表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
223/644

遠足は終わらない

遠足が始まってとうとう一ヶ月が過ぎた。


慣れというのは怖いもので、化物に蹴散らされて簡易なキャンプでうなされる毎日にクラスメイト達は何も感じなくなっていた。


それどころか戦いを重ねるたびにまるで戦いを欲するかのように新しい戦い方を編み出していく。


モンスターや夢喰魚ゆめくいうおに対する慣れもあって、恐怖や二の足を踏まなくなっていった。


合流するコツも掴みつつあって、うまい具合に捜査網をかいくぐって班ごとに合流していく。


五班で当たれる回も徐々に増えてきた。特に今回は順調で全員がほぼ無傷で戦闘を継続していた。


「むっ、いかん!! 砂瘴さしょうでござる!!」


「任せろ……」


突然の砂瘴さしょうを後方ステップの連続でかわすとイクセントは抜刀して振り抜いた。


「瞬きの流嵐りゅうらん!! ストリーム・オーラジュ・タンペ!!」


彼が詠唱すると一瞬だけ激しい嵐が駆け抜けるように吹いて、地面から吹き出してきた砂瘴さしょうを吹き飛ばした。


「よしっ!! 戦闘続行でござるよ!!」


課題であった砂瘴さしょうも解決することができた。


ただ、問題もあった。相手は魔導生物。どれだけ弱っているかがよくわからなかった。


かなりいいところまで来ている気がするのだが、夢喰魚ゆめくいうおが力尽きることはない。


手応えが全く無いわけでは無いのだが、感触的にはサンドバッグを殴っているのと変わらないのだ。


だが、今回は様子が違った。戦闘が開始してベストの状態で当たっていると突如、夢喰魚ゆめくいうおが止まったのだ。


迂闊に攻撃するとまずいと思ったクラスメイト達は攻撃の手を止めて様子をうかがった。


すると化物は体に真空波をまとい始めた。角や牙の周りに目に見えるかまいたちが発生したのである。


そのまま体をひねってかまいたちを飛ばしてきた。


その切れ味は凄まじく、かすっただけでもスパッっと傷口が開く強烈なものだった。


サンドリスは砂で出来た幻魔なので斬撃を無効化出来たが、盾のないところで戦っている生徒達は次々倒れていった。


背中の上も激しい衝撃波に見舞われ、背の上の者も飛ばされた。


残るのはあっという間にイクセント一人になってしまった。


彼もかまいたちを避けるのが精一杯ですっかり攻めが出来なくなっていた。


サンドリスの内側でアシェリィ達は話し合った。


「どうしよう。流石に前衛の位置にサンドリスを張るのは無茶があるよ。体当たりでも破壊されちゃうし。このままだと砂の大砲がここを狙ってくる。あの衝撃波をなんとかしないと勝ち目がない!!」


「いや、待て。よく見るんだ。あれだけ近距離に居てもスララはほとんど傷がない。衝撃波が効いてないんだ。エ・Gに盾になってもらって前衛を守りながら戦うのがいいんじゃないかと思う。少なくとももう今回は無理だ。イクセント君が力尽きたら我々も一網打尽だろう。次回にこの案は持ち越しだな」


必死の抵抗も虚しく、前衛を失ったクラスメイト達は体当たりや回転して起こした衝撃波、砂の大砲、連射弾などでボコボコにやられ、全滅してしまった。


その後、数回は合流を阻まれる事が続いたが、数日後、チャンスは来た。


班を合流のたびに分隊して組み直し、陽動に適した組み合わせのメンバーで他のメンバーが待ち受ける場所へと誘い出すような戦術をとったのだ。


「フシューーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」


迎撃ポイントへ夢喰魚ゆめくいうおが入ると計画通りにフォーメーションを組んでの戦いが始まった。


前衛はスララのエ・Gを盾にしつつ、悪魔の背後に退避しながら攻撃、後衛はアシェリィの砂の盾、サンドリスに隠れつつ援護というパターンだ。


スララはともかく、サンドリスはだいぶ板についてきて大砲に狙われさえしなければ味方を護り切ることができた。


その大砲や連射弾の噴出口は背中の上の百虎丸びゃっこまるとクラティスが片っ端から潰していた。


いつものように切り込み隊長のガンがマッドネス・ギアーの巨大歯車で体当たりをぶちかました。


ぐらりとのけぞった化物に真っ赤な髪の毛と電撃のピアスが襲いかかる。


リッチェとファーリスは攻撃力は高いが、耐久力はそうでもない。


今度はヴェーゼスもそれに加わって魔性の投げキッスで化物の精神を引っ掻き回した。


彼等彼女らをスララのエ・Gでガードする。


背中の上でかまいたちが発生すると上の二人もすぐに飛び降りて同じくエ・Gの陰に隠れてやり過ごした。


腹の下のタコ亜人、ニュルはかまいたちを受けない位置でひたすら攻撃を続けた。


回復要員の見直しもされて、ロウソク使いのカルネがスララの後ろに控えて衝撃波の切り傷を全力で癒やした。


尻尾の後方からは花火娘のカークスが元気よく夢喰魚ゆめくいうおを追い立てながら激しい爆撃を行っていた。


マナを多く消費する後衛にはミラニャンがスイーツを配っていた。


それと”はっぱちゃん”がリラグゼーションと傷の治療に当たっていた。


アシェリィはサンドリスを喚びつつ、他の面々の攻撃に属性付与エレメンタル・アタッチしたりして援護に回っていた。


田吾作たごさくとノワレの野菜コンボの破壊力は凄まじく、ターゲットをのけぞらせた。


「トマトぉ・トマトぉ・トマトトマトとんまとぉっ!!!!!」


「ッッ!! 野菜ばかりのアウェイキングで頭がおかしくなりそうですわ!! もうどうとでもなればいいですのよ!!」


その隣では無口のまま人間灯台のポーゼスが光線を照射して魚を焼いていた。


ガリッツも細くはあるがレーザービームを両手の真っ赤なハサミから発射している。


更にレーネは穴の空いた球に指を入れて狙いを定め、絶妙なカーブをかけて遠距離から球を直撃させた。


小ぶりだがしっかりとした爆破が起こる。


グスモはレーネと組んで球に罠を仕込んで、本来の用途とは異なっても使えるものは何でも使っていっていた。


レール・レールは前衛と後衛にレールを造って緊急時の退路を確保した。


重傷者が出たら前衛からレールで後退し、控えているドクが副作用はあるが回復量の多い緊急時の治療をするという流れだ。


アンジェナはサンドリスの盾の陰から味方に指示を出した。その采配は目を引くものがあり、彼の策で救われた局面もあった。


チェルッキィーのキーモは残念ながら戦闘要員としては無力だったので戦いを見守ることしか出来なかった。


その横でフォリオは戦場に目を背け、ホウキを抱えてずっと震えていた。


だが、これでほぼ全員で当たっていることになる。ナッガンの言葉が本当ならばそろそろ勝機が見えてくるはずである。


いよいよ夢喰魚ゆめくいうおの行動パターンに変化が見えてきた。


進行を止めて、その場で自己修復に集中し始めたのである。


おそらくこのまま一気に回復しきれると考えているのだろうか。


素早く百虎丸びゃっこまるは大声で指示を出した。


「攻撃の手が緩んでいるでござる!! 全員、総攻撃ぃぃぃーーー!!!!!」


「おおおおおおーーーーーーーーーー!!!!!」


思わずその場のほとんどが勢いよく叫びを上げてそれを了解した。


もう後は単純に攻撃と回復の押し合いである。


全員が出し惜しみなく高い火力の技や特技をガンガン使っていく。


「……やれやれ。やっと囮役から解放か……。そのうえ今度は総力戦だと? フン。全く勝手を言う……」


イクセントは持っていた剣の柄を両手で握り、刀身を下に向けて体の正面で構えた。


およそ剣技とは思えぬその構えに前衛達は見入った。


ただならぬ雰囲気があたりに漂った。


「災いを呼びし禍々しき炎よ、生なる樹を焼き尽くし、その忌まわしき爪痕を大地に散らせ……。禍葉かは唸炎てんえん!! マルール・フォイユ・デュ・カラミティストムンッッッ!!!!」


詠唱すると同時にイクセントは解き放つように両腕を開いた。剣は刀身を下に片手に握ったままだ。


彼の胸のあたりから焼け焦げたような葉っぱとそれを炙る炎が吹いて出た。


樹木属性と炎属性の見事なミックス・ジュースだった。


轟音を立てながら絶大な破壊力を持つ魔法は拡大していく。思わず近くの生徒達は彼と距離をとった。


ゆらゆらと燃やされた落ち葉が舞い散って夢喰魚ゆめくいうおを蹂躙するその光景はまるで世界の終末のようだった。


イクセントが力尽きる頃には砂漠には何も残らず、化物ももういなかった。


「や、やったのか……?」


クラスメイト達は辺りを警戒したが、ネズミ一匹居なかった。


リタイアしたのはイクセントくらいだったので皆であれこれ話したが、皆が皆、手応えはなかったが夢喰魚ゆめくいうおの消滅を確信していた。


あれこれと彼等が話していると、すぐそばに簡易キャンプが姿を現した。


ナッガンとセミメンターの合わせて六人がそこに立っていた。


担任教師は前に出て語り始めた。


「諸君。熱砂クジラ……いや、夢喰魚ゆめくいうおの討伐、ご苦労だったな。よくやった。だが、残念な知らせがある。”遠足はまだ終わらない”」


クラスの生徒達は凍りついた。あれだけ辛い一ヶ月間を送ったのにまだ遠足は終わらないらしい。


そんな様子をしれっと無視してナッガンは続けた。


「遠足の締めくくりだ。地主様のご厚意で潜砂船せんさせんのラグジュアリー豪華コースでのおもてなしがあるそうだ。数日間、楽しむと良い。お前らは本当によくやった。だが、これはまだ始まりにすぎん。それを忘れんことだ……」


それを聞いた遠足メンバー達は緊張がとけて笑ったり、泣いたりで喜んだ。


まだ彼等は出会ってからそこまで経っていなかった。、


だが、命を預けあった仲というのは深いもので、面々はこの遠足で大きな絆を得た。


アシェリィは一旦、足を止めて、砂漠を眺めた。


「いつか来れたらいいなって思えた砂漠に来れちゃった!! 次は何が待ってるんだろう!?」


希望に夢をふくらませる少女に誰かが声をかけた。


「おーい。何やってんだよアシェリィ。とっととこんなとこずらかるぞ」


クラティスが手を振っていた。


「うん!!」


少女は砂漠にしっかりと足跡を残した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ