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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter5:Crazy Summer Nights
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まっすぐお家に帰れるか?

アシェリィは臨時の木の家で制服を脱いで着替えるとオルバ達の居る方へと向かっていった。


いつも彼が使っている大きめな樹木をくり抜いた家に入ると予想外の人たちがいた。


「ファイセル先輩!! それにリーリンカさんも!!」


少女はにっこりと笑って2人にかけよった。


さすがに4人も居ると部屋が狭く感じるが、本来はオルバしか生活していないので仕方がない。


「…………あれ? お客さんってお二方ふたかただけですか? 誰か別のお客さんが居たとかじゃないですよね?」


(お見通しか……)

(鋭い……)

(これも幻魔げんまの力なのか……?)


咄嗟とっさに師匠はそれを否定した。


「いんや。来たのは二人だけだよ。多分、彼らが連れてきたケモノのにおいだと思う」


「う~んおかしいな、気のせいかな?」


どうしてコレジールの事を隠すのかとリーリンカは疑問に思ったが、おそらくそれがハーミット・ワイズマンのセオリーなのだろう。


それに本人も「これ以上、人間づきあいが増えるのはごめんじゃ」などと照れ隠しのような態度をとって消えていったわけだし。


ファイセルも今回初めて会ったということはきっとそのうちアシェリィにも会いに来るのだろうなというのがわかっていた。


だから釈然しゃくぜんとはしないまでもこういう師弟していのあり方なのだろうなと部外者の女性は思った。


「アシェリィ、オルバ先生から聞いたんだけど実は僕も君と似た修業をしたんだ。やってみてどうだった?」


アシェリィは腕を組んで頭を左右に振った。


「最悪でしたね。死ぬかと……っていうか何回か死んでますよホントに。でも自信はつきました。これならば自分や仲間をまもるためにやっていけると思います!!」


ファイセルは笑顔で首を縦に振った。


「うん。いいことだね。僕なんかこの修業を受けるために帰郷してる最中にヨーグの森で死にかけたからね。あんな思いをする前に本格的に特訓を受けられたのはとても幸運だとおもうよ。胸を張って二学期で活躍できるね」


「はい!!」


リーリンカも嬉しそうに瞳を閉じながら振り返った。


「いやぁ、学科が怪しくて受験勉強のために眠らない薬品で勉強するインソムニアック・メソッドをお互い飲んだ頃が懐かしいな。それが今はたくましくなって。いや、たくましいのは前からか」


水色のアザリ茶を飲んでいたオルバが吹き出した。


「ブーーーーーーーーーーッッッ!!!!! インソムニアック・メソッドってロー・アラウド・ローの甘汁でしょ!? あんな無茶で馬鹿げた事やってたの? はっはっは!!!! お笑い草だね!!」


ゲラゲラ笑う師匠にアシェリィはむくれた。


「笑い事じゃないですよ!! 必死だったんですから!!」


ひたすら笑う3人に恥ずかしくさせられて少女は赤くなった。


いい加減、気の毒になってきたのでオルバが場を締めた。


「今日は……裏亀竜の月の22日だね。予定より3日早く終わったね。セーシルにある最寄りのドラゴン・バッケージ便からだと2日でミナレートに着く。残った日数は自由に使うといいよ。個人的にはご家族と過ごされるのがいいと思う。時々、連絡を入れてるけどとても心配してるからね。それに……多分、アルマ村に行ったら驚くと思うよ」


少女は首をかしげた。


「ま、行ってみてのお楽しみだね。私とはここで一旦いったんお別れだ。間違いなく二学期は更にハードルが高くなると思う。でも私の自慢の弟子はそれくらいじゃへこたれないからね。それに実力をつけて創雲そううんいでもらわなきゃならない。ファイセルくんには雲作りの適正があまりないけど。師弟関係は続けたまま、別方向での活躍を期待しているよ。ほんじゃあ皆、お達者で!!」


おっさんはにこやかにひらひらと手を振った。


ファイセル、リーリンカ、アシェリィは深々とお辞儀じぎをして退出した。


「……ところでアシェリィ、君は残りの休暇きゅうかをどう過ごすの?」


少女は目線を軽く泳がせてから答えた。


「私は師匠せんせいの言う通り、アルマ村に帰って28日くらいまで実家でゆっくり過ごすつもりです。一週間近くありますね……」


サプレ夫妻は互いに視線を交わすと自分たちの予定を言った。


「それなら僕とリリィはシリルの実家でゆっくりすることにするよ。アシェリィの家にも興味があるなぁ。このまま一緒に行ってもいいかい?」


何気ない提案だったが、予想外の返事が帰ってきた。


「だだっ、ダメです!! ウチ、すんごいオンボロ屋で、雨漏あまもりはするし、床は抜けるしでとてもお客さんをまねける状態の家じゃないんですよ!! だから……残念ながら……」


少女はうつむいてしまった。


すぐにファイセルはフォローに回った。


「そっか。無理には行かないから大丈夫だよ。それにどんな家でも住めば都っていうしね。アシェリィの家にもいいところいっぱいあると思うよ」


都会に出てミナレートで暮らしてすっかり忘れていたが、彼女の実家は貧しいのだ。


それがコンプレックスをあぶっている面はあったし、彼女が倹約家けんやくかな理由でもあった。


ぼんやりそんな事を考えているとリーリンカがニヤリと笑った。


「ふふふ……だけどな、ソレに関しては思ったより驚くと思うぞ。いい意味でな」


いい意味でというのが何を言わんとしているかよくわからなかったが、なにかあるのだろうか。


「時間に余裕もありますし、先輩たちのところにも遊びに行きますね。ちょっとアンフェアだけど……」


オンボロ屋の娘は上目遣づかいで様子をうかがった。


「OK。ウチでよければ。妹のミルミテールが居ないのが残念だけど。アシェリィに会いたがっていたんだよ。王都のアイロネア学院の政治学科で勉強してるんだ」


「アッ!! アイロネア!? しかも、せっ!! 政治学科!!」


アシェリィは思わず変な声が出た。


「何驚いてるのさ。知のアイロネア、業のバンダガ、そして武のリジャントブイル。ライネンテ国内三大一流学院じゃないか。アシェリィだってスゴイんだよ? だからそんなに構えることはないって。彼女は自分で冒険するのはニガテだけど、冒険譚ぼうけんたん自体は好きでね。うちの本棚にも結構、その手の本があるよ」


それは初耳だったのでアシェリィは目を輝かせた。


「ぜひ、ミルミテールさんと会ってみたいです!! 予定が会えば!!」


ファイセルは満足げに首を縦に振った。


「アイロネアはほぼ王都でカリキュラムが完結してるんだけど、リジャントブイルはあちこち旅するからね。王都に行くことがあればまたその話はしよう。じゃあ、アシェリィ。いい実家ライフを。休みが終わったら僕の家で合流してそのままミナレートへ帰るよ」


ガサガサガサ!!!!!


いきなり草むらが揺れて得体えたいのしれない生物が飛び出してきた。


オレンジ色で、頭からは葉っぱが生えていて、2m半ばくらいある。しかも2頭もそろってやってきた。


アシェリィは瞬時にサモナーズ・ブックに手をかけた。


「待て、待て待て!!」


リーリンカが手を広げて敵意をさえぎった。


「こいつら、私達の……ええと……私達の……ぺ、ペットなんだ……」


ファイセルは腹を抱えて笑っている。


「それ以外にどう説明するんだ!! こいつらはパルモアと言ってな。大人しく人懐ひとなつこい性格で、騎乗きじょう出来る。中部で産まれた新種生物だ」


それを聞くと召喚術師サモナーは警戒を解いた。


「ほえ~」


全く物怖ものおじせずにアシェリィはパルモアに近づいてペタペタ触りだした。


「な、なんて度胸なんだ……」


青髪の女性は口をポカーンと開けた。


「そりゃ、冒険者イクスプローラだからね。これくらいでビビってちゃやってらんないんでしょ」


彼女は奇妙な生物をで始めた。気持ちよさそうな場所と嫌がる場所を探っていく。


少しするとパルモアがとろ~んとしてきた。


「よしっ!! せいやっ!!」


転婆娘てんばむすめ抜群ばつぐん運動神経うんどうしんけいでなんと騎乗きじょう生物に飛び乗った。


応急の手綱たずなを握り、くらまたがった。


「どうどう!! よ~しよしよし!!」


彼女はピタピタとちょいキモな乗り物の背をでた。


リーリンカは称賛しょうさんを通り越してあきれた。


「ハァ……アシェリィ、お前ってやつは……」


「ほっっと!!」


何食わぬ顔をして彼女は動物から降りた。


「シリルに連れてってもいいんだけど、やっぱまだ新種だから悪目立ちしちゃうんだよ。ドラゴン・バッケージ便なんてもってのほかだよ。だからこの子らはとりあえず師匠せんせいが面倒を見てくれることになってるよ。ま、アシェリィはマナボードがあるからこの子らに頼る必要はないよね」


アシェリィは背負っていたボロい板をコンコンと叩いた。


「ええ。それがいいと思います」


3人はポカプエルの丘を降りてシリルとアルマ村の分岐点ぶんきてんまで降りてきていた。


「じゃあね。アシェリィ。まぁいつでも会えるんだけど」


「私も挨拶あいさつしておく。ご両親によろしくな」


「はい!! 先輩のお家、楽しみにしてます」


こうして3人は別々の方向へと分かれて進みだした。


ボロ板を地べたに下ろして上に乗る。


実のところ、アシェリィは今回、帰省して違和感を感じていた。


アシェリィも愛用しているライラマのローブを着てマナボードに乗っている人がそこらにあふれているのである。


老若男女ろうにゃくなんにょがその姿で街中や街道を闊歩かっぽするのだ。


何がどうしてそうなったのか、アシェリィに思い当たりがないわけではない。


どうしてこうもここらへんの人はミーハーなのだろうとモノマネされている少女は顔を赤くした。


だが、同時にその気持が痛いほどわかる面もある。


雲の賢人探けんじんさがしに必死になっている子どもたちはそれにすがっていると言っても過言ではない。


彼らは彼らなりに死に物狂いでヒントを求めているのである。


その割には意外と弟子の顔の認知度は高くなく、わざわざ顔を隠す必要はなかったりする。


「ま、しょうがないっか……」


アシェリィが一歩をり出そうとした時だった。何かが背後から迫ってくるのである。


彼女がハッっと身構えると脇を抜けて、それは地面を思いっきりこすった。


「ズザザザザザザァァァァァァーーーーーーーー!!!!!!」


激しい土煙が上がる。


「何!?」


帰郷に心緩こころゆるんでいた少女に緊張感が走った。


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