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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter5:Crazy Summer Nights
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ハーミット・ワイズマンのセオリー

ファイセル達は新種生物”パルモアティー・パルモア”の飼いならし(テイミング)に成功した。


その後、ヨーグの森で住人たちと共に更なる調査、検証を繰り返して騎乗きじょうできる個体を増やしていった。


人懐っこく、危害を加える生物でもなく勝手にそこらへんに沸く。


これなら本当に頼国ライネンテに交通革命が起きそうだった。


一行はパルモアに乗ってポカプエル湖に向けて南下していた。


ヨーグの森からシリルの街までは4~5日はかかるが、この奇っ怪な生物で走ると3日程度で到着しそうだった。


(全く……男の人の体に入った上におしっこで出てくるとかお嫁にいけねぇし……初めてだったんに……)


リーネは過ぎたことをまだうだうだ言っていた。


結局、シャンテの体内に入って血を循環じゅんかんさせていた彼女は尿検査にょうけんさという口実でファイセルの元へと戻ってこれた。


一度、サランサに切られたホムンクルスのびんの紐は新しいものに変わっていた。


(まぁまぁ……人命には変えられないし、無茶ぶりながらよくやってくれたよ。ありがとうね)


コギャル妖精はツンツンとした態度で返した。


(ふ、フン!! おだてても何も出ないからな!!)


そうこうしてるうちにシリルの街の門が見えてきた。


今までの村や町はこっそり迂回して未知の生物と住民の接触を避けてきた。


だが、シリルの規模の街となるとそうはいかない。


回り込もうと思うと無駄に時間がかかりすぎるのだ。


6人がパルモアにまたがって考え込んでいるとシャンテが手を上げた。


「この子達に乗って街に入ればいたずらに不安や混乱をまねきかねません。でも、僕が名乗りを上げて街を行進すれば大きなトラブルは回避できるはずです」


それを聞いたサランサは不満げに口答えした。


「なりません!! 巫子みこともあろうことがそんな危険を冒すようなマネは控えるべきです!! この連中を先行させて、好奇の目にさらされている間にシャンテ様、マルシェル、そして私は街を抜けるのです!!」


すぐにシャンテの顔が厳しくなった。


「……サランサ。僕が何を言いたいか、わかりますよね?」


あまりの威圧感に彼女は一歩、二歩とあとずさった。


「あ……う……くっ!!」


サランサはそのままだまり込んでしまった。


シャンテはいつもの優しい顔色に戻るとファイセル達に声をかけた。


「せっかくですし、皆さんも僕たちに同行してください。どうせ姿を表すならコソコソする必要もないですしね。パルモアのお披露目ひろめといきましょうか」


急仕立きゅうじたてで作られたくら手綱たづなを使って巫子は恐れること無く、シリルの街の門をくぐって中に入った。


案の定、次々とオレンジのギョロ目生物に人がむらがり始めた。


「シャンテ様、広場はこちらです」


ファイセルの誘導ゆうどうに従って不思議な6人と6匹は街一番の広場へとやってきた。


パルモアの背丈が2mほどあるので街の人を見下ろす形となった。


集まってくる住人を見てファイセルは驚いた。


「な……なんだこれ。子どもたちがみんなライラマのローブにマナボードに乗ってるぞ……。そうか!! アシェリィの話がウワサで広まって、みんなこの格好かっこうでオルバ探しをしているんだ!! 真似事まねごとをすれば会えると信じて……」


リーリンカは騎乗しながら器用にバランスをとって肩をすくめた。


「形から入るというのはあながち悪いわけではないが、そう簡単に会えれば苦労しないというのもまた事実だな……」


巫子みこの少年はクリーチャに乗ったまま堂々と胸を張って新種の生物を紹介した。


「皆さんこんにちは、僕はルーンティア教会の雨乞あまごいの巫子みこシャンテです。今回は皆さんに新種の動物を紹介に来ました。僕たちの乗っているこのオレンジの生物の名は”パルモアティ・パルモア”。通称パルモアです」


彼らは目をギョロギョロして舌なめずりしている。


かなり不気味な見た目に街の人々は距離をあけた。


「た、たしかにちょっと気持ち悪い顔をしていますが、愛嬌あいきょうはあると思いますよ。何より人懐ひとなつっこく、そして足がとても速いのです。ウィールネールより速いでしょう。おまけに小回りが効く上に、エサも樹の実や葉っぱで問題ありません。私達は中部から来ましたが、ここまでこれといった不具合ふぐあいはありませんでした」


巫子みこの着た高位のローブと2人の護衛が彼が本物であることを物語っていた。


そんな彼らがウソをつく必要がないと皆が判断したのか、住人はパルモアに近づいた。


「ああっ、皆さん押さないで。少しずつお願いします!!」


物珍しさに混乱におちいりそうになったときだった。


シリルの町長が現れたのである。


「ほっほ。珍しいのはわかるが、巫子みこ様に迷惑をかけてはならんぞい。観察したい者は列を作って並ぶのじゃ。それに手荒な扱いも厳禁げんきんじゃぞ。優しく触って、嫌がる事はするでない。ええの?」


彼の一声に野次馬達は大人しく従った。


そして町長はこちらへやってきてシャンテと会話した後、ファイセルに声をかけた。


「ほっほ。ファイセル、元気でやっとるようじゃの。母さん……ラーンナのところへは寄っていかんのか?」


にっこりと笑みを浮かべて彼は答えた。


「ええ。リリィを連れていきますよ。というわけなんだ。シャンテ様、僕は自宅に顔をだすことにしますよ。厄介事やっかいごとをおしつけるみたいになってしまいますが、ここをお願いします」


シャンテは嫌味一つない様子で答えた。


「ええ、ゆっくりしてきてください。僕はパルモアの認知に務めねばなりません。突如とつじょ、街なかに未知の生物が現れたら何かと問題になりますからね。もしかして新たな責務せきむになるかもしれませんしね」


彼もまたにっこりと笑った。


お供の2人は街人を仕切ったり、質問を答えたりしている。


ジルコーレ老はいまいちパッっとしない顔色だ。


「わし、あんまり人混みが好きでなくての。巫子みこのおぼっちゃんには悪いがこの場は抜けさせてもらうわい。ファイセルくん、悪いが酒場はどっちじゃ?」


「あっちです」


そう彼が指をさすと老人は背中越しにひらひらと手を降って街の雑踏ざっとうに消えていった。


ファイセルとリーリンカも人並みをかきわけてパルモアから離れた。


そのまままっすぐ少年の実家についた。


「母さんただいま」

「お義母かあさん、お邪魔します」


リーリンカは礼儀正れいぎただしくお辞儀じぎした。


ファイセルの母は嬉しそうに玄関へとやってきた。


「おかえり。あら、リリィちゃん。いつまでもそんなかしこまった態度じゃなくていいのよ? 家族なんだもの。それはそうと、メガネ外したのね。そっちのほうが可愛いと私は思うわ」


そうめられた少女は恥ずかしげに視線をそらした。


茶菓子のビルナッツと水色のアザリ茶を囲んで雑談が始まった。


「そういえば母さん、ミルミテールは元気でやってるかい? なかなか手紙を出す暇がなくってさ。あと、お父さんからは何かあった?」


ラーンナは口角を上げながら首を縦に振った。


「ええ。王都ライネンテのアイロネア学院の政治学科でよくやってるみたいよ。しばしば弱音を送ってくるから周りの出来がかなりいいみたいだけど。お父さんからの連絡はないわ。……無いけれど、私達の生活費やあなた達の学費は全部お父さんが振り込んでいてくれてるのよ。まったくあの人ったら……」


リーリンカは不思議に思っていた。


自分の父親がそんなのだったらひどく嫌うはずである。


だが、サプレ親子からは彼の父親に関する悪口を聞いたことがない。


「いや~、ウチのお父さん、冒険バカでアシェリィみたいな性格しててさ~」と笑って済ますだけなのである。


幼い頃から父親が留守だったとすれば彼にとって父親がそういった存在でも何ら違和感を感じないものなのかもと妻は思った。


その後、近況報告などを含め母と夫妻はおちついて楽しい会話をすることが出来た。


「あなたたち、そろそろCまで行ったの? 若いんだから冒険してもいいのよ?」


ファイセルは口に含んでいたお茶を吹き出した。


「ばっか!! 母さん!! 茶化すなよ!! AとかBとか古いって!! それに、僕らはリジャントブイル卒業まではきよいお付き合いをするって決めたんだから!!」


そう言い返すとなんだか不満げに母は答えた。


「ふ~ん……。別にいいけどね。でも、不純なものじゃなく、愛を伝える大切な手段だと思うのだけれど。まぁ焦ることはないわね。孫の顔を期待しておくわ」


2人は恥ずかしさのあまり目線をそらしてしまった、


20歳近くもなってウブな2人にラーンナはやきもきした様子を隠せなかった。


だが、すぐに彼女は空気をもとに戻して和気あいあいと雑談を続けた。


「アシェリィちゃんとうちのミルミテール、本人たちも会ってみたいっていうんだけどなかなか予定が合わないのよね。アシェリィちゃんは修行やC-POS、うちのは受験勉強だったりするし。長期休暇の期間も違うしね。互いに興味はあるみたいなんだけどなかなかね~。歳が近いから気が合うんじゃないかと思うんだけど」


リーリンカは2人の年齢差について聞いてみた。


「お2人はいくつ違うんですか?」


ラーンナはほほに手を当てて考え込んだ。


「確か……うちのが1歳年上じゃなかったかしら」


そう母が言い終えたときだった。なんだかやけに深刻な顔をして旦那だんなの方が答えた。


「アシェリィならきっと今、帰ってきてると思うんだけどな」


「え?」

「え?」


女性陣2人が疑問符ぎもんふを浮かべる。


「お前……だってアシェリィはミナレートに残って夏休みのアーバンライフを満喫まんきつするって言ってついてこなかったじゃないか」


青年は両肘をテーブルについて眼の前で組んでひたいを預けた。


「いや、僕が1学期から2学期に移る前の夏休み……それはそれは激しい修行があったんだ。自分をまもり、まもるものをまもるための厳しい修行が。だからきっとアシェリィは今頃、ポカプエル湖畔こはんでみっちり修行してると思う。たとえ家に妹が居ても会うことは出来ないだろうね……」


ファイセルはゆっくりと席を立ち上がった。


「そういうわけで母さん、僕たちはアシェリィを迎えに行ってくるよ」


リーリンカも彼のそでを軽く引き、立ち上がった。


「そうかい。とにかく元気でおやり。リリィを大切にするんだよ」


漆黒しっこくのエンゲージチョーカーを付けた青年はにっこりと笑いながらうなづいた。


その嫁もなんだか嬉しそうにチョーカーを指で触った。


ファイセルの実家から出て広場に行くと人だかりはだいぶ散り散りになっていた。


向かい側からジルコーレがふらふらとやってくる。


さすがに飲酒はしていないようだが……。


「シャンテ様。おまたせしました。旅の目的である創雲そううんのオルバが居らっしゃるとされるポカプエル湖にいかれるんですよね?」


深緑の学院制服を着た青年がたずねると少年は笑顔で答えた。


「ええ。フィールドワークも目的ではありましたが、やはり今度こそオルバ様にお会いするという決意でやってきていますから」


チャプチャプと液体を揺らしながらリーネがささやきかけてきた。


(おいどーすんだよ。ファイセルも、クソオヤジもシャンテを会わせる気、微塵みじんもねーだろ。それは流石さすがに誠実さにかけるんじゃねーか?)


コギャル妖精ようせいにしては至って真面目な主張である。


だが、腰から下げたホムンクルスのびんに手をやって彼は答えた。


(ふふっ。そこは隠者の賢人ハーミット・ワイズマンのセオリーだよ)


ファイセルとリーリンカからは容器の中で腕を組むフェアリーが見えた。


(お前ら、それ都合の悪い時の言い訳だろ……)


ため息をつく彼女に思わずサプレ夫妻は笑った。


(さて、じゃあアシェリィを迎えに行こうか)


リーネは思わず振り向いた。


(なんだ、知ってたのか。アイツが修行を受けに一足先に帰郷したこと。そうだな。早くアイツを迎えにいってやろう。きっとボコボコにされてるだろうけどな)


妻の方は怪訝けげんな顔をした。


(ボコボコ……? 穏やかじゃないな。一体どんな修行をしてるんだ?)


赤のリボンタイにYシャツ、ブレザー、紺のプリーツスカートをはいた異世界じみた妖精はニッっと笑った。


(ま、そりゃ行ってみてのお楽しみだよ)


「では参りましょうか!! 今度こそはオルバ殿どのにクレティア功労会こうろうかいに出席していただきます!!」


教会の3人組は気合を入れていた。


「ふむ。わしもあのあたりに用事があっての。ここまで来た縁じゃ。ご一緒させてもらうぞ」


こうして6人は来たときのようにパルモアに乘り、シリルの街を抜けてポカプエル湖を目指して南下した。       


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