集結!! 総員二十五名!!
ここ最近、例の魔導生物が本性を表してからというもの、クラスメイト達は執拗に合流を妨害されていた。
遠足もかれこれ三週間目に突入したが、これだけ慣れがあっても合流は三班までがいいところだった。
四班、ましてやフルメンツは揃うのが極めて難しい状況にある。
広大な砂漠という環境と恐ろしく速い足とセンサーを持つらしい夢喰魚の仕業だ。
だが、合流と連携さえうまくいけば、勝機はあると多くの者が思っていた。
青年は両手で望遠鏡の形を作って明けの空を眺めた。そこからいつものように星を詠む。
寝そべってしばらく空を仰いでいた彼はガバッっと半身を起こした。
「どうだ? 見えたか?」
ガンがそうアンジェナに声をかけた。
「あぁ……。”ついに星たちは一つに会するだろう。星の一つが戦ってもそうでなくても、その結果は危険に満ちたものになる……”だ。ここまで長かったが、ついにヤツとの全面衝突の時が迫っているらしい。おそらく、俺達の参加、不参加で戦況は動かないが勇気持たぬものに光明無しだ。それに、クラスメイトを見捨てるのも悪趣味だからな」
その一声に五班の面々は互いに声を掛け合って鼓舞し合った。
互いの班の合流はアシェリィの召喚術、キーモのお菓子、チェルッキィーやフェロモンのヴェーゼス、レール作りのレールレール、人間灯台のポーゼ、星詠みのアンジェナなどを中心に行われた。
応急キャンプは近場には設営されないらしく、出会うには何らかの対策を講じる必要がある。
それにこれだけの能力者が集まっても砂漠の広さゆえにやはり三班くらいがいいところである。
部隊がその規模になってくるともう夢喰魚のセンサーに引っかかって蹴散らされてしまう。
なんとかしてこれをかいくぐる必要があった。
今回もうまい具合にアシェリィ達の班とアンジェナの班が合流していた。
前回の戦いの内容や気をつける点、互いの能力の確認などをしているとアンジェナがポンと手を打った。
「そうだ!! 見聞きしたりするに、数人でもヤツを食い止められるケースがある!! ならば、最初から数人で迎撃用のメンバーを作って、残りのメンバーで他の班との合流を進めればいいんじゃないだろうか?」
班単位で動いたほうが良いという固定概念を打ち破る提案だった。
事実、イクセントやノワレなどは別の班との混合で動いているしそれである程度の成果も出している。
こうなると決まって話が行くのがイクセントだった。
「イクセント君、毎回、危険を承知でなんだけど頼めるかな?」
顔を覗き込みながらそう尋ねると彼は腕を組んだままそっぽを向いた。
「フン……」
彼には悪いなと思いつつ、この役を任せられるのはなかなか居なかった。
「あとノワレも迎撃組、よろしくお願いするね」
片手で謝意を示しつつ彼女もいいくるめてみた。
「はぁ!? なんですの? こんなガキンちょとわたくしが!?」
「なんだと?」
想像以上にヒステリカルに怒る。この二人の組み合わせはマズかっただろうか……」
向こうの班は巨大歯車使いのガン、ピアスのファーリス、髪を武器にするリッチェが迎撃組として残ることになった。
「あとは……ガリッツくんも迎撃組かなぁ。そうすると私達は私とフォリオくんになるね。頼りにしてるよ!!」
アシェリィは屈託ないグッドサインを出したが、なんだかフォリオはふるふると頼りなさげにふるえていた。
もう時期、夢喰魚が来る。早くほかの班との合流を進めなければ。
アシェリィは背負っていたマナボードに乗るとサモナーズ・ブックを開いた。
「えっと……バルクが記憶している臭いは……。沢山ある。どっちから行こうかな……。最寄りか!!」
そう言うと彼女は砂丘を駆け下り始めた。横からフォリオが着いてくる。
彼と並走しながら召喚術師は疑問を呈した。
「フォリオ君、私と一緒に行くんじゃなくて手分けしたほうがいいんじゃない?」
それを聞いてすぐに少年は必死に首を左右に振った。
「むむむむ、むむむむむりむりむりだよぉ!! ももももも、ももももんすたーに襲われちゃうって!!!!!」
情けない受け答えに流石のアシェリィもため息をつかざるをえなかった。
しばらく砂漠を進むとレールが見えてきた。レール・レールのものに違いない。百虎丸の班だ。
レールに飛び乗ってすぐに彼らに追いついて、作戦を伝えるとすぐにレール・レールは今まで作っていたレールを持ち上げて、指示された方向へと転換した。
「あいわかった」
彼らはそのレールにのって迅速に迎撃組の救援に向かった。
占術の凄腕と評判のアンジェナなら今頃、一班とコンタクトをとれているだろうと思った。
再び骸骨犬バルクの臭いをチェックすると外れた所に一班ある。
「フォリオ君、私は最後の一班を連れて帰るから迎撃組の援護に戻って!!」
結局フォリオは言うことを聞かず、後ろにピッタリ貼り付くようについてきた。
今度はスララの班だった。この重要な班が遠く離れているのは痛い。
事情を話すと班長に提案された。
「あンまリおスすメでキなイけド、エ・Gにノっテく?」
彼女は自分の口に手を突っ込むと苦しそうな嗚咽音と共に白と赤の悪魔を喚び出した。
ザリザリとした箇所とヌルヌルした箇所があってなんとも気持ち悪い。
班員は乗り慣れているようで、落ちない場所を案内してもらった。
「そレじャ、はッしーン!!」
掛け声とともにエ・Gは砂を喰いながら前進し始めた。
夢喰魚には敵わないがかなり速い。背中のクラティスが声をかけた。
「これな、他の班員が居ると無視して飲み込んじゃうからあんま多用できないんだよ。コレのほうが移動も涼しくて快適なんだけどね~」
まるで砂の上を行く船のように爽やかな風がふいた。
そのペースで進んでいると丘の向こうで交戦しているのが見えた。
「げンそク~。げンそク~」
エ・Gが急ブレーキをかけた。同じ班の面々はうまく着地したが、アシェリィとフォリオは頭からつんのめった。
「フフフ……パンが二個……丸見え……」
ニヤけるドクの頭にクラティスは鉄拳をくれてやった。
すぐにスララの班も臨戦態勢に入り、フォーメーションを打ち合わせると攻撃を仕掛け始めた。
花火娘のカークス班も攻撃に加わっており、ここに初めてフルメンバー二十五名が集結した。
その様子を遠くから潜砂船からウォッチする人物が居た。担任のナッガンである。
「いよいよここからが本番開始といったところだな。いくら数が揃ったところで、足並みを揃えんことにはアレには絶対勝てん。さて、見せてもらおうか。学院生のガッツをな……」
その脇で五人のセミメンター達は緊迫感から息を呑んだ。




