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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
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勝利の追い風、不吉な凶星

「フォオオーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!」


砂中から熱砂クジラが姿を現した。


それはまるで飛行船のような大きさで初めて見る五班のメンバーを圧倒した。


「こ……これが熱砂クジラ……!!」


立ちすくむメンバーにクラティスが喝を入れた。


「ほら!! しゃんとしな!! いいか? あいつは背中に砂鉄砲を吹き出す器官がある。まずはそれを潰さなきゃ後衛が狙い撃ちされる。それと、ヤツの腹の下に陣取って逃亡を防止する役、そして出来るものなら正面で囮になる役の3手に別れる必要がある。あたしは背中の器官を狙うからな。いくぞッ!!」


彼女はそう言うと高く跳んだ。そして空中で応援旗のくくりを解くと頭上でクルクルと支柱を回し始めた。


旗が大気を拾って、落下速度が落ちた。まるで落下傘のようにしてクラティスは化物の背中に取り付いた。


「お見事……!!」


アンジェナは思わず感嘆の声をあげた。だがすぐに我に返って指示を出し始めた。


「それならば、正面はガンとファーリスは正面から、リッチェは背中の彼女の援護!! グスモは熱砂クジラが砂に潜れなくなりそうな罠を見繕ってくれ!! おそらく、このメンバーでは腹部の下で耐えきれるものが居ない。罠でカバーするんだ!! そして、ノワレ、君にはその罠のセットを頼む。WEPウェップメトリーとやらの力を見せてくれ!!」


ノワレは「誰があんたの指図なんて受けますか」と言いたいところだったが、力を見せてくれと言われて悪い気はしなかった。


「フフフフ……私は?」


ドクは自分を指さしてアンジェナに問いかけた。


「君は貴重なヒーラーだ。俺の後ろに控えていて欲しい。いざとなったら俺が盾になる。出来る限り戦闘が長引くように動いて欲しい!!」


星詠ほしよみの決意に闇医者は感心した。


「ほう……それはそれは……合点承知」


こうして戦いの火蓋は切って落とされた。


「出ろォー!! マッドネス・ギアアアアアーーーーーーーーッッッ!!!」


ガンはポケットから小さな歯車を取り出した


そしてそれを足元に落とすと一瞬でその歯車は巨大化した。


高さにして3m、横幅2mはあろうかというサイズだ。


そのギアの中心には操縦席のような機構がついていた。


それに座った金髪の少年はゴーグルをすると歯車を操縦し始めた。


ゴーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!! 


デシーーーーンンンッッッ!!!!


猛スピードで走り出したそれは正面から熱砂クジラの顔面に一発ぶちかました。


あの化物を正面からひるませたのは彼が初めてではないだろうか。


「オラオラァ!! まだまだいくぜぇ!!」


激しい衝突音を立ててターゲットを蹴り飛ばすと歯車着地した後、ドリフトを決めて再び魔導生物めがけて向かっていった。


「……援護する」


その後ろからピアスの女性が追撃をかけた。


黄色の稲妻型をしたピアスをピンッっと叩くと珠が地面に落ちるような不思議な音がした。


「コンッ……コンコンコンコン……」


するとピアスと耳をつなぐ金属が高速で伸びた。


そして熱砂クジラの周辺にピアスが漂うと凄まじい威力の電撃が発生した。


ピアスは右往左往と動き回り、ピアス同士で電流を流し合っているようだった。


これも魔導生物を大きく怯ませることとなった。


背中の上の器官を任せられたリッチェは頭上を見上げていた。


「はーん。赤い応援団旗ね。気が合いそうだわッっと!!」


彼女は急激に髪を伸ばした。その髪が地面につく反動で高く飛び上がった。


そしてすぐにクラティスと合流した。


「おまたせ」


「助かる!!」


二人は挨拶もそこそこにひたすら背中の砂吐き器官を潰し始めた。


せんかん!! サウザンド・スピアーズ!!!!」


「いくぞ!! ミリオン・ヘアーズ・エヴィル!!」


クラティスはものすごい勢いでフジツボのような形状の器官を突きまくった。


一方のリッチェは伸ばした髪一つ一つで同時にいくつもの器官を突いて破壊していった。


初の顔合わせだと言うのに不思議と二人のコンビネーションは抜群で思わず互いに笑みを浮かべた。


その時、大きく熱砂クジラが揺れた。ガンが連続でギアーによる体当たりを繰り返しているからだろう。


応援団旗のほうは旗の尖った部分を刺して踏みとどまり、髪のほうは返しのついた釣り針のように髪を変形させて振り落とされぬようにふんばった。


前線とは離れた位置でグスモとノワレが相談していた。


「あっしの道具は知識の無い人には扱えないよ。触っただけで発動する罠もある。エルフの姉さん、WEPウェップメトリーだかなんだか知らんけど、悪いことは言わねぇからうかつにさわんのやめとき」


彼は酷い猫背のまま、怪訝な顔をしてノワレを見ていた。


それにカチンときたノワレはすぐに言い返した。


「あら、発動しない状態で罠に触れれば使い方は全てわかりますのよ? あなた、わたくしを見くびっていらっしゃるでしょう?」


少年はやれやれと首を振った。


「触ってもいいけど、罠が発動したら自己責任やからな……」


彼は呆れながらそう言って大きなリュックサックから罠を取り出していった。


「しゃ~ないなぁ、罠を姉ちゃん用に整理してる間にこんなんどうや。”バリスタの種”やで。ごっつい矢を放つ固定放題の元やねん。ほれ」


マジックアイテムだろうか。グスモが何かをポイッと投げると一瞬フラッシュした後、その場に人一人がスタンバイできるバリスタが発生した。


「罠使い言うてもな、仕掛け罠だけじゃ食ってけまへんのや。バリスタが罠かどうかっちゅーと怪しいんやが、まぁこんなもんもあるよってに」


彼はリュックを漁りながら横目でノワレに声をかけた。


早速、エルフの姉ちゃんはバリスタの砲座について熱砂クジラの横っ腹にごっつい矢を撃ち始めた。


―――ちゃうねん!! こんなの罠師の美学に反するねん!! でも背に腹は変えられへん!! バリスタなんか使いとうないけど、ないけど仕方ないねん!! それが大人の事情っちゅーもんやで!!! ―――


切実なメモリーが脳内に流れ込んでくる。


彼の意志とは裏腹に、バリスタは大活躍でかなり手応えがあった。


巨大な矢で熱砂クジラの進行をしっかり妨害できている。


ノワレが弓術を嗜んでいるせいもあってか、百発百中である。


そうこうしているうちに早業で、グスモはリュックの中身を整理し終えた。


「おいエルフの姉ちゃん。こっからここまでが触れただけで発動する罠や。触り方に用心すれば発動せぇへん。さぁ、そこまで言うならあっしの指示通り触ってもらいまひょか!!」


グスモは派手にバリスタをぶちかますエルフの少女にどこか親近感を感じ、ニタリと笑いながら罠を指さした。


それを聞くとノワレはすぐにバリスタから降りて、罠を観察しだした。


指示に従って触れても見てみるが、彼の言う通り罠師でさえ自爆しそうなものもいくつもあった。


「せっかく姉さんが記憶を読み取れるっちゅーんならこの危ういのでいきまっか。この”陰刺かげざし”で。触ったならわかるはずやけど、物の陰に隠れるとヤリが飛び出るっちゅーシロモンや。こいつをバリスタの先端にくくりつけてクジラの進路にばら撒くで!!」


グスモは小さなコインほどの大きさのチップを人差し指で挟んでみせた。


「ただ、これを暴発させずにバリスタに括り付けるのは難儀やで~。お嬢ちゃんに出来るかいな?」


もちろんとばかりにノワレは頷いた。早速、危険を伴う作業が始まった。


だがそこはプロフェッショナルとそのメモリーを持つ者、数分で無数の”陰刺かげざし”の設置に成功した。


「姉ちゃんバリスタもいけるみたいじゃし。ガンとファーリスの居るバケモンの前方めがけてそれを撃ち込むんや!! あっしは二人に危険を知らせる狼煙のろしを上げるでの!!」


狙撃手はコクリと頷くと砲座について熱砂クジラの進行方向上に罠を盛ったバリスタの矢を打ち込んだ。


こちらの狼煙のろしを見たからか、前衛の二人が避けるように道をあけた。


すぐに仕掛けた罠は熱砂クジラの腹部の陰に入り、発動した。


グサグサと無数のせり出した槍が腹部を串刺しにしていく。


魔導生物だからか、一切血は出なかったが、ダメージは目に見えてわかった。


「やったか!?」


星詠ほしよみの青年は確かな手応えを感じて思わずグッっと拳を握った。


困難とはあったが、敗北の未来予知は無かった。


ナッガンは二十人前後で当たらないと熱砂クジラは倒せない。そう言った。


だが、この勝利の追い風に、もしかしてこの戦いで倒せるのではないかとその場の全員が思った。


だが、その直後、アンジェナの瞳には不吉な流れ星が映っていた。


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