表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter1:群青の群像
30/644

狂犬は狼を夢見て

 試合開始の掛け声がかかると同時に素早くアンナベリーが抜刀した。


大剣を扱っているとは思えない軽い動きだ。


それと同時にザティスが詠唱省略えいしょうしょうりゃくで魔法をかける。


「リフレックス・アジリティ・ツインエクステンドッ!!」


相手が大剣を振りかぶって切りかかってきた。一気に距離をつめられる。


ザティスには魔法のおかげでこの斬撃がややゆっくりに見えた。


斜め切りを体を縦にずらしてかわした。


「おおおおおおおっと!! ザティス選手、無駄のない回避ステップだ!! すかさず大剣の横薙ぎ攻撃ーーーーーーッ!!」


彼は激しい大剣の連撃を無駄のない動きでひらりひらりとかわしていく。


「へっ、バレン先生に比べりゃこの程度の速度、なんてことはねぇ」


とりあえずザティスは回避に専念して相手の出方をうかがった。


「ザティス選手、避ける避けるーーーーー!!」


「えー、バレン先生との試合のようにどうも防戦一方になりがちです。今回もアンナベリー選手に有効打を与えることができるかまだわかりません!!」


アンナベリーがぐらりと姿勢を崩して隙を見せた。


ザティスはそれを見逃さず攻撃をかけようとしたが、アンナベリーが体勢を立て直した。


「しまった!! フェイントか!!」


彼女は地面に切っ先を叩きつけて振りぬいた。


「もらったっ!! ランドスマッシャー!!」


地面から土煙があがり、尖った岩が物凄いスピードで隆起していく。


さらに割れた地面から飛び出した大量の小石や岩のつぶてが高速で飛んできた。


さすがにこれを回避するのは無理がある。


「ショックアブソーブ・アンチソイル!! マジックレジストブースト!! トリプル・デヴェロプ!!」


呪文を唱えながら土煙と飛び交う石の嵐の中にザティスは消えた。


「あーーーーーっと!! これは強力な土属性攻撃!! 大ダメージ必至だーーー!!」


「土煙でよく見えませんね。ザティス選手は無事でしょうか?」


アンナベリーはすぐに高めの位置で剣を構え直し、追撃の構えで煙が引くのを待った。


「げほっ、ゴホッ……レイピッド……オウンヒール・セカンドッ!! リリーブ・ペイン!!」


すこしして狂犬の姿が浮かび上がってきた。口からは血が滴っていた。


「ザティス選手、直撃を受けたものの耐えたーーーーーーーー!!」


「だいぶダメージを負っているようです。特に内臓をやられていますね」


アンナベリーは突き攻撃から再び連撃に入った。


まるで踊るように重い大剣を振り回している。


呪文で痛覚をごまかしながら青年はギリギリで斬撃をかわしていく。


「てめぇ……わざと軽めに振ってやがんな!」


ザティスは間一髪の回避を続けながら彼女が全力で攻撃していない事に気づいた。


「い~や? 別に手を抜いているわけじゃないッスよ? スタミナには自信があるので、君が先にバテるのを待ってるッスよ。これも作戦のうちってやつッス」


攻撃を避けているうちに即効性のあるオウンヒールが効いてきて徐々にザティスにキレが戻ってくた。


「やっぱ手抜きじゃねぇか。ナメやがって。最初から本気でやらなかった事、後悔させてやるぜ!!」


青年は軽く憤りつつ、後ろに飛び退いてすかさず呪文を唱えた。


「リフレクター・ライトシェ!!」


彼のてのひらから放たれた光のかけらが空中で反射してアンナベリーを襲う。


「おっと、近距離巻き込み型の貫通性光弾、リフレクター・ライトシェだーーーー!!」


「これは自分を中心に光弾を発生させる奇襲攻撃です。ただし、自分を中心に展開するので自分も光弾を弾くか、避けるかしないとダメージを受けてしまいます」


ザティスは慣れた様子で背後から飛んできた光弾をかわした。


一方のアンナベリーも大剣を盾のように駆使して迫り来る光弾を弾いてかき消した。


「さすがエルダーの剣士!! 特にエンチャントもかけずに光弾を防いでいるーーーーーッ!!」


「アンナベリー選手、常時強化タイプのようです。これはザティス選手、ノーダメージとは想定外かもしれません!!」


ザティスは光弾をよけながら指と腕で印を組み始めた。同時に呪文を唱える。


幾千いくせんのたゆたう水の女神の眷属けんぞくよ、我の声を聞き、そして答え、汝()なんじの本来あるべき姿を取り戻せ。荒れ狂い猛る濁流だくりゅうの如き螺旋らせんの姿を!!」


大剣女子は水属性の攻撃呪文が来ると踏んで、素早く大剣でガードした。


「これは何でしょう? 印をかけて呪文を強化しているようにも思えますが……」


狂犬は詠唱を終えると更に印を組み続けた。


「かかったな!! 詠唱の方は囮だ。狙いはこっちだぜ!! 呪印、ウエポン・バインドッ!!」


ザティスが印の仕上げに両手をパンッっと合わせてグッっと指を組んで握った。


すると、アンナベリーの大剣が彼女の体にピタッと張り付いた。


「おおおお!! 詠唱の方はダミーで、印の方が狙っていた呪文だったーーーー!!」


「ウエポン・バインド。対象の持つ武器を相手の体に貼り付けてしまうという呪い系の呪文ですね。ザティス選手、多彩な魔法を使い、魅せてくれます!!」


大剣使いは力づくで大剣を剥がそうとしたが、胸から胴体にかけてガッチリくっついている。


おまけに両腕も大剣を持ったまま押さえつけられて身動きがとれない。


「どうしたどうした!! 神殿守護騎士テンプルナイトなんだろ? 解呪はお手のもんじゃないのか? まぁ複雑にぐちゃぐちゃな術式で組んだからそう簡単には外れねーぜ。かけた俺にも解呪不可能だ」


ザティスが挑発し、相手のペースを乱す。


アンナベリーは解呪を試みて集中コンセントレートしようとしたが、相手はすかさず妨害した。


「時間差発動!! ウォルタ・クイックサンド・ウォルタ!!」


水色の渦巻き模様の陣ががザティスの足元に出現した。


アンナベリーが蟻地獄のようにそれに引き込まれ、ザティスとの距離が一直線に縮まっていく。


「時間差発動魔法です。ちゃっかりさきほどの囮の方の魔法も発動条件を満たしていたようですね。この呪文は相手を引き込む能力があります。ザティス選手、自分を中心とした呪文が得意ですね~」


どんどん渦巻きの中心にアンナベリーは引きこまれ、拳が届く距離まで近づいた。


「レディに暴力をふるうのは気が引けるが、まぁこれはさっきのお返してお互い様だなッ!!」


青年はしゃがんでがら彼女の脚部に足払いをかけた。蹴りはうまい具合に直撃した。


アンナベリーはバランスを崩し、背中から地面に転がった。


うまく受け身をとって跳ね上がり距離を少し空ける。


今の彼女は両手に重いかせをかけられている状態で戦っているようなものだった。


だがいくら動きを制限したからとはいえ、盾のように大剣が張り付いているので正面からはダメージが通らない。


「アディショナル・ルール、ヴォルテックトレントッ!!」


ザティスはそう唱えながら足元の陣を足先で擦って何やら書き足した。


すると直線上に彼へと引き寄せていた流れがザティスを中心としてグルグルと激しく回転する流れに変わった。


「あーーーっと!! 追加変化詠唱で呪文の構成を変えてきました!! アンナベリー選手、流れから抜け出すことが出来ずに回る回る~~~~!! まるで蟻地獄ありじごくだ~~!! これではさすがに解呪に集中できないのではないでしょうか!!」


形勢がザティスに傾いてきた様を見て観客席は沸きに沸いた。


ラーシェも思わず応援する拳に力が入る。


(……アイツ、今回もアクセラレイトの一発屋かと思ってたけど意外とやるじゃん!!)


アイネもアンナベリーの出場を聞いてコロシアムに応援に来ていた。


だが、どちらを応援していいのかわからなくなり、まごまごしながら観戦していた。


「ああっ、まさか相手がザティスさんだったなんて……どちらを応援したらいいのでしょうか」


 コロシアムではアンナベリーが回転する力を持った陣の上で踊らされている。


「目は回るし、背中も見せざるをえないだろ。まだまだだぜ!! クリムゾン・リーブズ・ダーツ レイピッドファイア!!」


狂犬が腕を上げて指先を構えると無数の先端の尖った枯れ葉が高速で打ち出された。


小さい葉ではあるが、かなりの連射速度でアンナベリーに枯れ葉のとげが襲いかかる。


隙の出来た背中の方にはザクザクと刺さっていく。


休みなく攻撃を浴びせたが、あまり手応えがない。


すかさずアンナベリーがジャンプして大剣を地面に向けた姿勢で飛び込んだ。


「クラッシュ・スタンプッス!!」


強烈な一撃を地面に喰らわせて浮き上がり、ザティスに体当りしてくる。

 

ザティスはすばやく陣を収束させ、攻撃をまた鮮やかに避けた。


そのまま地面を擦りながら彼女はコロシアムの壁に激突して土煙を上げた。


「おっと、アンナベリー選手、一方的な攻撃から力技で脱した~~~!! かなり枯れ葉のダーツがヒットしたようだが、ダメージを感じさせない動き!!」


距離が空いて魔法が届かなかったので、ザティスは追撃を加える事ができない


「これでも神殿守護騎士テンプルナイトの端くれ。舐めてもらっては困るッスね……」


立ち上がったアンナベリーの胸からは大剣が外れていた。


彼女は大剣を片手に肩をぐるぐると回しながら立ち上がった。


ザティスはその様子を見て口笛を吹いて茶化した。


「さっきの葉っぱ、痛かったけどあの程度では私を沈めることは出来ないッス」


 アンナベリーは素早く構えて突きを放ちながら突っ込んできた。明らかにさっきより速い。


ザティスはぐっと腰を落とし、足を踏み込んで微動だにしない。


「おおお!? ザティス選手、このままでは鋭い突きの一撃を食らってしまうぞ!! 何か策があるのかーーーーッ!?」


アンナベリーの勢いを妨害する要素は全くなかった。


さきほどとは逆に今度はアンナベリーがザティスへの距離を一気に詰めていく。


この突進速度ではもはや回避出来そうにない。


すかさずザティスはクラウチング・スタートのような姿勢をとった。


「ストレングス・バースト!! フレイムプラス!! ツインレイズ!!」


大剣の切っ先はしゃがんだザティスを確実に捕らえた。


次の瞬間、ザティスは走りだし、腕をX型に交差させた。


そして全身から発火して突進をかける。そして同時に爆発的に加速した。


「喰らえ!! 灼熱の走炎!! プロミネンシィ・ドライブレイドッ!!」


ザティスは轟音ごうおんを上げながら突っ込んでいく。


両者とも退かず、勢いが衰える様子がない。


「まさかの捨て身カウンターだーーーーーっ!! 大剣を避ける気が全くない!! アンナベリー選手も防御姿勢を取らない!! これはお互い仕留める気でいるーーーー!!」


「この技は一直線にしか進めないという欠点を持っていますが、ここまで相手の懐に入ってしまえば回避はほぼ不可能!! いくらタフなアンナベリー選手でもどうなるかわかりません!! しかし、大剣も確実にザティス選手を捕らえている!!」


大剣の切っ先は目前に迫る。


このままでは彼女の勢いに自分の勢いが加わって大剣と衝突し、串刺くしざししになって間違いなくKOだ。


ザティスは大きく息を吸って次の一手の呪文を唱えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ