花火に火をつけて
ある日、アシェリィがマナボードを持ってグラウンドに行くと、いつもと雰囲気が変わっていていた。
普段練習している生徒達が校庭の端に寄っていたのだ。
それはマナボードクラブも同じくグラウンドの隅に寄っている。
部長のゼフが居たので声をかけてみた。
「こんにちは。部長さん。今日はみんなどうしちゃったんですか?」
聞かれた部長はサングラスを頭にかけるとなんだか面白そうな顔をして答えた。
「いや~、なんか新入生の魔術の制御訓練にフライトクラブが付き合うらしいんだよ。なんでもその新入生は花火を使うらしくてな。広範囲に無差別攻撃するからこうやって端に寄ってねぇとドカンと喰らっちまうわけだ。ちなみにグラウンドのフチは魔術障壁が展開してあるんだぜ」
アシェリィはその説明だけ聞いてすぐに同じクラスの褐色の肌を持つ花火娘、カークスのことだとわかった。
あたりを見回すと四班の班員たちが集まっていた。
「おう、アシェリィか」
ニュルがこちらを見つけたらしくニュルニュルとした足を振った。
他にも班長であるカークスと班員のキーモ、田吾作、はっぱちゃんがその場に揃っていた。
「みんな!! どうしてこんなことに?」
召喚術師の少女は少し戸惑いの顔色を浮かべた。
するといつもは元気いっぱいのカークスが申し訳なさげに語り始めた。
「ほら、あたしさ……身勝手で今まで周りのことなんにも見えて無くてさ。気づいたら皆をこの力で蹴散らしちゃってたんだよね……。班員もそうだし、大人数が集まった遠足ではもっと派手にやっつけちゃった。皆には本当に悪いことしちゃったなと思ってる」
それを優しそうな笑みを浮かべてドライアドの亜人である植物人のはっぱちゃんが頷いていた。
確実に彼女の持つリラグゼーション効果がカークスに落ち着きを持たせていた。
しかも、自分からこう名乗り出るということは根っこの部分まで良い影響を受けていると言えた。
「だからさ……あたし、できるだけ自分の力をコントロールしたくて、もうこれ以上むやみに皆を傷つけたくないんだよ……。だから、ナッガン先生に名乗り出たんだ。そしたらグラウンドを空けてくれて、制御訓練の先生もつけてくれたんだよ。ちょうど今から訓練を始めるところ」
なんだかしょんぼりした様子のカークスを班員達が励ました。
「おう、よく言った!! 訓練をしっかり見ててやるからしょぼくれてねぇでやれ!!」
男らしいタコ漢、ニュルは何本かの足でガッツポーズをしてみせた。
「おらぁ花火は綺麗な方がすきだなえ。おまえさんならそんな花火、上げられるでねぇかな」
田吾作は麦わら帽子にタンクトップ、クワという浮いた出で立ちだ。
「拙者もカークス殿なら出来ると信じているでござる。なにしろカークス殿は我らの”班長”ですからな!!」
チェックのシャツにバンダナ、指の穴あき手袋とこちらも変わった見た目でキーモも応援した。
ドライアドのはっぱちゃんはアシェリィを通さないと人語を介することが出来なかったがアシェリィが通訳をした。
「えっと……貴女ならきっと出来る。自分と仲間を信じて……だって」
この班も紆余曲折あったようだが、いつのまにか班長を慕うチームワークあふれる班に成長していた。
「みんな……」
彼女の顔にきらりと光る涙を皆が見た。
「よーーーーーーーし!!!! こんなシケっぽいのはあたしらしくない!!! 制御しつつ、ハデにブチかますよぉーーーーーー!!!!」
「新入生だからといって油断するなよ。しまっていくぞ!! おーーーーーー!!!!!」
リジャントブイル魔法学院フライトクラブの面々も鼓舞しあい、士気を高めた。
しっかりフォリオの姿も確認することができた。
「じゃあ監督官のワシ、炎焔のファネリが指導しつつ、指示を出すからの。フライトクラブの部員は花火弾をひたすら回避するというのが課題じゃ。カークスは狙ったところに花火弾が飛んでいくように集中せい。慣れてきたら爆発の大きさにもメリハリをつけてみるんじゃぞ。では、いくぞい。3・2・1・始めッ!!」
掛け声と同時に色とりどりの花びらを宙に放ったようにフライトクラブの部員達が空に飛び上がった。
それと同時にカークスは両手を宙に掲げた。
「カラミティ・インパルス・スパーキング・ミーティア・クロス・フレアブレーション・ジェノサイディング・デストラクション・スクリーィィィィィム!!!!!」
すると早速花火が上がった。一発あがったかと思うとすぐにそれは破裂し、弾幕のように無数の散弾が拡散した。
ストレートな軌道ならば避けるのは容易いが、彼女の花火弾の場合は回転がかかっていたり、ねじれる軌道で飛んでくる弾も多かった。
範囲もめちゃくちゃでグラウンド中に弾幕が降り注いだ。
魔法障壁がなかったらけが人続出である。
精鋭ぞろいのフライトクラブの部員もこの一発で数人落ちた。
主に落ちたのは群青色のエレメンタリィ(初等科)だったが、決して彼等の腕が悪いというわけでもなかった。
フォリオも早々と脱落していった。
「なんとまぁ詠唱が無茶苦茶じゃ!! おぬし、毎回詠唱内容を気まぐれで変えておるな!? 統一せい、統一!! ほれ二発目!!」
ファネリの方をちらりと見ると再びカークスは上空のターゲットを目で捕らえた。
「マスデストラクト・インフィニット・アンリミテッド・イクスプローーーード!!」
二発目の花火弾はまたもや軌道が違って破裂するとチカチカと激しく点滅しつつ、
無数の花火が同時多発的に炸裂した。
しかも絶妙に時間差がついていて、避けるにはいやらしいものだった。
これには三人ほどやられてグラウンドに落ちていった。
魔術障壁のおかげで高所からの落下もカバーされていた。
「さっきと詠唱内容が全く違うじゃろ!! なんでアレンジを挟みだがるんじゃ!! オリジナリティの意味を履き違えるでない。それに、そろそろ狙いを定めないと落とせんぞ。 次! 次ッ!!」
まだ訓練は続いた。
「マスデストラクト・ジェノサイディング・シューーーーート!!!!」
そう唱えると今度は割とシンプルな花火弾が上がった。何の変わり種も無く、誰もこの一発では落ちなかった。
「ふぅ、やっとこっからじゃよ。その詠唱を部分的にくみかえたり、少しずつ追加したりしてみぃ。それがコントロールにつながるんじゃ」
カークスはスタミナがあるほうだったのでかなり強烈な花火を上げているにもかかわらず涼しい顔をしていた。
「マスデストラクト・ジェノサイディング・シュート・チェイシング!!」
再びシンプルな花火が上がったが、今度はなんと部員一人を花火弾が追跡し始めた。
部員が振り切ったかと思えたが、花火弾は破裂して周囲を巻き込んだ。
これで逃げていた部員は落ちていった。
「中々スジはいい。引き続きトレーニングするぞ。 始め!!」
魔法制御訓練は夕暮れ時まで続いた。
流石にこれだけ長時間になるとカークスもフライトクラブもヘトヘトだった。
「よし。こんなもんなら他の連中に気を使わなくても花火を上げることができるじゃろう。まぁまだまだじゃから気を抜かず精進することじゃな。ワシは帰るぞい」
そう言いながらファネリ教授はとぼとぼとグラウンドを歩いて帰っていった。
「はぁ……はぁ……」
さすがのカークスも疲れて座り込んでいた。
残ったフライトクラブメンバー達が彼女を称賛しては帰っていった。
「おう、よくやったな。メシでも食いにいこーぜ」
そう言ってタコ星人のニュルが疲労困憊の少女に足を差し伸べた。
「もちろんお前らもいくよな?」
四班の班員たちは皆、笑顔で賛成した。
「あとアシェリィとフォリオ、お前はどうする? 用事がねーなら一緒に来いよ」
アシェリィは遠慮がちに答えた。
「えっ、でもそれって四班の集まりなんじゃ……?」
フォリオもスッとアシェリィの影に隠れた。
それを聞いて他の班員たちは思わず笑った。ニュルが皆の意見を代弁する。
「何今更水臭い事言ってんだよ。今回はヒミツの作戦会議するわけじゃねーんだからさ。いいよな班長?」
褐色肌の少女は親指を立てて笑った。
「そ……それじゃお邪魔しようかな」
アシェリィはちょっとだけはにかんだ。
「ああああああ、ありがとうございます!!!!」
フォリオももじもじした。
「だーからそれが水臭いってんだよ。じゃ、早速いこうじゃねぇか……って、おっといけねぇ。これじゃ俺がリーダーみてぇだな。いつもの悪い癖だな」
ニュルは自分の頭を足でポカンと叩いた。
その様子を見てまた四班のメンバーとアシェリィとフォリオは笑った。
「まったくしょうがないやつだ。よーし!! じゃあ皆、夕方……いや夜の街にれっつらごー!!!」
カークスの掛け声に四班に加えて、アシェリィとフォリオがそれに答えて彼等は夜の街へと繰り出していくのだった。




