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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
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好きで殺っているわけじゃない

イクセントの姉、シャリラ・ハルシオーネはマーケットでの食材の買い出しを終え、家路を歩いていた。


メインストリートに沿って家まで行くルートが人気が多く無難だが、裏路地を通るルートもある。


「今日は近道しましょ♪」


そうつぶやきながら彼女は薄暗い裏路地へと足を踏み入れた。


そこは、ほの暗く、人気はまったくなかった。周囲の建物も薄汚れた貧相なもので大通りとは大違いだ。


「なんだかこんな感じの路地っておちつくのよね……私の家もこんな感じだし」


片手に食材の入った黄土色の紙の買い物袋を抱え、シャリラはどんどん路地の深部へと潜っていく。


一番入り組んだ場所まで到達して、そこから家を目指せば最短ルートというわけだ。


順調に路地を歩いているとガラの悪そうな男たちが路地の左右に立っていた。


怪訝な表情をしてシャリラが男たちの間を通り抜けようとすると、ふいに彼等が道を塞いだ。


「嬢ちゃん。そんな可愛い顔して何やったかは知らねぇが、死んでもらうぜ」


唐突なの殺害宣言である。だがシャリラは顔色一つ変えない。


男たちは揃って武装し始めた。装備の種類から察するに暗殺者アサシンである。


「な、なんのこと? 私、殺されるような事、身に覚えはないわ。何かの間違いじゃない?」


まるでこんなやりとりが日常茶飯事と言わんばかりに彼女は沈着冷静だった。


彼等は気味の悪い笑みを浮かべてそれぞれ取り出した得物をもてあそんだ。


「誰に頼まれたかは言えねぇが、とにかくお嬢ちゃんを殺れば300万シエールもらえるんだとよ!! 気の毒だが、狙われるようなことをするのが悪いよなぁ!? 心配するなよ。たっぷり可愛がってから殺ってやる―――かはぁッ!!!!」


ダガーを持ち、喋っていた男は次の瞬間、何かで脳天を撃ち抜かれてあっという間に絶命した。


「馬鹿な人。ペラペラ喋る暗殺者アサシンなんて三下だって相場が決まってるじゃない……のッ!!」


相手の打ち込んできた吹き矢をシャリラは鮮やかな片腕の側転でひらりとかわした。


回避すると同時にまたもや何かを打ち込む。


「ビシュンッ!!」


「う、うあ……う……あ……」


今度は別の男の胸を貫いて撃ち抜いた。敵は膝をついてそのまま苦しみの表情を浮かべながら倒れ込んだ。


彼女は片手に買い物袋を抱えたまま戦っていた。袋の中身は一切こぼれていない。


海岸オレンジや夏日リンゴなど転がりやすいものも入っていたが、何一つ袋から落とさず戦っている。


「や、野郎!! マジでやりやがったな!! こんな街中で殺ったらどうなるかわかってんのか!? あぁん!?」


それを聞いてシャリラは冷酷な表情を浮かべ、吐き捨てるように言った。


「何? 今更、憲兵さんにでも泣きつくつもり? 仕掛けてきたのはあなた達なのに? ライネンテは法治国家だから殺人は大罪とでも? あなた達、本当にぺーぺーね。覚悟が足りないわ。まるで子供を相手にしてるようで反吐が出る。でも一人たりとも生かして返すことはできないの。逆に全員死んでもらうわ」


暗殺者アサシンのうち一人は片手剣で斬りかかってきて、もう一人がボウガンで援護射撃を狙ってきた。


買い物袋を持ったままの女性は自分の左右が建物で間隔が狭いことを利用して、壁を蹴りつつジャンプした。


そのまま右、左、右と壁を蹴りながら滞空する。スカートが美しくパタパタとはためいた。


「三人目ッ!!」


彼女が打ち出しているのは木の串だった。串は剣を持った男の頭を頂点から入ってまっすぐ一直線に股へと射抜いた。


なにか言う間も無く、男は死んでいった。


「うおああああああああああああああ!!!!」


もう一人は半狂乱でボウガンを連射していたが、シャリラの速さの前では当たるわけがなかった。


「四人目ッ!!」


手堅く四人目の脳天を同じように滞空したまま串で打ち抜いた。


一瞬で裏路地はいくつかの骸が転がる凄惨な現場と化した。


だが昼間は人通りが無いこの裏路地では誰もこの争いに気づくことはなかった。


ミナレートでの犯罪は主にこういった深い階層の裏路地で行われる。


完全な無法地帯とまではいかないが、それなりに物騒で人っ子が近寄らない地帯も存在する。


まだ敵は残っていた。離れた屋上の上からシャリラを狙っている狙撃手スナイパーがいたのだ。


「!!」


殺気を感じ取った彼女は素早く買い物袋で頭を隠した。


中に入っていたカチコチバターに矢が刺さる。おかげで狙撃の直撃を免れた。


「狙撃で私に勝とうなんて100年早いわ」


右手でスカートのポケットから串を一本取り出すと開いた手のひらに乗せた。


左手には相変わらず買い物袋を抱えたままだ。


そのまま、集中して周囲の殺気を探った。ここだと思ったところで狙い定めて串を発射する。


「五人目ッ!!」


確かに頭を撃ち抜いた感触があった。たったこの一発で狙撃手スナイパー脳漿のうしょうを漏らした。


「………哀れね……お金に目がくらんでこんな事をしなければ死ぬこともなかったでしょうに……。それに、必死で戦ってもお金がもらえる保証はないわ。それと、最後のあなた、隠れていても無駄よ。出てきなさい」


裏路地の奥から何かがキラリと光った。


シャリラはすばやくそれをステップでかわした。刀身の伸びた片手剣が彼女の脇を抜ける。


「へっへっへ。バレてたか。どうだ? 変幻自在のシュランゲ・エッジは。嬢ちゃんいい殺りっぷりじゃねぇか……。同業者と同じニオイがするぜ……」


暗がりから男が姿を現した。手には刀身がうねるようにうごめく剣が握られていた。


「冗談言わないで。あなた達みたいに好きで殺ってるわけじゃないわ。そう言うあなたも加勢すればよかったのに。それともさっきの五人は前座といったとこかしら? ところであなた達は何者なの? どうして私を狙うの? 誰の差金さしがね?」


相手は首を横に降った。


「わかんねぇなぁ。俺たちゃ”あんたを殺れば報酬が出る”としか聞いてねぇからな。下への下へと連鎖して俺らみたいな下っ端の暗殺者アサシンに情報が巡ってくるわけよ。だから俺らは詳しいことは何も知らん。だがな、たとえボロ雑巾みてぇな扱いを受けても俺らは殺しがやめられねぇのよ!!」


それを聞いてシャリラは肩をすくめた。


「聞くだけ無駄ってことね……。あなた達、末端の下っ端なのね。道理で手応えが無いと思ったわ。おまけに殺人鬼とは救いようがないわ。あなたを殺してそれでお終い。死臭が染み付く前に私は立ち去るとするわ」


「片手が袋で塞がった状態で戦うだと!? なめるなよ!! こちとら無料タダじゃ死なねぇぜ!!」


赤黒いシュランゲ・エッジの攻撃が迫ってきた。変則的攻撃でクネクネと刃が伸びた。


「なにそれ。そういう玩具おもちゃなの? 武器に遊ばれてるわね」


シャリラは一斬り一斬り変則的な軌道の斬撃を難なくかわしていく。


確かに予測しにくいうねりかたをするが、使い手が単調な扱いしか出来ていないため、パターンを読むのは簡単だった。


「くそっ!! くそったれが!! なんで当たらねぇんだ!! 化物かこいつは!!」


「あら、レディを捕まえておいて化物はないんじゃないかしッら!!」


リーダー格の男は素早くバックラーを構えて串での攻撃を防ごうとした。


「へっへっへ。頭か? 胸か? こいよ!!」


するとシャリラは片膝をついてしゃがんだ狙撃の姿勢をとり、右手の手元をを買い物袋の陰に隠した。


(どっちだ!? あれじゃどこ狙ってんだかわかんねぇ!!)


敵は焦って頭、首、胸とバックラーを手当たり次第、急所へと移動させた。


それに対してシャリラは狙いを定める。


すぐに木の串は発射されて、紙袋越しに男のバックラーを装備している方の二の腕に直撃した。


「―――ぐうッ!!!」


木の串は男の腕を貫通して勢いを落とさぬまま飛んでいった。


ターゲットが怯んで盾を引っ込めたスキをついて、彼女は容赦なく串でヘッドショットを決めた。


「ヒュンッ!!」


「ぐ……あ……ば、け……も…………」


ズシャっと音を立てて暗殺者アサシンのリーダー格は前のめりに倒れてあっけなく息絶えた。


頭からは鮮血が細く流れ出ていた。


何の躊躇ちゅうちょもなしに六人の暗殺者アサシンを殺めた女性は手持ちの串を見てぼやいた。


「やはりただの木の串ではこんなものね……。かといって”あれ”を使うと足がつく可能性がある。まるで焼き鳥屋さんみたいだけどしょうがないわね……」


結局、彼女は片手が塞がったままで襲撃を返り討ちにした。


実力差は明白で、それはまるで赤子の手をひねるような圧倒的な戦いぶりであった。


「ここで待ち伏せをくらうとは、どうやら私の日々の裏路地への陽動が効いているみたい。弟の居場所に関しては気づかれてはいないはず……。でもじわじわと着実に近づいてはいる。家の魔術的結界を張り直したほうが良さそうね。それと、ここまで追っ手が来るということは”あの子”はもう…………」


シャリラは少しの間、うつむいていた。


「可哀想な人達……。こんな生き方を選ばなければ、彼の言ったようにボロ雑巾みたいに死んでいくこともなかったでしょうに。それでもこうなる運命さだめだったのなら……仕方がないわね……。いけない。同情してると今度は自分の番になる……」


彼女はポツリとそう言い残すと憲兵が駆けつける前にすぐにその場を立ち去って裏路地の暗がりへと消えた。


彼女の歩んだ後には物言わぬ骸が積み重なっていくのだった。



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