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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter5:Crazy Summer Nights
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タコ人間VSトカゲ人間

ライネンテの南東には未開のグラーク湿地帯しっちたいというエリアがある。


ここは年中多湿であちこちに沼があり、人にとっては住みづらい地域だ。


東部の地域には分類されるが、ほとんど住民は居ないとされる。


“人間の”だが。


この地域には昔からデビルフィッシュ(タコ)の亜人であるオクトパラーと、トカゲの亜人であるリザードマンのリザディッシュという2種属の亜人が住んでいる。


この2種族は互いに仲が悪く、グラーク湿地帯しっちたいの縄張りを決めるために常に争ってきた。


一時は殺し合って陣取りをしていたこともあったが、被害が甚大じんだいになってきた。


そのため、現在は平和協定が結ばれてオクトパラーもリザディッシュも互いに攻め込んだりはしないようになっている。


ただ、完全に仲が良くなって仲良しこよしになったかと言えばそんなことはなく、憎しみ合っているのが現状だ。


そこで、種族間のうっぷんを晴らすために定期的に種族の代表同士が戦う闘技大会が開かれている。


東ノットラントと西ノットラントのような関係である。


だが、ノットラントと異なるのはその戦いの結果で彼らの縄張りが決定されることだ。


戦いに勝った方は湿地帯しっちたいの領土を多く支配することが出来て、得られる食料や素材が多くなる。


少年、青年、中年、老年の部と大会は行われてその結果によって支配率が決まるのだ。


参加者達も、見守る者達も生活がかかっているので当然必死だ。


ここ最近の勢力はほぼ互角なために余計に負けるわけには行かない状況が続いている。


ナッガンクラスのニュル・ニュ・ニュルルはこの試合の青年の部にエントリーしていた。


そのためわざわざ立地の悪い故郷まで帰ってきたのだ。


ライネン語でない独自の言語で会話する。


「ったくよぉ。おめぇは心配性だってんだよ」


「でもぉ!! ニュルが大怪我しちゃったりしたらと思うと!!」


リボンをつけたピンクのタコ人間がそう声をかける。


「エーミィ、大丈夫だって。俺を誰だと思ってんだ。トカゲ野郎くらい返り討ちにしてやるぜ!!」


ニュルはにぎ吸盤きゅうばんを作ってみせた。


「でも……でもぉ……」


エーミィと呼ばれた少女はタコ口をモゴモゴさせて不安を隠せなかった。


「俺が今まで負けた事があるかよ。な? だから大船に乗ったつもりでいろよな!!」


そう言うと少し彼女の表情が明るくなった。


ニュルは強気にそう言って見せたが、彼は迂闊うかつではない。


当然、自分がピンチに追いやられる可能性も考えていて、大口は叩いてみせただけだった。


ポンポンとリボンの少女のハゲ頭を叩くと彼は彼女と一緒に闘技場を目指した。


オクトパラーとリザディッシュの集落の境界にはガーム鉱石を固めて作った水色の舞台が作られている。ここが戦いの場になるわけだ。


開始時間が近づくにつれて観戦者達が群がり始めてきた。


片方にはタコ、片方にはトカゲの亜人が集結してくる。


やがてオーディエンスの後ろの方は舞台が見えないほどまで互いの種族が集まった。


ほぼ全員が試合を見に集まってくるのだから無理もない。


「トカゲ野郎はすっこんでろーーーー!!!!」

「尻尾ぶったぎってやんよ~~~!!!!」

「こ~のウロコ肌――――――!!!!」

「眼が気色悪ぃんだよ!!!!!」


汚い怒号が飛び交う。向こうも負けていなかった。


「ヌルヌルヌメヌメ気持ち悪ぃんだよ~~~!!!!」

「ちゅーちゅーだせぇ口しやがって!!!!!」

「こっちこそその足斬ってやるぜ~~~!!!!」

「こんのハゲ頭どもめ~~~~!!!!」


互いがシャレにならないくらい憎しみ合っているのが伝わってくる。


そうこうしているとオクトパラーとリザディッシュ、2人の審判しんぱんが出てきた。


交互に説明し始めた。


「静かに!! それでは縄張りを決める試合を始めることとします」


「審判は4戦を半分ずつ我々が担当します。ちゃんと半々でやるので文句を言わないように!!」


「制限時間は無しで、戦闘不能とみなされると負けとなります。和平調停わへいちょうていにより大怪我になるまではやりません。これにも文句を言わないこと」


会場からはブーイングがあがってゴミやら何やらが舞台に飛んできた。


「静かに!! それと、興奮して試合会場にものを投げ込まないように!!」


観客は荒れていたが、真剣な戦いを邪魔するのは無粋ぶすいだと思っていたので、少し静かになった。


「わああああああああああああああ!!!!!!!」


ニュルが控室で休んでいると声が聞こえてきた。


「少年の部はリザディシュのガガンが勝利しました~~~~!!!!!」


「クニュールは負けたか……。さて、次は俺の番だ!」


選ばれた戦士は全身を武器で武装して舞台へと向かった。


「さ~て、二戦目、青年の部はオクパラーのニュル選手とリザディシュのギラド選手です。互いに礼!!」


こんな関係でも一応、礼節はわきまえると言ったところだろうか。


形式だけの礼をすると2人は武器を構えた。


(リザディッシュの得意武器はスピア。こいつも例にれずスパイカーか……。尻尾はプロテクターで防御してやがる。弱点は突けねぇな!!)


相手も似たようなことを考えていた。


(真っ赤なタコ野郎め……。10本足に武器を持って手当たり次第振り回してくる気だな……。そのハゲ頭、脳天から貫いてやるぜ!!)


「それでは!! 青年の部、試合開始!!」


オクトパラーの審判がそう宣言するとギラドが素早く動いた。


「おらよっと!!」


ものすごい速さで宙高くジャンプしたのだ。


そのままスピアを下に突き立てて攻撃をしかけてくる。


ニュルは斧を持っている足を上に構えてやりの一撃をいなした。


「甘ぇぜ!!」


そのまま相手は着地してから高速でやりでの突きを放った。


「おぉうっとぉ!!!!」


タコ男は今度は盾で一撃を弾いた。


同時に彼も持っている槍を反撃で打ち込んだ。


「おぉらぁ!!」


スピアの一突きにはなれているのか、相手はひらりと突きをかわしてサイドステップでニュルの脇に滑り込んだ。


オクトパラーのピンチに会場は湧いた。


リボンのエーミィは瞳を閉じていのった。


「闘・争・遊・とうそうゆうぎ!!」


次の瞬間、ニュルは手に持っている装備を手当たり次第に振り回して弾幕を張った。


しかもこれは敵への攻撃を兼ねた攻防一体の技だった。


やりを弾かれたギラドはすぐに反応してバク転でこれをかわした。


攻撃力はあるが、足がタコなので機動力は低いのだ。


巻き込まれさえしなければ大ダメージは避けることができた。


「クキィーッキッキッキ!!! ノロマノロマ~~~!!! そんなんじゃ当たりゃしねぇぜ~~~!!!」


ギラドはぴょんぴょんと舞台をねて挑発した。


確かにこのままこの技を使っていたら彼を追い詰めることは出来ない。


リザードマンは割と動きが俊敏だからというのもある。


だが、このままではリザディッシュ側が攻撃を仕掛けられないという問題点も生じていた。


少しトカゲ人間が考えを巡らせているときだった。


タコ人間が立ち止まると斧が猛スピードで飛んできたのだ。


「うおっ!!」


不意の一撃を側転でかわす。


「あぶねぇあぶねぇ。飛び道具持ちかよ。しかもあの斧、背後からブーメランみてぇに戻ってきやがる。あれは避けねぇとやべぇな」


ギラドは背後をチラチラと確認した。


その時だった。


「無・限・闘・争・むげんとうそう・あらし!!」


なんとニュルが足で舞台をって頭から突撃してきたのである。


「あいつ!! 足をバネみてぇにしてびやがった!!」


リザディッシュはニュルと斧の挟み撃ちにあった。


彼は背後から飛んできた斧を見事避けたが、正面から突っ込んでくるタコ男の攻撃は回避できなかった。


ニュルは剣を逆手に持ってそのつかで相手の眉間みけんを強打した。


「あ……う……う……」


リザディッシュの青年は悶絶もんぜつするとその場に倒れ込んだ。


「そこまで!! 青年の部の勝者はニュル選手に決定!!」


手加減てかげんしての決着にオクトパラーの観客席からは割れんばかりの歓声が浴びせられた。


逆にリザディッシュ側では落胆の声で溢れた。


結局、今回の試合は3対2でオクトパラー勢の勝利となった。


これによって湿地帯のパワーバランスはタコ人間側に傾いたのだった。


もっとも、次の試合で不利になればすぐさまトカゲ人間側に権利が移るのだが。


彼らはこの行為を不毛だともなんとも思わず繰り返している。


オクトパラー達は勝利の美酒びしゅを味わっていた。


「なぁニュル兄貴。魔法都市ミナレートってどんなとこなん? 学院は楽しいのか?」


弟分のトマがそう問いかけてくる。


「ああ。毎日が変わったことばかりで楽しいとこだぜ。クラスメイトはいいやつばかりだしな」


酒をみながら戦士は豪快ごうかいに笑った。


「おう、ニュル、もっと飲めや」


更に古酒こしゅをつがれてタコ男は一層と真っ赤になった。


「ニュル……何か大変なこととか、不自由な事はない?」


今度はメスのエーミィが隣りに座った。


「んあ~、俺らのクラスはスパルタでな。大変っちゃあ大変だわな。他のクラスがやらないような課題が出たりするし、当然、痛い思いもする」


隣に座る彼女は心配らしく憂鬱ゆううつげだった。


それをんでかニュルは笑ってみせた。


「なぁに。これくらいでへばる俺様じゃねぇって。だからそんな心配そうな顔をすんな。お前はいつも笑ってりゃいいんだよ」


エーミィーの目からきらりと光るしずくが落ちた気がした。


「うん……。私、もう心配しないよ……。だって、これ以上の心配をするなんてニュルの事、信頼してないって事になっちゃうもんね。うん。ニュルは大丈夫だよ。絶対に」


無理に作ったようなぎこちない微笑みを彼女は浮かべた。


「おうそうだぞ。おめぇは俺様を信頼して里での居場所を守っててもらわなきゃ困るぜ。自分が何の役にも立たないと思ってるならそりゃ大きな間違いだ。俺だってお前を頼りにしてるんだからな。自信持って暮らせよ」


ニュルは空いた数本の足でグッドサインを出した。


エーミィは涙をきながら笑っていた。


その晩の宴は一晩中行われ、オクトパラー達は勝利を祝ったのだった。



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