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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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ラーシェの親友VS担当生徒

「えーっと。次の実況&司会はコロシアム・レディのシュテナが担当いたします。みなさんお手柔らかに……」


会場は全くお手柔らかではなかった。


「で、ですね。次のカードはメリッニ選手VSイクセント選手です。えーっと……今回のオッズは新入生が勝てば7.3倍ですね。まぁ並の倍率と言えるのではないでしょうか。舞台は草原です。割とプレーンに近く、戦闘にさほど影響がない地形と言えるでしょう」


ナッガンクラスの客席で観戦していたラーシェは思わず立ち上がった。


「は!? メリッニとイクセント君が当たるの!? ウソでしょ!?」


突然立ち上がったセミメンターに驚いて百虎丸びゃっこまるが声をかけた。


「お知り合いでござるか?」


ウサミミの亜人の方を振り向いて彼女は説明した。


「そう。皆にも言っとくけど、メリッニは私のサブクラス……グリモアルファイタークラスの同じチームなの。付き合いも深いし、親友なんだけど……。あぁ!! でもイクセント君も応援したいし、どうすればいいのよぉ!!」


ラーシェはワシャワシャと頭をかき乱した。


美しい金髪のポニーテールが台無しである。


急いでアシェリィとノワレがクラスメイトの集まる観客席に合流した。


「あれ、なんかラーシェ先輩、あわててない?」


クラティスが腕を組みながら話の経緯いきさつを教えてくれた。


「ラーシェ先輩の親友が次の試合に出るんだってさ。で、イクセントも出るから板挟いたばさみになってるってワケ」


そうこうしているうちに2人が入場してきた。


激しい喧騒けんそうの中に包まれていたが、イクセントはひどく落ち着いていた。


(なんだこの不思議な感覚は……。今までとは何かが違う気がする。人は一度死にかけると飛躍的ひやくてきに伸びると聞いたことがあったが、それなのか……? 明鏡止水めいきょうしすいといったところか……)


一方のメリッニは少年をあおっていた。


「ヘイ、少年!! 私、手加減って言葉を知らないから。痛くて苦しくなったら早くギブアップすること。いいね? 大怪我おおけが負われても後味悪いんでね!!」


彼女はトントンと独特のステップを踏み始めて構えた。


「お~っと、メリッニ選手、随分ずいぶんと挑発的ですね~。自信の現れでしょうか!! それじゃ、いきま~す。勝つのはどっちかな?」


シュテナは熱血系のドガに対しておっとりとして落ち着いた実況をするアナウンサーだった。


カンカンカン!!!!!!!


戦いの火蓋ひぶたを切って落とす合図あいずが鳴り響いた。


「まずは軽くご挨拶あいさつを!! 格闘の基礎!! パンチ・パンチ・ソバットォ!!」


対するイクセントは一発目のパンチを左ステップで、二発目を後方ステップで、大ぶりなソバットを二連ステップで回避しきった。


まるでウサギが跳ねるように華麗かれいにピョンピョンとステップをむ。


もうそれだけで闘技場コロシアムは爆発しそうだった。


(これは……二重ステップ回避が出来るようになってる!! これなら多少、相手のリーチが長くても避けることが出来るッ!!)


「あ~……メリッニ選手、このコンボは決して慢心まんしんではないですね。にもかかわらず回避されてしまった~~~」


単純なメリッニは攻撃がかわされた事にイラッっとしていた。


「こんのっ……新入生のクセして生意気な……でやぁ!!」


今度は突進の勢いを加えてのストレートパンチだ。


とてもではないが常人が見切れるスピードではない。


イクセントは反射神経はんしゃしんけいの限界を超えてひらりとそれを避けた。


だが、相手も相手ですれ違いざまに回しりにモーションを変えてきた。


「へへ~ん!! フェイントもらい~~~!!! 首刈りハイキック!!」


さすがの上級生だけあって二段ステップが間に合わない。


少年はかろうじて抜刀ばっとうし、剣で足蹴あしげりガードした。


だが、剣はその反動で弾き飛ばされて草むらの中にガサガサと音を立てて隠れてしまった。


司会&実況のシュテナは落ち着いたトーンのまま続けた。


「これは~。イクセント選手、剣を手放してしまいました。剣術が使えなくなってしまいました~~~」


上級生はニタリと笑って少年を指さした。


「ふふん♪ グリモアルフェンサーなのに剣がなきゃね~。お気の毒ゥ~~~」


剣を失った魔法剣士はうつむいた。


「……え……の……」


「ん?」


中等部ミドルの少女は首をかしげた。


炎獄えんごく煮底しゃてい!! マントリアス・ボトミィ・マントリア!!」


イクセントがそう唱えると試合会場全体の地面から超高熱のマグマがせり上がってきた。


「あっち!!」


思わずたまらなくなってメリッニはジャンプして高く飛び上がった。


草原の舞台は一面の焼け野原の灼熱しゃくねつの海へと変貌へんぼうした。


「誰が剣がないと戦えないって言った? むしろ剣を持たせておいたほうが苦しまずに済んだかもな……」


ジリジリせり上がるマグマと熱波にメリッニの呼吸は荒くなっていた。


「くっ!! コイツ、出来る!!」


少年の方はマグマの中にいてもダメージが無いようで平然としていた。


一方のメリッニは熱であぶられてどんどんイライラが溜まっていく。


「クソッ!! 新入生相手にこんな奥の手を使うハメになるなんて!! アンタが悪いんだからね!! シャドウ・ハンズ!!」


すると突然、何者かの手がイクセントのえりをがっちりつかんだ。


魔術障壁まじゅつしょうへきにブチ当たって気絶しちゃえ!!」


半端ない力で後方へ引っ張られ、マグマの外に引きずり出されてしまった。

「出ました~~~。メリッニ選手のシャドウ・ハンズ~~~。対策を練らなければ回避することはまず不可能~~~。メリッニ選手、本気で落とす気ですぅ~~~」


そのまま物凄い勢いでイクセントは障壁しょうへきめがけて投げつけられた。


「なんのっ!!」


投げられた方は魔術で反射神経はんしゃしんけいを強化して、宙返ちゅうがえりして壁を蹴った。


「今度はこっちの……ぐぅ!?」


少年はまたもや空中で何者かにガッチリと首筋をつかまれた。


どう考えてもメリッニの魔術なのだが、相手とはかなり距離が離れている。


「くっ!! 遠隔系えんかくけいの魔術か!! それにしても攻撃が見えない!! このまま何もせずにいれば負ける!!」


そうこうしていると首筋がギリギリと締め付けられ始めた。


観客席のソールルはやれやれとばかりにつぶやいた。


「あ~あ。大人げないな~。やっぱ無理だって。だってメリッニのシャドウ・ハンズって基本的には見えないじゃん? おまけに遠距離も射程に入るし。そんでもって投げ技とか締めっしょ? タネがわからなきゃ中等部ミドルでもなかなか勝てないって。ムリムリ」


イクセントはもがいたがビクともしない。


このままでは間もなく絞め落とされてしまうだろう。


だが、彼は冷静沈着れいせいちんちゃくだった。


大きく息を吸い込んで気道を確保して叫ぶように唱えた。


呪氷じゅひょう伝身でんしん!! アイシクル・トランスミショナンス!!」


その直後、絶好のチャンスだったのになぜだか上級生は締めるのを止めてバックステップして退いた。


「くっ!! ガキんちょのクセしてなんてプレッシャー、そしてまされた殺気!!」


素早く着地したイクセントはメリッニをにらみつけた。


(やっぱりな。アイツのシャドウ・ハンズは一見すると飛び道具だが、そうじゃない。本体とつながってるんだ。だからあのまま締め続けていればこの身体を伝わる氷結呪文ひょうけつじゅもんをモロに喰らっていたはず)


「おっと? メリッニ選手、思わず引きました~~~。今の呪文のキレは半端ないですね~~~。バックステップで正解でしょう。避けなかったらカチンコチンでしたね」


高くジャンプしたままのメリッニは落ちながら怒りを爆発させた。


「ええい!! しゃらくさい!! そんなマグマ、アンタごと全部吹き飛ばしてやんよ!!」


ラーシェとソールルは2人揃そろってひたいに手を当てた。


「あちゃ~……メリッニ、キレちゃったね……」

「何を今更……。いつものことじゃんよ……」


2人はあきれるようにして観戦を再開した。


「せやああああぁぁぁ!!!! パニッシュメント・スタンプッ!!」


彼女は急降下すると両手を蝶々(ちょうちょう)のように開いて掌底しょうていをマグマ向けて撃ち込んだ。


その結果、灼熱の沼は大きくえぐれてクレーターのようになってすっかり鎮火ちんかした。


あまりの衝撃にグラグラと戦いの舞台が揺れる。


ブチ切た末の大きな挙動だったのでうまい具合にイクセントはジャンプして直撃を回避した。


「ハァ……ハァ……コケにして……許さない……許さない!!」


彼女は再びシャドウ・ハンズで地についたの少年を拘束こうそくしようとしてきた。


この魔術はご丁寧に回避呪文対策がなされているらしく、イクセントの超人的な回避魔術は通用しなかった。


「今度こそソッコー締め落とす!!」


見えない二本の腕が音もなく迫ってくる。


だが、五感に意識を集中させた少年は勝機を見出した。


(コイツ、さっき掌底しょうていでマグマを撃ち抜いた時、手がかすかにげたんだ!! だからそのススと匂いに集中すれば!! うまく痕跡こんせきを消したつもりなんだろうが、甘い!!)


イクセントはその場で急いで念じ、自分の回避呪文を再構築さいこうちくし始めた。


本来、じっくり長いこと時間をかけないと出来ないものを彼は数十秒でやってのけたのだ。


「ま、慣れた呪文だったからこんなもんか……見切った!!」


かすかな手掛てがかりを頼りに魔術使いの少年は相手の不可視ふかしの手を見事に回避した。


「え、あ、う、ウソ!? あ、灼熱しゃくねつを撃ち抜いたあの時か!! クソッ!! クソクソッ!! こんのぉ~~~!!!!」


メリッニはますます頭に血が上がった。


「あ~~~、メリッニ選手、普段はもっとうまくやるのですが、ルーキーにコケにされたのが響いてますねぇ。一方のイクセント選手の対処法は驚愕きょうがくあたいします。ホントに新入生ですかね?」


ラーシェとソールルはそろって首を横に振った。


「今度はこっちの番だな。もう遠距離魔術は効かんぞ」


そう言いながらイクセントは地面の剣を拾い上げた。


「せえええい!!!!!」


メリッニは苦しまぎれにシャドウ・ハンズを何度も繰り返したが、全てイクセントにステップ回避されてしまった。


「お前は身体能力がかなり高そうだ。ここは確実に当てていく!! 歯を食いしばれよ!! せん疾斬風しつざんぷう!! ……からの乱嵐らんらん荒風こうふう!! パニック・ニック・ソニック・ストリーマー!!!!!!!」


剣技と魔術が混ざり合ってあらゆるものを切りく暴風が発生した。


だが、剣のほうは陽動ようどうで呪文のほうが凶悪な威力を発揮していた。


鍛え抜かれているはずのメリッニの肉がスパスパと切れ、深いキズを負わせていく。


「あっ、ぐっ!! 痛ッ!! ぐぐぐっ!! うああっ!!」


すっかり魔術につかまった女性は身動きが取れなくなっていた。


「これが……死にかけから復帰して身についた力なのか……。アンタにうらみはないがこれでトドメだ!! 旋王せんおう暴渦ぼうか!! キノーブ・サイクロネード・タイランティア!!!!」


切り裂き魔、ジャック・ザ・リッパーに捕らえられたようになったメリッニはそのまま激しいかまいたちの竜巻で上空へと巻き上げられていった。


「ああああああああ!!! きゃあああああああああああああああーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


彼女はみるみるズタボロになっていく。そして重症を負って見るにえない姿になった。


すぐさま彼女は医務室へテレポートさせられ、試合結果はKO判定で終了した。


洗礼に圧倒的な強さで勝利したイクセントは剣をヒュンと素振るとさやに収めた。


カチンッ……


「……こんな戦い……何が面白いっていうんだ……」


彼はどこかうれいの表情を浮かべ、無言のまま会場を後にした。


誰もまさかこんな予想外の逆転劇になるとは思わなかった。


しかもここまで情け容赦無ようしゃない戦いになり、皆が度肝を抜かれたのだった。


これ以降、イクセントは闘技場で研究生エルダークラスのファイターと認識されることとなった。    


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