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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter1:群青の群像
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お前がニブチンなんだよ。バーカ!!

枕元に置いてあったメガネをリーリンカがかけようとしたのを見てファイセルは指摘した。


「そういえばリーリンカ、君はメガネかけてないほうが可愛いと思うんだけど。正直、メガネをかけている時とは別人に思えるくらいだよ」


 可愛いという単語に反応して少女は反応した。どうやら照れているようだった。


「そ……そうか? そこまでいうならマギ・レンズをつけるかな。あれはどうも高くて買う気が起きなかったんだよ……それにメガネは小さい頃からずっとしてて慣れてたからな。残念ながらメガネをかけないとお前の顔はほとんど見えん」


ファイセルは笑いながら手招てまねきした。


「まぁまぁ。それは後でいいから。とりあえず、君のご両親に泊めてもらった挨拶をしないと」


2人は居間に向かった。リーリンカの両親はもう起きていて、朝食をとっている。


「おお、もう調子はいいのかね!?」


リーリンカの父親が席を立ってそばに来た。


「いや、頭は痛いし気分もあまりすぐれないです」


少年がそう伝えるとリーリンカの母親が青い丸薬を手渡してくれた。


「はい。二日酔い用の気付け薬よ。飲んで飲んで」


勧められるままに青い丸薬を飲み込んでから座敷に座った。


「あー、改めてお礼を言わせてくれ。カルバッジア……ではなく、ファイセル君だったかな? まさか娘をラーレンズから解放してくれる者がいるとは思っても見なかった。なにしろ大金だ。ラーレンズから事前に受け取ったままの結納金ゆいのうきんが残っているのでひとまずそれで許して欲しい」


ファイセルは掌を左右に振って遠慮した。


「いえいえ、僕は既に娘さんをもらってますので十分です。お金の為に彼女を助けたわけでもありませんしね。それはおじさんおばさん……いや、お父さんお母さんが使ってください。それだけあれば生活費に困ることはないはずです」


この家庭があまり裕福でない事を知っていたので、彼はさり気なく気を利かせた。


その反応に父親も母親も感銘かんめいのあまり深く頭を下げた。


「そんなおおげさな。頭を上げてください。僕はたまたま大金はもてあましていたくらいですし、消えるべくして消えたお金なんですよ」


さすがに安い金額ではないが、心配をかけまいとファイセルは余裕があるように振る舞った。


父親が頭を上げて満足そうな表情を浮かべた。


「なるほど。やはりアッジル氏の言うとおりの少年だったな。そういえば彼がよろしくと伝えておいてくれと言っていたな。落ち着いたら2人で会いに行くといい」


堅苦かたくるしい空気は徐々に抜けていき、ファイセルも家族として少しずつ馴染なじみ始めていた。


「ところでファイセル君、休暇中はしばらくこちらに居てくれるのだろう?」


少年は少し考えこんで答えを出した。


「今回の休暇では実家に帰ってないので、家族や知り合いが心配していると思います。特に僕の師匠は今回の婚潰こんつぶしを提案してくれた人ですし、お礼と報告をしたいなと思っています。でも今月中くらいはお邪魔させてもらうかもしれません」


それを聞いてリーリンカの両親は少しさびしそうな様子だった。


「そうかね。もっと君には我が家でゆっくりしていってもらって話をしたいと思っていたが、それならば仕方ないな」


ファイセルは早速アッジルに挨拶しに行こうかと思ったが、頭痛がひどいのでその日は休むことにした。


「休むなら客間か、あるいはリーリンカの部屋でも構わないよ」


父の発言を娘がすぐに取り消した。


「わ、わ、やめやめ。私の部屋には入らないでくれ。頼む」


入るなと聞いてしまうとファイセルは余計に気になった。


つい意地悪いじわるな気持ちが沸き上がってきてリーリンカの腕をひじでつっついた。


「えー? 見せてくれないの~? 今更隠し事もないでしょ~」


リーリンカは仕方ないなとばかりに渋々うなづいた。


きっとリーリンカのことだ。机と参考書籍とベッドだけの簡素で地味な部屋だろうと高をくくる。


だが、部屋にはいると綺麗な壁紙に、カーペットが目にとまった。


ぬいぐるみに編み物、アクセサリーなどが並びなどとてもファンシーな部屋だった。


「へ~、意外。リーリンカって意外と女の子らしいとこあるんだね」


「意外はとは何だ意外はとは。失礼な奴だな!! お前の実家に行ったら当然お前の部屋も見せてもらうからな!!」


リーリンカは照れ隠しに語気を強めながら言った。


「僕の部屋? それこそ面白くもなんともないと思うんだけどなぁ……」


じゃれるように言い合いを続けながら客間へと移動してファイセルは横になった。


「にしてもさ、この首のチョーカー、学院でもつけてないとダメなのかい? こんな目立つペアチョーカー、すぐさまクラス中の噂になりそうなんだけど」


 リーリンカは呆れたように言った。


「お前なぁ、それ永遠の夫婦の証なんだぞ? そんなホイホイ外すもんじゃないって。それとも何か? 私と噂ウワサなるのが嫌なのか?」


 ファイセルは黒光りするチョーカーをいじりながらこれからの学院生活を思い浮かべた。


「いや、繰り返すようだけど君がお嫁さんだって事に全く不満はないんだ。だけど、いきなりこんな目立つペアアクセサリーつけてったら皆ビックリするんじゃないかと思うんだよね。これって学生結婚ってやつだし」


リーリンカは何くわぬ顔でさらりと言った。


「なんだ? チームの連中の事か? ラーシェとアイネなら私がお前を好きなこと、かなり前から知ってるぞ?」


ファイセルは驚いて思わず上半身を起こした。


「え~~~~!? どういうことさ。知らなかったのは僕とザティスだけだったの?」


力が抜けて再び横になる。


「まぁそういう事になるな。にしても呑気のんきなやつだ。お前、何気に女子から結構モテてるんだぞ。知らなかったのか? 可愛いラーシェと美人なアイネがチームにいるからお前に告白しても望み薄だろうとか思われてるんだぞ? 私はいつかだれかに先を越されてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしてたというのに……」


この話も聞き逃せない。嘘だろと言わんばかりに少年は戸惑った表情をみせた。


「お前がニブチンなんだよ。バーカ!!」


リーリンカは笑みを浮かべながらファイセルにあっかんべーをお見舞いした。


「う~ん……女の子ってよくわかんないなぁ」


ファイセルは天井を見つめてあれこれ物思いにふけっていた。


翌日、すっかり二日酔いのよくなったファイセルとリーリンカは隣町への道を2人でとぼとぼ歩いていた。


リーリンカが不思議そうに尋ねてくる。


「いきなりの事で全く気にもとめなかったのだが、お前なんであんなに大金を持っていたんだ? そんな金持ちだって聞いたことなかったぞ?」


ファイセルは軽くほほを手で掻いた。


「あ~、あれはね~結構色々偶然ぐうぜんが重なってだね~。非常にラッキーだったと言える」


ファイセルは歩きながら北部から南部までの旅の話を彼女に話した。


少女はそれを聞いて笑ったり、あきれたり、驚いたり色々な表情を見せてくれた。


なんだか、前よりもずっと心を開いてれているかのように思えた。


そうこうしているうちにとなり町に着いてアッジルの服の店を尋ねた。


「おお!! よく来てくれましたなカルバッジア君、リーリンカさん」


早速、色々と話しに花が咲く。


「そうか。君の本名はファイセル君っていうのだね。いい名前だ。なんだか今になって本名を聞くことになるというのは妙な気分でもあるがね。それにあのリジャントブイルの……ほほう」


アッジルはニコニコしながらひげを撫でている。


「いやー、中々の強行軍だったのあんたはよくやったよ。特にラーレンズを追い詰めてたたみ掛けるとことかたまんなかったね!! 久しぶりにスカッっとしたよ!!」


嫁のレッジーナも拳を握って婚潰しの成功を祝福してくれた。


「いや~、アッジルさん達に出会っていなければどうなっていたことやら……」


リーリンカはレッジーナと話し込んでいる。アッジルがそばに来てささやいた。


「にしても美人なお嫁さんで。とんだ幸せものですな」


 ファイセルは照れ隠しに頭を掻きながら言い返す。


「レッジーナさんも美人じゃないですか。ちょっとキツいですけど」


おもわず男2人で笑いあった。


長いこと話し込んだ後、帰り際に店の入口でアッジル夫妻が見送りに来てくれた。


「また、東部に来ることがあったらぜひ顔を出してください。いつでもお待ちしていますよ」


「アンタらも健康には気をつけて仲良くやりな。アタシもダンナとそれなりに仲良くしてやってくからよ!!」


こちらが見えなくなるまで2人は手を振っていた。


リーリンカの家に帰って日付を確認するとちょうど休暇の半分で区切りが良かった


ファイセルはしばらくリーリンカの両親の好意に甘えて、半月ほどお邪魔させていただく事にした。

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