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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
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楽しい楽しい勉強会

充実していた少女に思わぬ強敵が現れた。


「定期テストを返すぞ。名前を呼ばれたものは取りに来い」


アシェリィは嫌な予感はしていた。テストに手応えがなかったからだ。


テスト結果を配り終えるとナッガンは言った。


「そろそろ学力に差が付き始める頃だな。今回のテストが悪かった者は補講を受けるように手配してある。追テストで7割以上取らないと補講は終わらないからな。心して受けるように。以上だ」


HRホームルームが終わると他のクラスメイトは移動教室のためそそくさと準備を始めていた。


そんな中、頭を抱える少女が居た。


「あちゃ~。これは……。勉強をおろそかにしたつもりはなかったんだけどなぁ……」


気づくと班員たちが後ろから覗き込んでいた。


「魔術学基礎57点 魔術学応用22点、グリモア読解52点、グリモア精読24点、呪文詠唱学13点、魔法薬学38点、魔法生物生成学42点、……それに……それも。まぁ、酷い点ですこと」


ノワレが喚き立てるように指をさした。イクセントがそれをたしなめた。


「馬鹿! 声がでかい!! ……サバイバルテクニック87点、召喚術95サモニング、トレジャーハンティング学92点、鑑定学84点。なんだ。全部が全部悪いわけじゃないじゃないか。ま、不出来な事に変わりはないがな」


フォローしてくれたのかと思った直後の突き放しにアシェリィは心を痛めた。


「ああああああ、アシェリィ。ききききききっ、気にすること無いよ。ぼぼぼぼっ、ぼくだってにににたようなものだから」


そう言って彼はテスト結果を見せたが、アシェリィほど酷い点は取っていなかった。


ガリッツはどうだろう。彼も一応真面目に座ってテストを受けていたはずだ。


彼の得点は意外なことに平凡で、クラス平均点とほぼ同じだった。


脳味噌筋肉っぽい彼に負けたこともアシェリィの心に大きなダメージを与えた。


(ガリッツ君には悪いけどテスト結果で負けちゃうとかショック~)


しかし、班員をまとめる班長がこの成績では示しがつかない。なんとかして名誉挽回しなければ。


どうやってこの窮地を脱するか考えていると教室内で大声が聞こえてきた。


「だーっ!! 班員同士で勉強会だ!! 頼むよ~。お前ら出来いいんだろ~!!」


勉強会。悪くないと思えた。問題は他の班員が付き合ってくれるかどうかだが。


「あ、あのぉ……勉強、教えてくれないかな? いや、教えてくれませんか?」


少しの沈黙を挟んで班員たちは返事を返してきた。


「ぼぼぼぼぼ、ぼくはててててて、てつだうよ」


真っ先にフォリオが買って出た。


「ふん。しょうがない娘ですこと。でも落第でもされたらたまったもんじゃないですし。お手伝いするのもやぶさかではなくってよ」


断られると思っていたノワレも手伝ってくれるらしい。


「ノ、ノワレちゃぁぁぁ……」


泣きそうな顔でノワレを見つめると彼女は頬を赤く染めてそっぽを向いた。


「これだけ手伝う物好きがいるなら十分じゃないか。お前らだけでいいだろ」


イクセントはかなりキツく当たってきた。勉強会に気乗りしない様子である。


「そんな事いわずにお願いしますよ~」


泣きついてみたが反応が良くないのでほうっておくことにした。


「えっと、ガリッツ君は……」


バシーンッ!! バシーンッ!! バシーンッ!!


真っ赤なハサミを胸の前で三回打ち鳴らした。こちらは乗り気のようだ。


だがどうやって彼から勉学を学ぶというのか。そこは謎だった。


「みんな……ありがとう!! ところでどこで勉強しようか?」


問いかけるとノワレが手を上げた。


「わたくし、散策していていいカフェを見つけましたの。ノクターナル☆ウィンクというカフェなのですが、夜を模した店内でして静かにリラックスしできますの。読書や勉強に最適のカフェなのですわ」


「ノークターナル☆ウィンク……いいね。お店の名前もオシャレだしね。じゃあ放課後、そこに集合で」


その日のアシェリィはなんだかそわそわしていた。


皆で揃って勉強会などというのは生まれてほとんど経験したことがなかったので憧れを抱いていたからだ。


勉強会を楽しみにするというのもなんだか妙な話だが、あっという間に放課後が来た。


例のカフェはわかりやすい場所にあったので現地集合ということになった。


ノクターナル☆ウィンクは漆黒に塗り固められていて、星を意匠した白点が無数に打たれていた。


もちろん月も描かれている。


アシェリィは私服でやってきていた。白いブラウスに蒼いスカート、ピンクのスニーカーという出で立ちだ。


勉強道具片手に一番乗りで待っていると空から何かが降りてきた。フォリオである。


かれは時間に厳密でいつも集合時間ピッタリにはやってくる。


「ややややや、やあ。きたよ」


上はYシャツ、下は制服のままだった。


次にやってきたのはノワレだ。


彼女はエルフ特有の装飾のされた装束を身にまとい、水色の美しい髪をなびかせて現れた。


街中を歩けば誰もが振り返る。そんな美貌の持ち主だ。


その美しさはときに同性でさえも魅了する。もっとも中身はかなり残念なのだが。


「あら、おまたせしましたわ。あとはカブトムシザリガニだけですのね」


あんまりな言い方だなと思いつつ、アシェリィたちはガリッツを待っていた。


すると、見たことあるような人物が現れた。


「イクセント君じゃない!」


群青色の長めの髪を揺らして少年がこちらへと歩いてくる。


「フン。た……たまたまここを通りかかっただけだ。この店に来るのもたまたまだ。勉強を教えてやろうなんてこれっぽっちも思ってないからな」


アシェリィはなんだかんだで来てくれたことがとても嬉しかった。


「うんうん。一緒にお茶してくれるだけでいいからさ。本当にありがとうね」


「フン……」


その背後から音を立ててガリッツがやってきた。


ゾシュッ……ゾシュッ……


「ガリッツ君も!! ここまで来るの大変だったでしょ。さ、中に入ろう」


全員班員が揃ったのを確認するとアシェリィは店に入るように促した。


店内は薄暗く、ほんのり明るい月の出た夜のような明るさだった。


そこに月や星のほのかな明るさを再現したライトがぶら下がっている。


一定周期でティラレ月が温暖な色から寒暖な色へと移り変わったりしていた。


慣れないオシャレなカフェの雰囲気にアシェリィはドキドキしていた。


店内のテーブルにつくと手元が照らされた。


まるで夜、寝る前に日記を書く机の上のような環境だ。


暗いながらに文字を読んだり書いたりするには支障がなかった。


椅子もふかふかしていて心地よく、まるでベッドのようだった。


あまりにリラックスして寝そうになるほどだ。


それぞれがドリンクを頼むと勉強会は始まった。


「は? だからここはグリモアの文法崩壊の法則といってですね……」


ノワレの教え方はスパルタで威圧的で何度かめげそうになった。


「ホムンクルスを維持するための術式は……こうだ。二晩目に分岐するから計算式の暗記の仕方としては”24242(ふたよふたよに)✕2(晩目)”ということになる。わかるか?」


一方のイクセントはわかりやすく、丁寧に教えてくれた。


自分より年下とは思えぬ出来である。ただただ驚くほかなかった。


フォリオは教えたり教えられたりといい感じに勉強会を活用していた。


ガリッツはというと勉強そっちのけでご満悦げにドリンクを何杯も飲み干していた。


明らかに店の趣旨とは異なる利用の仕方だが……。


予想通りではあるが、彼は勉強会には参加できそうにはなかった。


騒がないだけマシといえばマシなのだが。彼は意外と空気を読む。


皆が静かにしている時はおとなしくしているのだ。


もしかしたらこの勉強会もただサボっているだけなのかもしれない。


そう考えると不思議と笑えてくるのだった。


「あ、またドリンクおかわりした」


「アシェリィ集中ッ!!」


厳しいエルフの少女のムチが入る。


「ふぇ~ん。は~い……」


外の明るさがわからなかったので気づかなかったが夢中になって勉強していたらもう夕暮れ時だった。


それぞれがみっちり勉強することが出来、為になる勉強会となった。


「勉強会もたまには悪くないね。その時は皆、またよろしくね」


アシェリィは班員たちにお礼を言った。


「貴女みたいな出来の悪い方、これぐらいじゃ出来るようにならなくってよ」


「フン。全くだ。……追試、通れよ」


「ぼぼぼぼくも、たたたたのしかったよ」


「……………………」


なんだかんだで皆、手伝ってくれたことに改めてアシェリィは感謝の意を示した。


後日、行われた追試をなんとか一発スレスレで突破して補講を回避することに成功した。


スレスレだった事にメンバーは呆れ混じりだったが、無事の突破に満足してくれた。


班員の期待を裏切らずにすんで、アシェリィはほっとしたのだった。


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