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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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なんかお姉ちゃんみたいだなぁ

チアガール女子のクラティスは応援旗おうえんきを担いだままアンジェナの指した方向に向けて走っていた。


「確か……箒星ほうきぼしつってたな。って事は多分、フォリオの事だ!! ええい、ジャングルが邪魔で空が見えにくい!! それならッ!!」


彼女は背負っていたはた棒高跳ぼうたかとびのように構えて宙高く舞った。


「せえやっ!!」


スカートをはためかせてぐんぐん上昇していく。


「あれか!!」


少女が四方を見渡すとフォリオが居た。


空中のモンスターたちに追いかけ回されてボロボロになっている。


「あいつ……あれくらいが振り切れないって……さては本調子じゃないな? そうとう消耗しょうもうしてると見た。ほんじゃま、行きますか!!」


クラティスは一度落下して素早く着地するとすぐさま再びジャンプした。


そのままフラッグを振って滞空しながら自らおとりになった。


空飛ぶ巨大な怪魚がこちらに向けて迫ってきた。


ばぐん!!


フォリオは丸呑まるのみにされた彼女を見ていた。


「く、クラティスさぁん!!」


次の瞬間、旗についた槍で化物の上あごを貫いてチアガールは飛び出してきた。


そして思いっきり怪魚を蹴飛けとばして別のモンスターに飛び移った。


「いちッ!!」


今度は巨大なムカデ型の魔物だ。


「ちょっとくらいかたいくらいで調子に乗るなっつーの!! にッ!!」


虫の頭部を貫くと彼女はあたりを見回して着地できそうな場所を探した。


その次は空中を飛ぶへびに飛び移った。


「うわ~ヌルヌルする!! とっとと仕留めるかんね!! さんッ!!」


クラティスははたの尖った部位を突き立ててへびを真っ二つにいた。


その後も立て続けに助っ人は危なげなく化物を撃破していった。


少女の体には不釣り合いな位の長い得物えものだが扱いこなしている。


旗使はたつかいもたくみで、上昇、滞空、そして落下とうまい具合に使いこなしていた。


地上戦もそこそこやれるが、彼女の本領は空中戦にあった。


さらに空中に浮かせることのできる相手なら一方的な展開に持ち込むことのできる強みも持ち合わせていた。


少女はやりのようなはたを回転させて滞空しながらフォリオに近づいてきた。


「お~い。大丈夫か~。うしろ良いかな?」


「う、うん。だ、大丈夫だよ。あ、ありがとう。た、助けてくれて。ほ、ほんとにたすかったよ……」


クラティスは横座りでホウキ後部のトランクの上にトンと軽やかに腰掛けた。


基本的に男勝りだが、こういうところは女の子らしかったりする。そういうギャップも有りだという者もいるが。


「フォリオ、だいぶくたびれているみたいだな。大丈夫か? 余ってるから飲みなよ」


彼女はキラキラと赤く光る小瓶こびんをホウキ少年に渡した。


「こ、これ、す、水薬の魔力回復potポットじゃないですか!! こ、こんなのもったいないですよ!!」


少女ははたをしまいながら少年の背中をトンと叩いた。


「いいから飲みな。アンジェナの分なんだからさ……」


「は、はい?」


アンジェナがどうなったのかはわからなかったが、なんとなく察したフォリオは小瓶のふたを開けてpotポットを一気飲みした。


Potポットは液体状の回復剤の総称で、一口にpotポットと言っても様々なものがある。


その中でも多く流通しているのが暖色系の体力回復水薬だ。


対して寒色系はマナを補充できる貴重なものである。


クラティスがフォリオに渡したのは赤いほうの飲み薬だった。


飲んでみるとムラサキリンゴのようなさわやかな甘味が口の中に広がる。


みるみるうちにホウキ乗りのコンディションは回復し、負っていた細かいキズはふさがった。


疲労感ひろうかんも吹っ飛び、ふらふらだった頭もえてきた。


「く、クラティスさん。あ、ありがとうございます!!」


「ん。いーってことよ」


彼女が手を差し出してきたのでフォリオは恥ずかしがりながらも振り向いてハイタッチした。


その後、彼らは今までの出来事を語り合った。


「ふ~ん。グスモに、ファーリスにフォリオ……そしてサーディ・スーパが呼ぶぞうの群れ……か。あたしたちはずっとアンジェナと2人で行動してたけど邪神には会わなかったな。もしかすると3人以上でパーティーを組むとあっちからしかけてくるのかもしれないな。でも話を聞くに2人だけじゃサーディ・スーパにはかなわない気がするぞ。リスクを覚悟して仲間を集めるべきだとあたしは思うね」


フォリオも首をコクコクと縦に振った。


「ぼ、僕もそう思います。ぼ、僕らの戦力ではサーディ・スーパ本体に攻撃することさえ出来ませんでした。あ、ある程度、ぱ、パーティーを練って、さ、砂漠の遠足の時みたいに複数班で当たらないと、か、勝てないんじゃないかな……」


クラティスはホウキに深く座り直して腕を組んだ。


「しかしなぁ……。そう言うのは簡単だが、ぞうも魔物もウヨウヨしてるこの広いジャングルでそんな都合よく複数のパーティーがそろうかね? 互いを繋ぐ手段もないし他のみんながどうなってるもサッパリわかんないんだよな。ウチのクラスはガチガチの武闘派ぶとうはだからそういうアシスト役がいないんだよなぁ。まーどうせわざとナッガン先生はそういう組み合わせにしたんだろうけど」


少女はジャングルの空をながめながら考え込んでいた。


「相手の位置がわかるっつー魔術的にはアンジェナか。ただ、アンジェナはひどもろい面があるからな。頼りすぎちゃならん。……とすると……。やっぱキーモのチェルッキィーが一番だろうな。アイツとキスしかけるのはちょっとキツいが、背に腹は変えられないしな。誰か強力な奴らとキーモが合流してからが本番だと思うね。それ以外は基本的に偶然ぐうぜん遭遇そうぐうなわけでしかないし。いっそあたしらでキーモを探すか?」


フォリオは両手をホウキから離して上半身ストレッチをしながらそれに答えた。


「う、う~ん……でも空からじゃ見つかりそうにないよ。じ、ジャングルもこんなに広いし。ま、ましてやキーモ君だけピンポイントに探すのは……む、難しいよね」


背伸びをする少年のかたを少女の手のひらがポンポンと叩いた。


「しっかしキミ、器用に飛ぶもんだね。よく自分より大きいあたしを乗せてバランスが崩れないもんだ。フライトクラブは伊達じゃないってか?」


フォリオは驚いたようで声のトーンが上がった。


「もももももも、もう!! いきなり触らないでくださいよ!! ま、まぁその気になれば、ホ、ホウキから2人とも投げ出されても、こ、この”コルトルネー”が拾い上げてくれますから」


少年はいとおおしげにコルトルネーという名のホウキをさすった。


「はは。悪かったって。でもそれなら安心して命をあずけることができるってもんだよ」


振り向くとクラティスは親指を立ててにっこり笑っていた。


2人が和んでいるその時だった。足元からドカドカ音がする。


バタバタと樹木がなぎ倒されていた。ジャヤヤぞうの背中がチラチラと見える。


「っかぁ~~~。これだから象はイヤだねぇ!! あたしもフォリオみたいに空を飛んでたいもんだ。あんな連中を相手にしなきゃなんだからさ」


ホウキ乗りは苦笑いした。


「じ、ジャングルだけあって空の敵も多いんですよ? ぜ、全力で振り切る事も珍しくないし、う、うっかりしてると地面に引きずり降ろされちゃうし……。き、緊張してる時間のほうが長いくらいです……」


後ろに横乗りした少女はひらひらと手を振った。


「わーってるって。現にさっき追いかけ回されてたじゃんか。にしてもあーあー、無茶苦茶だなホント。仲間と合流できない人はアレに一人で当たらないといけないんだぜ? ちょっと正攻法では勝ち目がねーよなぁ」


ボゴォ!!


突如とつじょとして地面が大きく抉れて小規模なクレーターになった。


群れていた3体ほどのぞう跡形あとかたもない。


それどころか周囲の木々さえ巻き込まれてポッカリ穴が空いている。


まるでその一帯が何かに飲み込まれたかのようである。


フォリオもクラティスもすぐにはその状況への理解が追いつかなかった。


だが、よくよく考えればこの攻撃パターンには見覚えがある。


「す、スララさん?」


「ありゃスララじゃね~か?!」


本人の姿は全く見えないが、確かに地面は不自然にえぐれている。


「フォリオ、降りてみよう!!」


「う、うん」


もしかしてそういうモンスターなのかもしれないと警戒してクレーターから少し離れたところに彼らは着陸した。


「とりあえずモンスターに見つからない程度に呼び声をかけてへこみの方へ言ってみよう。戦闘中のスララがあたしたちを見てたとは思えないし。どこか遠くに離れてしまう前に合流できれば…………。それとフォリオ、何かあったらあたしをおいてすぐ離脱してくれ。地上はお前にとってアウェーだからな」



フォリオはゆっくり首を上げ下げした。


「……エ……よ……」


「ん? フォリオ、今なにか言ったか?」


彼は首をブンブンと左右に振った。


「きコ……るワよ」


ボゴッ!!


いきなり地面から人間の片腕が飛び出した。


「うわぁ!!」


「ギャー!!」


2人は悲鳴ひめいを上げざるを得なかった。


「ちョっト!!  ちョっト!! まモのニきカれルじャなイ!! しズかニ!! しーッ!!」


飛び出した色白の腕の指先はシーッのポーズをとった。声は地面から聞こえる。


フォリオとクラティスはそろって口をふさいだ。


「よッ……と……」


片腕にぐぐっっと力を入れて地面の中からスララがセミのようにい出てきた。


「おヒさシ~。5にチぶリかシら?」


姿を表したのは悪魔憑あくまつきの少女だった。


ツカツカとクラティスが近寄ってひじで彼女をつっついた。


「びっくりさせんじゃないよ!! 登場の仕方をもうちょっと何とかしなよ!!」


スララは悪びれる様子もなくニタァっと笑った。


「だッてアたシのエ・Gノすタいルかラしテ、こレがベすトなンでスもノ」


フォリオはクラティスのかげに隠れつつ聞いた。


「い、5日間も土の中に居たの?」


悪魔憑あくまつきは泥や砂を払いながら答えた。


「えエ。そウよ。いチおウみンなヲさガしテいタけレど、そロでモいイかナっテおモえテきテね。てキのアたマかズをケずレばカんセつテきなエんゴにナるダろウとオもッテね。でモ、せッかクおトもダちガきタしネ……」


すぐさまチアガールがツッコんだ。


「いや、合流しろし。あんた主力級エースじゃんよ。でも、スララが協力してくれるなら百人力だぜ!! きっとサーディ・スーパだって怖いもんじゃないぜ?」


スララがツッコミ返してきた。


「くラチャんソれフらグ……」


「うっせ!! エースはエースらしくしなよ」


この2人のやりとりは聞いていて愉快ゆかいなものが多い。


まるで姉のような年上女子に挟まれた少年は思わずにっこりしていた。


「あーッ!! でも地上での乱戦になったときとか丸呑まるのみとかマジ勘弁かんべん!! フォリオの空を含めたフォーメーション構築はしっかりやっとくぞ」


暗い紫のロングヘアのスララはそれに同意しつつ伝えてきた。


「だイジョうブ。もシのミこンでモ、ぽケっトがアるかラしョうカさレなイわ。あンしンしテ」


またもや少女はニタァっと笑った。彼女特有のクセのある笑みだ。


「おい、待て。それがシャレになんねーつってんのよ!!」


ワイワイにぎやかにやる余裕を保ちつつ3人は密林を進んだ。


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