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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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散り散りクラスメイト

花火少女のカークスはキズだらけになりながらも踏ん張っていた。


「くっ!! ジュリス先輩の予想は正しかった!! あたし一人じゃジャヤヤぞうを仕留めることが出来ない!! 決してあたしの花火も威力が低いわけじゃないのに!! 相性が悪いっての!?」


彼女はぞうに追いかけ回されていたが、振り向いて構えた。


「ええい!! 逃げてばっかじゃラチがあかない!! 迎え撃つしかないか!!」


花火弾は目立たなくすることも爆発音を抑えることも出来たが、ジャングルの感覚の鋭いケモノには通用しなかった。


振り向くと少女は連続で拳を突き出してファイアワークスを連射した。


パン!! パリパリ!! パパン!! バリバリバリ!!!


雑魚を蹴散けちらすことは出来てもぞうはダウンさせることが出来ない。


「これは被ダメ確実!! SスタミナtトゥTタフネス発動!!」


ナッガンの猛特訓で彼女は新たな魔術をみ出していた。


巨体モンスターのりが腹部に直撃する。


「げはぁっ!!」


カークスはふっとばされて太い樹木のみきに叩きつけられた。


どう見ても一発KOノックアウトだったが、ずりずりとずり落ちた少女はむくっと立ち上がった。


「ハァ……ハァ……。運動スナミナはガタ落ちするけど、それを犠牲ぎせいに耐久力を上げる……それがStT!! これがなかったらあたしはここまで持ちこたえられなかった。それもそろそろ限界……。ハァ……ハァ……みんなに……会いたいよ……」


とうとうジャヤヤぞうは彼女を踏みつけてトドメをさそうとした。


少女は体力を使い果たして気絶した。


次の瞬間だった。辺りのモンスターが端微塵ぱみじんになった。


「君はよく頑張った。野戦病院に運ぶよ」


彼女を助けたのはOB・OGの集団、リジャスターの一員だった。


目を開けるとカークスは医療チームに囲まれていた。


「教授!! カークスの意識が戻りました!! 外傷がかなりひどいですが、致命的ではありません。まもなく治療が完了します!!」


ナッガンが本気で揃えた治療班は非常に優秀で魔術修復炉まじゅつしゅうふくろは本当の切り札と言えるくらいだった。


「どうだ。カークス。生のジャングルというのは?」


担任が寝ている自分の顔をのぞき込んできた。


「はは……。本当に先生って意地悪なんですね……。私の特訓はチームワーク有りきのものでした。だから……やっぱり仲間と合流しないと力は発揮はっきできないと思います……」


それを聞いていた教授は首を横に振った。


「いや、あれだけの数、そして長時間モンスターに囲まれてここまでこらえるとは上出来だ。私の想像していた以上だ。今のお前は一人の使い手としてもかなり出来る。だが、まだ出来ることはある。仲間に出会うまでこらえてみせろ。それがお前に課せられた課題なのだからな」


彼は敬礼のサインを送るとセミメンターの男子と入れ替わった。


「やあカークス。災難だったね。でもよく耐えたよ。ジャヤヤ象は皮膚ひふが厚い。炎系の魔法はあまり効かないんだ。逆に言えば花火を別属性にエレメンタルチェンジ出来ればダメージが通るはずさ。今の君には難しいかも知れないけど、挑戦してみてよ。あっ、もうコンディションオールグリーン? それじゃ、カークス、健闘を祈るよ!!」


そして少女はランダムテレポートで密林へと飛ばされた。


野戦病院に収容されて30分も経っていなかっただろう。


それなのにキズだらけでズタボロだった肉体がすっかり元気な状態に戻っていることにカークスはひどく違和感を覚えた。


「何としてもみんなと……会わなきゃ!!」


気合を入れ直した少女の頭上から鳴き声がした。


「ホロホロホロホロロ~~~~~~~」


奇妙な鳴き声をあげて巨大な空飛ぶへびが襲いかかってきた。


「うっ!! 花火を撃ったらまた同じ事の繰り返し!! なんとか、なんとかならないの!?」


カークスはひとりで苦しんでいた。


苦しんでいるのは彼女だけではなかった。


「やれやれ……これで3回目のコンテニューか? 勘弁かんべんしてほしいもんだね」


占いを得意とするアンジェナである。


しかし、得意の占いもこの状況では活かすことが出来ていなかった。


(俺の占星術せんせいじゅつは危険な出来事が起こるかどうかを占うもの。その占いが的中した時、危険度が高ければ高いほど俺にでかいダメージが帰ってくる。今は凶暴なモンスターがうろつくジャングルにひとり。どう占って、どう結果が出ても俺への大ダメージは避けられないってわけだ。仲間の危険を肩代わりするような魔術だから誰かと合流しないことには……うっ!!)


少年は草むらに伏せて、顔に地面の泥をぬりたくった。


そして爆発しそうな心臓を押さえ、息を止めた。


「ガーヒィ!! ガーヒィ!!」


2mはあろうかというアヒルのバケモノが数体、泥浴びをして飛び立っていった。


「ぷはぁ!! やってられん!! ええい!!」


アンジェナはやけくそで泥だまりに顔を突っ込んだ。


(それに、俺にはこれといった戦闘手段がない。他のクラスメイトと比べれば丸腰にも等しい。リジャントブイルは基本的に武を重んじるから戦闘能力が高い生徒が大半だ。例えば癒やしのロウソクを使うカルナも戦闘に転用出来るし、スイーツ作りが得意なミラニャンもあれでいて調理器具で戦闘をこなす。俺らのクラスでこれといった攻撃手段が無いのは俺とはっぱちゃんくらいだ。それでも受かったということは能力自体には見込みがあるのだろうが……)


彼は泥沼から上がるとそばの小川で汚れを軽く洗い流してクールダウンした。


「落ち着け……。らしくないぞアンジェナ。今までだってこんなことがあったはずだ。あの時は意識がふっとんでしまったが……。はて、あの時、どうなったんだろうか?」


彼は思い出を辿たどった。


小さい頃、幼馴染おさななじみのカシャナの危機を遠距離から占って的中させたことがあったのを思い出したのだ。


その時は相手の場所までハッキリわかった覚えがある。


もっとも負荷が高すぎて、そのときも生死のさかい彷徨さまよったのだが。


「負担はね上がるが、今の俺なら危機におちいる仲間を占って位置を拾えるかも知れない! クラスメイトとしてやってきたメンバーだ。確率は上がるはず!! もっとも、俺が行ったところでピンチにを乗り切れないかも知れないが、こんな俺でもおとりくらいにはなるだろう!!」


アンジェナはすっかり明けた朝の空をじっと見つめた。


「星が……める……。応援せし乙女、赤く重いかたまりのお手玉てだまになる……だって!? クラティスか!! 運がいいぞ!! 距離がちか……ごばっ!!」


青年は恐る恐る右手を見るとやはりかなりの量の吐血とけつがあった。


「ぐぅ!! これでいい、これでいい!! 走れアンジェナ!!」


運良くあまり距離が離れていなかったので周りの気配を無視して少年は走った。


一方のクラティスは一体のジャヤヤぞうにマークされていた。


チアガールスタイルの彼女は大きな応援旗おうえんきを振り回して滞空していた。


はたの先端は鋭く尖っていて、やり状になっている。


「くっそー!! コイツら硬ぇ~!! アタシの旗のヤリの突きじゃ貫くことが出来ない!! 決してダメージが無いわけじゃないんだろうけど、決定打に欠ける!!」


彼女は素早く着地するとまた高く飛んで空中で滞空しながらチクチクとぞうを突っついていた。


はためくはたは遠くからでも見え、アンジェナの視界に入った。


「あっ!! 間違いない。クラティスだ!! 今のところは問題ないように思えるが、占いの内容からすればそう時間がかからないうちにお手玉にされてしまう!! このお手玉とはきっと囲まれて鼻で打ち上げられるということなのだろう。さて、問題はここからだぞ!!」


アンジェナは確かに抜群ばつぐんの占い能力を持っていた。


だが、裏を返せばそれだけで攻撃手段はほとんどないし、マジックアイテムも使いこなせない。


おまけに身体能力も並ときたものだ。


うっかりした行動をとればまた野戦病院送りになる。


せっかく合流出来そうな局面でテレポートさせられてしまうのはなんとしても避けたかった。


彼にとって仲間はリスクを分担し、共有する大事な存在なのだ。


パーティーあってこその占い師なのである。


それと彼には策士さくしとして才能もあったが、これも一人では活かしづらい能力だ。


そういうわけでなんとしてもアンジェナは無事にクラティスと合流せねばならなかった。


彼女の危機を救うだけならさほど難しくないが、自分も損害を受けずになんとかするのは困難を極めた。


というのも、占いの結果からするにあとわずかな時間でこの一帯がジャヤヤぞうであふれることになるからだ。


(きっと、彼女と交戦しているアイツの血液が仲間を呼び寄せるんだな……。今は戦いに熱中しているが、クラティスの機動力なら逃げることも出来るはずだ!! だが強気の彼女のことだ。逃げろと言っても応じないだろう。ならば……!!)


アンジェナは戦いの場から全速力で逃げながら叫んだ。


「クラティーーーーース!!!!! 頼む!! アンジェナだーーーーーー!!!!! 助けてくれええええぇぇぇぇぇ!!!!」


のどが張りけそうな声で叫びながら彼は逃げた。


「あれは……アンジェナか!!」


ゾシュッ!!


ぞうの頭部に一突きしてから抜くと彼女はすぐに声の方を向いた。


「待ってろ、今助けに行く!!」


そして彼女はケモノの頭から宙高く飛んだ。


アンジェナは走り続けてクラティスとの距離を出来る限り引き伸ばした。


あの辺りは戦場になるとんで彼女を誘導したのである。


チアガールの素早いジャンプに赤い巨体はついてこれず、うまい具合に2人は合流できた。


眼の前に応援旗おうえんき片手に少女が着陸してきた。


「おっす。大丈夫か? こっちは……イマイチだな」


彼女は少し困った顔をした後、にっこりと笑ってみせた。


「ま、でもアンジェナと会えたのは運がいい。というかずっと一人だったからな。な~に、2人で力を合わせればなんとかなるっしょ」


占いの内容だとか諸々の事情をどう説明しようかと思っていたアンジェナだったが、応援ガールのさっぱりした笑顔に癒やされ、これから先のことを考えることにした。


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