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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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おいでよ墓場のフェスへ

「えー洗礼試合3日目。アナウンサーは私、ドガが担当します。先日はノールス先生が担当したのですがあまりにもテキトーな実況だったのでリストラされました。よってまた俺が担当だコラーーーーーー!!!!!」


一気にコロシアムは大声援に包まれた。


「さてさて、今回は不死者アンデッドは友達!! メーレフ選手VSエルフの姫君……えーっと……お名前が滅茶苦茶めちゃくちゃ長くてですね……。すぐに司会の元へと伝言が伝わった。はい、はい。ゴホン、エルフの姫君、ノワレ選手の対戦となります!!」


ドガがパチンと指を鳴らすとステージは墓地へと変化した。


「あーっと!! これは確実にメーレフ選手有利です!! なお、舞台の決定はランダムですのであしからず。オッズは……8.2倍!! ジャッジの見解としてはノワレ選手の勝利は相当厳しいと見た模様!! 博打ばくち打ちにとってはたまらないシチュエーションです!!!」


向かい合った陰気な雰囲気の長い髪をした男が声をかけてきた。


「キシシシシシ……ま、悪く思わないでよ。ボクが墓地をしていしたわけじゃないからサ。まったくさ、どいつもこいつも下級生だからって下に見すぎだと思わないかい? そうやって慢心まんしんしてるから負けるんだよ。ボク? ボクはどんだけ弱い相手でも手は抜かないよ。死霊使ネクロマンサーは油断するとむくろに取り込まれるからね。一秒たりとも気が抜けないのサ……。キシシシシシ……」


彼は不気味な笑いを浮かべながら意気込みを語った。


それに対するノワレもここはゆずれないところだった。


わたくしかたきはリッチーですの。当然、連中は不死者アンデッドを使役してくるでしょうね。だからわたくし有象無象うぞうむぞうむくろになどかまっているヒマはありませんことよ?」


それを聞いていたメーレフはやれやれと言った様子でオーバーに肩をすくめた。


「おやおや……恐れ知らずのエルフのお姫様……ま、もっとも今は野良エルフか。言ってくれるじゃない。大した自信だね。でも本当に有象無象うぞうむぞうで片付けられるかな? ボクくらいを軽く蹴散けちらせないようなら遅かれ早かれ死ぬ事になるからよく身のふり方を考えたほうがいいよ。そういえばエルフの不死者アンデッドって居るのかなぁ? キシシシシシ…………」


ドガはマナ・マイクを握って実況した。


「おーっと。なんだか説教じみたメッセージだ~。一方のノワレ選手、マイペースです!!」


エルフの少女は長くて、美しい水色のキラキラ光る髪を優雅にかきあげた。


そして腰からぶら下げた蝶々(ちょうちょう)の羽のような巨大な戦斧せんぷ、パピヨーネ・アクシュエの柄に手を触れた。


武器の記憶を読むWEPウェップメトリーの魔術で斧のメモリーが彼女に流れ込んでくる。


(おい、いいからおめーらは逃げろ。ここは俺が食い止める!!)


(へへ……孤軍奮闘こぐんふんとうたぁ面白れぇ!! この腐れ死体共!! 全員相手してやらぁ!!)


(ぐっ!! がはっ!! げふっ!! まだだ……。おれぁ……おれぁまだこんなところで死ぬわけにゃいかねェんだ……)


(まだだ……!! 最後まで……最後まで胸張って……戦う……のみよ!!)


身をていして街人を不死者アンデッドから守った男の姿が浮かんできた。


ノワレは巨大戦斧きょだいせんぷを両手で握って構えていた。


「へぇ……こりゃ驚いた。そんな大きくて重そうなおのなのに、全く重力を感じさせないね。それがキミの魔術か。キシシシシシ!!!! これはますます手加減出来なくなってきたねぇ。誠心誠意せんしんせいいでお相手させてもらうよ」


オーディエンス達はガヤガヤと違和感の声をあげた。


「う~ん。死霊使ネクロマンサー誠心誠意せいしんせいいとか言ってもなぁ。なんかうさんくさいというか。おっと、2人とも臨戦態勢に入ったみたいだ。ムードを崩さないうちに試合開始するよ!!」


司会&実況がそう宣言するとゴングが鳴り響いた。


カンカンカン!!!!!!


かねと同時に気味の悪いゾンビたちがワラワラと墓場の土からい出てきた。


「キシシシシシ……ボクのいとしい骸達むくろたち……。キシシシシ!!!!!!!」


既に数えきれないほどのゾンビがノワレを取り囲んで襲いかかる。


対するエルフの少女はハンマー投げのように自分を中心に戦斧せんぷを振り回した。


グチャグチャベチャベチャと音を立てて不死者アンデッド達は立て続けに肉塊にくかいと化していく。


その光景は非常にグロテスクで目を背ける者や、気分を悪くする者が続出した。


ヘビーウェイトの斧を振り回しているのにノワレはすずしい顔をしている。


この得物えものの元の持ち主の動きやパワーをWEPウェップメトリーでトレースしているのだ。


「キシシシシ!!!!! こりゃすごいや。伝説の武器とか読み込んだらどうなるんだろ? やっぱ物凄いチカラを得ることができるのかな?」


メーレフは凄く楽しそうにゾンビを召喚し続けた。


「メーレフ選手!! さすが死霊使ネクロマンサー!!! そのマナのスタミナの高さは召喚術師サモナーと並んで二強とも言われます。大量にゾンビをんでいますが、まったくバテる様子がありません!!!! 恐ろしい耐久力です!! 一方のノワレ選手もあれだけの物を振り回しても息一つ切らさない!! これは好勝負の予感です!!!!」


水色の髪をきらめかせた少女は自分の周りの雑魚を排除はいじょすると斧を地面に突き立てて休憩きゅうけいした。


「ふ~ん。今のが前座ってわかってるの? キシシシシ……生意気な新入生だこと。ホラー・ナイツ・フェスは始まったばかりだよ。さぁ、一緒に盛り上がろうじゃないか」


メーレフはスッっと腕を振り払った。


するとワラワラいていたゾンビが一斉いっせいに姿を消した。


「さぁ、次は骨……ボーン・フェスだよ」


上級生は両手をダランと垂らすとゆらゆらと腕を持ち上げた。


すると同時に墓場中に骸骨がいこつ不死者アンデッド、スケルトンがいて出た。


先程のゾンビと同じく、ステージを白く覆うほどの数が出現した。


各々が骨の剣と盾で武装していて、腐った死体とは違って機動力も高い。


だが、ノワレは勢いを殺さずに同じ戦法で仕掛しかけた。


「片っ端から浄化して差し上げますわ!!」


その姿はまさに一騎当千いっきとうせんで、闘技場とうぎじょうの観客は見事な戦いぶりに称賛しょうさんを送った。


「せりゃせりゃせりゃあっっっ!!!!」


バキッ!! メキッ!! ボキョオッ!! グシャァッ!! メリメリッ!! バシュゥッ!!


エルフの少女は戦斧せんぷを振り回し、怒涛どとうの勢いでスケルトン達を蹴散けちらしていく。


その様子を見ていた対戦相手は満足そうに拍手はくしゅを送った。


「キシシシシ……敵ながらあっぱれだよ。でもこっからが本番さぁ!!」


斧の使い手は背後に禍々(まがまが)しい雰囲気を感じ取って、武器を収めて回避に転じた。


ズシン!!


何者かが彼女を押しつぶそうと叩きつけてきたのだ。


振り向いたノワレは驚愕きょうがくした。


今まで粉々にしてきた骨達が集結して、4本足で角の4つ生えた悪魔のような頭部を持った未知の不死者アンデッドへと合体していたのだ。


その巨大さと放たれる凶悪なオーラに思わずたじろいだ。


「キシシシシ……今までの子たちはサクリファイス……生贄いけにえさぁ。死んでるけど。この子はね、バグバガラーっていうんだ。どうだい? かっこよくて最高に悪趣味だろ? ボクはこういうの、大好きでさ。彼をぶには前座が必要だから今までのは本当に前座なワケ。あんな簡単に終わるわけないでしょ。さぁ、絶望の表情を見せてよ」


プレッシャーに気圧けおされていたエルフの少女は自分に問いかけた。


わたくしかたきのクレイントスを滅ぼすために霊園での特訓をこなしましたわ!! それを思い出さなくては!! こんな程度の不死者アンデッドに負けているようでは敵討かたきうちなんて出来っこありませんわ!! しっかりしなくては!!)


野良エルフは頭を左右に大きくすって恐怖を弾き飛ばした。


「オ……オ……オオオ…………ゴバァッ!!」


バグバガラーはいきなり淡い紫色むらさきの火炎を吐き出してきた。


「あっつ!!」


ノワレは大きく後ろに飛び退いた。


「キシシシシシ……。エルフって元は植物なんでしょ? そりゃ炎には弱いわけだよね。別に対戦相手をなぶるシュミはないんだけど、こっちもそれなりにいとしいむくろを傷つけられてるからね。ジワジワ追い込ませてもらおうかな。おっと、これは慢心まんしんじゃないからね……キシシシシシ。あと、強い不死者アンデッドは炎に耐性があるって覚えときなよ」


バァン!!


化物はエルフ少女をターゲットにして右腕を激しく地面に叩きつけてきた。


「ふっ!!」


横っ飛びでそれを回避した直後、骨の悪魔は体を回転させてムチのようにしなる尻尾でノワレの脇腹わきばらを思いっきり叩きつけた。


「ごほおっ!!」


そのまま彼女は吹っ飛んで大きな墓標に衝突した。


「キシシシシ!!!! どう? 仕込み尻尾の一撃は? 尻尾なんて無かった。そう思ったんじゃない?」


誰もがノワレのKOを確信したが、少女はガッツで立ち上がった。


「あーーーーーーーーっっとぉ!!!! ノワレ選手!! こらえました!! よく中等部ミドルの一撃をこらえた~~~!!!!! まだ終わらない!! エルフの姫君、まだ終わらない!!」


彼女は打たれた部位を押さえながら立ち上がった。


口からは浅葱色あさぎいろの体液が流れ出ている。


「う~ん。ステージが夜だから血の色がわからないねぇ。エルフの血……っていうか体液はライトグリーンだって聞いたから見てみたいと思ってたんだけど……ザンネン」


ノワレは痛みを押し殺した。もはや不死者アンデッドに対する執念しゅうねんでしか無い。


背中から大弓を取り出して、矢筒やづつに手をやった。


「おー。不死者アンデッドに効果抜群の銀の矢だね~~~。結構、徹底して対策を練ってきているねぇ。関心関心。……っていうか、キミからは霊園の匂いがするよ。慈骸じがいのオーザやカラグサ先生と色々勉強したね? ならばボクが手の内を隠すのはあまり意味がないね。だって、研究されつくされているのだもの。さぁ、言ってごらん。その矢をどうするんだい?」


メーレフは何がおかしいのかケタケタ笑いだした。


エルフの弓使いは銀の矢を一本、恐ろしい速さで打ち出した。


カチンッ!!


バグバガラーにその一矢は弾かれてしまった。


「ゾンビやスケルトン等が合体する時はそのり所となるコアが必ずありますわ。ですから、そういった連中を滅ぼすにはコアを破壊すること。違って?」


不健康そうな男子生徒はうんうんと首を振った。


「よくわかってるじゃない。でもさ、知ってるだけじゃダメなんだよね。キミにこの子のコアが突けるかい? 無理だってわかってるんだろう?」


それからの試合運びは本当にひどいもので、一方的にノワレが炎であぶられたり、強く殴打されたりする痛々しいものとなった。


時々、彼女が反撃して銀の矢をつも、攻撃は弾かれてしまうしコアの場所は全くわからなかった。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


「キミはよく戦った。そろそろ終わりにしよう。本気でったのによく耐えたよ」


バグバガラーはニュッっと生えた大きな牙でノワレをしゃくりあげた。


誰もが決着を確信したその時だった。


弓使いは時間の流れがゆっくりになったように感じていた。


驚くメーレフの顔がハッキリ見える。


「エルヴン・ミーティアー!! 箒星之流星群ほうきぼしのりゅうせいぐん!!」


ノワレ自身は空中で弓を連射しているだけなのだが、相手からしたらこれがとんでもなかった。


「いきなり身体能力が上がったのか? なんて連射速度だ。 おまけに威力も上がってるし、貫通属性もある。 動きも追えない。加速アクセラレーション系の魔術か? バグバガラー!! ボクをかばうんだ!!」


滞空している間、時間が無限にあるように感じる。


「お返しですわ!! てやてやてやてやぁっ!!」


無数の銀の矢の雨は骨の悪魔を貫通した。


バグバガラーはコアを突かれて一気に骨くずと化した。


残りの弓矢は全部メーレフの周辺にびっしりと刺さっていた。


「ま、まいった……ぼ、ボクはもうこれ以上、べないよ」


カンカンカン!!!!!!!


(凄まじい性能の魔術ですが……相当ダメージを受けていて、かつ空中に居ないと使えないのが……欠点ですわね……。樹上戦じゅじょうせんの得意なエルフらしい魔術だこと……)


勝利のゴングを聞いた直後、弓使いは突っ伏すように倒れ込んだ。


司会のドガは汗びっしりだった。


「やばい、やばいぞこれは!! ナッガンクラスの勝率高し!! この調子じゃオッズも3倍切るかもしれないぞーーーー!!」


野次馬達はああだこうだとナッガンクラスの噂でもちきりになった。


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