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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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道化師のような邪神

密林の合間からまるで道化師どうけしのような笑い声が聞こえてきた。


「来たッ!! ヤツだ!! 邪神サーディ・スーパだ!! 大量にジャヤヤぞうを呼ぶぞ!! なんとかしてこらえろ!! 僕は直接、あいつを狙ってみる!!」


レーネは振り向きつつ首を縦に振った。汗がたらりとれる。


「オッケ!! 出来る限りやってみるよ!!」


イクセントはその場で地面と平行に腕をまっすぐにピンと伸ばして突き出した。


まるで片腕を弓矢ゆみやの矢に見立てているようなかまえだ。


彼女は瞳を閉じて集中コンセントレーションし始めた。


一方のボウラーは押し寄せる大量のぞうをどうやってさばいたものかと悩んでいた。


「う~ん……全匹の弱点を突いてたんじゃ間に合わない!! 何か、何か手段は……そうだ!!」


足元をよく見るとこのあたり一帯はぬかるんでいて水たまりがあちこちに出来ていた。


自分たちは安定した場所で休んでいたので足元は乾いている。


「よし!! いくよ4thフォース!! ライトニングボルト~~~・ストライクッ!!!!」


レーネは強烈な電撃を帯びたボールをジグザグの軌道きどうえがいて放った。


ぬかるみを伝ってぞう達に電撃が走る。


バリバリバリバリ!!!!!!


どうやら効果はてきめんだったようで、次々とモンスターたちはひざを折って崩れ落ちた。


「フン。やるじゃないか」


イクセントは前、後ろ、前、後ろと視点を移しながら亡霊ファントムを追うが、どこに行ったか全くわからない。


そうこうしているうちに突如として目の前に邪神は現れた。


「ウヘヘヘヘ~~~~!!!! ピョン!! ベロベロ~~~!!!! ピョン!!!! ベロベロ~~~」


「ふざけるな!! でぇい!!」


反射神経で目の前の邪神に魔力を込めて殴りかかったが、テレポートされて空振ってしまった。


「チッ!!」


しばらく様子をうかがっているとまたジャングルの隙間すきまからゆらゆらと青白い光源が見えた。


「喰らえ!! 瞬光しゅんこう射者しゃじゃ!! ウィンキング・レイシューーーートッ!!!!」


レーネがビビるほどの恐ろしい速さで小さな光弾が発射された。


当たったのかどうかわからなかったが、発射後も不気味な笑い声は止まなかった。


「え~うっそぉ……アレで当たらないとか……。やばいね……」


イクセントも思わずひたいの汗をそでぬぐった。


「ああ……。半端じゃない。あれじゃ複数地点から一度に攻撃しないと当たらないだろう。だが、多少の牽制けんせいにはなったみたいだ。笑い声が逃げるように遠ざかっていく。ぞうの追撃も来ないし、ひとまずなんとか乗り切ったか……」


そう言いながらへたり込むようにイクセントは地面に座りこんだ。


レーネもかなり疲弊ひへいしていて同じように腰をおろした。


2人ともかなり追い詰められていたが、はっぱちゃんのメンタル・ヒーリングの効果でかなり速く冷静れいせいな状態を取り戻した。


そうこうしているうちに昼頃には樹木の亜人のチャージが終わり、彼女はナイスバディへと戻った。


嬉しそうに体に生えた大きな葉をワサワサと揺らしている。


ボウラーの少女が声をかけてきた。


「ねぇ、私達って実は結構いい感じじゃない? なんだかんだで何回か危機を乗り切ってるし」


これには少女剣士は同意しかねる様子だった。


「ハァ、ハァ……どうだかな。ハァ……油断してると足元すくわれるぞ。第一、僕らが順調でも他のチームがどうなってるかわからんしな。それに、そろそろ連中との合流も考えていかないといけない。とてもじゃないが、単班でのサーディ・スーパ撃破は不可能に近いとわかったからな。フザけたヤツだったが、厄介やっかいきわまりない相手だった。次はいつ来るかもわからんし、それこそ次はやり過ごせるかもわからん」


軽く息を荒げながらイクセントはそう言った。


それを見てレーネは笑ってみせた。


「はは……ハァ……ハァ……イクセント君、息上がってるのにそりゃあ説得力ないよ」


はっぱちゃんの根にこしかけながら魔法剣士も笑った。


「フッ。僕は強烈な魔術を立て続けに使ったからだ。お前だって、アスリートならさっさとリカバリしたらどうだ?」


なかなかイクセントとレーネの2人で組むことは珍しい。


そのため最初の頃は刺々(とげとげ)しい会話をしていたが、互いにだんだん加減がわかってきたのかどこまで踏み込んでいいかがわかってきた。


特にイクセントはひねくれた発言をとってレーネを戸惑わせていたが、悪気がないのがわかると年下の生意気なガキンちょに過ぎなかった。


一方、イクセントからするとレーネはやや熱血娘で暑苦しかったが、根はまっすぐだったので信頼にあたいする人物だとすぐに思えた。


休んでいるうちに思ったより速く回復したのでイクセント、レーネ、はっぱちゃんは仲間を探すために移動を開始した。


ドライアドの亜人、はっぱちゃんは根でうように進んでいるのであまり速度が出せない。


もっとも、迂闊うかつに速いスピードで動くと今度はモンスターに捕まってしまう。


もどかしくはあるが、これくらいのペースがベストだった。


彼女らが動き出した頃、そこからかなり遠ざかったところにアンジェナとクラティスは歩いていた。


「な~、マジで全然クラスメイトいね~のな。本当にこのペースで誰かに会えるのかよ~?」


クラティスは背中に応援旗おうえんきを背負って両手を後頭部に組みながらぼやいた。


「まぁ待ちたまえ。誰かがピンチにならないと俺の占いでは位置まで拾えない。それに、占いが当たったのを確認した時点で俺に大ダメージが返ってくるのは確実だ。その際に俺が足手まといにならない工夫が必要だ。占って危機の仲間と合流するというと簡単だが、そのまま逃げるというわけにはいかないだろうからな」


クラティスは首をかしげて聞いた。


「う~ん……未だにイマイチよくわかんないんだけど、アンジェナの占いってどんなんなん? 大体しかわかんないんだよね」


星詠ほしよみの青年は腕を組んで答えた。


「まぁ俺も把握しきってないところがあるから仕方がない。まず、原則として誰かに及ぶ危険や危機を星からみとることができる。そして、予知が成功すると俺に大ダメージが返ってくる。どのくらいの精度で占うかを加減できるんだが、精度を上げれば反動を喰らう可能性が上がる。精度を下げればリスクは少ないが、外れる確率も上がる。外れる占いなんてアテにならないだろ? だから俺は大抵たいてい、高精度で占っている」


アンジェナは学院生活でもしばしば吐血とけつしていた。


これは彼が常に危機にアンテナを張り巡らせていることを意味する。


「学院に来て自分の能力を研究したり、先輩からアドバイスをもらったよ。その気になれば全く知らない人の身に及ぶ危険をむ事も可能だが、それだと明らかに魔力の使いすぎだとわかってる。村くらいならともかく、街や都市の危機をんだらただじゃあすまないだろうな。命に関わる」


思わずクラティスはゴクリとつばを飲んだ。


「は、はは……そんなの卑怯じゃん。命をかけるとか覚悟が違いすぎるよ……」


青色のチアガール姿の少女は目をせた。


場合によっては彼の命はそう長くは持たないかもしれない。


そんな危うさを彼女は感じずにはいられなかった。


「な~に。そう深刻な顔をしないでくれよ。こんな魔術だからこそ生きていてよかったと思えることもある。それに、あまり大きな声じゃ言えないが占いが的中するとも言われぬ快感があるんだ。ヤミツキになるほどの……ね。だからヤバい橋とわかっていてもわたりたくなるのさ」


それをクラティスはなんとも言えない顔をした。


「う~ん……マギ・エクスタシーとかウィザーズ・ハイってたぐいやつか。あたしは特にそういうのは無いけど、発生するとそりゃあもうスゴいって聞くな。魔術の威力もね上がるって」


アンジェナは人差し指を立ててそれをすった。


「まぁ、そこらへんの領域に突入してるのはそれこそ命懸いのちがけになってる人達ばかりだろうしね」


少女は目線を泳がすと声を上げた。


「あ、スララとか完全にそうだわ。魔術を使ってるとなんとも言えない気持ちよさを感じるらしい。まぁあの子の場合は常時、発動してるから常に気持ちいいのかも。う~ん……よくわかんないなぁ……」


占いの青年は苦笑いした。


「ははは。そこらへんは体に強い負荷をかけないと縁がない感覚だから、そうならないうちに切り上げておくのが懸命けんめいだと俺は思うね」


クラティスは小難しげな顔をした。


「う~ん……そういうモンかねぇ……。あたしにはよくわかんないや」


その時だった。前を歩いていたアンジェナが急にジャングル越しの青空を見上げた。


彼はじっと空を見上げて何かを見つめている。


「お、来たか!?」


少女もずいっと前に出た。


「……輝く箒星ほうきぼしは魔物によって流星と成り果てる……ごはっ!!」


星詠ほしよみと同時にアンジェナは吐血した。


「しっかりしろアンジェナ!! しかし、箒星ほうきぼしというと……追い詰められているのは……」


四つん這いになった青年はクラティスに声をかけた。


「行け!! クラティス!! あっちの方角だ!!」


「しかし!! アンタを置いてはいけないよ!!」


占い師はチアガールを突き飛ばした。


「俺の魔術を無駄にする気か!! 行け!!」


クラティスは一度だけ振り向いたが、その後は振り向く事無くアンジェナの示す方向に走った。


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