(あ~もう滅茶苦茶だよぉ……)
シーカル広場のフィーファン撒糧記念祭もいよいよ最終局面の3ラウンド目を迎えていた。
「はーい!! ミーアスアスちゃんよぉ~。決勝に突破した皆、よく頑張りました!! ここまで残れただけでも誇っていいよ。上位3位までを入賞とするけど、決勝のファイナリスト達には食戦士バッジをプレゼントします!! これをつけて飲食店に入ると何と料理の値段が7割引で食べられるという食いしんぼにはたまらないバッジだよ!!」
彼女はバッチを手にとって手を上げてそれを天高くかざした。
マギ・スクリーンがそれをアップで映し出した。
フォークとナイフが交差した意匠で、金色に輝いている。
「どう? カッコいいっしょ!? ちなみに高級料亭とかでも使えるかんね。本人のみが使用可能でーす。そして気になるTOP3の人たちにはプラチナ食戦士バッジをあげます。これは割引じゃなくて食べ放題ね。しかも全世界の飲食店で料理がタダで食べ放題という欲張りバッジです!!」
観客達は大きくざわめいた。タダで好きなもの食べ放題と言われればそれは心惹かれるだろう。
「そ~し~て~!! 撒糧のフィーファン氏の全身像が送られます!! 1位は金、2位は銀、3位は銅です」
ミーアスアスは白い手袋をすると金色の像を持ち上げた。
像はそれほど大きいものではなく、ビールの瓶程度の大きさだった。これなら片手で持ち運ぶことが可能だ。
フィーファン像はクルクル左右の髪をカールさせて、長いヒゲをたくわえていた。
身なりもよく、いかにも富豪といった感じである。
「立派な像でしょ~。おっさんの像だからって捨てちゃダメだぞ!! ちなみにここだけの話、金の像は闇オークションに流すと1500万シエールはくだらないらしいぞ!! こんな名誉ある像、売るなよ!? 絶対売るなよ!?」
ミーアスアスは強く念を押した。
「じゃあお次。残った8人のファイナリスト達の自己紹介です。まぁ軽くでいいんだけど。でも”なんでそんなに食べられるのか”ってのは皆気になるよね。その説明をしてもらおうかな。じゃあみんな横に並んで~」
出場者がぞろぞろと特設ステージに上っていく。
だが一名だけ壇上に上がれなかった。
それもそのはず、大きな枯れ樹がやってきたのである。
その樹は最初から異様なまでに目立っていた。
「あー、あの人……人? はテーブルにはつけないね~。地べたで食べてもらいま~す」
大きな樹はゆっくりと根を動かして参加位置に着いた。
「じゃあ、自己紹介をはじめよっか。1位から8位まで順に聞いていきます。まずは一位で抜けた……え~っと、名前がわからないです」
そいつには謎の光る球体に2つの目がついていた。
球体の内部は輝いており、昼間でも眩しく、そして美しくみえた。
ミナレートは港町だけあって時々こういう異様な妖精のようなものまで歩いていることがある。
もしこれが夜道を歩いていたら目立つこと極まりないだろう。
「え、えっと……お名前は?」
司会は眩しさのあまり目を細めた。
「…………………………………………」
「あ、あのぉ……」
「…………………………………………」
ミーアスアスは声を張り上げた。
「あのぉ!!」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
司会はインタヴューをあきらめた。
「ダメみたいですね。でも仮に名前を付けておかないと呼びにくいので~……そうですね、ピカピカさんとかでいいですかね?」
「…………………………………………」
「は、はい!! ピカピカさんでした。次に行きましょう!! 次はそっちのおっきな樹さんです。では自己紹介してね~」
「…………………………………………」
「あ、あのぉ……」
「…………………………………………」
ミーアスアスはうなだれた。
「ですよね~!! きっと喋れないと思いました。じゃあこの樹はまんま樹さんでいいでしょう!!」
彼女は機嫌を少しそこねてやや投げやりだ。
「はい。じゃあ次!!」
非常に長身の女性が前に出た。帽子を深く被っていて、目元は見えない。
爆裂ナイスバディで会場の男性陣は彼女に釘付けになった。
「あたしはフレリヤ!! 寒い所からきたぜ!! 今回、タダで大食いできるからってこのお祭にきたんだ。美味しい料理ばっかでもう最高だよ。まだ決勝が残ってるっていうから楽しみだよ!!」
女性は快活に答えた。まともな応答が帰ってきてミーアスアスは機嫌を戻した。
「おお、やっと話の通じる人が!! 楽しんでくれているようで結構結構!! では、なぜ大食い出来るようになったのですか?」
ミーアスアスはマイクを彼女に近づけた。
「ん~。よくわかんないなぁ。昔っからとにかく食べるのが好きで。何が原因かはわかんないや」
それを聞いていたアシェリィは観覧席から思わず立ち上がった。
「どうしましたのアシェリィ?」
彼女は目をまん丸にして驚愕した。
「フレリヤがなんでここに!? まさかこんなところに出てくるなんて!!」
アシェリィは彼女を心配した。
指名手配のついた人物がこんな人目につくのは危険だと思ったからだ。
顔を隠して入るとは言え、彼女もかなり目立つ。ただ、彼女には専属の護衛がいる。
慎重派のボルカの事だ。腕の立つ護衛を雇っているはずだ。
アシェリィは大丈夫だろうと一抹の不安を抱えながらも席に座った。
「お知り合い? 今度、一緒にお茶でもしてみたいですわね」
ノワレは水色にキラキラ光る髪をとかしながら微笑んだ。
「う、うん。そのうちね……」
あまり気乗りではない。フレリヤを出来るだけ内緒にしておきたかったからだ。
もしかして余計な杞憂なのかもしれないとアシェリィは思った。
一息して心を落ち着けると、フレリヤを応援したい気持ちが沸き上がってきた。
ナッガンクラスに加えて友達が参加者になった事になれば盛り上がりも上がるというものである。
アシェリィはマギ・スクリーンに釘付けになった。
「じゃあ次の人~」
毛むくじゃらの巨体がフレリヤのとなりに並んでいる。
真っ白で長い毛をして、風船のような丸く膨らんだお腹の亜人だった。
肥満体型の雪男といったところだろうか。
彼はボンボンとお腹を大きな両手で叩いた。
「おいらゾンゾ。大食いできる理由は僕もよくわかんないなぁ。体がおっきいからじゃないの?」
彼は動きは遅いが、口がとても大きい。丸呑みにするのが得意技のようだった。
「ここはあちいだな~。広場は涼しいからベストをつくせるんだな~。お腹いっぱいになったら、ノットラントに帰るんだな~」
ゾンゾを見ていたフレリヤは激しく食欲をそそられた。
なぜならそのゲゾゲゾ族の人たちをかつて彼女は狩りの対象にしていたからだ。
ゲゾゲゾ族の肉はとても美味でボリューミーだ。
尋常でない量の食料を消費するロンテール族にとっては格好の標的だったのだ。
かなり大量に狩猟されていたが、ロンテール族が減るにつれて絶滅寸前の状態から生き延びた。
今はノットラント北東部に多く生息する亜人である。
「は~い。ゾンゾさんありがとうございました~。ではではお次! おやおや。これはこれは可愛い女の子ですね。名前は何ていうのかな~?」
「ポポノンっていいます。12歳になります。趣味はやっぱ食べることですかね。三度の飯より食べることが好きです!!」
会場はどっと笑いに包まれた。
「うまいこというね~。ちなみにどうして大食いできるのかな?」
ポポノンは体の全体をさすった。
「わたし、体中に胃がいくつもあるんです。しかもそれはかなり膨れるので食べていくに連れて体中がプックリとふくらんでしていくんです。そこの雪男さん並におっきくなります」
ゾンゾ族の半分にも満たない少女がそこまで膨れるとは誰も想像がつかなかった。
胃の消化も速いらしく、今はなんの変哲もないように思える。
本当にそんなに膨れるものなのだろうか? と皆は思った。
「ふ~ん。胃が一杯あるなんて、ラグ・ビーフみたいだね。あなたがパンパンに膨れるのはちょっとお姉さん見たくないかな。でも頑張って!!」
ミーアスアスはかがみながらガッツポーズを取ってみせた。
体勢をかえて背を伸ばすと次の選手に向けて歩き、マイクをかざした。
「リーチェ……さんですね?」
司会はマギ・マイクを彼女へと近づけた。
「あたし、リーチェって言います。大食いの理由はもうわかったかと思いますが、あたしの魔術は髪の毛が伸びるんです」
そういって彼女は美しい赤髪をとかした。もう既にステージの床に髪の毛が垂れていた。
「おー!! ほんとに綺麗な髪ですね~。でも長いと大変じゃありません?」
リーチェは首を横に振った。
「いいえ。これ、髪の毛をお団子にして鉄球みたいに使ったり、頭を振り回すムチとか、遠距離の敵を刺すとかいろいろ応用が効くんです」
ミーアスアスは驚いた。
「へー、きれいなだけじゃないんですね~!! 美しい薔薇には棘があるってとこですね。はい。ではお次にいきましょう」
ミーアスアスはまたとなりに移動した。
隣の男性は目立つ格好をしていた。
淡い紅のとんがり帽子に腰にはレイピアをさしている。
体中にポケットやらパックやらがついており、見るからに冒険者だ。
アシェリィはその見た目に覚えがあった。
「あっ!! 確か、あの人は私がカロルリーチェちゃんと間違われて追われてる時に見逃してくれた人だ!! その前はシリル大爆発の危機の犯人、郵爆のボーンザを捕まえるのに助けてくれた人だ!!」
アシェリィはあ再び席を立った!!」
ノワレが驚く。
「まぁ。またお知り合いですの? 顔が広いですのね……」
ノワレはフフフと声に出して笑った。
マイクを向けられて顔をあげるとキツネ顔で地味な茶髪をした。キツネ顔の男だ。
「私はヌーフェン・オルバッセ。大食いの動機? 普段は少食なんだが、たまにはストレス発散に腹いっぱい食べてみたくなってね。ついついミナレートまで来てしまったよ」
男はかるく微笑んだ。
アシェリィの頭には疑問符が出てきた。
名前が違う気がするのである。確かネスラと名乗っていた気がする。
シリルの危機を救った時とも名前が違う。
アシェリィは首をかしげながらすわった。
(確かMDTF……ライネンテの魔術研究最高峰の魔術局所属……それも役職がエージェントだからすっごい強いはず。特に足は滅茶苦茶速かったな……。100m走るで言ったら3秒ジャストくらいの速さだったはず。マナボードでも追いつけないよ……)
「ま、楽しくやるさ」
ネスラ……いや、ヌーフェンはまた軽く笑った。
「はーい!! ではラストの滑り込み選手ゥ~。レールレール選手です。
マギ・マイクを向けられると長身の栗毛色の髪の大男は答えた。
「大食いは……ドリーム」
彼は一言だけそういった。
「あ、あのぉ……。威圧感のある大男をミーアスアスは見上げた。
レールレールはマギ・マイクを寄こせとばかりに手を差し出した。
「は、はい」
ミーアスアスはそれを手渡すと大男はしゃべりだした
「俺が大食いになった理由……。俺は幼少の頃は大食いではなかった。だが、飲酒が出来る歳になるとありとあらゆる酒を飲みまくった。すると胃がコーティングされたのか、自然と大食いになっていった。ちなみに強烈な毒でなければ食べても死にはしない」
そういえばこの間の毒を見分ける授業で手当たり次第、物を食っていた気がする。
「ちなみに家にはワイナリーや酒樽、酒の棚もある。無論、アルコールで人に迷惑をかけるやつはクズだ。俺はそういうケジメはつけるんでな」
ミーアスアスは考えを改めた。口数が少ない変人だとおもったのだ。
だが、ちゃんと喋ることには喋れるし、はっきりと自分の意志を主張できるのだ。
「大食いは……ユニバース……」
レールレールはそう言ってマギ・マイクを戻した。
「さぁ、それでは、各々が席についてください!!」
たまたまリーチェとレールレールは隣席だった。
「あんた、やるじゃん。見直したよ」
「お前も……スマート」
二人はがっしりと握手すると席に座った。
「それではーッ!! フィーファン撒糧記念祭の決勝ラウンドの料理を発表だぁ!! ラストのメニューはッ!!」




