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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
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食戦士達のあるべき場所へ

観客席では非公認の賭けチケットの話題をアシェリィとシャルノワーレがしていた。


「アシェリィ、あなた、誰にか賭けましたの? わたくしは賭けなんて野蛮やばんなことはしないのですけれど……」


ノワレはアシェリィの肩に腕を回しながら彼女の持っているチケットを覗き込んだ。


アシェリィはなんとも言えない変な汗がじわっと出た。


というのも、シャルノワーレの片腕や預けてきた半身が妙になまめかしかったからだ。


彼女を婚姻こんいん用の名前で呼んでいるという事実をすっかり忘れていた。


不覚にもこのスキンシップにはドキッっとさせられてしまった。


別に変なところを触られたわけではないが、じわじわと得も言われぬ快感を覚えた。


皮肉にもこのテクニシャンの魔性のボディタッチが彼女の性の目覚めとなってしまった。


それ以降、アシェリィは「ノワレとなら一夜を共にするのも無くは無いかな」などと思うようになってしまった。


同性愛に割と寛容なルーンティア教多数派なため、ライネンテでの同性愛の抵抗感は薄い。


思わずアシェリィがそう妄想するのも自然な事ではあった。


ただ、今のところ明確な恋愛感情があるかと言われれば複雑なところだ。


ノワレとは親友で、切磋琢磨せっさたくまする仲で居たいという思いが強かった。


ピュアな関係で居たいという思いと心の何処どこかでは蜜月みつげつでありたいという相反あいはんする感情が背徳感はいとくかんを生んだ。


ハッっと妄想から帰ってきたアシェリィはノワレがいとおしく肩に回した手をやんわりと彼女の膝に戻し、チケットを見せた。


「うう、う、う~ん……リーチェでしょ、レールレールでしょ、あとは……」


彼女は黙り込んだ。


「あら? どうしたのかしら?」


できればフレリヤとヌーフェンの事は黙っておきたかった。


あの二人が居る時は大抵物騒な目に会う。ノワレにそんな思いをさせたくなかった。


「ううん。なんでもない。あとは適当に勝ちそうな人に賭けたよ」


この頃からスタンディングオベーションが起こり始め、座っていては見られなくなった。


ノワレはめちゃくちゃ高いヒールで美しい装飾のついたエルヴンブーツを履いていた。


そのため、履物はきもの込みの身長は170cmを軽く超えていた。


座っているアシェリィにノワレが手を差し伸べた。


彼女の手を握り返すとまたドキドキしてしまい、アシェリィはまた変な汗をかいた。


アシェリィはただのスニーカーを履いていで165cmくらいだった。


女性にしては背の高い二人組だったので、マギ・スクリーンはよく見えた。


ミーアスアスは虫の息だ。


「ぜぇ……ぜぇ……。」


もう言葉少なである。


「た、ただいまの枚数……枯れ樹さんが……1256皿……フレリヤさんが1125皿……レールレール選手は……1020皿……リーチェさんが890皿…………ヌーフェン選手は……456皿となりっ、ゴホッゴホッ!!!!」


とうとう彼女は仰向けに倒れ込んでしまった。パンツ丸見えである。


すぐにスタッフが体の向きを変えて、頭側を観客席にむけた。


「ゴホッゴホッ……ゲホゲホッ……み、みなざぁぁぁん~~~~……」


ミーアスアスは死んだように目をつむった。


「おい!! 心肺停止してる!! 早く学院へ転送しろ!! このままだと死ぬぞ!!」


スタッフは大慌てで本当に死にそうな彼女を運んでいった。


実況の不在でどうなるかと思われたが、ちゃんと予備の人員が居た。


脇から出てきたのは学院のコロシアムの名物アナウンサー、ドガだった。


「ミーアスアスさん、命がけの実況、誠に感服しました!! 本当に頑張った!! 続けてバトンタッチさせていただきます。私は魔術学院リジャントブイル、エルダー1年のコロシアム実況担当のドガでございます。以後ご見知り置きを」


交代した彼が丁寧に挨拶をすると会場はそれを拍手で迎えた。


紅蓮の燃えるような制服がとても舞台映えした。


「おっっしゃぁ!! じゃあ続きをいくぜぇ~!! おまえらついてこいや!!!! フルスロットルだぜ!!」


シーカル広場はビッグバン級の盛り上がりを見せた。


「皿の回数の確認からだぜ!! 樹さんが4563枚、次いでフレリアが3222枚、そしてリーチェが3101枚、レールレールが2975枚!! ヌーフェンが1562枚!! うあ~~~~~~~~~~!! もう誰にもどうなるかわかんねぇ!!」


その時、異変が起きた。枯れ木が芽吹き、間もなく色とりどりのカラフルな花が咲きだした。


その花びらが舞って試合会場はまるで絵の具をちらしたような美しい光景になった。


「こっ……これは!!」


会場が静まり返った。花に癒やされてみんな心が和んだ。


「これは……”カラフル・オークロット”……十分な養分を吸収すると美しい花が咲くと言われる種類の植物です。ライネンテには無い品種です!! わざわざ遠くから来ていただき、ありがとうございましたッ!!」


深々とドガはお辞儀をした。


大樹は枝をゆらしてメキメキと手をふるようにして枝を振った。


次の瞬間、カラフル・オークロットはテレポートで闘技場外に転送された。


ステージをいろどっていた花びらもすべて除去された。


「っとぉ!! 樹さん、お帰りになられました。残りは4名!! フレリヤ、リーチェ、レールレール、ヌーフェンだ~!!!!!!」


フレリヤは全くペースが落ちない。


リーチェは表情がだんだん苦しそうに変化してきている。


レールレールはペースは落ちたものの、まだいけそうである。


ヌーフェンは相変わらずマイペースで食べている。


フォークで丸めてスプーンにのせ、口に運ぶ。ときおりハンカチーフで口を拭った。


「ふ~む……帰ったら洗濯しなくては」


虹色に染まったハンカチを彼はテーブルに置いて一息ついた。


呆れたような目で対面したフレリヤを観察した。


もう口の周りが絵の具のようにカラフルである。レールレールもそうだ。


リーチェも行儀は悪いが、二人ほどではなかった。


「いかなる時も品格を大事にする。これ、紳士しんしたしななるや……」


彼は目を閉じるとゆっくりと食事を再開した。


その頃、ファイセルはリーリンカと二人で旅の支度をしていた。


部屋のマギ・スクリーンには大食い大会の様子が映し出されていた。


ファイセルは走り寄って画面にかじりついた。


「うっそだろッ!? これ、フレリヤと、コフォルさん……?」


スクリーンの前を占拠するファイセルにむかってリーリンカが怒鳴った。


瓶底びんぞこメガネをしていないので超美少女モードだ。


「おい、お前どけ!! 見られないだろ!!」


可愛い顔が台無しな残念な態度で、思いっきり腕を振り抜いてファイセルに命令した。


「あ、ああ……ごめん……」


ファイセルは首のチョーカーをいじりながら画面の前からどいた。


リーリンカが目を大きく見開く。


「こ……これは……フレリヤじゃないか!! それに、お前がお世話になったっていうコフォルって人……あとは知らないな……。ん? 人混みのあの綺麗な緑髪……アシェリィだろ!?」


二人は目が会うと同時にコクリと頷いて荷物を放り出してミナレートの街を走り出した。


休暇中ということもあって、人が多く、そのまま待っていたら1時間はかかる。


「あれをやる!!」


「うん!!」


二人は阿吽の呼吸で同時に黄色い薬品を飲み干した。


バチバチ・レモン・サイダーのようなスッキリした飲み心地だ。


するとあまり体術が得意でない二人の体が軽くなった。


まるで月面のような感覚で重力の呪縛を無視した。


二人はジャンプすると一斉に壁を駆け始めた。


そこにはつむじ風しか残らなかった。


会場につくとそのままふわっと飛んで、宙を浮く紅い絨毯に飛び乗った。


さすがにこの人混みで全力で走ると危険なので二人はソロリ、ソロリと歩いた。


「アシェリィはどこだろう?」


「しかしこの人混みではな……」


ふたりはゆっくり人混みをかきわけて進んだ。


「居たッ!!」


ファイセルが声を張り上げるとアシェリィたちも気づいて手を振った。


アシェリィに……ノワレちゃんにガリッツ君、フォリオ君に……あれ? あのいつものあの……無愛想な彼は?」


アシェリィは苦笑いした。


「イクセント君は、こういう人混みは嫌いなんですよ。ところで先輩、どうしてここに?」


サプレ夫妻は顔を見合わせた。


「そりゃ……君たちが映っているし、フレリヤも、コフォルさんも君たちのクラスメイトもみんな居るからだよ」


群青の制服の上に深緑の制服を着て凛々しく立つ先輩にナッガンクラスの仲間達は深くお辞儀じぎした。


「いいよお辞儀じぎなんて!! それより!!」


一方、ザティス夫妻も実質で大食い大会を見ていた。


「あ、あのぉ……男子寮への女性の連れ込みは禁止なのでは……」


「うるせぇなぁ。その指摘、何度目だよ。真面目すぎんだよおめぇは」


二人は一糸まとわぬ姿でベッドに一緒に寝ながら画面を見ていた。


「応援にいきます?」


「いいよ服着るのめんどくせーし、外はあちぃし。それより、もう一回戦だ!! こういうのはスポーツ感覚で楽しむもんだぜ!!」


「まったくしょうがない殿方とのがたですね……これで今日8回目ですよ……」


その部屋のマギ・スクリーンはすぐに消された。


シーカル広場にはミナレート中の人が集まって大混乱になった。


ドガは大きな声を上げてアナウンスした。


「このままでは広場に人が密集しすぎて危険です。そこで、運営の決定で決勝戦の会場はリジャントブイル魔術学院コロシアムへと移動します。移動を希望されない方はシーカル広場から出てください!! 引き続き観覧の方は学院へテレポートします!!」


そのため、試合を行っていた魔法学院のコロシアムに場所を移すことになった。


急遽きゅうきょ闘技場に居た選手や観客はすべて講堂に転送された。


学院の賢者達は協力して闘技場の観覧席を拡張し、シーカル広場の見物客を全員座席へと飛ばした。


同時にステージもまるまる戦いの場へ転送され、多くの観客が大食い対決を見下ろす形となった。


もちろんマギ・スクリーンも複数あって見やすさは大幅に向上した。


観客は戸惑ったがもともと大勢のオーディエンス用につくられた会場であるからして、特設会場よりこちらのほうがすごしやすかった。


ドガはホームへの帰還でリラックスして実況を再開した。


「やべーぜやべーぜファイナリスト4人!! トップはフレリヤの8956皿!! 次、レールレール7856枚!! 次いでリーチェが6554枚!! ラストにヌーフェンが4875皿だーーーーーーーーーーッッッ!!」


「そろそろみんな苦しくなってきている!? いや、まだ止まらない~~~!!!」

フレリヤのペースはまったく落ちない。ガバガバとパスタを飲み込んでいる。


レールレールは苦しそうだ。


「俺の……胃袋は……ユニバース……」


リーチェは限界が近かった。やがて髪の毛の絨毯じゅうたんはゆっくり地表に降下した。


髪が地に着くと彼女は手を上げて宣言した。


「ギブアップです。美味しかった……」


リーチェは恍惚こうこつの表情を浮かべていた。


シュルシュルと自力で真紅の髪の毛を巻き取るとスタッフの誘導でステージすそへとはけていった。


「あ~~~~~っとぉ!! リーチェ選手、ギブアップだ~!!!!!! 成績は……6852皿!! 繰り返します。リーチェさんギブアップーーーーーーー!!!!」


ナッガンクラスの面々は落胆した。だがまだレールレールが残っている。


「さてさて、残るはフレリヤ、レールレール、ヌーフェンの3名!! みんなおめでとう!! この時点でTOP3が確定だ!! だけど決着はまだつかない!! こっからが正念場しょうねんばだ!! みんな頑張って!!」


ドガは熱く拳を握りしめた。額には大汗をかいている。


そんな中、ステージに動きがあった。


「フレリヤ、ぶっちぎり、ぶっちぎりだぁ~~~!!!!! 10000!!!! 10000!!!! なんと一万皿をえた~~~~~!!! にもかかわらず、勢いが止まらない~~~~ッッッ!!!!! 化物か~~~!?」


フレリヤは相変わらずニコニコ笑いながらパスタを口に放り込んでいる。


その幸せそうな様子はまるで愛玩動物あいがんどうぶつがエサを無邪気にむさぼっているようにも見えて、会場は驚きと同時に和んだ。


次の皿が用意されるのを待てず、退場したリーチェのテーブルに並べてある予備の皿を立ち上がってパクパクと飲むように食べはじめた。


「うんまぁ~い!! やっぱちゃんとした料理は最高だなぁ!! 何がライネンテ海軍レーションだよ!!」


フレリヤはハイテンションでステージ外のフィールドを走り出した。あまりにも早くで目で追えない。


学院の生徒と腕利きにだけは動きを捉えることができた。


かとおもうとピッタリと止まってゆっくり月日輪廻げつじつりんねの演武を始めたではないか。


珍しい型に見惚みほれるものが続出した。


同時刻、イクセントは家で大会の様子をマギ・スクリーンで見ながら流れる涙を止めることが出来なかった。


「うっ……うう……っ。ひぐっ……えぐっ……パルフィー……パルフィー……」


シャリラは黙っていたが、手に握られたハンカチはビショビショだった。


彼女ははすすり泣くイクセントの肩を後ろから優しく抱き、一緒になって泣いた。


イクセントの手にはノットラント希銀きぎんのペンタントが優しく握られていた。


中には少量の水が入っていて、水はまるで生きているかのように揺れた。


そして膝の上には美しい装飾のなされた品のある剣が置かれ、彼はそれを強く握った。


会場はますますテンションアップし、盛り上がりを隠せない。


「あーっとフレリヤ選手!! とてもごきげんです!! これはもう異次元すぎてあいた口が塞がらない!!」


フレリヤは演武えんぶをおえるとまたガブガブと虹色パスタを食べだした。


彼女はテーブルに置かれた料理をあっという間に食べてしまう。


もちろん料理人も運ぶスタッフも全力で取り組んでいるのだが、このペースに追いついて提供するのは厳しいものがあった。


フレリヤは待ちきれず、虹色パスタがたまっているヌーフェンに目をつけた。


「あんた、テーブルの上のパスタ食わないのか? あたしにちょうだいよ!!」


少しあきた顔をしたヌーフェンだったが、あまりに無垢むくな笑みに負けた。


「どうぞ。好きなだけ食べると良い」


「わーい!」


フレリヤは早速、彼の脇に移動して手当たり次第にパスタを食べ始めた。


「うわああああぁぁぁ!!!! お腹いっぱい!! 百人力だぁぁ!!!! こんなにお腹が一杯になったの、いつぶりだろう!?」


フレリヤはピョコンピョコンとステージの上でジャンプした。


「ル~ンル~ンル~ン♪」


鼻歌交はなうたまじりの彼女は恐るべき馬力でフィールド中をね回った。


まるでピンボールのようにマジックバリアに衝突しながら縦横無尽に高速移動している。


もし、これをシーカル広場でやっていたら間違いなく死人が出るだろう。


マジックバリアに弾かれて衝撃は緩和されたが、あまりのパワーにコロシアムが地震のように揺れた。


ここまでの衝撃はエルダークラスのぶつかり合いでもなかなか無い。


ヌーフェンはフレリヤが空中に巻き上げたイスに座ったままエレガンスにパスタを食べていた。


レールレールも負けじと宙のテーブルにかじりつくように踏ん張った。


「ま~だだよっ!!」


フレリヤはニコニコ笑いながらねては喰い、ねて喰うを繰り返していた。


この時、レールレールはその桁外けたはずれのパワーに唖然あぜんとした。


(このレディ……ソ・マイティ……)


グラグラと建物が揺れて怖がるものも居たが、エキサイトしていてやがて誰も気にしなくなった。


リジャントブイルの闘技場は更に興奮のるつぼと化していった。



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