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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter6:魔術謳歌
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信頼がヘタレ弱虫を育てた

教授席から試合を見ていたフォリオの担任、ナッガンは驚いていた。


「今までかたくなに戦うことを避けていたあのフォリオが? しかも吃音きつおんも軽くなっている。今までのしゃべり方は自分に自信がなかったからとでもいうのか? だとすればこれは相当の原石だぞ。クラスメイト達、そしてフライトクラブの連中に信頼されることで自分の存在価値を認識することが出来たのかもしれん」


教師はたまらないとばかりにニヤリと笑みを浮かべた。


「ただ、それでも相手はかなり実力差のある上級生。フォリオ、時間がないぞ。お前の勇気を見せてみろ」


コッテスの紺色の座布団は5枚に増えていた。


「よくも体当たりだのボールだの投げてくれたのお。それなりに痛かったんじゃぞ。お返しじゃ!!」


すると老人の積んである座布団の下4枚がブーメランのようにフォリオを襲った。


「よ、4枚あるけど遅いッ!! このくらい、飛行生物チューバーに比べたら!!」


座布団は軽く弾幕のようになってホウキの少年を攻撃し始めたが見事に彼はひらりひらりとそれをかわした。


まるで蝶々(ちょうちょう)が舞うような動きだ。


司会のドガは叫んだ。


「あああああああああああーーーーーーーっとぉ!!!! ここまですばしっこいとは予想外だーーーーー!!!! フォリオ選手、危なげなく回避しています!! こりゃ賭けた人、もうけもんかもよ!?」


フライトクラブの部長はうなづいていた。


「あのくらい避けて当然。俺たちが日夜どんな努力をしてるか思い知れ!!」


ナッガンクラスのメンバーたちもエキサイトしまくった。


1枚の座布団に座って状況を静観していたコッテスはポツリとつぶやいた。


「アジの”味”……」


すぐに正座する彼の下の座布団が1枚増えた。


フォリオは攻撃を回避しつつもしっかりそれを確認していた。


「ま、まずい!! 6枚目か!! 避けるのはなんとかなるけど、攻撃が出来ない!! 威力は低いけどドッヂボールしか!!」


少年が念じると暗闇の底からボールが反応して手元に戻ってきた。


「で、でやぁっ!!」


座布団をすり抜けながらボールを全力投球する。


「何!? 早いッ!! おぶぇ!!」


弾はコッテスの頭にクリーンヒットした。


彼は思いっきりのぞけって吹っ飛んだが、みとどまった。


「痛い……確かに痛いが残念ながらお主の弾は軽い。軽すぎる。ライネン・ドッドボールのプロなら本気を出せばワシの頭くらい端微塵ぱみじんに出来るはず!! お主は確かにスピード、反射神経においてひいでたものを感じるのは認める。じゃがな、非力なんじゃよ。非力、非力ッ!! それではも殺せんぞぉ!!」


「ぐっ、ぐ!!」


フォリオは呼び寄せて来たボールを器用にタッチした。


「ど、どうすれば……ど、どうすれば相手にダメージを与えられるんだ!!」


ホウキ乘りは少しずつ消耗しょうもうし始めていた。


そのすききを突いて老人はまたダジャレを言った。


「虫を無視する」


ポポンと7枚目の座布団が出現した。


「く、くそぉっ!! いつまでも逃げてたら勝てないぞ!! で、出来ることをやるしかない!!」


フォリオはアクロバットにUターンするとコッテスめがけて猛スピードで突進していった。


「ぬおっ!! 早いのぉっ!! 防御じゃ!!」


ボギャッ!!


またもや少年は渾身こんしんの力を込めてホウキでタックルした。


のけぞったハゲ頭はコロシアムの壁に叩きつけられた。


「ごほぉ!!」


「き、効いてる!?」


壁面へきめん衝突しょうとつして彼は痛そうに顔をゆがめている。


「ねやぁっ!!」


フォリオはボールを投げつけてしつこく頭部を狙った。


「がふっ!! ごふっ!!」


闘技場は盛り上がるに上がった。


「おおおおおお!!!!!!! ラッシュ!! ラッシュラッシュ!!!! フォリオ選手、格上とは言え容赦ようしゃがありません!! コッテス選手、これはただではすまないか~~~~!?」


ボールをモロに喰らいながらもコッテスは立ち直った。


「お主……ナメてはいかんのぉ……。ワシは中等部ミドルの中でも打たれ強い方ではない。その程度の攻撃で通用すると思ったら大間違いじゃ……。さて、いくぞい」


そう言うと老人は壁からがれて前進した。


「く、くっ!! なにか、なにか手はないのか!?」


状況的にはフォリオが優勢だったが心理的に彼は追い詰められていた。


「センスの良い”扇子”」


座布団は8枚に増えた。


「くっ、くそぉ!! 攻撃が通らないことには!!」


フォリオは再び座布団を回避し始めた。


「この魔術はテン・カウンター。正直言って座布団がそろうまではすきだらけじゃし、普段のワシの戦闘能力は大した事はない。普段は味方の後ろに隠れて発動しているんじゃ。でもまぁ、初等科エレメンタリィ相手ならワシ単独でもやれるということがわかったのぉ」


少年は思いっきり腕を振り切った。


「ま、まだだ!! ま、まだ終わってない!!」


マナの大量消費で彼の体は全身ぐっしょり汗をかいていた。


ぞうが居た”ぞう”」


とうとう座布団は9枚になってしまった。


「ま、お主はひよっこなりによくやったほうじゃよ。その調子で精進しょうじんすれば良いホウキ乘りになる。じゃが、今はこれが現実じゃ。ワシはくちびるを切ったり軽いアザが出来た程度じゃ。お主は倒す気でやったのかもしれんが、それがお主の限界じゃ」


健闘けんとうたたえる対戦相手を無視してフォリオは頓狂とんきょうな声をあげた。


「えぇ!? コルトルネー、あれをやれって!? むむむむ、無理だよ!! キミが壊れちゃうじゃないか!! それだけは全く発想に無かったんだけど……。 いいいい、いいからやれって!? そ、そこまで言うなら……。これはきんじ手で練習試合で使いたくはないんだけど……」


少年は瞳を閉じて集中コンセントレートした。


するとすぐに目を開いた。


「はああああぁぁぁ!!!!」


蒼い流星のような尾を引いてフォリオは今まで以上に高速で体当たりをかました。


「シューティン・スターーーーーーーー!!!!!!!!!!!」


当然、コッテスに回避する反射神経などない。


いくさに……”いくさ”」


思いっきりぶつかられた老人は腹部を抑えて前かがみになった。


「ぐほぉ!! ……ははは。痛っつ~。気絶するかと思ったわい。じゃがな、ひよっこ!! 軽い!! 軽いぞ!! そんなもんが本気なのか!? 命を賭ける勇気がお前にはあるのか!? いや、そんなものないじゃろ!! この勝負、ワシの勝ちじゃ!!」


「な、なにが起きるんだろ!?」


コッテスの座布団がとうとう10枚揃まいそろった。


波乱はらんの大・千秋楽せんしゅうらく!!」


すると無数の座布団がどこからともなく上から降ってきた。


頭の上を埋め尽くすように降り注いでくるのでフォリオは回避できなかった。


「あたっ!! うぐっ!! げふっ!! どぎゃんっ!! ぶほっ!!」


そのまま彼は座布団にもみくちゃにされた。


全身は打撲だぼくだらけになり、やがて呼吸をふさがれるような形になった。


「ぐ、ぐっ!! ま、まだ……ま、まだ終われない!!」


なんとフォリオはガッツで座布団を捨て身で押し上げ始めた。


「おおおおおおお!!!!!! フォリオねばる!! フォリオねばる!!」


だが彼が耐えれば耐えるほど無残なまでにボコボコになっていった。


「ほっほっほ。大・千秋楽せんしゅうらくはかなり長時間降り注ぐぞい。ギブアップしないと復帰がおくれるぞい? ええ?」


打たれても打たれてもホウキはフラフラと上に上がることを諦めなかった。


「く、くそぉ……こ、ここまでか……」


ついに彼は気絶して奈落ならくの底へと落ちていった。


「うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


カンカンカン!!!!!!!


ゴングがけたたましく鳴った。


「決着!! コッテス選手VSフォリオ選手の試合はコッテス選手の勝利に終わりました!! いやー、いい試合でしたね~。フォリオ選手のシューティン・スターはコッテス選手の大・千秋楽せんしゅうらくには及びませんでした」


ドガはコッテスの魔術の解説を始めた。


「大・千秋楽せんしゅうらくはダジャレを言うと座布団が1枚加算されます。そして10枚貯まると高威力、回避の難しい座布団が上空から降り注ぐというものです。なかなかソロでは使いにくい魔術ではありますが、盾役が居れば非常に強力な攻撃手段となりえますね」


会場は彼の能力のなぞについて納得した。


「一方のフォリオ選手はホウキを操るシンプルなスピードタイプです。ライネン・ドッヂボールの弾を使っていたようですが、そこまで威力は高くなかった印象です。シューティン・スターはリミッターを解除して最高速度で突っ込む魔術のようです。これは逃げるときにも有効ですね。ただし、彼も言っていたようにホウキが壊れてしまうようです。ただいま収容された彼のホウキはボッキリ折れてしまっているとのこと」


コロシアムからは落胆らくたんの声が多く聞かれた。


「まぁ、リジャントブイルの技術力ならしばらくすれば元通りに修理することが出来るでしょう。素晴らしいポテンシャルを見せてくれたのでこれからの成長が楽しみな選手ですね」


解説を聞くか聞かずかして、アシェリィとノワレは医務室へと走った。


イクセントとガリッツは腕を組んだまま不動のまま観客席に座っていた。


「フォリオ!!」

「大丈夫ですこと!?」


2人が医務室いむしつに駆け込むと教授のDrドクター怒鳴どなりつけられた。


「馬鹿野郎!! 治療中だっつってんだよ!! 静かにしねぇならとっととせろ!!」


そう指摘されて2人は静かにフォリオのベッド脇に立って彼の具合を見た。


「だ、大丈夫。かなりあちこちやられて打撲だぼくとか内出血とかしてるけど、座布団だけに骨は折れなかったみたいだよ……。それよりコルトルネーが……コルトルネーが……」


少年が指を指した先にはちょうど半分くらいからボッキリ無残に折れたホウキが立てかけられていた。


「あ、あればおばあさんのそのまたおばあさんのおばあさんから続く……ま、魔女狩りを生き残った大事なホウキなんだ。そ、そんなものを、ぼ、僕は折ってしまった……。お、おばあさんたちに示しがつかないよ……」


しょぼくれる彼をアシェリィははげました。


「大丈夫!! 確かに折れちゃったけど、ホウキは元通り修理できるから。それよりフォリオ君、ナイスファイトだったよ!! 夏休み前とは見違えるくらいに!!」


そう聞くとフォリオはとても嬉しそうな顔をした。


「ああああああ、アシェリィ……。そそそそそ、そう言ってもらえると……。うれしいよ」


ノワレは少年の肩をバシンと叩いた。


「あだっ!!」


痛がる少年をエルフの少女もめた。


「ようやく一人前……いえ、一人前に片足つっこみましたね。このままだったら縁を切ろうと思ってましたわ」


ノワレは上から目線でそう言い放った。


「そ、そんなぁ」



そんなやりとりをしていると教授がブチキレた。


「るせぇ!! おしゃべりは外でやれ!! 何ならそこの小僧こぞうも一緒に出るか!? オォン!?」


アシェリィとノワレはあわてて部屋を飛び出した。


今日はあと何本かナッガンクラスの洗練試合が入っていたはずだ。


「次の司会&実況はわたくしシュテナが担当します。えー、では次のカードですが……イクセント選手と対戦するのは―――」


イクセントの名前が出てきて2人の間に緊張が走った。


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