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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
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長期休暇前の締めくくりとは

アシェリィ達が入学してから満月クラゲの月、巨大怪鳥の月が終わり、そして鼠閣下の月も終わった。


そして今は裏赤山猫の月の終盤にさしかかっていた。


本来、裏赤山猫の月と裏亀竜の月、リジャントブイルは二ヶ月の長期休暇に入ることになっている。


ただ、一年生は慣らしのために長期休暇は一ヶ月間となっていた。


その為、今は裏赤山猫の月末であるが、講義は続いている。


長期休暇まであとちょっとというところである。


学生にとって長期休暇は羽を伸ばす良い機会だ。


ただ、ここでは割と学院生活をエンジョイしている学生が多いので、講義が休講になるのを惜しむ生徒もいる。


講義こそなくなるものの、選択制の実習や、課外研修、社会科見学なども豊富に取り揃えられていた。


もちろん帰郷する者もいるが、寮ぐらしの生徒は都会にとどまって派手な生活を送ったりもする。


他のことそっちのけで学院の闘技場に入り浸るものも居たりする。


アシェリィはというとぼんやりと帰郷する事くらいしか予定を立てておらず、具体的になにか目標があるわけでもなかった。


学院に来るまでは大変な大冒険だったが、ドラゴンバッケージ便を使えば話は別だ。


ミナレートからシリルの最寄り駅であるセーシルへ。


シリルから更に南下すれば故郷のアルマ村がある。


この行程は片道3日といったところだろうか。


割と手軽で、帰郷してゆっくりしたとしても時間が余るスケジュールだ。


彼女は頬杖をついて窓の外のきらめく海を眺めていた。


そんな時、けたたましい声を張り上げてカルナが教室に入り込んできた。


ちょうど帰宅時の時間帯でほとんどのクラスメイトが教室に居た。


なんだなんだと彼らは走り込んできた彼女に注目した。


「これは面白い物を見つけたアル!! 長期休暇前の学業の締めくくりアルよ!!」


彼女は教卓に登るとダンッと黒板にチラシを叩き付けた。


撒糧さんりょうのフィーファン記念祭 大食いコンテスト開催!!”

そう書かれた張り紙を彼女は掲示した。


「概要を読み上げるアル。昔、貧しい人々に食糧を振る舞ったフィーファンという男がいたらしいアル。飢えに苦しんでいた人はこれに喜んでお腹がパンパンになるまで大食いしたという記録がのこっているアル。そして彼には撒糧さんりょうの二つ名がついたアル。これはそれにちなんだお祭りで、シーカル広場で大食い大会が開催されるというわけなのでアルよ!!」


教室はしばらく沈黙に包まれたが、すぐにあちこちで雑談が起こった。


カルナは平たい胸を張って前にでた。


「も・ち・ろ・ん!! 言い出しっぺの私は参加するアルよ!! お腹パンパンになるまで食べるアル!!」


もはや大食い大会がどうこうというよりはタダでお腹いっぱい食べたいという魂胆が丸見えだった。


だがその彼女らしさに思わずクラスメイト達からは笑みが飛んだ。


「さぁさぁ!! 我こそはと思うものは挙手するアル!! 誰かが勝てばそれでよし!! これはクラスの名誉を賭けた戦いでもあるアル!! さぁ、どうアルか?」


「フン、バカバカしい。勝手にやってろ」


ボソッっと班員に聞こえるくらいの声でイクセントがぼやいた。


それが耳に入ったのか、水をさされたカルナは至って冷静に返した。


「別に興味がある人だけ参加、来場してくれればいいアルよ。参加を強制するものでは無いことは付け加えておくアル」


「フン……くだらん……」


イクセントはそっぽを向いて窓の外の海の方を眺めた。


彼がこんな感じなのは平常運転だったのでこのやりとりに関しては誰も気にせず話は進んだ。


「うフふ……。わタし、デよウかシら?」


スララが真っ先に手を上げるとクラスメイト達はギョッとした。


彼女は悪魔のエ・Gを体内で飼っている。


そのため、大食いというか食べ物を飲むレベルで消化していく身体だからだ。


スララが出場するなら間違いなく勝ち目は無かった。


「うフふ……じョうダんよ……。わタしはデなイわ。しョうブをタのシんでチょウだイ……」


彼女はニコニコしながら上げた手を下ろした。


「おし、ほんじゃ私はいくぞ~!!」


入れ替わりにクラス女子屈指の切り込み隊長であり、盛り上げ役であるクラティスが手を上げた。


「うーし、じゃあ俺も行こうじゃねぇか。普段からそれなりに量は喰うぜぇ」


タコの亜人のニュルが手だか足だかをニュルニュルと挙げた。


「おもしろそーだねー!! わたしも出るよ~!!」


同じ班の花火女子、カークスも元気いっぱい宣言した。


彼女もこういったお祭りごとは好きなたちである。


意外な人物も参加表明してきていた。


「大食いはファンタジー……俺も参加しよう」


独特の物言いでいつも読書に耽っているレールレールが名乗りを上げた。


おー、なんだか面白そうじゃん!! 私もガッツリ行く派としては黙っていられないな」


赤髪のリーチェが髪をとかしながら立候補した。


その直後、ガリッツがバチンバチンと顔の前で真っ赤なハサミを打ち付けた。


どうやら参加の意志を表明しているらしい。


ここで一旦、手を挙げる流れは止まった。


しかし、男子の間を「優勝すればモテるのではないか?」という話題が突如として行き交った。


それを聞いていて黙っていられなかったのはガンと田吾作たごさくである。


ガンはレーネに、田吾作たごさくはノワレに熱をあげていたので、モテるという言葉に過剰反応した。


「よ、よ~し、それなら俺も出るっすよ!!」


ガンは「果たして大食いでモテるのか?」という疑問を持ちながらもチャレンジ精神を発揮して声をあげた。


「おおお、おらも参加するだなや。や、野菜ならいくらでも食えるべぇ」


こちらも半ば流される感じでの参加表明となったが、本人はそれなりに本気のようである。


それ以降、誰も立候補する者はいなかった。


「よ~し、それでこそ誇り高き我がクラス代表アル!! 参加者はあたし、クラティス、ニュル、カークス、レールレール、リーチェ、ガリッツ、ガン、田吾作たごさくの九名がの参加でいいアルね!!」


彼女のその宣言と共に各班員達の間で会話が盛り上がった。


「ガリッツ君出るの!? 確かに結構食べる方ではあると思うけど、大食いが務まるのかなぁ……?」


アシェリィは顎に指を当てて懐疑的な姿勢をとった。


「ま、同じチームのよしみで応援して差し上げます。カブトムシザリガニ、出るからには勝つんですのよ!!」


相変わらず酷い言い様だがガリッツはまんざらでも無さげである。


「ぼぼぼぼぼぼ、ぼくも、せせせせせ、せいいっぱい、おおおおおお、おうえんするから!!!!」


イクセントは椅子に座ったまま窓の外を眺めているままだ。


ここで彼に声をかけることも出来たが、どうせ煙たがられて終わりだろうとアシェリィは何も言わなかった。


彼は乗り気な時でないと反応してくれなかったりする。


まるでその態度はライネン猫のようなツンデレを思わせる。


もっとも、ツンの要素が強すぎてキツいなと感じることもしょっちゅうなのだが。


アシェリィとしてはきっとそのうち、ノワレと同じように心を開いてくれると信じており、おらかな態度で接することにしている。


幸い、かつてのシャルノワーレほど傲慢なわけでもなく、無いなりに協調性もあるので困ることはあまりない。


そのため、あまり目くじらを立てる必要がなかったのだ。


時には班長として強く出るべきかなと思うときもあるのだが、きっと怒っても彼はするりとすり抜けていってしまうだろう。


今やガリッツのほうが協力的ではないかとさえ思えてくる。


もちろん彼にも問題点が多いが、最近は意思疎通が少しずつ出来てきているように感じられた。


真っ赤なハサミを振り回して、物騒ではあるが自分達の応援を素直に喜んでいる。


それにしっかり自己主張してくるようになった。


まさか彼が大食いコンテストに自発的に出るとは班員達は思っても見なかったのである。


彼はやる気ありとばかりに真っ赤なハサミをバチンバチン言わせた。


クラスが解散しかけた時だった。


カルネは再び教卓に登って連絡事項を伝えた。


「あ~っと。言い忘れたアル。大食いコンテストの参加は三日後、裏赤山猫の月の28日の祝日アル。学院の講義は休みなので是非、皆、シーカル広場に応援に来て欲しいアル!!」


こうして大食いコンテストの参加者は決まった。


果たしてクラスメイトから優勝者は出るのだろうか。


参加する者も、見る者も共に三日後の撒糧さんりょうのフィーファン記念祭が楽しみになるのだった。


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