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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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2人の密林少女

エルフの装束しょうぞくを着たシャルノワーレは森に溶け込んでいた。


森の人だけあって、象やモンスターとの戦闘をうまく回避していた。


それに他のクラスメイトは苦戦していたが。彼女は元が植物性に近いだけあって、バナナだけでも十分栄養補給が出来た。


いつもはキラキラ輝いている髪も今は光っていない。


これは自分の意志で調整することができるようだ。


樹木の合間をって彼女も仲間を探していた。


ずっと移動していて疲れたので他の樹より大きい大王ヤシの上に座りこんで休んだ。


今回、ノワレは愛用の巨大戦斧きょだいせんぷ、パピヨーネ・アクシュエを置いてきていた。


パワーとリーチがあるのはいいが、この木々が密接したジャングルで振り回すには大きすぎた。


代わりに小さめの小ぶりな片手剣を腰に差し、背中に大きな弓と矢筒やづつを背負っていた。


片手剣に手をやって瞳を閉じるとカーッっと彼女の頭が熱くなるのを感じた。


この剣は中古品ではなく、新品だ。


武器の記憶を読むWEPウェップメトラーのノワレの扱う武器にしては非常に珍しい。


だがそれにはある事情があった。


イクセント……いや、レイシェルハウトが手渡してきたヴァッセの宝剣。


Sword of Vassey……通称SOVソーヴのせいである。


今はえたウルラディール流剣技の師匠を探していたレイシェルハウトが渡してきた剣だ。


しかし、実際にそれを読み取ってみると物凄い力の記憶メモリーがノワレへとなだれ込んできた。


あと一歩で廃人はいじんというところで彼女は記憶メモリーのシャットダウンに成功した。


向こうは何も言わず、人の事情も知らずに宝物クラスの装備を渡してきたので全力でビンタを食らわしてやったのだが。


その時のSOVソーヴの感触がすっかり手に染み付く……というか焼き付いていた。


本来は現物の武器の記憶メモリーを読み取りながらでないと戦えない。


だが、あまりにも強烈な得物えものを手にすると例外も起こりうる。


染み付いた武器の使い方を新品にトレースするという魔術である。


これをノワレはWEPウェッププッターと名付けることにした。


少女はこれが初めての経験だと思い込んでいたが、エルフの里襲撃の際に母樹ぼじゅ星弓せいきゅうに触れていた事をすっかり忘れていた。


他のエルフより弓の腕前がはるかに達者たっしゃなのはその影響もあるのだろう。


ともかく、皮肉なことにウルラディール剣技の一番の使い手は自分ということになってしまった。


剣技としてはよく出来ていて、これ単体でも強敵と渡り合うことができるだろう。


しかし、記憶きおくを読んだ身からするとハッキリわかるのだが、この剣技はSOVソーヴとセットで真価を発揮はっきする。


ヴァッセの宝剣はただの剣ではない。魔力を大幅に強化するワンドのような効果も持っているのだ。


まさにウルラディール家の後継者のための剣といったところで、攻撃魔法が得意でないノワレでは剣の実力が出せていないのは明らかだった。


今までのイクセントの戦いぶりを見ていると爆発的な破壊力のある呪文を使いこなしている。


今使っている剣技はとってつけたようなものだが、彼女が宝剣をにぎったとすれば鬼に金棒といったところだろう。


それにしてもよく今までお世辞にも高級とは言えない剣を使って生き延びてきたものだ。


無論、迂闊うかつSOVソーヴを家から持ち出すわけにはいかないが。


きっと普段は家のどこかに封印してあるのだろう。


まだ実際に彼女に稽古けいこをつけた事はない。


ということはこの遠足は普通の剣で参加しているはずだ。


だが、彼女のことだからとシャルノワーレは全く心配していなかった。


というかいけすかないヤツなので余計にだ。


それよりもむしろアシェリィが心配でしょうがない。


ジャヤヤ象に蹴散らされては居ないだろうか? モンスターには襲われていないだろうか?


バナナだけでお腹をすかしているんじゃないだろうか?


なんだか過保護な母親みたいに彼女はアシェリィを心配しだした。


そう考えだすと居ても立ってもいられない。


ノワレは立ち上がると再び樹木の上を素早く気配を殺しながら移動し、アシェリィを探し始めた。


一方のアシェリィだったが、彼女も密林の住人と化していた。


「う~ん。ジャングルの魚は美味おいしいなぁ。見た目はエグいの多いし、毒があるのもいるけど。さすがにバナナばっかじゃお腹がすくよね」


苦戦しているクラスメイトがウソのようなムードである。


それもそのはず、彼女には秘策ひさくがあったのだ。


アシェリィはたびたび召喚術サモニングクラスでフラリアーノ教授の言っていた事を思い出していた。


「皆さん、自分の属性エレメンタル把握はあくしていますね。皆さんはだいぶ契約した幻魔げんまの数も増えてきました。そうなるとですね、自分に近い属性のフリをすることが出来るのです。例えば火属性なら炎系のモンスターには見えませんし、樹木系ならば植物になりすますことが出来ます。水属性なら肉食魚などのターゲットから外れます。その属性のフリをしてふるまってみてください」


実習で軽くやったが、果たしてこの大樹海でそれが通用するのか召喚術師サモナーは疑問に思った。


半信半疑はんしんはんぎではっぱちゃんをイメージしたドライアドのフリをしてみた。


実際に試してみると遭遇そうぐうしないどころか、出会っても襲われることがないのだ。


さすがに至近距離で動くのはマズいが、静止していれば完全に植物かなにかと思われているのようだ。


だが、いいことばかりではなかった。これのせいで仲間の2~3人とニアミスしているのである。


声をかけて呼びかけようと思ったが、その音量でうっかりモンスターにバレるのもリスキーだ。


そういうわけで安全は確保されているが、友人達との接触が難しいというもどかしい状況にあった。


痛い思いをしていないのは幸いだが、孤独なのが辛かった。


「ハァ……みんな元気でやってるかなぁ……。う~ん……元気……ではないかもね……」


アシェリィが合流できないのにはもう一つ理由があった。


彼女は慎重しんちょうに密林を歩いていた。またもやフラリアーノ先生の顔が思い浮かぶ。


「あぁ、その属性のフリをするというのはかなり効果がありますが、注意しなければいけない点があります。それは怪我を負って出血することです。たとえ軽いひっかき傷であっても血の匂いが混ざると一気にエレメンタルがいびつになります。すると、嗅覚きゅうかくするどいモンスターを誤魔化ごまかす事は出来なくなります。潜伏せんぷくする際はくれぐれもキズを負わないように慎重しんちょうに立ち回ること。いいですね?」


ジャングルは怪我を負う危険だらけだ。


垂れた枝にひっかかってもアウトだし、何かに足をとられて転んでも怪我をする可能性はある。


そのため彼女はこの暑い中、故郷で受け取った鮮やかなライラック色のローブを羽織はおっていた。


萌えそでのように手をおおって保護している。


ライラマ・ローブの防御力ぼうぎょりょくは決して高くはなかったが、石のつぶてくらいは防ぐ効果があった。


「あ~……マナボードで一気に駆け抜けて皆を探しに行きたいな~」


今回はマナボードの持ち込みは断念した。


樹木の密度が高すぎて、とてもではないが滑走かっそうできるような地形ではなかったからだ。


ジャングルをゆっくりと進んでいると樹をバタバタなぎ倒しながら巨大な空飛ぶ魚がこっちへ飛んでくる。


「まずい!!」


アシェリィは横っ飛びし、伏せて地面に転がった。


「ケガは!? ……大丈夫みた……い!?」


気づくと何かが足に巻き付いている。


「なにこれ!? 引っ張られてる!?」


足に巻き付いたものに彼女はズリズリと引きずられていく。


「この尻尾……幻魔げんまだ!!」


アシェリィはもがいたが、ガッチリつかまれてしまっている。


「オマエ……ウマソウ。ドロヌマデシズメテトカシテクウ……」


声の主が姿を現した。大人を寝かせた程度の大きさのトカゲが泥沼どろぬまにカモフラージュするように浮いていた。


「くっ!! なんて力なの!! 抵抗したら苦戦は必至ひっし!! 出来れば交渉ネゴシエーションで解決したい!! サモン!! サンドイエロー・カーキ・サモニング!! サンドリス!!」


召喚術師サモナーの娘は相手と同じと思われる大地属性である砂のサンドリスをび出して同志である事をアピールした。


伸びるトカゲの尻尾を踏みつけるように砂の板が出現する。


出現すると同時に、相手の幻魔げんまは泥を吐き出してきた。


サンドリスに直撃すると表面がジュウジュウと音を立てた。


アシェリィは盾になっていて当たらなかったが、着弾した周辺の草むらがドロリと溶けた。


「うっ!! 泥の溶解液ようかいえき!? かなり強烈!!」


だが、それっきりで相手は攻撃を加えてこなかった。


「オオ……オマエ、オレトオナジニオイスル。ケイヤクノハナシスル。オレノモラウマナニバイデケイヤクカ、トケテドロヌマニシズムカ、ドッチダ」


相場の2倍で契約するか、それとも泥沼に取り込まれるかの二択を迫ってきた。


一応、契約に応じれば力を貸してはくれるらしい。


幻魔げんま損得勘定そんとくかんじょうは割とまちまちでこういったメチャクチャな提示ていじをしてくることも少なくない。


トカゲの幻魔げんまは引っ張るのをやめてこちらを見つめている。


交渉ネゴシエイション嘘偽うそいつわりはなさそうだ。


「わかった。わかったよ。相場の2倍で契約して、呼び出すのも2倍。それで満足でしょ?」


すると尻尾が足から離れてシューッっと引いていった。


「ハナシワカルヤツキライジャナイ」


そう言うと泥沼の主はかき消えていった。


すぐにサモナーズ・ブックを確認すると”マッドプテロス”という名前と契約印が追加されていた。


「ふぃ~~~。もうダメかと思ったよ……。契約料2倍だったし、全身がだるいよ……。しばらくは動かずマナを回復しよう。にしても、きっとあの沼、底なし沼じゃないかな」


よく観察すると動物やらモンスターの骨が浮いている。


試しにアシェリィは小石を投げ込んでみた。


ジュウジュウ!!


激しい音を立てて小石は跡形あとかたもなくなった。


「ひえ~。危なかった。この”マッドプテロス”さんはかなり位の高い幻魔げんまみたいだけど、召喚に必要なマナが2倍だからなぁ……。強くてもあんまり実用的じゃないかも。更に上位の地面、大地属性との契約の足がかりにはなるかな」


彼女は寝そべりながらサモナーズ・ブックをペラリペラリとめくった。


「植物は大地に根を下ろし、水によってうるおう……やっぱ契約属性の傾向ってあるんだなぁ。私は炎属性の幻魔げんまとかほとんど居ないし。あとは雲とか電撃とか天候系がちょっとかな。なんか師匠ししょうが喜びそうだなぁ……」


一通りブックに目を通すと彼女は視線を前に移した。


「さてと。幻魔げんまには会えたから、皆にも会えるといいんだけどなぁ……」


そうつぶやくと彼女は立膝たてひざをついたまま屈んであるき出した。


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