの射撃が可能だった。


「あった!! 樹が倒れてるっす!! この先に連中はいるっす!! バックアタックしかけるっすよ~~~!!!!」


「ござる~っす!!」


2人は揃って拳を突き上げた。


エンカウントはすぐだった。赤い背中と尻尾が見える。


「うらぁ!!」


ギアは魔物に後方から激しく激突した。


その直後だった。歯車の左右から象2体が襲ってきたのだ。


ガンはいつもここで弱点を突かれて野戦病院送りになっていた。


「こいつらビミョーに賢いっす!!」


だがそれを元に今度はしっかり作戦が練ってあった。


「ほっ!! 女史じょし直伝の デュアル・ニードル!! 塩味、味噌味と白リンゴ味、鬼メロン味ッ!!」


キーモは両手を広げると握った指の間にはさんだ2本のチェルッキィーを2本ずつ両側に発射した。


「オーーーーーーーーーーーームッッッ!!!」

「パオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


この的確なショットで襲ってきた2体のジャヤヤぞうの目をつぶした。


「キーモ最高っす!! 俺も負けてらんねぇっす!!」


この時、彼は気づいていなかったがガンの魔力は”負けん気”を感じた時に爆発的に高まるタイプだった。


今回は邪魔者じゃまものが居ない上に、魔術の高まりもあって歯車はうなった。


「っしゃあああっ!! 衝突なんてヌルいっす!! この勢いでペシャンコにいてやるっすよ!!」


金髪の少年はビシッっと前方を指差した。


するとギアは猛烈な回転を始め、なんとぞうの背中に乗り上げた。


ペシャンコにはならなかったが、かなりの重量が魔物にくわわる。


おまけに歯車の回転する凹凸が衝突面を激しく傷つけた。


「あばよっす!!」


頭をかれた象はその場に倒れ込み轢死れきしした。


「あと2匹っす!! も~勘弁しねーっすよ!!」


残り2体は視界を奪われて手当たり次第に暴れまわっていた。


「拙者も修行の結果を試して見るでござる!! ガン殿はそのまま1体を頭からつぶしてくだされ!!」


「うっす!!」


マッドネス・ギアーは1体の象めがけて走り出した。


一方、キーモはチェルッキィーの箱を開けた。


「1箱20本入り……この遠足での補給は許可されているでござるから遠慮なく試せるでござるな!!」


彼は片目を閉じて狙いを定めながらお菓子かしの箱をもう1匹のモンスターの頭部めがけてかまえた。


「喰らうでござる!! 20の菓子たちよ。我が牙とならん!! N20(エヌ・トゥエンティ)!!」


詠唱えいしょうが終わると高速で20本のチェルッキィーが相手の頭めがけて飛んでいった。


一本一本の照準はあいまいで外れたものさえあったが、そのうちの数本がターゲットの脳味噌のうみそを貫通した。


「ヒュ~♪ すっげ~っす!! じゃ、こっちも!!」


キーモがぞうを倒すとほぼ同時にガンは最後の1匹をいて息の根を止めた。


戦いが一段落して2人はただ呆然ぼうぜんとしていた。


まさか自分たちがジャヤヤぞうを撃破することになるとは思っても見なかったのである。


同時に仲間の大切さを痛感して、互いをねぎらいいあった。


「ナイスファイトっす!!」


「ガン殿も見事でござった!! この調子で密林を進み、パーティーメンバーを増やしていけば……」


「サーディ・スーパに勝てるかも……。っていうかサーディ・スーパってどんなヤツなんすかね?」


「はて…………」


2人は揃って首をひねった。


その頃、ジュリスは一人だけで暇で暇でしょうがなかった。


そんな彼に赤い巨体が襲いかかった。


「パオーーーー…………」


ビスッ!!


「はい終わりっと」


飛び出してきたぞうの弱点を光線の一発で貫いて戦いは終わった。


いや、始まってさえいなかったと言えるくらいの速攻だ。


「あ~、つまんね。真面目に参加者ぶりっこしてたけどヒマでしょうがねぇよ。誰か呼び寄せてみるか」


そう言うと美しい赤髪の青年は人差し指を天にかかげた。


「赤いレーザーを上空に照射っと。あんまり長時間出してるとクラスの連中が寄ってきすぎるからな。あんま目立つとナッガン先生に文句言われるだろうし。せいぜい3分ってとこだな」


ジャングルの空に地から空に伸びる赤いラインが出現した。


もし、クラスメイトの誰かがこれを見ていたらここを目指すのは間違いない。


「ん~、誰が来るか。もしくは来ないか。なんか釣りみてぇでおもしれぇな。ちょっとアシェリィの気分がわかった気がするぜ」


3分が経過したのでジュリスはレーザーを消した。


「ふむ。すぐには到達できないだろう。もう少し待ってみて来なかったらまた迷子ごっこ再開だな」


彼は腕組みをしたままその場で待機していた。


ガサガサガサガサ!!!!!


「おっ!! 来た来た!! 誰だ!?」


出てきた人物は泥だらけでいつくばっていた。


まるで泥人間だ。パッっと見では男女の区別さえつかなかった。


これには流石のジュリスもギョっとした。


だが、場数を踏んでいた彼はすぐに現れた人物に駆け寄った。


「うわぁ……。またひでぇのが来たな。いいからとりあえずpotポット飲めよ」


紅蓮色ぐれんいろの制服の青年はすぐにその人物を支えて口に海岸オレンジ味の水薬を流し込んだ。


(この小柄な体に柔らかい感触……女か!!)


同時に水筒すいとうを頭からかけて顔をぬぐってやった。


「カークス!! おまえだったか!!」


高級potポットの回復速度はすさまじく、みるみるうちに打ち身や打撲、骨折が治癒していった。


「あ……ジュ……リス……せんぱ……」


馬鹿ばか!! まだ絶対安静だ!! しゃべるんじゃねぇよ!!」


青年は少女をお姫様抱っこするとフラマーそうの上に寝かせた。


フラマーそうはパルーナジャングル固有の植物で、群生地に寝そべると高級ベッド並の寝心地がする。


ただし、刈ってしまうとフワフワの感触は失われてしまう。


パルーナ以外では生育することも出来ず、ここでしか味わえない名物となっている。


見た目はフツーの緑の草なのでクラスメイトでこの存在に気づいた者はほとんどいなかったが。


数時間が経つとカークスは自力で体を起こした。


「具合はどうだ?」


カークスはまだ泥の残った顔でにっこり笑った。


「ええ。お陰様かげさまですっかり良くなりました!! ジュリス先輩は命の恩人です!! あたたた……」


彼女は片腕を押さえて顔をゆがめた。


「無理すんな。ハイグレードなpotポットつっても秘薬クラスじゃねーんだ。限界はある。にしても命の恩人ンン? な~にを大げさな……俺が助けなくてもどうせあとちょっとで野戦病院送りだったろ」


そう言いながらジュリスはカークスを指さした。


「それより、その体中についた泥をなんとかしろ。パルーナの泥は乾いて固まるとすげぇ重くなるんだ。とっとと洗い流さないと逃げ回ることさえできなくなるぞ。そばに水源がある。水源を中心に活動するのはサバイバルの基本だからな」


「は、はい。わかりました」


カークスはよろよろと立ち上がるとジュリスに歩み寄った。


「歩けるな? こっちだ」


数分歩くと2人は小川にたどり着いた。


「本当は池とかもっと水量のおおいところがいいんだろうが、何がんでるかわかんねーからな。見たところ制服がベットリ泥だらけだ。寄生虫の可能性もあるし、全部服を脱いでしっかり洗えや」


「へぇっ!?」


思わず花火少女は頓狂とんきょうな声をあげた。


「そ、その……男の人の前でそれはすごく恥ずかしいんですが……」


それを聞いたジュリスは前かがみになって強烈なデコピンをお見舞みまいした。


「バーカ。誰がお前の裸なんか見てぇんだよ。ホラ!! 背中むいてるからさっさと洗え!! 何かあったらすぐ呼ぶんだぞ!!」


ほどほどに女性慣れしている彼にはそこまで女子の裸体に関しての下心やこだわりはなかった。


背後から水音がする。その間に青年は背にかけた小さなバッグを漁っていた。


「ふむ。こんなもん使うかと思ってたがかさばらないから持ってきておいて正解だったな」


しばらく待っているとカークスが声を上げた。


「あのぉ……一通り洗い終わりました」


報告を聞くとジュリスは背中越しになにか黒いたまのようなものを投げた。


落っことしそうになりながら裸の少女はそれを受け取った。


「インスタント・ラバー・スーツだ。緊急時用の服だな。電撃を軽減する効果もあるが強度自体は極めてもろいから戦闘には適さねぇ。おまけに劣化も激しい。本当に応急用のマジックアイテムだな。にぎってみろ」


少女が半信半疑で小さなボールを手に包むとパッっと一瞬で全身タイツのような姿になった。


「ほれ、こっちこい。あんまやりたくねぇが火を起こして服を乾かすぞ」


川から上がってきた彼女はモジモジしていた。


「あの……その……下着とかも……干すんですか?」


アシェリィには及ばないがカークスも結構、おてんばではあった。


しかし、こういう男女間のやり取りにはうとくていつもの勢いは無くなってしまうのだ。


「カーッ!! めんどくせーーー!! わかったよ。いいよ。服が乾くまで後ろ向いてるよ!! そのかわり、何かあったらすぐ知らせろよな!!」


めんどくさいとはいいつつも赤髪の青年は紳士的しんしてきで女子が何に嫌がるかには敏感びんかんだった。


カークスは上級生の背中をながめながらぼんやりと思った。


「ジュリス先輩、頼りになるし、優しいしカッコいいなぁ……。クラスの男子とは比べ物にならない魅力があるなぁ。きっと彼女さんとかいるんだろうなぁ……」


(何だ……なんか後ろから視線を感じるぞ……)


ジュリスは自分では全く自覚していなかったが、実は結構モテる。


故に、多くの女性のハートをキャッチしてきた罪作りな男でもある。


(ま、気のせいか……。あーあー。早く服、乾かねぇかな)


青年は手を後ろにつき、足を投げ出してくつろいだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ