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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter5:Crazy Summer Nights
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ファッション・お菓子は必修科目?

フレリヤは下着のフィッティングが終わると今度は服の試着を始めていた。


「お客様にはこちらなどお似合いかと」


亜人の少女はピンクのフリフリのワンピースを身にまとった。


「お、おお!! ……おお!!」


こんな服を着たことがないので自分でも思わず感嘆かんたんの声がれる。


すそをつかんでひらりと振るとそこらの町娘と変わらない。


「おお!!」


フレリヤはオシャレという未知の感覚に感動した。


「ふふふお客様、どうやらスカートがお気に入りのようですね。こちらはいかがでしょう?」


今度は真っ赤なミニスカートだ。


「こっ、これは……確かに尻尾は過ごしやすいけど、おまたがスースーするっていうか……。ちょ、ちょっと恥ずかしくないかな?」


女性店員はくるんと回る彼女にスマイルを浮かべて首を横に振った。


「いえいえ。とてもセクシー&キュートで素晴らしいですよ」


「せ、せくしー? きゅーと?」


ファッション初体験の少女は首をかしげて不思議ふしぎそうな顔をした。


「そうですねぇ、逆にイメージぴったりと言えばこんな感じでしょうか?」


今度はオシャレな柄物がらもののオフショルダーにデニムのホットパンツだ。


ちゃんと尻尾の穴もあいている。


「こりゃいいや!! あたしらしいって感じはするかな。でも着てみてわかったけど”すかあと”ってのも悪くないよ。特に尻尾の開放感ではダントツだね!!」


最初は気乗りしなかった彼女だったが色々と試すうちにまんざらでもなくなってきていた。


「最近、ミナレートでトレンドなのは異国、ジパ発のワフクというおものです。お試しになってみますか?」


ノリノリのファッションガールはワフクを着付けてもらった。


着慣きなれるまでお時間がかかりますが、優雅な着こなしでございましょう? 今、セレブを中心に人気です」


白を基調にした民族衣装を身にまとった少女は違和感を覚えた。


フレリヤは反射的にほほぬぐったのだ。


手はしっとりれていた。こぼれるしずくは止まらない。


「お客様、いかがなさいましたか?」


「いや……あれ……変だな……。目にゴミが入ったみたいだ……」


ハンカチを受け取るとしばらく彼女は目を拭き続けた。


(目にゴミ? 違う……。これは……涙……この服は……。あたしは、この服を着た人を、知ってるんだ!!)


疑惑が確信に変わるまでそう時間はかからなかった。


(でも……名前が……出てこない!! 確かに一緒に過ごしたはずなのに!! あのワフクの女性は―――)


「様……お客様。いかがなされました? ご気分でも悪いのですか?」


フレリヤは我に返った。


「ん、ああ。大丈夫。なんでもないよ」


彼女は記憶をかき乱されて、試着などどうてもよくなっていた。


しかし、せっかくボルカに言われたのだから何か買って帰ろうと店員におすすめを聞いた。


「それならば、尻尾を隠すのも含めてピンクのロングスカートがよろしいかと」


亜人の少女また着替え直した。


白いフリルつきブラウスにゆるふわなピンクのロングスカート、そして真っ赤なミュール姿が鏡に映った。


帽子も白くて赤い結び目のついたキャベリンだ。


これならロンテールだとはバレないだろう。


「う~ん。いいんじゃないかな。じゃ、これでお会計で」


女性店員は金額を計算すると値段を伝えてきた。


「こちら、全て揃って12万シエールとなります」


「じゅ、じゅうにまん!?」


ファッションとはもっと安く済むと思っていたフレリヤは度肝どぎもを抜かれた。


すると、メーヤーが近寄ってきて見たこともないカードを差し出した。


「確かにお支払いを確認しました。毎度ありがとうございます。またお越しください」


「え、これでいいのか……」


少女は困惑しつつも護衛と共に店を出た。


「う~ん……、オシャレで可愛いんだけどこの”みゅーる”ってやつは足首をひねりそうだな。でもいい経験になったし、楽しかったよ。メーヤーもオシャレしたりするのか?」


彼女はなんとも言えないと行った感じでほほに指を当てた。


次の瞬間だった。


「チュン!!」


メーヤーが戦闘態勢に移り、ミナレート・キャンディで何かを弾いたのである。


すぐにフレリヤとボディ・ガードは息を合わせて背中合わせになり死角を減らした。


「カン!!」


またもや何か硬いものがアメ杖に当たる。明らかに何者かが狙撃そげきしてきていた。


防戦一方になるのはまずいと思ったのか、杖使いは何歩か前に出た。


どうやら目が見えていないはずなのに、誰から狙われているか既に把握はあくしているらしい。


「メーヤー、敵はそっちなのか!? 深追いは―――」


オシャレな亜人少女は頭上からの気配に気づいたが、きなれないミュールで反応が遅れた。


「うわっ!! なんだこれ!?」


彼女の体は赤い謎の球体に包まれてプカプカと宙に浮き出した。


あたりを見回すとそばの民家の屋上にけだるげにチューイングガムをみ、ふくらませている男が居た。


「あいつ!! ということはこれはガムか!!」


フレリヤはミュールを脱いでとんがったかかとをガム風船に当ててみた。


するとベタリと履物はきものがくっついてしまった。


きっとこれを無理矢理に破壊したらモロに粘着質ねんちゃくしつで体を拘束こうそくされてしまうだろう。


もっとも彼女の怪力なら簡単にガムを突破できるだろうが、それではせっかく買ったお気に入りの服がベタベタに汚れてしまう。


命と服とでは本末転倒なのだが、はじめてのオシャレということもあって、彼女はなんとかならないかと真剣に考えていた。


一方のメーヤーはふわふわと高く浮かび上がってくガム風船を見ずとも感覚で背後に感じていた。


「俺らさ、その道では有名な猟菓りょうかのロッソ兄弟ってんだ。弟も俺も菓子かしを使うから猟菓りょうかってわけだ。主に希少生物をハントしててな。ガチの希少種も狩ってるから賞金首だ。でもよ、人間に危害を加えるつもりは全くねーのよ。わかったら嬢ちゃんは武器を下げな。俺たちはロンテールだけ狩れればそれでいい。バレてるんだぜ」


ロッソ兄弟の兄、ノッソは小さめの飴玉あめだまドロップをなめながら続けた。


「あの娘は最近目をつけたハント・ターゲットでな。まず女なのにあの体格だろ? それに外出時に必ず身につける帽子と長ズボン。でもってその姿で金のフィーファン像で飲食店を荒らし回ってる。常軌じょうきいっした食欲、トドメに亜人専門店から出てくるとくりゃそらもうロンテールしかねぇわなッ!! フっフっフっ!!」


兄は口をすぼめて何かを吐き出した。


「チュンチュンチュン!!!!」


メーヤーは片手でアメの杖を振って飛来物ひらいぶつをすべて弾いた。


無駄のない美しい所作だった。


「ふ~ん。アンタもあめ使いか。しかもかなりのやり手と見た。親近感わくねェ。毒ドロップ、麻痺まひドロップ、貫通ドロップ……全部弾かれちまったよ。ま、俺は時間稼じかんかせぎができりゃそれでいい。もう獲物は捕縛済ほばくずみだからな!! プププププププププププ!!!!!!!」


さっきとは桁違けたちがいの連射速度だ。小さなアメのかけらが次々と襲い来る。


目が見えないボディ・ガードは両手でアメ杖を持つとクルクルと棒術のように猛回転で振り回し始めた。


「カン!! キン!! チュンチュン!! キュオォオン!!」


周囲の街人に被害が出ないようすべて弾き飛ばす。


「ふ~ん。やるじゃん。でももう遅いね。さすがにあれだけ高くまで上がるとおいつけやしないぜ」


ノッソは真っ赤な帽子の陰から空高く舞うチューインガムを眺めた。


メーヤーはそのスキを見逃さなかった。


片手を突き出して脇に”素敵なステッキ”を抱えると彼女は大きく後ろに跳んだ。


ビュオッ!!


「おい……マジかよ……」


全盲の女性はぐんぐん高くへと昇っていき、宙にただようチューインガムを杖の先端の方で一突きした。


間違いなくその目は見えていないはずなのに、だ。


バンッ!!


鈍い音がしてチューインガムは破裂はれつした。


「メーヤー!! 助かったよ!! これで洋服を汚さずに済むよ!!」


喜ぶフレリヤに杖の女性は近寄って腕を組んだ。


そしてそのまま一箇所いっかしょずつ指を差した。


彼女は何も語らなかったが、なんとなく互いに意思疎通できている感があった。


「ふむふむ。アイツと、アイツか。ちっちゃいけど見えるには見える。あたしは服を汚したくないんだよねぇ。だからこっち」


オシャレな亜人少女はスカートをはためかせながら赤い帽子の兄に指を突きつけた。


それに応じるようにメーヤーは屋根の上にスタンバイしている弟に杖を向けた。


するとすぐに黒髪をなびかせた女性はアメの杖の持ち手を組んでいた猫耳亜人の腕にひっかけた。


そのまま宙で勢いよくスイングし始める。


「おおお!!!! これでぶっ飛んでいこうって言うんだな!! メーヤー、あたし、誤解してたよ。根暗で何考えてるかわかんない奴とか思ってたけどさ、こんなゴーカイな戦いっぷりだなんて思わなかったよ。あたし達、気が合うかもな!!」


コクリコクリと護衛の女性は首を縦に振った。


「ブゥン!!」


凄まじい勢いでフレリヤが空中で発射された。


頭を兄ノッソに向けて突撃していく。同時に彼女の頭をある事がよぎった。


(あっ……やっべー。これこのペースで突っ込んだら殺しちゃうよ……。この速度じゃ手加減も何もないし……。ああ!! なんとかしないと!!)


ガンガン距離がつまっていく。


一方、弟のネッソはメーヤーを観察していた。


「ああっ!! なんて勢いで投げるんだ!! 無茶苦茶だ!! 兄さん!! 兄さんんん!!」


ネッソはとにかく焦っていた。


これだけ距離が空いているのにヘビににらまれたカエルのようになってしまっていたのである。


「あ・あ・あ・あの黒髪の女~~~!! あの空中での動作とかどう考えてもカタギじゃないよぉ!!」


フレリヤを発射したあと、メーヤーは回転しながら人外とも思える落下速度を見せた。


そして無音で屋根に着地したのである。その地点と今いる場所は地続きだ。


「うわあああ!!!!! 僕はもうゴメンさぁ!! あの速さじゃ応戦は無理。もう逃げるよ!!」


ネッソは暗黒のような色のガムをんで体をおおった。


「こここ……これなら!! こちらから攻撃は出来ないけど鉄壁さぁ!! このままズラかるよ!!」


次の瞬間、メーヤーは3箇所かしょほど鋭く弟の体を突いた。


「さぁ、ふくらめ!! 早く逃げるさぁ~~~」


だが、チューインガムは一向にふくららまない。


「あ……これ……もしかして……魔術の源である魔田までんついちゃったって奴ですかぁ? そっ、そんなのカタギの人には……ぐふうっ!!」


前のめりに倒れ込むガム人間を支えつつメーヤーはフレリヤの様子を見守った。


もう兄ノッソと亜人少女は衝突寸前だった。


ひらめいた!!」


こういう危機一髪の時の月日輪廻げつじつりんねひらめきは抜群である。


月日輪廻げつじつりんね!! 陽尾ようび!!」


彼女はくるんと前方宙返りを決めるとすれ違いざまにネッソの頭をふかふかの尻尾で殴りつけた。


「バ、ばがなぁ!! ぐふぶぶぶ……」


いい具合に加減が利いて兄は鼻血を出しながら倒れ込んだ。


着地したフレリヤはスタイリッシュにキメた。


「ファッション、極めたぜ!!」


劇か何かと勘違いした周囲の街人から拍手が上がった。


屋根の上のメーヤーもノッソを縛りつつ、彼女へと惜しみない拍手を送っていた。


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