的外れなセンスのアンティーク
またもやトレジャー・ハンティング学科から課題が出された。
それは骨董品店を巡って価値のある品物を目利きして入手してくるというものだった。
アシェリィはアンティークに関してはさっぱりでこの課題は困難を極めることが予想された。
ただ、唯一の救いは誰か協力者を呼んでもいいという点である。
誰を連れて行くかはまだ決めていないが、ズブの素人一人よりは心強い。
ミナレートの店一覧を見るだけでもアンティークショップは7つもあった。
全部に寄るべきなのか、それとも一部に絞るべきなのか、それさえわからなかった。
とりあえずここは無理をせずに助っ人を呼ぶことにした。
クラスでアンティークに明るそうなのは……直感だが、ノワレ、ドク、アンジェナ、ファーリスあたりだろうか。
授業が終わるとアシェリィは片っ端から声をかけてみた。
まずはノワレに声をかける。
「またそうやって貴女は人に頼りますのね。全く仕方のない娘だこと」
やや辛辣だが手伝ってはくれるらしい。
次はドクだ。
「おやおや? 本当に私がアンティークに詳しいとお思いで? フフフフ……ご期待に添えるよう頑張りますよ」
なんだか人選をミスった気もするが手伝ってくれるのだから感謝しないと。
アンジェナにも話を伝えた。
「任せてくれと言うほどの自信はないが、それなりの知識はある。やってみようじゃないか」
今の所、一番心強い返事だ。
最後におしゃれなインテリア好きのファーリスに聞いてみた。
「……良質なアンティークを見てるとワクワクしてこない? 目利きが出来るかは怪しいけど、アンティークは好きよ」
インテリアとアンティークは違うのかも知れないが、審美眼はありそうだ。
こうして何とか全員の了承を得ることが出来た。さっそく方針を決める。
「7つもアンティークショップがあるんだけど、どうしようか。全部回るの?」
早速ここで意見が別れた。ノワレ、ドクは一部、アンジェナとファーリスは全部と答えた。
初っ端から先が思いやられるが、決断はリーダーに委ねられた。
「そうだね~。全部回りきれないだろうからとりあえず数件回ってみようか」
こうしてアンティークのトレジャー・ハンティングが始まった。
課題の開始を伝えるとトレジャー・ハンティング科からアンティーク専門のジャッジが着いてきていた。
彼が見つけ当てたお宝を審査して、それが一定水準を越えていれば課題は終わる。
別にアシェリィでなくとも協力者が合格すればそれで良しという想像よりはゆるいものだった。
だが、課題自体がゆるいかといえばそうとも言い切れなかった。トレジャーを見つけるには確かな目が必要だからだ。
「えっと、一軒目は……来来亭?」
中に入るとまるでそこはゴミ屋敷だった。あらゆるものが乱雑に置かれたり積まれたりしている。
店主はタバコを吹かして椅子に深く座り、新聞を読んでいた。なんとも無愛想な店主である。
だが、こういうところに限ってお宝の匂いはしてくるものである。
五人は揃って目利きを始めた。
「う~ん、このボロボロな車輪、何に使うんだろ。っていうか使えるのかな?」
アシェリィは両手で古びた重い車輪を持ち上げた。
「ケホッケホッ!! こんな不潔な場所、やってられませんわ」
ノワレは早々と店を出ていってしまった。
「このランタン……。手術時に手元を照らせますね……、おまけにかなり上質なつくりだ……。私はこれを推しますよ」
ドクはランタンを手に持ってゆ~らゆらと揺らした。
「何に使うかわからないものに限ってマジックアイテムだったりするものだ。例えばこれ。欠けた水差し。一見、ボロボロに見えるがおそらくマジックアイテムだろう。これで水やりをすれば植物の生育が早まるはずだ」
アンジェナは深くヒビの入った水差しを手にとった。
ファーリスは天井を指差した。
「あれ。あれ良くない? 星が見える位置を模型で現した物。魔術における実用性と共にインテリアとしての価値はあると思うわ」
皆が決めだしている中、アシェリィは迷っていた。
「う~ん、なら私はコレかな。謎の陶器で造られたネコの置物。光を当てるとキラキラ光るの」
可愛らしい置物ではあるがトレジャーとは思えない。アシェリィは頭を抱えた。
さっそくジャッジが価値の判定に入った。
「アシェリィ、それはただの置物」
「ドク、質は確かに良いが、トレジャーではなし」
「アンジェナ、良。マジックアイテムでトレジャーと言える……が基準に満たない」
「ファーリス、これもただの置物」
手厳しいジャッジだ。アンジェナが惜しいところまでいったが、基準を満たさないらしい。
「はぁ……予想通り難しいな。気を取り直して次のショップに行ってみようか」
一行はてくてくと歩いて近くの二軒目のアンティークショップに入った。
「二軒目、サボテンズバーガーか」
店内に入るとこの店は小奇麗に手入れが行き届いていた。
商品の並びも綺麗に並んでいる。
ちょび髭でメガネの男性店主が一行を招き入れた。
アシェリィは目立ったところに飾られている化石を眺めた。
「なんだろこの化石。いかにも価値がありそうだけど……」
ノワレは食器一式に目が止まっていた。
「まぁ、こんなところでカストラート式のテーブルマナーセットを見るとは思いませんでしたわ!! これですわね」
ドクも驚きの声を上げた。
「ほほぅ。ナイフがあればメスもあるというわけですか。これはいいものですね。私はこのアトラーンツ製のメスを推します」
アンジェナはじっくりアンティークを眺めて一つ拾い上げた。
「これはどうだろうか。トットレーの兵隊人形だ。確か生産数が少ない上に、箱まで残っているのは珍しいと言われている……」
彼がおもちゃを選ぶというのは意外だったが説得力があった。
ファーリスも選び終わった。
「これね。このピアス、とあるアイドルが愛用していたものよ。なんでこんなところに……? ともかく、私はこれで」
結局、またもやアシェリィは最後まで残された。
「えっと、えっとね、じゃああの化石にします!!」
全員が選ぶとジャッジが入った。
「ノワレは合格!! 見事なカストラート式のテーブルマナーセットだ。
「ドクも良。ただ、基準ほどの価値には満たず」
「アンジェナも合格!! 確かにトットレー製に間違いない」
「ファーリス合格!! そのとおり、そのピアスは一流アイドル、アイリンの愛用品に違いない」
「アシェリィは不合格!! それはただのレプリカ。トレジャーとしての価値なし」
結果的にドクとアシェリィ以外はわずか二軒目で目利きの基準を満たした。
それなりに難しいはずの課題だが、ノワレ、ドク、ファーリスはあっさりと合格してしまった。
逆に合格できなかった二人は膝をついて落胆した。
「そ……そんなぁ……」
「ふむ、致し方ないですね……」
裏を返せば人選が良かったということなのだが、自分の課題だっただけあってアシェリィは納得がいかなかった。
「ぐぬぬぬ……!!! 私、これで諦める訳にはいかないよ!! 皆は先に帰ってて!!」
アシェリィは止めるクラスメイトを尻目にジャッジマンと共に街の喧騒へと消えていった。
「アシェリィ、その意気やよし!! 私も付き合うぞ!!」
その後、彼女はアンティークショップを片っ端から回っていった。
何度も目利きにトライするが、彼女の選ぶもののセンスはどこか的外れで全くトレジャーを掘り当てられる気がしなかった。
トレジャーの基本であるアンティークは学院でも勉強したはずなのだが、中々うまい具合にはいかない。
かといってアンティークは避けては通れぬ道。アシェリィは額に汗を浮かべ、必死に骨董品を漁った。
その日、彼女は一つもトレジャーを見つけることは出来なかったが、次の日の放課後からはトレジャー漁りが日課になった。
財宝百科辞典片手にアンティークショップにたむろしたり、ショップのオーナーと顔見知りになって骨董トークをしたりするようになった。
その結果、アシェリィのアンティークに関する目利き能力はかなり上昇した。
目利きの課題が出ても並のトレジャーなら難なく発見してこれるレベルまでになった。
「アシェリィ、合格!! 見事なニタミ焼きの壺だ!! トレジャー・ハントの道にゴールはない。これからも精進するように!!」
「やったぁ~!!!! ありがとうございます!!」
彼女がアンティークのハントに成功したと聞いて、一緒に骨董品店を回ってくれたクラスメイトが声をかけてくれた。
「センスは無いわね。で、でも、貴女のそういう頑張り屋さんなところ、嫌いでなくてよ?」
ノワレは頬を赤らめた。
「もう私よりよほど目利きなのではないでしょうか? 目利キング……なんつって」
ドクの周りを沈黙が包んだ。
「君は本当に努力の人だな。俺も見習わないといかんな」
アンジェナは感心したようにうんうんと頷いた。
「今度、私にもアンティークについて教えてよ。私も教養を深めたいと思ってね」
ファーリスはにっこりと笑みを浮かべた。
クラスメイト達の応援無くしては今回の難題の突破は困難だった。
アシェリィは仲間の大切さに改めて気づくのだった。




