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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter5:Crazy Summer Nights
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SSS(ソーサリィ・シールド・シールダー)

塩ムカデの秘薬の効果は抜群ばつぐんで日が明けて昼過ぎになる頃にはウサ耳剣士の傷の痛みは癒えていた。


せっかくだからということで武家の食堂で煮魚定食を頂き縁側で食休みをさせてもらった。


しばしくつろぐ周りの家の者達からカエデとの試合での健闘けんとうを称える言葉をもらった。


どうやら武家の人々は自分を受け入れてくれたようである。


安堵感あんどかんを感じてホッっと一息ついていると稽古けいこ開始の時間になった。


カエデが迎えにやってくる。


百虎丸びゃっこまるさん。まずは見学から始めようか」


するとまだ見たことのない広くて立派な道場に案内してもらった。


邸宅、中庭、道場、宿舎と屋敷全体を合わせると相当に広大に思えた。


「立派なだけでなく、年季も入っている。良い道場でござるな」


女侍は微笑みながら答えた。


「でしょ~。自慢の道場なんだ。さて、私が直々(じきじき)に稽古けいこをつけてあげたいところなんだけど、それはまだ早いね。西華西刀さいかさいとうの基礎が身につくまでは大怪我おおけがしちゃうと思うんだよね。だからこれからの一ヶ月間、つきっきりで面倒見てくれる人を選んだんだ。紹介するよ。うちの道場でも五本の指に入るりく君だよ」


金髪に碧眼へきがんのスタイルの良い好青年と言った感じの男子がこちらにやってきた。


「こんにちは。どうも。はじめまして。あなたが百虎丸びゃっこまるさんだね? 試合、ナイスファイトだったよ。俺が紹介に預かったリクです。本名はメリザなんですけど、メリザは一般的に女の子の名前で……。気に食わないからこちらに来てからはりくって呼んでもらってます。あねさんがつけてくれた名前なんだよ」


“こちらに来てから”という事は彼がサユキとの交換縁組でやってきた人物なのだろう。


にしてもあねさんとはカエデの呼び名だろうか。なんだか違和感があるが……。


それはそうと、百虎丸びゃっこまるは別の意味で驚愕きょうがくしていた。


リクの見た目がクラスメイトのガンによく似ていたからだ。


髪と目の色、背丈、体格、風貌、声までがそっくりで双子ではないかと思った。


「リク君はこんな見た目でしょ~。だから地味な人の多いキョートではとても目立ってね~。昔っから女の子にすごくモテるんだ。ファンクラブまであるくらいなんだよ。泣かせた女の数は知れず。この~、小生意気こなまいきに~」


カエデは高身長の彼の脇腹わきばらひじでつついた。


「あ、あねさん……。誤解されるようなこと言わないでくださいよ。俺、まだ彼女出来たことないって知ってるでしょうに……」


次期当主は肩をすくめて大きくため息を吐いた。


「ハァ……モテるのは否定しないのね。でもオクテなのもここまで行くちょっと、ね……」


二人のボケツッコミで質問するタイミングを逃してしまったが、ガンとの関連性について念の為に聞いておいた。


「ところでリク殿は兄弟などはおりますかな? 貴殿きでんとよく似ている友人がいましてもしやと思い……」


リクは不思議そうな顔をした。


「俺と似ている? ……ということは男性ですか? 姉はいますが、兄や弟はいませんよ」


あれこれ似過ぎている二人であるが、ガンは見た目はイケメンだが喋ると残念系の男子だ。


一方のリクは紳士的で好青年なふるまいであるし、なんでも非常にモテるらしい。


何が彼らを分かったのかと百虎丸びゃっこまるは何とも言えない微妙な表情になってしまった。


「い、いや……。はは。なに、いわゆる他人の空似そらにってやつでござるよ。気になさらんでくだされ。それより、リク殿は帯刀たいとうしておらんようでござるが、刀は振るわないのでござるか?」


ネコ顔の亜人はヒゲをいじりながら首をかたむけた。


「刀の修行は一通りやったからそれなりには使えるよ。一からのスタートだったから死ぬ気でやったけど。でも、幼少の頃から使い慣れてるのはアレさ」


リクは道場の壁を指差した。


彼の身長より大きな縦長のタワーシールドが立てかけてあった。


装飾そうしょくは質素で色も青銅のようで地味だが、質は良さそうだった。


その脇には小型の盾であるバックラーが置いてある。


こちらは白がベースで金色の縁取ふちどりと紋章もんしょうの刻まれた華麗かれいな一品だ。


盾の中央には真紅のたまが埋め込んであって半球状に露出ろしゅつしていた。


「ファーニッシュ!!」


彼がとなえるように声をかけると、タワーシールドとバックラーが一人でにこちらへと飛んできた。


そのままリクの腕に2つの盾はガシッっとくっつき、あっという間に完全防御状態になった。


「おぉ!!」


百虎丸びゃっこまるは思わず声をあげた。


「俺は刀の代わりに盾を振るうのさ。魔導盾ソーサリィ・シールドっていう装備なんだ」


カエデは腕を組みながらコクリとうなづいた。


「いわゆる”シールダー”ってやつだね。武士交換で我が家に足りなかったのはタンクの役割ロールをこなせる人材だったの。だからリク君が来たってわけ。ウルラディールのほうは狙撃の素養そようのある者を欲したわ。そこでうちはサユキを送ったというわけ。彼女は刀の補助として鍛え始めたかんざしでの攻撃が大きく伸びてね。一応は西華西刀さいかさいとうを習得しているのだけれど、刀は滅多に握らなかったわ」


カエデは遠い目をしながら妹の事を想っているようだった。


だが、すぐに意識をこちらに戻して今度はリクの思い出を語りだした。


「リク君もね、来た時は本当にちっちゃくて、まるで盾が歩いてるみたいな感じだったわ。それがこんなに立派になって……。お姉さんは嬉しいよほんとに」


照れた様子で青年はバックラーを装備した方の手で後頭部をいた。


「ちょ、ちょっと姐さん。昔の話はやめてくださいよ!!」


二人の仲の良さが伝わってくる。義理とは言え姉弟なのだなと感じられた。


同時にリクの魔導盾ソーサリィ・シールドに対して疑問が湧いてきたのでいてみた。


「確かに堅牢な戦い方でござる。しかし、攻撃面がいまひとつではござらんか? 盾を鈍器のように使う事はできるかもしれないでござるが……」


リクは左手の人差し指を立てながら質問に答えた。


「ま、見ててよ」


そう言うと彼はそばにあった攻撃用の人形の前でタワーシールドを構えた。


「ふっ!!」


次の瞬間、リクは巨大な長方形の盾を斜めに構えて左上から左下へと振り抜いた。


シールドのへりで切りつけ、人形は一刀両断された。


「おぉ!! なるほど!! 盾に斬撃属性を付与するのでござるな!! まさに西華西刀さいかさいとう!!」


亜人の剣士はポンと平手に拳をぶつけて納得した。


「そういうことさ。決して刀の修行は無駄じゃなくて、盾に応用できてるんだよ。あと、このバックラーもブーメランみたいに遠隔攻撃が出来るんだ。まぁ、避けるって考えが全く無かった俺にとって、西園寺家流さいおんじけりゅうの修行は滅茶苦茶苦しかったけどね。丸腰で攻撃をけ続けるとか気が狂うかと思ったよ」


彼は額に手をやって、やれやれとばかりに首を振った。


身近で彼の成長を見てきたカエデが感慨深くなるのも無理はないなと思った。


「リク君は盾もさることながら、ちょっと体質が特殊でね。傷の治り……自然治癒力しぜんちゆりょくがすごく高いんだ。浅い傷なら戦闘中にふさがるレベルだよ。治療しないと死んじゃうような場合でもなんだかんだで持ち直すもんね。シールダーの素養ありまくりだよ」


そう評価された盾使いは片手で頭を抱えた。


「いくら耐久力が高いからとは言って、修行で瀕死ひんし近くまで追い詰めるってのはどうかど思うんですよね……。最近はそんなことないですけど、あの時のことは忘れないですからね……」


むすっとした顔で彼はカエデを見下ろした。


「あはは……そ、それはね、家としては君の限界を把握しときたかったってのがあってね。過小評価かしょうひょうかも良くないし、かといって過剰評価かじょうひょうかは命に関わるから。君が耐えきれる限界をあらゆる面から見ておく必要があったんだよ。まぁそこはうらんでくれてもいいけど……」


気まずい空気が流れたが、リクが苦笑いしながらそれを打ち消した。


「はは……ねえさんにはかなわないよ。全く……」


姐さんは目を閉じて、握った拳を口の前に当てて咳払せきばらいをした。


「ご、ゴホン!! ともかく、今後一ヶ月はこのリク君が百虎丸さ……いや、百虎丸びゃっこまる君の面倒をみてくれるから。話を聞いててわかったかと思うけど、彼はひたすら回避を特訓した時期があるの。おまけに元々、避けるのは得意じゃなかった。そんな彼だからこそ伝えられることがあると考えたんだ。大体いつも新入りはリク君が担当するしね」


海の外から来た金髪碧眼きんぱつへきがんの好青年は屈んで手を差し出してきた。


百虎丸びゃっこまる君、改めてよろしくお願いします」


差し出された手を肉球ハンドで握り返す。


「新たな師匠でござるな!! こちらこそよろしく頼むでござるよ!!」


新たな絆の誕生を見届けた次期当主は満足げに笑みを浮かべた。


かとおもうと思い出すように新入りに告げた。


「あ、夏休み後の事だけど、リジャントブイルにも門下生が何人かいるんだ。隠居いんきょしている西華西刀さいかさいとうのお師匠ししょうさんがミナレートに渡って稽古けいこをつけてくれてるよ。だから、学院に帰っても修行を続ける事が出来ます。君が私と真剣勝負出来る日を楽しみにしてるからね!!」


彼女も屈んで握手を求めてきた。ふにゅっとした手で握り返す。


「うわぁ~♥ ふにゃぁ~。ぷにゅぷにゅにくきゅぅ~♥」


カエデの表情はデレデレになり、しばらく百虎丸びゃっこまるの肉球をいじり倒していた。


女子というものはどうしてこうも肉球に弱いのか。


彼はそんな事を考えつつ、リクに視線をやっていた。


(学院と聞いて思い出したでござるが、ガン殿は上手くやってるでござろうか? “夏休みの間に何としてもレーネ殿とお近づきになる!!” と息巻いておったが……果たしてそう簡単にいくものでござろうか。良い奴ではあるし、顔もイケメン。しかし、いかんせんあの残念感はどうにかなるものでは……。ちょっとでもリク殿の要素が彼にもあればあるいは……)


「ん? 俺の顔になにかついてる?」


リクは自分を指さして尋ねてきた。


手をモミモミされ続けながら百虎丸は空いたほうの手でNOのサインを送った。


「ぷに~♥ ぷにぷに~~~♥」


勇ましい女侍の女の子らしい一面が垣間見かいまみえる。


(ん~~~。やはりガン殿が気になるでござる!! 早まっていなければいいが……)


彼は手を揉まれながら異国の友人のことを思いやった。


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