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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
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時代遅れのホウキ乗りの矜持

イクセントの家へとお見舞いへといって数日後、彼はそれなりに元気になって戻ってきた。


「……僕が砂漠で使った気候適応呪文は一時的なものだった。砂漠での反動に加え、こう蒸し暑いとな。その……なんだ。し、心配かけて悪かったな」


こっ恥ずかしげにうつむく少年を意地悪げにノワレがつっついた。


「あ~ら、誰も貴男のことなんて心配してませんでしてよ?」


「なんだと?」


「何よ!!」


「ちょっと二人とも!!」


クラスに響く声でアシェリィが仲裁に入った。


結果、クラス中から笑われてしまい、リーダーは恥ずかしげに席についた。


イクセントとノワレの二人は氷海が脳裏をチラついて怯えていた。


そうこうしているとナッガン教授が入ってきてHRホームルームが始まった。


軽い連絡事項の後、いつもどおりに授業が始まるところだったが、ナッガンは情報を付け加えた。


「ああ、そうだ。お前らの中で一番最初に闘技場に出る者が決まった」


「!!」


すぐに教室中がざわめいた。コロシアムに入り浸るものは居ても、まだ誰も闘技場の舞台に立ったものは居なかったからだ。


一体誰が参戦するというのか。クラスのざわめきが止まらなかった。


「ゴホン」


教授は咳ごんで仕切り直した。


「でだな、参加するのはフォリオだ。フォリオ・フォリオ」


クラスはなんとも言えない空気に包まれた。


先の遠足でも彼は逃げたり隠れたりする一方でほとんど戦いに貢献しなかったからだ。


今回も不満があるようで、ホウキを片手で抱きしめて立ち上がった。


「せせっ、せせせせせんせい!! きききききっ、聞いてないです!! ぼぼぼぼぼっ、僕が闘技場なんて、なななななななにかの間違いじゃないですか?」


ナッガンは見てくれに似合わない優しげな声色に変わった。


「フォリオよ。まずは座れ。お前は学院のフライトクラブ……魔術で空を飛ぶ事を極める部活へ志望していたな? この間、部活への入部届が通った。だがな、このフライトクラブ、ただでは入れないのだ」


フォリオは席についたが、早くもガタガタと震えだした。


「そう。お前の予想している通りだ。フライトクラブの部活動には危険が伴う。危険地帯に身を投じる事もあれば、仲間を命がけで守らねばならない事もある。そんな部活だけに厳しい入部テストがあるのだ。それを闘技場で確かめるというわけだ。おそらくお前が最期の入部希望者になるだろう。審査は容赦なくてな。かなりの数の生徒が落とされて涙を飲んでいる。お前に……逃げ出さずにやれるのか?」


ナッガンは厳しい表情でフォリオを見つめた。彼は青い顔をしてブルブル震え、一言も言葉が出ない。


「別にフライトクラブ入部は必修ではない。ここで逃げても誰も責めはしないし、責めることも出来ない。だが、己の信念は裏切ることにはなる。わざわざ苦労して入学した意味を忘れるな。なお、入部テストは今日の放課後、公開制で行う。全員来いとは言わないが、応援するつもりのあるやつは行ってみると良い。もっともフォリオが来るかは本人次第だがな……」


その日の授業ではずっとフォリオはホウキをかかえたまま上の空だった。


チームとして励ますのはどうかと思ったが、彼は何事にも怯える姿勢だったので、迂闊に触れることが出来ずにいた。


アシェリィが悶々としていると放課後があっという間に来てしまった。


何か一言かけようかと思ったが、その一言が出てこない。こればっかりは本人次第と割り切って彼女は闘技場へと向かった。


コロシアムではクラスの半分くらいが集まっていた。残り半分はフォリオに期待していないというところだ。


来ているメンバーの中にも見物でやってきている者も居た。


酷なようだが、今までの彼の態度からするとそれも致し方なかった。


時間になってフォリオが来るのかどうか、クラスメイト達はハラハラしていた。


その時、彼はやってきた。時間には正確な彼らしい行動である。


両手にホウキを抱きしめてガタガタと震えていた。


闘技場の向かいから誰か出てきた。大きな声で名乗る。


「僕がフライトクラブの部長、ヴィラト。君をテストに来たよ。ほぉ~。ホウキとはまたクラシカルな。おっと失礼。俺個人としては別に馬鹿にするつもりじゃないんだ。でも時代遅れなのは間違いない。からかわれるのも覚悟するんだね。まぁ今まで散々からかわれてきただろうけど。まずは、そうだな。それっ」


ヴィラトは指をパチンと鳴らすと闘技場の床が消えて底なし闇の谷になった。


いきなり足場が無くなれば落下していくところだが、フォリオはホウキを抱いたままの姿勢で宙に止まった。


すぐに姿勢を整えてまたがるような体勢にかわった。


「ふむ。制御よし、高所恐怖よし。お次いくぞ!! ピーーーーッ!!!!」


部長が指笛を吹くと炎を吐きながら宙を舞う蛇”バネーイジ”が数匹放たれた。


「さぁ、どう出る?」


ヴィラトはフォリオの仕草を凝視した。


「うううううううう、うううわああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!! 助けてコルトルネーーーーー」


ホウキの少年はものすごい勢いて一直線に逃げ出した。


そして思いっきり魔術のバリア、魔術障壁まじゅつしょうへきに頭から突っ込んで顔面を強打した。


そのまま気を失って闇の谷へと消えていった。


「う~ん、度胸はなし、でも瞬発力は目をみはるものがあるね……。お?」


一度は墜落してしまったかと思われたフォリオだったがホウキにくの字に引っかかるようにしてふわふわと浮き上がってきた。


「おやおや。ガッツはあるようだね」


フォリオは顔に青あざが出来ていた。同時に出た鼻血を制服の袖で拭った。


「ぼぼぼぼぼ、ぼぼくは……ここここのひひひひひひいひいひいひいのひいお、おおおおばあちゃんのほほほホウキでフフ、フライトクラブにははははは、入るんだ。ぼぼぼっ、ぼくは、ははは、入るんだぞ!!」


他人からしたらなんでもないかも知れない。だが、いつもすぐに逃げ出すクラスメイトからするとフォリオのこの粘りは称賛に値した。


いつのまにか声援の声が上がる。


「それ、もう一発!!」


再び宙を舞う蛇”バーネイジ”が解き放たれた。


フォリオは一切、立ち向かうことは出来なかった。ひたすら逃げて、障壁に突っ込んでもそれでも彼は諦めなかった。


「ハァハァハァ…………」


弱虫の少年は全身をあぶられてやけどと打撲を負い、あざだらけになった。


目の上の大きな青コブが痛々しい。唇も切れている。


だが、彼は参ったとは一言も言わなかった。


最初はともかく、じきに情けなくホウキにすがるような言動も止めた。


それを見たフライトクラブの部長は声を上げた。


「結局最期まで向かってこれなかったけど、逃げるのも才能の一つだと俺達は考えている。こういった形での合格も悪くはない。合格だ。さ、早く手当を受けなよ」


それと同時に闇の谷は元の闘技場と同じに戻った。


すぐに救護班が入ってフォリオの治療を始めた。


クラスメイトたちも駆け寄りたいところだったが、安静にしておくのがいいだろうとその場は解散していった。


翌日、早速クラスメイト達がフォリオを取り囲んでいた。


彼の肩には”リジャントブイル魔術学院フライトクラブ”のエンブレムが縫い付けてあった。


本人はと言うとひたすら恥ずかしげにペコペコお辞儀をしていた。


今まで自分に自身が持てず、他との距離を掴みきれずに居たのだ。こういった反応をするのも無理はない。


だが、これならこれ以降、自信をもってクラスメイト達と接していけるのではないだろうか。


アシェリィは微笑ましく思った。


HRホームルームでナッガン教授が入ってきた。


教授はフォリオの様子を見ると満足げに頷いた。


「よくやったなフォリオ。遠足で本領が発揮できなかったときはどうなる事かと思ったが、まぁ大器晩成といったとこだな。だがそのエンブレムにおごるなよ。まだまだお前のフライトクラブ道は始まったばかりなのだからな。弱虫なのも克服しておけよ」


最期の一言にはクラスがドッっと笑った。


ナッガン教授は最初接した時はひたすらで厳しくてスパルタな人物だと思っていたが、接してみると意外と優しくて生徒想いの先生だった。


元M.D.T.Fの教官だけはあるといった感じだ。


ともかく、フォリオは一つ試練を越えて少しだけ強くなった…


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