おいでよ墓場のフェスへ
「えー洗礼試合3日目。アナウンサーは私、ドガが担当します。先日はノールス先生が担当したのですがあまりにもテキトーな実況だったのでリストラされました。よってまた俺が担当だコラーーーーーー!!!!!」
一気にコロシアムは大声援に包まれた。
「さてさて、今回は不死者は友達!! メーレフ選手VSエルフの姫君……えーっと……お名前が滅茶苦茶長くてですね……。すぐに司会の元へと伝言が伝わった。はい、はい。ゴホン、エルフの姫君、ノワレ選手の対戦となります!!」
ドガがパチンと指を鳴らすとステージは墓地へと変化した。
「あーっと!! これは確実にメーレフ選手有利です!! なお、舞台の決定はランダムですのであしからず。オッズは……8.2倍!! ジャッジの見解としてはノワレ選手の勝利は相当厳しいと見た模様!! 博打打ちにとってはたまらないシチュエーションです!!!」
向かい合った陰気な雰囲気の長い髪をした男が声をかけてきた。
「キシシシシシ……ま、悪く思わないでよ。ボクが墓地をしていしたわけじゃないからサ。まったくさ、どいつもこいつも下級生だからって下に見すぎだと思わないかい? そうやって慢心してるから負けるんだよ。ボク? ボクはどんだけ弱い相手でも手は抜かないよ。死霊使は油断すると骸に取り込まれるからね。一秒たりとも気が抜けないのサ……。キシシシシシ……」
彼は不気味な笑いを浮かべながら意気込みを語った。
それに対するノワレもここは譲れないところだった。
「私の仇はリッチーですの。当然、連中は不死者を使役してくるでしょうね。だから私は有象無象の骸になどかまっているヒマはありませんことよ?」
それを聞いていたメーレフはやれやれと言った様子でオーバーに肩をすくめた。
「おやおや……恐れ知らずのエルフのお姫様……ま、もっとも今は野良エルフか。言ってくれるじゃない。大した自信だね。でも本当に有象無象で片付けられるかな? ボクくらいを軽く蹴散らせないようなら遅かれ早かれ死ぬ事になるからよく身のふり方を考えたほうがいいよ。そういえばエルフの不死者って居るのかなぁ? キシシシシシ…………」
ドガはマナ・マイクを握って実況した。
「おーっと。なんだか説教じみたメッセージだ~。一方のノワレ選手、マイペースです!!」
エルフの少女は長くて、美しい水色のキラキラ光る髪を優雅にかきあげた。
そして腰からぶら下げた蝶々(ちょうちょう)の羽のような巨大な戦斧、パピヨーネ・アクシュエの柄に手を触れた。
武器の記憶を読むWEPメトリーの魔術で斧のメモリーが彼女に流れ込んでくる。
(おい、いいからおめーらは逃げろ。ここは俺が食い止める!!)
(へへ……孤軍奮闘たぁ面白れぇ!! この腐れ死体共!! 全員相手してやらぁ!!)
(ぐっ!! がはっ!! げふっ!! まだだ……。おれぁ……おれぁまだこんなところで死ぬわけにゃいかねェんだ……)
(まだだ……!! 最後まで……最後まで胸張って……戦う……のみよ!!)
身を挺して街人を不死者から守った男の姿が浮かんできた。
ノワレは巨大戦斧を両手で握って構えていた。
「へぇ……こりゃ驚いた。そんな大きくて重そうな斧なのに、全く重力を感じさせないね。それがキミの魔術か。キシシシシシ!!!! これはますます手加減出来なくなってきたねぇ。誠心誠意でお相手させてもらうよ」
オーディエンス達はガヤガヤと違和感の声をあげた。
「う~ん。死霊使が誠心誠意とか言ってもなぁ。なんかうさんくさいというか。おっと、2人とも臨戦態勢に入ったみたいだ。ムードを崩さないうちに試合開始するよ!!」
司会&実況がそう宣言するとゴングが鳴り響いた。
カンカンカン!!!!!!
鐘と同時に気味の悪いゾンビたちがワラワラと墓場の土から這い出てきた。
「キシシシシシ……ボクの愛しい骸達……。キシシシシ!!!!!!!」
既に数えきれないほどのゾンビがノワレを取り囲んで襲いかかる。
対するエルフの少女はハンマー投げのように自分を中心に戦斧を振り回した。
グチャグチャベチャベチャと音を立てて不死者達は立て続けに肉塊と化していく。
その光景は非常にグロテスクで目を背ける者や、気分を悪くする者が続出した。
ヘビーウェイトの斧を振り回しているのにノワレは涼しい顔をしている。
この得物の元の持ち主の動きやパワーをWEPメトリーでトレースしているのだ。
「キシシシシ!!!!! こりゃすごいや。伝説の武器とか読み込んだらどうなるんだろ? やっぱ物凄いチカラを得ることができるのかな?」
メーレフは凄く楽しそうにゾンビを召喚し続けた。
「メーレフ選手!! さすが死霊使!!! そのマナのスタミナの高さは召喚術師と並んで二強とも言われます。大量にゾンビを喚んでいますが、まったくバテる様子がありません!!!! 恐ろしい耐久力です!! 一方のノワレ選手もあれだけの物を振り回しても息一つ切らさない!! これは好勝負の予感です!!!!」
水色の髪をきらめかせた少女は自分の周りの雑魚を排除すると斧を地面に突き立てて休憩した。
「ふ~ん。今のが前座ってわかってるの? キシシシシ……生意気な新入生だこと。ホラー・ナイツ・フェスは始まったばかりだよ。さぁ、一緒に盛り上がろうじゃないか」
メーレフはスッっと腕を振り払った。
するとワラワラ湧いていたゾンビが一斉に姿を消した。
「さぁ、次は骨……ボーン・フェスだよ」
上級生は両手をダランと垂らすとゆらゆらと腕を持ち上げた。
すると同時に墓場中に骸骨の不死者、スケルトンが湧いて出た。
先程のゾンビと同じく、ステージを白く覆うほどの数が出現した。
各々が骨の剣と盾で武装していて、腐った死体とは違って機動力も高い。
だが、ノワレは勢いを殺さずに同じ戦法で仕掛けた。
「片っ端から浄化して差し上げますわ!!」
その姿はまさに一騎当千で、闘技場の観客は見事な戦いぶりに称賛を送った。
「せりゃせりゃせりゃあっっっ!!!!」
バキッ!! メキッ!! ボキョオッ!! グシャァッ!! メリメリッ!! バシュゥッ!!
エルフの少女は戦斧を振り回し、怒涛の勢いでスケルトン達を蹴散らしていく。
その様子を見ていた対戦相手は満足そうに拍手を送った。
「キシシシシ……敵ながらあっぱれだよ。でもこっからが本番さぁ!!」
斧の使い手は背後に禍々(まがまが)しい雰囲気を感じ取って、武器を収めて回避に転じた。
ズシン!!
何者かが彼女を押しつぶそうと叩きつけてきたのだ。
振り向いたノワレは驚愕した。
今まで粉々にしてきた骨達が集結して、4本足で角の4つ生えた悪魔のような頭部を持った未知の不死者へと合体していたのだ。
その巨大さと放たれる凶悪なオーラに思わずたじろいだ。
「キシシシシ……今までの子たちはサクリファイス……生贄さぁ。死んでるけど。この子はね、バグバガラーっていうんだ。どうだい? かっこよくて最高に悪趣味だろ? ボクはこういうの、大好きでさ。彼を喚ぶには前座が必要だから今までのは本当に前座なワケ。あんな簡単に終わるわけないでしょ。さぁ、絶望の表情を見せてよ」
プレッシャーに気圧されていたエルフの少女は自分に問いかけた。
(私は仇のクレイントスを滅ぼすために霊園での特訓をこなしましたわ!! それを思い出さなくては!! こんな程度の不死者に負けているようでは敵討ちなんて出来っこありませんわ!! しっかりしなくては!!)
野良エルフは頭を左右に大きく揺すって恐怖を弾き飛ばした。
「オ……オ……オオオ…………ゴバァッ!!」
バグバガラーはいきなり淡い紫色の火炎を吐き出してきた。
「あっつ!!」
ノワレは大きく後ろに飛び退いた。
「キシシシシシ……。エルフって元は植物なんでしょ? そりゃ炎には弱いわけだよね。別に対戦相手を嬲るシュミはないんだけど、こっちもそれなりに愛しい骸を傷つけられてるからね。ジワジワ追い込ませてもらおうかな。おっと、これは慢心じゃないからね……キシシシシシ。あと、強い不死者は炎に耐性があるって覚えときなよ」
バァン!!
化物はエルフ少女をターゲットにして右腕を激しく地面に叩きつけてきた。
「ふっ!!」
横っ飛びでそれを回避した直後、骨の悪魔は体を回転させてムチのようにしなる尻尾でノワレの脇腹を思いっきり叩きつけた。
「ごほおっ!!」
そのまま彼女は吹っ飛んで大きな墓標に衝突した。
「キシシシシ!!!! どう? 仕込み尻尾の一撃は? 尻尾なんて無かった。そう思ったんじゃない?」
誰もがノワレのKOを確信したが、少女はガッツで立ち上がった。
「あーーーーーーーーっっとぉ!!!! ノワレ選手!! こらえました!! よく中等部の一撃をこらえた~~~!!!!! まだ終わらない!! エルフの姫君、まだ終わらない!!」
彼女は打たれた部位を押さえながら立ち上がった。
口からは浅葱色の体液が流れ出ている。
「う~ん。ステージが夜だから血の色がわからないねぇ。エルフの血……っていうか体液はライトグリーンだって聞いたから見てみたいと思ってたんだけど……ザンネン」
ノワレは痛みを押し殺した。もはや不死者に対する執念でしか無い。
背中から大弓を取り出して、矢筒に手をやった。
「おー。不死者に効果抜群の銀の矢だね~~~。結構、徹底して対策を練ってきているねぇ。関心関心。……っていうか、キミからは霊園の匂いがするよ。慈骸のオーザやカラグサ先生と色々勉強したね? ならばボクが手の内を隠すのはあまり意味がないね。だって、研究されつくされているのだもの。さぁ、言ってごらん。その矢をどうするんだい?」
メーレフは何がおかしいのかケタケタ笑いだした。
エルフの弓使いは銀の矢を一本、恐ろしい速さで打ち出した。
カチンッ!!
バグバガラーにその一矢は弾かれてしまった。
「ゾンビやスケルトン等が合体する時はその拠り所となる核が必ずありますわ。ですから、そういった連中を滅ぼすには核を破壊すること。違って?」
不健康そうな男子生徒はうんうんと首を振った。
「よくわかってるじゃない。でもさ、知ってるだけじゃダメなんだよね。キミにこの子の核が突けるかい? 無理だってわかってるんだろう?」
それからの試合運びは本当に酷いもので、一方的にノワレが炎で炙られたり、強く殴打されたりする痛々しいものとなった。
時々、彼女が反撃して銀の矢を撃つも、攻撃は弾かれてしまうし核の場所は全くわからなかった。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「キミはよく戦った。そろそろ終わりにしよう。本気で闘ったのによく耐えたよ」
バグバガラーはニュッっと生えた大きな牙でノワレをしゃくりあげた。
誰もが決着を確信したその時だった。
弓使いは時間の流れがゆっくりになったように感じていた。
驚くメーレフの顔がハッキリ見える。
「エルヴン・ミーティアー!! 箒星之流星群!!」
ノワレ自身は空中で弓を連射しているだけなのだが、相手からしたらこれがとんでもなかった。
「いきなり身体能力が上がったのか? なんて連射速度だ。 おまけに威力も上がってるし、貫通属性もある。 動きも追えない。加速系の魔術か? バグバガラー!! ボクをかばうんだ!!」
滞空している間、時間が無限にあるように感じる。
「お返しですわ!! てやてやてやてやぁっ!!」
無数の銀の矢の雨は骨の悪魔を貫通した。
バグバガラーは核を突かれて一気に骨くずと化した。
残りの弓矢は全部メーレフの周辺にびっしりと刺さっていた。
「ま、まいった……ぼ、ボクはもうこれ以上、喚べないよ」
カンカンカン!!!!!!!
(凄まじい性能の魔術ですが……相当ダメージを受けていて、かつ空中に居ないと使えないのが……欠点ですわね……。樹上戦の得意なエルフらしい魔術だこと……)
勝利のゴングを聞いた直後、弓使いは突っ伏すように倒れ込んだ。
司会のドガは汗びっしりだった。
「やばい、やばいぞこれは!! ナッガンクラスの勝率高し!! この調子じゃオッズも3倍切るかもしれないぞーーーー!!」
野次馬達はああだこうだとナッガンクラスの噂でもちきりになった。




