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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
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8つの釜で八ツ釜亭

「寂しいな……寂しいよ……。あなたは行っちゃうんだ。後ろも振り向かず、立ち止まることも無く。寂しいな、悲しいな……一人にしないでよ。一人にしないで―――」


白い手がヌッっとこちらに伸びてきた。


「――――――――――――ッ!!」


アシェリィはなんだか嫌な夢をみて跳ね起きた。


見回すと寮の部屋の景色が見える。長いこと簡易キャンプで寝泊まりしていたため、違和感を感じる。


だが同時に無事に帰ってこれたのだなと安堵して深呼吸をした。


思わずマナクロックに目をやった。ずいぶん寝過ごしたのか昼過ぎだった。


「そうだ……今日は皆との約束の日だった。どこだっけ……やつ……がまてい?」


アシェリィ達は遠足の打ち上げをしようと飲み会をすることになっていた。それが休日である今日だったのだ。


学院生達の間ではおなじみの八ツ釜亭やつがまていが打ち合わせの場所だ。


夕方までゆっくり過ごすとアシェリィは制服に着替えて寮を出た。


学院から出てウォルナッツ大橋を渡り、ミナレートの大通りであるルーネス通りに出た。


ここはいつも賑わっていて雑多であり、田舎者の少女にとっては不慣れだった。


だが、いつ来ても目を引くものがあって歩いていて楽しくてしょうがなかった。


ルーネス通りを少し歩いていくとお大きな看板と共に2階建ての大きな建物が目についた。


「ここが……八ツ釜亭やつがまてい? 特製のスープの釜が八つあるから八つ釜亭だってファイセル先輩に聞いたことあったっけな……」


ぽつりと独り言をつぶやきながら入るとウェイターが声をかけてきた。


「お客様、おひとりさまですか?」


アシェリィは首を左右に振った。


「いえ、リジャントブイル魔法学院の団体なんですけど……」


そう答えるとウェイターは続けて聞いた。


「それなら複数利用しているお客様が居ます。代表者のお名前をうかがいしてよろしいですか?」


垢抜けない少女はあたふたした。


「あ、ああ、そ、そうなんだ。びゃ、百虎丸びゃっこまるが代表のグループの部屋に行きたいんですけど」


ウェイターはペコリと頭を下げた。


「はい。それならこちらでございます」


前をあるく案内人に着いて歩いていくが、この店は本当に広い。


カウンター席からテーブル席、床ずわりの席もあるようだった。


これなら1クラスの人数分より多く入りきるだろう。大宴会も開けそうである。


案内人の後をついて二階に登って戸を開くとクラスメイトの面々が床に座り、席についていた。


班ごとに丸いテーブルで囲ってあり、互いのテーブルを行き来できるような配置になっていた。


「お~い。アシェリィちゃんこっちこっち!!」


元気いっぱいにラーシェが座ったまま声をかけた。


他のメンバーはもう集まっていたようで全員が円卓についていた。


一通り揃ったのを確認するとえんじ色をした制服を来た学生が立ち上がった。エルダー(研究生)の生徒だ。


「え~、皆、遠足お疲れ様でした。セミメンターとしてはハラハラしたんだけど、ナッガン先生の方針があんな感じだからね。我々に敵意を向けないでいただきたい」


眼鏡をかけた青年はくだけた調子で笑いながらそう言った。場の空気が和らぐ。


「そのナッガン先生だけど、たまたま今日は仕事が立て込んでるみたいでね。来るつもりみたいだったけど来れなくなってしまったんだ。代わりにハメを外しすぎないように我々セミメンターが監視しにきたわけだ。……というのは半分冗談さ。気軽にやっておくれ。じゃあ、乾杯しようか。おっと、飲酒は年齢厳守ね。よろしく」


アシェリィは回ってきたお茶をコップに注いだ。


ライネンテでは飲酒が許可されるのは16歳になってからである。


入学後、間もなく15歳になったアシェリィは飲酒禁止だった。


興味がないわけではないが、生真面目だったので全く飲酒したことはなかった。


もっとも、田舎では多少緩い傾向があり、14歳くらいからの飲酒が常態化している地域もあったりするのだが。


アシェリィは気になって自分の班の人たちの年齢を聞いてみることにした。


「お酒出てくるけど、みんなって今、何歳なの? ちなみにあたしは最近15歳になったんだけど……」


それを聞いてノワレが難しげな表情をした。


「えっと……それは人間に換算しての年齢の事を言っていますの?」


“人間に換算する”の意味がわからない。


「おおよそ17歳くらいだと思いますわ。実際はそれよりはるかに長く生きていますが……」


エルフはとても長命で、年齢を重ねても見た目が幼いままだという。


もしかしてクラス最年長はノワレなのではないだろうかとテーブルの皆は思った。


「じゃ、じゃあフォリオ君と、イクセント君は?」


フォリオは宴会の場にまでホウキを持ち込んでいた。肌身離さずといった様子で答える。


「ぼぼぼぼぼっ、ぼくは13歳。ここここ、こ今年で14歳になるんだ」


どうも年下だなとは思っていたが予想通りである。


幼いだけあって普段の態度や、戦場での立ちふるまいも仕方がないのかなと少しアシェリィは思った。


次に腕を組んだイクセントが答えた。


「僕も今は13歳だ。今年で14歳になる」


これには驚いた。ファイセルたちから聞かされていたが、満14歳で合格出来る生徒は相当の実力者と言われている。


“14歳組”などと呼ばれるほどであるらしい。


フォリオもイクセントモ”14歳組”であると言える。確かに二人とも確かな実力を持っている。


だが、イクセントは年の割に酷く落ち着いていて、にわかには信じられなかった。


身長はとても低いが、同じくらいから少し高いくらいの年齢だとアシェリィは思っていた。


「……イクセント君、年の割に落ち着いてるとか言われない?」


思わずアシェリィはそう声をかけた。


「……別に。他の連中が幼稚すぎるだけだろう」


キッツイ一言である。思わず隣に座っていたノワレが鼻を鳴らして一席分間をあけた。


「まぁまぁ」


ラーシェが二人の仲裁に入った。


あとはガリッツの年齢が謎だったが、彼に関しては聞くだけ無駄というか、聞いても反応が帰ってこないだろう。


だが、彼の前のコップには甘密ジュースが入れられていた。


飲酒はしない派なのか、それともただ単に甘いものが好きなだけなのか。全ては謎のままだった。


「じゃあ、乾杯~!!!」


気づくと乾杯が始まっていた。自分もお茶の入ったコップを差し出す。


コップ同士がぶつかってカチャカチャと音を立てた。


ノワレはすぐにコップ一杯の飲み物を飲み終えた。


「んんん~!!!! これが噂に聞いていた新酒しんしゅですわね。古酒こしゅとは違う味わいがありましてよ。それだけじゃありませんわ。噂によれば新酒しんしゅは大量に摂取しても気持ち悪くなったり、悪酔いや酩酊めいてい、二日酔いが無いというじゃありませんの!! 素晴らしいですわ!! もう一杯くださるかしら?」


これは間違いなく飲ん兵衛である。思わずラーシェが制止をかけた。


「ちょっと待った!! たとえ新酒といっても呑みすぎるとベロンベロンに酔うよ。気持ちはわかるけど少しずつにしようね」


「チェッ」


ノワレは口を尖らせていじけたが、次の一杯が来るとうっとりしながら味わい始めた。


「じゃあ、皆、なにを食べるかメニューを見て考えて」


セミメンターはレストランのメニューを皆に配った。


オシャレなメニューであったが、大衆食堂であった為にさほど難解なメニューはなかった。一人ずつオーダーしていく。


「あ、あたし、マグマトカゲの丸焼きランチ」


「私は……八種類の草団子セットとラーグのコトコトスープを」


「わたくしは百足ひゃくあしイモ虫のフライと、薬草穀物ライスのセットで」


「僕は霜柱しもばしらパスタとR・コリッキージュースを」


「ぼぼぼぼぼ、ぼぼぼくはクルル鳥の卵のオムライスとオレンジジュースで……」


ガリッツも待ち遠しそうにハサミを打ち鳴らしたが、何をオーダーしているのかわからない。


仕方なく、ラーシェが適当にみつくろって彼の分を注文した。


料理が来るまで雑談に花が咲いた。


見る限り、酒を飲んでいる生徒も結構居て、自分たちの班は全体的に年齢が低いような気がした。


そうしているうちに料理が届いた。みんな美味しそうに舌鼓をうって食事をした。


「う~ん、家の草だんごもおいしいけど、これもすっごく美味しいよ!! 食べたことのない味もあるし」


アシェリィは団子をつまみながら故郷のスープの味に浸った。


「あはは。草団子とか渋いね~。もっと美味しいものが沢山あるから食べてみてよ。私も一緒にランチしたりしてもいいし。イクセント君はちょっと変わったもの食べてるね。雪国出身なのかな?」


声をかけられた少年はめんどくさそうに返した。


「雪国料理にかぶれている。それだけです……」


ラーシェは笑顔でうんうんと首を縦に振った。


「それにしても、貴男なんですのそのお子様ランチみたいな組み合わせは。あ~、実際、ただのなんにも出来ないお子様でしたわね、これは失礼~」


酔い始めたノワレがフォリオにちょっかいを出した。


“ただのなんにもできない”という言葉がアシェリィの琴線きんせんに触れた。


かつて自分がそう言われていた過去と結びつけてその罵りが耳に入ってきた。


カーっとなって怒鳴ってやろうかと思ったが、宴の席でそれは無いなとアシェリィは思いとどまった。


だが、ノワレには一言言ってやらねばなるまい。


「ノワレちゃん、なんにも出来ないなんて言わないで。フォリオ君を馬鹿にしたらどうなるか……わかるよね?」


「ああああアシェリィ……」


全力の圧を込めてそう伝えるとエルフの少女は大きく後ろにのけぞった。


「ひっ……!! わかりましたわ。わかりましたからもう二度と氷海ツアーは……」


「わかればいいよ」


あまり後腐れを残すつもりもないし、必要以上に脅す気も無い。すぐにアシェリィは笑顔に戻って食事を再開した。


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