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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
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乙女トキメキ度の破壊

「う~~~~ん…………」


少女は分厚い財宝図鑑を机の上に立ててペラリペラリとめくった。


エキスパートクラスであるトレジャーハンティングクラスから課題が出ていたのである。


「う~~~~ん、Eランクのトレジャーを入手が課題かぁ……。Eランクっていうとちょっと珍しい程度になるね。教授は”欲しいトレジャーと得意なトレジャーは違う”って言ってたけどなぁ……。私の得意なトレジャー……う~ん…………」


アシェリィは頭を抱えて考え込んでいたが、いい考えが閃いて指をパチンと鳴らした。


「そうだよ。ポカプエル湖でコパガヴァーナ釣り上げたじゃん!! あれも一応トレジャーなはず。となると……」


パラリパラリと分厚い財宝カタログをめくってみる。トレジャーハンティングクラスの講義でもらったものだ。


魚の項目を見ていく。ミナレート近海でも手に入る魚介類があると思えたからである。


「えっと……足長イカと、1つ目ウロコウオ、シロウミミミズくらいかなぁ。他にもいくつかあるけどある程度絞ったほうがいいかな。Eランクのここらへんを狙っていこうか!!」


今日は休日だったのでアシェリィは制服でなく、ブラウスに短パンというアウトドアチックな軽装で出かけることにした。


日焼け止めの薬を塗って麦わら帽子を被ると室外に出た。


アシェリィはだいぶ慣れてきていたが、いつになってもミナレートは真夏の気候である。


学院のプライベートビーチでは学生たちが水遊びに興じていた。


「う~ん……水遊びしてる人の近くじゃさすがに魚はいないよね……。あっちにいってみようか……」


岩が平たく迫り出している釣りスポットには最適な場所を見つけることに成功した。


さっそく持ち竿の”スワローテイル”を取り出した。


直接餌をつけてもいいが、幻魔を餌にするという手もある。


まずはやってみるのが一番だろうとクーラーボックスに入っていた餌の大目玉イモ虫を針に刺した海に投げた。


カァーカァー


かもめがのどかに鳴いている。アシェリィは釣りをしている最中のこんな時間がとても好きだ。


釣れるか釣れないかは二の次で水のせせらぎや周りの環境音を聞いているだけで釣りに来る価値があると思っている。


その価値観を理解されないこともままあったが、ともかく釣りとは良いものだ。


「来たッ!!」


まったりした空気を破って釣り竿が大きくしなった。


グイッと海に引き込むような引きだ。


「ぐぬぬぬぬぬぬ!!!!」


―――プツン―――


糸を切られてしまった。アシェリィは頭を掻きながら再度、釣り針をセットし始めた。


座り込んで糸を結んでいると誰かが声をかけてきた。


「これはこれは。アシェリィ殿ではござらんか」


この声は百虎丸びゃっこまるである。


「あ。トラちゃんこんにちは」


「ニャフフ……トラちゃんはやめるでござるよ」


どうやら彼も釣りをしに来ているらしい。


「おー、竹竿バンブーロッドとは渋いね~。それで釣れる?」


シンプル極まりない竿を見て少し疑わしく思えた。


「ニュフフ~~~ン。今晩のお夕飯でござる」


腰にさげていた網の中は大漁だった。


「お~!! すご~い!!」


百虎丸びゃっこまるは胸を張った。


「まぁ魚の類は大好物なだけあって、釣りには自信があるでござるよ。して、アシェリィ殿は?」


「始めたばっか。これからだよ~」


彼女は今までの経緯を彼に語った。


「ふむふむ。とれじゃあ……つまりお宝を探しているわけですな? ならこの網の中にターゲットはおらぬかな?」


彼の問いにアシェリィは掌を向けて首を左右に振った。


「いや~、協力する事もあるけど、基本的にトレジャーハンターは自力でやるもんだよ。わたしもまだ一回目だからもっと粘らないとね!!」


ケモケモ耳の亜人は快活に笑った。


「うむ。アシェリィ殿は粘り強いのですな!! せっかくだし、拙者も隣でご一緒させていただくでござるよ。拙者が先に釣り上げてしまったりして」


「うわ~。性格悪~。もう十分釣ったじゃない」


二人揃って笑いあい、釣り針を垂らした。その後も釣り談義で盛り上がった。


それをこっそりと覗く者が居た。百虎丸びゃっこまるの班のカルネである。


「アイヤー……リーダーとアシェリィ、こんなコトなってたあるかー」


そのまま気づかれずにソロリソロリとその場を後にした。


「なぁなぁ!! あれみるアルよ。ラヴァーズ・ケイプにアシェリィとうちのリーダーが居るアル。あの二人、いつの間にデキてたアルか!!」


カルネは息を上げながら興奮して語った。


それに対してヴェーゼスは冷静に鋭いツッコミをした。


「あら、あれが恋人同士のコミュニケーション? どうみてもただのお友達にしかみえないんだけど」


だが、ミラニャンが蒸し返した。


「ラヴァーズ・ケイプで男女が揃うと恋が実る……あそこで告白した場合もその恋は実る……ですよね? あ~なんてロマンティックなんでしょう。私は二人の事、お似合いだと思いますけどね~~うふふ」


それを聞くとカルネは両手を握って上下に振った。


「や、や、やっぱわたし、気になってしまうアルよ!! 真相を突き止めるアル!! 突撃ーーーーーーーッッッ!!!」


「待って、カルネ。私も~」


これは面倒くさいことになるとさとったヴェーゼスは大人の落ち着きと共に二人の後をついていった。


「二人ともーーーーーーーっっっ」


「ん?」

「にゅふ?」


カルネが息を荒げて両膝に手をついた。


「おやおやカルネ殿。どうかなさったのですか?」


ミラニャンとヴェーゼスまで追いついていた。


「みんな揃ってどうしたでござる?」


カルネはいきなり核心に迫った。


「あああアシェリィとりり。リーダーは……デキてるあるか!?」


二人は互いに顔を見合わせて首をひねった。


「ほら見ろいわんこっちゃない」


そのリアクションをみてヴェーゼスは片手を額に当てて左右に振った。


「儚いってこういうことを言うんですね~」


なんだか残念そうにミラニャンは語った。


「私と」

「アシェリィ殿が」


「恋人!?」

「恋仲とな!?」


それを聞いたら恥ずかしがると一同は思っていたが、予想外なことに二人は笑い転げだした。


「あっはっはっはっはっはっはっはっは!!! ひーっひっひーっ!!! そんなん無い無い。うひひひひひひひ」

「ニャフ、ニャフフ。フニャふふふふふふ。なんでござるかその冗談は! ふにゃーーっはっはっは!!」



もはや親友ポジションで固定されてるような人物と恋仲を疑われるのはなんだか酷くお笑い草だったからだ。


もしかしてこれからどうこうということもあるかもしれないが、この二人に関しては全くその気配がなかった。


同じリーダー同士の苦労もあってか早くも親友というか相棒のような感覚だった。


ここまで盛大に笑われて、せっかくのロマンティックなムードを破壊されたカルネはむしょうに頭に来ていた。


ヴェーゼとミラニャンはそうでもなかったが、こういった乙女の信仰みたいなものが打ち破られるのをカルネは許せなかった。


「え!! 二人ともほんと何もないアルか? どうしてラヴァーズ・ケイプに二人で仲良く揃って座ってるアル!!」


「釣りだよ」

「釣りでござるよ」


「う~~~~ぬぬぬ!!! “乙女トキメキ度”が足りないアル!! ほらヴェーゼスもミラニャンもとっとと帰るあるよ!! こんなつまらないところは二度と来ないアル!!」


そう吐き捨ててカルネは去っていった。残りの二人も会釈をしながらそそくさと帰っていった。


結局なんだったのだろうか。釣りに費やす貴重な時間を浪費する結果になってしまった。


でもこれはこれで面白かったから良かったのではないかということで今日は釣りを切り上げてその場で解散となった。


「まっずいなぁ~。こりゃ明日から放課後返上で魚釣りかぁ~。まぁそれも悪くないか」


アシェリィが立ち尽くしていると後ろから誰かが声をかけてきた。


ビクッっとして振り向くとそこには高身長でヒゲを生やした百虎丸びゃっこまるの班員、レール・レールが居た。


「まったく、あの女のノリにはかなわん。それに女三人集まると姦しいというヤツだな。だが決して悪いやつらではない。煙たがらならないでやってくれ」


彼はアロハシャツにカーキの半ズボンのラフな姿をしていた。手にはなにやら本を持っている。


「これか? 恋愛小説だ。恋愛はファンタジーに限る……」


そう言うと彼は背を向けて岬をトボトボと歩いていった。


個性派揃いの班員達をまとめる百虎丸びゃっこまるの苦労に思わず目眩めまいがしそうなアシェリィだった。





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