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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
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もう雑草はいいです

今日はサバイバル学の講義をやっていた。


酷く細身のシュルム教授が解説を始める。


「えーっとですね。手を加えれば口にすることの出来る野草も多々ありますが、危険が迫っていて、そんなことを言っていられないというケースもままあります。そういう時はそのまま食べられるかどうかを見た目や香り、触感などで判断する必要があります。サバイバル術の基本でもありますね。それでは……」


彼がパチンと指を鳴らすと教室中が森林のフィールドに変化した。


木漏れ日さす森の中で、怪しい色の草木だけでなく、コケやキノコまで生えている。


「仮想空間で生み出された植物類なので、食べても死んだりすることはありませんが、症状は再現されます。もちろん誤って食べると死ぬほど苦しいものもあるので覚悟して挑むように。班ごとに分かれて教科書片手に毒がないものを5種類以上、生で食べること。これが今日の講義内容です」


なんだか日に日に講義の内容が高度かつハードになってきている気がするが、どれも実践的である。


どれもいざという時に役立つ知識やスキルばかりだった。


早速、班ごとに分かれて辺りを探索し始める。


必死になって教科書と見比べているとノワレが得意げな顔をしてやってきた。


「ふふん。皆様お先に。わたくし、エルフですからこういった森林の植物の知識には長けておりますの。もう既に5種類口にしましたのよ。あなた方に教えてもいいのですけれど、それではあなた方のためにならないですわ。どうかご自分でお探しになってくださいな」


クラスメイト達から歓声が上がった。


「フン。嫌味くさいところは相変わらずだな」


イクセントはその態度に不満げにため息を漏らした。


「まぁまぁ。イクセント君、私達は地道に探そうよ」


「チッ……」


彼はそっぽをむいて教科書片手に腕を組んだ。


どうもイクセントは相変わらずノワレの事が気に食わないらしい。


確かに心を入れ替えたからと言って全くの別人になるでもないし、しょうがないところではあるのだが。


ノワレ以外は慎重に野草やキノコを選んでいたが、一歩前に出るものは班員には居なかった。


皆、割と慎重派な性格だからだろうか。


いつまでもこうしているわけにはいかないのでアシェリィは勇気を振り絞って紫色の草を手にとった。


薬草辞典とそれを何度か見比べる。


「ムラサキアオバに似てるかな……。匂いは青臭くて、表面はザラザラしてる……。薬効もないけど、毒も無し……か」


アシェリィは紫色した雑草をパクリと食べた。


鼻をつくような青臭さとピリピリとした苦味が舌を刺激する。


「うわっ!! 不味まずッ!!」


だが食べきらないと食べた種類にカウントされない。


アシェリィは口を手で覆いながら何とか怪しげな雑草を完食した。


不味まずいがどうやら無害、無毒のようである。


飢えでどうしようもない時などに役に立ちそうな、そうでもないような草である。


それを端から見ていた数名が同じ草を手にとって食べ始めた。


彼らもその味の悪さに体を震わせていた。


誰かを毒味に使うというのは正々堂々とはしていないが、賢いやり方ではあった。


「フン。こんなの自力でどうにかすべきだろう。気に食わんな」


イクセントは這い回った末に拾い上げたキノコを辞典と照らし合わせた。


「ポイズマたけ……。模様は派手で毒々しいが、食用として美味。無毒無害……。これだな」


彼は臆すること無く手にとった手のひら大の黒地にピンクまだらのキノコを生のまま食べた。


その様子を一部のクラスメイト達は見ていた。その食いっぷりに感心する者もいた。


「ふぅ……まずまずだな」


イクセントはキノコを食べ終わると手の背で口を拭った。


「おぉーーー!!」


一部から歓声が上がった。


これを境に野草やキノコに果敢に挑戦するものが出始めた。


「おぉ。イクセント君やるね!! えっと、そのポイズマたけはどんな味だった?」


彼は立ち上がって膝の土を落とすとアシェリィに聞き返した。


「ムラサキアオバはどうだった? 交換条件で教えてやる」


アシェリィは頬に指を当てて目線を泳がせた。


「えっとね……青臭くて苦いかな。まだ舌がピリピリするよ……」


イクセントは無言のまま首を縦に振った。そしてポイズマ茸をこちらに投げてきた。


「うわっと!!」


何とかアシェリィはそれをキャッチした。


「それは……そうだな。焼いたら美味うまいんじゃないか。生だとエグみが強い。が、決して不味まずくはないだろう」


「あ……ありがとう!!」


イクセントはまた野草とキノコを漁り始めた。


「こんなアホらしい事、いつまでもやってないでさっさと終わらせるぞ。くれぐれも”地雷”には引っかからないようには注意するんだな」


これではまるでイクセントがリーダーのようである。


アシェリィは気を引き締めて負けじと探索を再開した。


課題が終わった者たちは既に座席についていた。高みの見物といったところだろうか。


現在終わっているのはノワレ、ミラニャン、スララ、ドク、はっぱちゃん、田吾作、グスモの六名だった。


ノワレはエルフ故の植物への知識で上手く種類を判別したようだった。


ミラニャンは料理の知識から食材になりそうなものを選んで難を逃れていた。


スララに関しては契約している悪魔、エ・Gには毒の類は一切効かない。


そこらへんにある植物を適当に食べるだけでクリア出来たのだろう。


ドクは医者としてこの手の知識に関しては造詣が深いようだった。


はっぱちゃんも自身が植物の亜人だけあって、植物を知り尽くしていた。


田吾作は野菜専門と思いきや、植物つながりの直感で何とかなったらしい。


グスモは罠師なので、毒のある植物を取り除きながらクリアしたのだろう。


アシェリィ達の班はアシェリィとイクセントが率先して怪しい草木やキノコを食べていった。


勇気があるというのか、怖いもの知らずというのか、二人のそういうところは似ていたりする。


まぁイクセントの方は「勇猛と無鉄砲は違う」とはっきり言いそうではあるが。


フォリオは恐る恐る二人の後を追うように草木やキノコを食べていった。


彼の場合は慎重派というよりはビビりで、フライトクラブで揉まれても未だに臆病風が抜けなかった。


ガリッツはというと物凄い勢いで真っ赤な泡を拭いていた。そしてピクリとも動かない。


「イ……イクセント君、あれ、まずいんじゃ……」


少年剣士はわしゃわしゃと片手で頭を掻いた。


「あいつ、変なもの喰ったな。まずいが、あんな化物の身体の構造なんて僕らにはわからん。放って置くしか無いだろう」


彼は大きくため息をついて首を左右に振った。


まるで死亡を告げる医師のようなリアクションである。


シュルム教授が教室に声をかけた。


「あ~、最初にも言ったとおり、ここで発生する毒の症状はあくまで仮想空間のものです。ですので、中毒を起こしているように見えてもそのうち回復します。気にせず続けるように」


ガリッツの様子を見て、アシェリィとイクセントは急に石橋を叩いて渡る姿勢になった。


どう考えてもカブトムシザリガリが苦しそうに見えたからである。


そうこうしているうちに別の班で異常が発生した。


「はははは!!!! ふふふふ!!!! たのしーーーーーーー!!!!!」


「くくくく!!!! たまんねぇなぁ!! 愉快で愉快でよぉ!! ガハハハハハ!!!!」


「あははははあは!!!!!! ヒーッ!! 拙者も、拙者もなんだか、アーハハハハハハッ!!!!」


四班の面々が狂ったように笑いだしたのである。


アシェリィは植物辞典をパラリパラリとめくった。


「あれは……ラフィング・ファンガス……!! 笑いたけに集団感染したんだ!! っていうか笑いたけなんて実在したんだ……」


田吾作たごさくはあちゃーとばかりに額に手を当てた。


「おらが一足先に抜けたのがまずかったんでよ……。あ~、見てらんねべ……」


もう一方でもトラブルが発生した。


「ガン!! 迂闊に進むとキノコにやられるぞ!!」


「平気平気。食べなきゃ大丈夫だろ……むわっ!?」


真っ黄色のガスが五班を覆った。


イクセントがそちらを向く。ぺらりぺらりと辞典をめくってそれらしいキノコを特定した。


「あれは……ナップ・シュルーム……通称ネムリタケか!!」


ガスが引くと残った五班の面々が眠りこけていた。


グスモは肩をすくめた。


「ありゃりゃ。いかんでやんすね。あっしも残るべきでやんした……」


残るのはアシェリィたちの一班と百虎丸びゃっこまるの二班の、クラティスたち三班の一部だけとなった。


今まであまりにも無謀に進んでいたことに警戒し、アシェリィとイクセントは屈んで地面を這うように注意を巡らせて探索を続けた。


「こここここっ、これ。こここここのキノコ、ぼぼぼぼくの故郷でよく食べてたキノコだよ。ままままま、間違いない」


二人の後を着いてきていたフォリオがキノコを拾い上げてパクリと食べた。


あまりにも躊躇無く食べたので二人はびっくりしたが、本人の言う通り、確かに食べても問題無さそうである。


フォリオの意外なお手柄であった。


これであと残り2種類の草木やキノコを食べればで課題が終りとなる。なんとハードな課題なのだろうか。


思わずアシェリィ達は汗ばんでいた。


ほふくに近い姿勢になりながら手元の草と辞典とを照らし合わせる。


「私はなんとなくだけど、きのこ類怖いからこのヘビヨセ草を食べるよ。本当に何でもない、ただの雑草だけど」


イクセントも手元を漁って見つかったキノコを拾い上げて仰向けになり、辞典を読んでいた。


「ならば、僕はこのポノポ・キノコを食べる。どうせなら美味いものを食いたいんでな」


二人は同時に雑草とキノコを口にした。


「この雑草、まっず!!」


「不味いキノコだ……」


二人はそれぞれ自分の体をペタペタ触った。


気分が悪いなどでもなく、毒などの異常はどこにもないようである。


また同じように互いが食べた草とキノコを投げあい、課題をクリアした。


「うっ……吐き気が……ふぅ……。終わったね……。もう雑草は食べたくないや」


「フッ。まったくだ。こんな思いを実戦でしたくないものだな」


「まままままま、まずい……」


今回の講義では先抜けのメンバーを除くと一班、ニ班、三班が目標を達成することが出来た。


それなりに腕に自身がある生徒たちが揃っていても突破出来ないものもあって、緊迫感ある日々の講義が続いていた。


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