魚と砂のダンス
その日の夕暮れ時、アシェリィ達は揃って目を覚ました。
一斉にやられたからか、受けたダメージに大きな差はなさそうだった。
ラーシェは小難しげな顔をしてつぶやいた。
「う~ん、やっぱ砂瘴は初見じゃキツいよね~。でもあれ、実は今のみんなの戦力でも十分かき消すことは可能なんだよ? ああいうマナを遮断する気候や環境は色々な所にあるから、今のうちにやり過ごしたり、効果を打ち消す事に慣れておかないといざというときに命にかかわるからね……。各自、頭をひねっておくようにね」
散々痛い目にあった末の遅いアドバイスにイクセントとシャルノワーレは内心憤った。
もちろんただ意地悪で助言を遅らせたわけではないのだが、教師たちの事情などしったことは無かった。
言い返す気にもならず、二人は深い溜め息をついた。
「はぁ~……」
「はぁ……」
思わず息があったため息をついて二人は口先だけで突っぱねあった。
「チッ!!」
「フン!!」
「はいはい。仲間割れも程々にね。そろそろ遠足開始から一週間。五班全班が揃うことも多くなってくる頃だね。あとはどれだけ本気の夢喰魚と砂瘴に対処できるかだね。まぁでもこの遠足、早い年でも一ヶ月は攻略に時間がかかってることを忘れないようにね。じゃ、みんな頑張って!!」
そう言い残してキャンプとセミメンターは砂中へと消えていった。
今回は何をアテにするかと考えているとシャルノワーレが分隊で動いていたという話をアシェリィが思い出した。
サモナーズ・ブックを取り出して、骸骨犬のバルクを召喚するとその匂いが残っていたらしく、砂漠を進みだした。
今回は夕暮れ時だったので本領発揮出来ているように見えた。
モンスターの激しい猛攻にあいながらも一時間ほど経つとノワレと組んだクラティスとドクの班と合流することができた。
「ノワレ!! 元気でやってたか!?」
「フフフ……お久しぶり……でもないですけどね」
三人は集まって再会を喜んだ。
「そウ……わカれテうゴいテたトきニあッたノはカのジょダっタのネ……」
酷くなまった発音の少女が声に出した。どうやら彼女がリーダーらしい。
ノワレ以外はこの班に会ったのは初めてである。
エルフの少女以外は全員分の自己紹介を聞いていたが彼女はまだ知らぬ残りの三人について注意を傾けた。
「わタしハさンぱンりーダーのスらラとイうノ。エ・Gとイう、アくマをカっテいルわ」
とても華奢な体型をしている。やはり特徴的な発音が気になる。それに、悪魔を飼っているとは……?
次にボールを片手に持った少女が前に出た。
よく見るとボールに穴が空いており、そこに指を入れているようだ。
服装は半袖のポロシャツにミニスカート、運動靴だった。
いかにもスポーティーな印象を受ける。
「私はレーネ・ストライカァー。この穴の空いた球……ボーリングっていうんだけど、これを駆使して戦うんだ。力の込め方やスピンのかけかたたで属性や特製が変わったりする。まぁでも基本は爆破かな。よろしく頼むね」
彼女が名乗り終えるとその陰から大きな懐中電灯を持った少年がちょろっと顔を覗かせた。
「あァ、ポーぜクんハ、はズかシがリやナノ。そノおオきナまジっクらイとデいロイろサぽートでキるノよ」
そう紹介された少年はスっと他のメンバーの陰に隠れてしまった。
なんだかフォリオと背丈や性格が似ているような気がしなくもない。
三班はスララ、クラティス、レーネ、ポーゼ、ドクの五人で構成されていた。
見る限りツワモノ揃いで、班対抗戦などでは当たりたくない面々である。
こうやって班が合流しても夢喰魚がやってこない。おそらくもう一方の班員達を襲撃しに言っているのだろう。
その間にこちらでは砂瘴に関しての話し合いがされていた。
真っ先にスララが手を上げた。
「う~ン、たメしタこトはナいケど、エ・Gでスいコめルんジゃナいカな……?」
それに対し、真っ先にクラティスが首を横に降った。
「いやいや、エ・Gの火力が無くなるのは痛い。それにスララの身体にもきっと悪影響が出る。それなら私がバトルフラッガーでふっ飛ばせばいいんじゃないかな」
今度はレーネが異論を唱えた。
「クラティスが削れるのも痛い。あなたの槍術は殲滅力ではトップクラスだから。砂瘴につきっきりになるのは惜しい」
ならばこっちの班はどうだろうとメンバーを眺めたが、砂瘴を吹きとばせそうなのはイクセントくらいしか居なさそうだった。
だが、こちらも補助に割り当てるにはもったいなかった。
「こっちもイクセント君が居るけど、そっちに割くのは厳しいかな。最前線でも攻撃を避け続けて反撃出来る人ってそうそう居ないし……」
一同は頭を抱えたが、すぐにスララが意見をまとめた。
「せニはラはカえラれナいね……。そノとキそノとキでさシょウにタいシょデきルひトがヤりマしョう……」
彼女の提案に一人一人が頷いた。
少なくともこの二班の中ではスララ、クラティス、そしてイクセントが砂瘴をかき消す役割についた。
だがまだ問題が解決したわけではない。クラティスは首をかしげた。
「しっかしなぁ……砂瘴の出現タイミングがシビアなんだよなぁ。嵐みたいに吹いてるのはまだいいが、地中から湧き上がってくるやつを吹き飛ばすのは難儀だぞ。一度包まれてしまえば能力が無効化されてしまう。なんとかして先手を打たないと……」
それを聞いていたイクセントが腕を組むのをやめてスッっと前に出てきた。
「その件だが、僕の魔法に少し細工を加えれば砂瘴を回避することが出来そうだ。避けざまに風系の呪文を打ち込めばなんとか吹き飛ばせるだろう」
彼ならば攻撃をうけつつもしっかり役割を果たしてくれるに違いない。頼もしい一言に班員達は沸いた。
徐々に環境の問題に対しての対策が出来上がってきていた。
これで残りの三班の班員の持つ能力を組み合わせれば恐れるに足らずといったところだろうか。
達成感と安堵感に包まれた二つの班だったが、それを再び”ヤツ”が打ち砕いた。
向こうのメンバーが倒されたのか、今度はこちらにやってきたのである。
夢喰魚の発する殺気はものすごく、こちらに近づいてくるのがすぐにわかった。
一同はやや混乱したが迎え撃つ覚悟を持って戦闘態勢をとった。




