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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
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双子と野菜の関係

昼前に召喚サモニングの授業が入っていたので今日はアシェリィ、ラヴィーゼ、リコットの三人でランチを食べに食堂へ来ていた。


「こらこらリコット、野菜ばっか残すんじゃない。大きくなれないぞ!!」


ラヴィーゼがフォークで自分の皿にあった黒ブロッコリーを突き刺してリコットの皿に置いた。


それを聞いて彼女はムスっとした。


「もう十分大きくなってるし!! これ以上大きくなる必要ないっしょ!!」


ラヴィーゼは意地悪げに視線を下へ下へと移した。リコットは思わず胸を手で覆った。


「どっ、どこ見てるし!! そんなオヤジみたいなセクハラ、マジり~む~」


アシェリィとセクハラの張本人は思わず笑った。


「アシェリィまで……ドイヒ~じゃない?」


リコットはそう言いながら渋々と黒ブロッコリーや大王レタスを食べ始めた。


「おう、あたしのぶんもやるよ。ホレホレ」


野菜の押し付けにリコットはうんざりしていた。


「いや~、昔は私も野菜がダメでさぁ。よくねーちゃんに口に突っ込まれたりしてたんだけど。今でこそ美味しいけど、不味いよなぁ野菜?」


姉の随分手荒な対応に残りの二人は唖然とした。同時に笑いがこみ上げてくる。


「あ、お前ら笑ったな!! 野菜を馬鹿にすんなよ!!」


「あは、あはは。それより、ラヴィーゼ、お姉ちゃんいるんだ。初耳」


アシェリィは意外と言わんばかりのニュアンスでそう尋ねた。


ラヴィーゼは何かものを考えながらしゃべる時にピアスをいじるクセがある。


ピアスをいじりながら彼女は語り始めた。


「ああ、双子のねーちゃんがいる。ほら、ウチ、死霊使い(ネクロマンサー)なんて家業やってるけど、やりたくない両親とやりたいウチのジジイとで姓を分けたんだよ。私はグラウレ、ねーちゃんはクランフィオーネっていうんだけど」


クランフィオーネという姓をアシェリィはどこかで聞いたことがあった。


もしかして知り合いではないかと思ったりもした。


「ちなみにねーちゃんもリジャントブイルに今年入った。時々学内で会うことがあ―――」


彼女が言いかけた時だった。誰かが彼女の両肩にポンと手を置いた。


「おっす!愛しの我が妹よ!!」


そのまま声の主は手に力を入れてギュウギュウと肩を揉んだ。


「ね ー ち ゃ ん 苦 し い っ て … …」


アシェリィは驚いた。ラヴィーゼを揉んでいたのはたまたま通りかかった同じクラスのクラティスだったのだ。


「えっ、えーーーーーーーーー!? ラヴィーゼと、クラティスが双子ーーーーー!?」


「馬鹿、声がでかいって!!」

「馬鹿、声がでかいって!!」


息ピッタリで二人の声が揃った。


言われてみれば話していて似ているなと感じてはいたが、まさか兄弟、しかも双子だったとは思わなかった。


それもそのはず、双子と言う割には見てくれがあまり似ていなかったからだ。


それこそただの兄弟と変わらない。鋭い人でなければ気づかないレベルだ。


「双子って割には似てないね」


アシェリィは素直に疑問をぶつけた。それにリコットが答えた。


「ほら~、似てない双子も居るっていうじゃん? そ~ゆ~双子なんじゃな~い?」


姉妹は同じタイミングでうんうんと首を縦に振った。


そこまで似ていないため、この見た目では双子がよくやるという入れ替わりは不可能だろう。


ただ、言葉のタイミングや挙動のタイミングなどのシンクロ率は高く、そこらへんは双子らしいところであった。


「でも、二人とも根っこのところはかなり似てると私は思うけどなぁ……」


アシェリィがポツリと言うと同時に反応が帰ってきた。


「どこが?」


「どこが?」


またもや発言が被ったのでそれに返す。


「頼りになるところとか、ちょっと男勝りなところとかが似てるかな~」


聞くと同時にラヴィーゼが手を出して話を遮った。


「チョット待った、男勝りなのはねーちゃんだけだろ。アタシは至って乙女なんだが?」


すぐにクラティスが反論した。


「いーや、ラーちゃんもそれなりに男勝りだとおねーさんは思うけどな。


ラーちゃんと言う呼び名にアシェリィとリコットがリアクションした。


「ラーちゃん……ぷく、ぷくくくくく」


「ラーちゃんとかマジウケるんですけど~」


二人とも笑いだしてしまった。


「ねーちゃん、もういい歳なんだ。ラーちゃん呼ばわりはやめてくれないか」


頬を赤らめてラヴィーゼは恥ずかしがった。


「なんだ? 私にとってはラーちゃんはいつでも可愛い可愛い妹だからな」


元も子もない言い分でラヴィーゼは姉につっかかった。


「妹って……双子なんだからほとんど差なんてないでしょ…………」


それを聞いたクラティスはわざとらしく悲哀の表情を見せた。


「あらあら……可愛い妹がお姉さんって呼んでくれないの、そんな悲しいことはなくってよ~~~」


その双子のやり取りがなんだか面白くてツボに入ってしまい、アシェリィとリコットはひたすら笑っていた。


ラヴィーゼは更に恥ずかしげに額に手を当てた。


「ねーちゃん、笑われてるって……」


「わかってるよ。せっかくだから一緒にランチでも」


ラヴィーゼは嫌がるかと思えたが、意外とそんなことも無く、隣に座る姉を受け入れた。


仲が良い姉妹であることがすぐにわかった。


フォークでステーキを刺しながら妹が姉へと聞いた。


「まったくねーちゃんも学ラン着たり、チアガール着たりよくやるよ。コスプレかよ。恥ずかしくないの?」


割と手厳しい指摘だ。それに対しクラティスは腕を組んで苦言を呈した。


「そんなこと言ったらラーちゃんだって、よく死臭にまみれてあんなおぞましい不死者アンデットを使役できるじゃん。私にゃ無理だね。まぁ姉妹で同じじゃ面白くないからね。個性だよ個性」


クラティスはサバサバとした性格でともすれば険悪になりかねないやりとりを回避した。


ラヴィーゼもそれを汲んで深追いはしなかった。


似通った者同士にありがちな衝突のうまい避け方を互いに熟知しているといった感じだ。


だからこそ姓を分けるほどの事情があっても揉め事なく仲良くやっていけているのだろう。


姉妹を見ているとクラティスがフォークに刺した野菜をラヴィーゼの口に運んだ。


「ラーちゃんあ~んして。あ~ん。野菜食べなきゃダメだぜ」


「うわ~出たよねーちゃんの欠点の激甘態度。ほんともういい歳なんだから勘弁してくれよな~」


妹が煙たがりながらピアスをいじると姉はシュンとしてしまった。本当に愉快な姉妹である。


どちらかといえば凛々しいイメージのあるクラティスに妹煩悩な一面があるとは意外だった。


「悪いねーちゃんじゃないんだけどこれだけはホントやめてほしいね。ガキんちょの頃からずっとこうなんだから……。こうやって野菜を口に押し込んでくるんだ」


それを聞くと姉はすぐに妹の好き嫌いを指摘した。


「だって、ラーちゃん、小さい頃、肉しかたべなかったじゃん。姉なりに心配したんだぞ~。今日だってステーキ定食じゃないか~」


人に野菜を食べるように言いつけながら自分が肉を多めに食べている事に不公平感を感じて、リコットの反撃が始まった。


「ちょっとぉ~、おね~さんの言うとおりじゃん? エラそうに私に野菜を食べさせてくる割には押し付けで自分が野菜食べてないっていうか~」


「う……」


痛いところを突かれた。ラヴィーゼはつまむほどには野菜を食べていたが他はリコットに押し付けていたのだ。丸投げである。


更にステーキ定食ということでそこまでしっかり野菜を食べていなかった。


先程の「今でこそ野菜が美味しいけど」などという知ったような発言も痛々しく、深く刺さった。


「あ~あ、今も野菜が嫌いなの、バレちゃったみたいだな」


クラティスは瞳を閉じて首を左右に振った。


「いぇ~い。黒ブロッコリーお返し~」


アシェリィもそれに乗っかった。


「ぷ、ぷくく……コホン。野菜は食べなきゃダメだよ。私の旨味茄子うまみなすあげるから」


ポイポイとステーキの上に野菜が飛んでくる。


あっという間にラヴィーゼのステーキ定食は野菜盛りになってしまった。


「うわぁ…………」


彼女の顔は青ざめていた。拒絶の意思を示して首を横に振る。


「さぁ、野菜を食べるんだ。何? 自分で食べられないなら私が口に突っ込んでやるよ?」


姉は意地悪げにニターっと笑った。


「い、いいよ!! 自分で食べるったら!!」


ラヴィーゼは手を振って姉のおせっかいを拒否した。


「……野菜の恨みは怖いねぇ~。ラーちゃん」


リコットも思いっきり仕返しせんとニヤニヤ笑っていた。


「なんだか気の毒な気もするけど、本人の為だからね。しょうがないね」


アシェリィが一番中立に近かったが、それでも前の二人と同じく容赦なく野菜を突きつけた。


「あ、アシェリィまで……そんな殺生な……」


その後、ラヴィーゼはひたすら大盛りの野菜と格闘することになった。


彼女は時折、涙を浮かべながら苦手なものを食べていく。


アシェリィはまさかラヴィーゼが泣くのを見る事になるとは思わなかった。


「うぇ……うぅ……ひっく……ひっく……まずいよぉ……」


気の毒ではあるが、嗜虐性しぎゃくせいをくすぐられた。


その姿は想像に反してなんだか女の子らしく、可愛く見えた。


ラヴィーゼはこの一件でますます野菜が嫌いになったのだった。


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