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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
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怪物、人助けす

セミメンターのラーシェからアシェリィへとある提案があった。


ガリッツとの通訳を成功させるためには彼のことをもっと知る必要があるのではないかという話が出てきたのだ。


きっとお茶でもしてもう少し踏み込んだところまで知ろうというのだろう。


アシェリィは彼(?)のドブ臭い匂いが苦手だ。


だが、態度や言動自体は特に悪いわけではなかったのでどこか憎めない程度の印象を持っていた。


聞いたことがなかったからわからなかったのだが、彼は男子寮に住んでいるらしい。やはりオスなのだろうか?


今までてっきりアシェリィはガリッツがフレリヤと同じような保護亜人扱いだと思いこんでいた。


もしそんな亜人だったとしたら男子寮には住んでおらず、ボルカの用意した空間で過ごしているはずだ。


放課後、ラーシェの案内で男子寮の彼の部屋の前に着いた。


原則として男子寮への女子の出入りは禁止されているが、室内に立ち入らなければ問題ない。


コンコンとドアをノックするとヌッっとガリッツが姿を現した。


案の定、嫌なドブ臭い匂いが漂ってくる。


「ガリッツ君、こんにちは。いきなり押しかけて悪いんだけど、今日の午後、お茶でもどうかな?」


そう問うとガブトムシザリガニのお化けはドアを空け、ドアノブをさらりとなぞってマジックロックを閉めて外に出てきた。


鍵をかけるなどこういう文明的な事は出来るらしい。


亜人の中でも割と人間に近いように思えた。


ただ、何を考えているかはさっぱりわからない。


長く伸びる二本のヒゲを動かして真っ赤なハサミを開けたり閉めたりしてバチンバチンと打ち鳴らしている。


この仕草は恐怖心を相手に与えるが、クセのようなものなので知っていればなんということはない。


「そうだな~、じゃあカフェ・カワセミにでもいってみようか。ドリンク類が充実してるお店でね。多分、ガリッツ君そこ好きなんだと思う」


あれやこれや話しながら三人は街へと出発した。


ゾシュ……ゾシュ……


重いものを引きずるような音がする。ガリッツの足音だ。


おそらくかなり体が重いのだろう。そんな重い体をしていて辛くはないのだろうか。


しかも足の作りもザリガニがそのまま直立したようなもので歩きにくそうではあった。


一言も彼は喋らないのでどう感じているのかは全くわからなかった。


そしてカフェ・カワセミに着くとガリッツはどっかりと椅子に座り込んだ。


「あ、今日は私のおごりでいいよ。好きにオーダーして。まぁガリッツ君と来るといつも結構かかっちゃうんだけどね……」


それを聞くとアシェリィは控えめに安いドリンクを頼んだ。


「あ、すいません。赤妖精エキス入りサイダーを」


一方のガリッツはメニューを持つ店員にハサミを指して次々と飲みたいドリンクを指定していった。


その結果、テーブルが埋まるほどのドリンクが揃った。


まるでこの間のリーネの時のようである。


この光景は軽く周囲の注目を集めていた。


「時々こうやって外に連れ出してあげてるんだ。ほら、ガリッツ君は皆から嫌われてるわけじゃないけど、距離を置かれてるところあるじゃん? だから誰も呼ばないと部屋にこもりっきりになるし、やっぱそういうのは本人のためにならないと思うんだよね。ん~、やっぱ喋れないのは痛いよね~」


ガリッツは一心不乱にドリンクをがぶ飲みしている。まさにご満悦と言った感じだ。


「あ~、でも四班のはっぱちゃん? は会話出来なくてもうまくメンバーとやってるし。ガリッツ君は悪いけど、このビジュアルと匂いで損してるところあるんじゃないかな~」


カブトムシザリガニは両ハサミを顔の横にもってくるとバチンバチンと打ち鳴らした。


「ん~、アシェリィを呼んだのはいいものの、何か策があるかっていうと何もなくてね~。お茶した程度じゃ中身まではわかんないっていうか……。通訳にトライしてみてもノイズばっかじゃなぁ……。はぁ、セミメンターとしては頭が重いよ……」


そう言ってラーシェは頭を抱え込んでしまった。提案を受けたのは良いが、これといった解決策は無いようだ。


「た、試しに一回、幻魔を通じて通訳してみますね……」


アシェリィはサモナーズ・ブックを出すとリーネのラストページを開いて呼びかけた。


「リーネちゃんリーネちゃん。通訳したいんだけど間に入ってくれる?」


声を掛けるとブックからコギャル妖精が姿を現した。


「え~、めんどくせ~事おしつけるなぁ。ってゲッ。またこいつ? 言ったじゃん。コイツノイズだらけで通訳できないって」


アシェリィは顔の前で両手を合わせて頼み込んだ。


「そこをなんとか!!」


「しょ~がね~な~。ドリンク飲ませろよな」


そう言うとリーネは瞳を閉じて集中しだした。突如脳内に大音量で謎の言語がなだれ込んでくる。


「……djfaoij……dfjj:afjfe:pmfew?soi……f;oaij@af:pjewe---……sj:porgesrelvo@/?>sej<okn…………」


無駄な行為だとはわかっていつつも思わずアシェリィはノイズを遮ろうと耳を塞いだ。


「ほれみろ言わんこっちゃない。こいつ、名前の由来どおり”混ざり”すぎなんだよ。この手段での意思疎通はあきらめるこったね。んじゃ、アタシは帰るから」


テーブルの上の数杯のドリンクを飲み干しすと同時にリーネは帰っていった。


「やっぱり幻魔を介した通訳はダメでした。聞こえはしましたが、言葉にさえなってませんでした。その割にはこちらの言うことを理解してくれてる節はあるんですよね~。ん~、よくわからないですね」


アシェリィとラーシェは揃って頭を抱えてしまった。


当のガリッツはそんな心配も全く気にかけるでも無く無邪気にドリンクを飲み干し続けていた。


だが、急に彼はドリンクを飲むのを止めて、ヒゲを敏感にピクピクと振った。


「…………ゴロ……ゴロゴロ…………」


何かが転がってくる音がする。


カフェ・カワセミの隣にはミナレートでも屈指の坂道、トロンボ坂がある。


きっと何かがトロンボ坂を下ってくるのだろう。


「おーーーーーい!!!!! ウィールネール馬車の車輪が脱輪しちまった!! 坂の下のやつは早く逃げろーーーーーーーーーーー!!!!」


巨大なナメクジが引く馬車の車輪が外れたらしい。


ウィールネールが引くものならかなり大きな車輪のはずである。


どうやら先程から聞こえる音はそれが転がる音のようだ。


坂の下の人たちはパニックになって逃げ惑った。


カフェ・カワセミの人々は通りから少し脇に入ったところだったので、パニックに陥る人は居なかった。


そして野次馬達がデッキに集まった。


大抵の人が避難したかと思えたが、子供が逃げ遅れていた。


「ハッシュ!!」


思わず母親が少年を抱きしめた。このままの軌道では不運にも二人とも車輪に轢かれてしまう。


車輪は勢いよく転がって坂道を軽く跳ねた。


ラーシェとアシェリィが視線を合わせて救助に向かおうとした時、ものすごいスピードでガリッツが走り出した。


「ザシュッ!! ザシュッ!! ザシュッ!!」


足の構造を無視して今まで見たこともない速さで彼は走った。


そして、ハサミを体の前で交差させると車輪を受け止めた。


「ギャリギャリギャギャリギャリギャリ!!!!!!」


車輪は重く、大きい。少しずつガリッツは後ろへと押し込まれていった。


それでも彼は耐えて耐え抜いた。すると車輪の勢いが落ちてきた。


「ガリガリガリガリガリガリガリ……」


タイミングを見計らって彼は頭の角を車輪に突き立てて、横方向へ投げ飛ばした。


別角度からの力を受けて大きな車輪は坂の路面をのたうち回るように回転してそして静止した。


「ガリッツ君!!」


思わず付添いの二人揃って声をあげた。


そちらのほうをカブトムシザリガニは向いたが、後ろの母親が声をかけてきた。


「あ、ありがとうございます。本当になんとお礼を言えばいいか……」


それに対し、言葉を持たないガリッツは真っ赤なハサミを打ち鳴らす事しかしなかった。


気づくとラーシェとアシェリィがそばに来ていた。


「も~びっくりしたな!! 無茶して!!」


セミメンターは頬を膨らませた。


二人とも呆れた様子だったが、彼の勇気ある行動には感心していた。


「でも、人助けするなんてやるじゃん」


ラーシェは肘でガリッツをつついた。


「こう言うとアレだけど、まさかガリッツ君が進んで人助けするとは思わなかったよ」


アシェリィも彼の肩をヒタヒタと触った。


彼は触られてくすぐったいのかブルブルと震えている。


なんだかその様が可愛らしく見えるようなそうでもないような気がした。


やがて彼はゴボゴボと泡を吹き始めた。


「なに~? 笑ってんの~?」


「あはは」


二人も声を上げて笑った。


後日、この件が評価されてガリッツはミナレート町長から感謝状を受け取ることとなった。


そのため、それまで微妙だった彼のクラス内での立ち位置と待遇が一気に良くなったのだった。


HRホームルームでナッガン先生もガリッツを評価していた。


「今までお前らは少なからずガリッツに対して嫌悪感を抱いていたかも知れないが、大事なのは外見ではない。中身だ。俺は今回のガリッツの行動を称賛したい。ガリッツのマネをしろとは言わんが、お前らも見習うように。繰り返しになるが見てくれで人を判断すべきではない。わかったな? 以上だ」


確かに人気者になったガリッツだったが、悲しいかな、相変わらずしゃべることは出来ないので何を言わんとしているのか、何を考えているのかは全くわからなかった。


ただ、周りのクラスメイト達が彼と意思疎通を試みるようになっただけ進歩したと言えた。


もしかしたらだんだん幻魔が無くてもわかりあえるようになるのではとアシェリィは淡い期待を抱いた。


そんな思いを知ってか知らずか、今日もガリッツは真っ赤なハサミをバチンバチンと鳴らすのだった。


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