私を加えないでくださる? ~ドタバタトリオ結成~
花火の爆撃で全滅したかと思われた星たちだが、一名だけ爆風でふっとばされた者が居た。
意識を失ったシャルノワーレだった。まるで流れ星のように遠方へと吹き飛ばされていく。
そのまま、砂のクッションに助けられ、地面に着地した。
このままだとモンスターに嗅ぎつけられえてリタイアというところだが、ちょうど近くに他の班が来ていた。
「おい、見ただろ今のを。きっと他の班のメンバーだぞ。見たところ一人だ。助けに行かねばな」
胞子の呪縛から幾分か開放されてノワレはおぼろげながら意識を取り戻し始めていた。
そこに誰かが駆けつけて、彼女の半身を抱き上げた。
「おい、大丈夫か? しっかりしろ」
目を開けると少女が自分の肩を抱いて声をかけてきていた。
「こ……ここは……。ハッ!! 連中はどうなりましたの!?」
エルフの少女は跳ね起きるように上半身を起こした。
「見たところ、ここまで来たのは君一人のようだね」
介抱してくれていた女子がそう声をかけてきた。
「うっ!! かっ、体が……まだ……痺れて……呼吸が……がはぁつ!!」
「ドク!!」
そう言うと後ろから白衣を着た男子が現れた。
知的そうな丸い眼鏡をクイッっと上げてノワレを診察し始めた。
「これは……ファングス・ファングの麻痺毒かと。ならば、これを一本。おっと、動かないでくださいよ。フフフフフフ……」
そういうとインチキ臭い青年はノワレに何らかの薬物を注射した。
するとスーッと麻痺が引いていった。
「あ、あなた……すごいじゃない!!」
注射したドクと呼ばれる青年は無言で眼鏡をクイっと上げた。
「あ~、ドクは信用しちゃならん。こいつの能力はウイルス・エンサァ。何かの症状を治療する代わりに副作用が起こるというおまけ付きさ。まぁ、治療より副作用が軽いから上出来と言えば上出来なんだが……」
「えぇ!? ゲェフッ!!」
エルフのレディが大きなゲップをしたのである。本人は顔を真赤にして口を押さえた。
「グゥッフ!!! ゴォッフ!!! グゲェェェェ!!!!」
醜いゲップの音があたりにこだました。
「こっ、 ゴフッ これ、いつごろオゴフッ!! 止まりましてゲエェフ!!!!」
眼鏡の青年はまたもやクセのように眼鏡をクイッと上げた。
「副作用の効果時間は不明……短くても30分は覚悟していただきたい。フフフフフフ……フフフフフフ……」
この態度に治療されたことを忘れてぶん殴りかかりそうになるノワレだったが、なんとかこらえた。
「いいよ。もう無理に喋らなくて。私達は三班なんだけど、リーダーの体が言うこと聞かなくてね。護衛を二人置いて、私とこのドクだけで探索を続けてたというわけさ。確かにリスタートは全員リタイアからだけど、誰も途中で班が別れてはいけないとは言ってないからね。時に少数で動くのもフットワークが軽くて利点のがあるからね」
そう語る彼女を突っつくようにドクが指をツンツンと指した。
「あぁ、まだ名乗ってなかったね。私はクラティス・クランフィオーネ。で、こっちがドク・ドクトラーさ」
名前を紹介されると彼は深々とお辞儀をした。頭についている銀色の診察グッズが光った。
「ご紹介にあずかりましたドク・ドクトラーでございます。何卒宜しくお願い致します。フフ、フフフフフ……」
こいつはやばいやつだ……とノワレは直感的に感じ取った。
「ゲエフッ!! それでゴフッ!! あなた達のゲェフ!! もゲッ!! 目標はゴォフッ!!」
ドクがやれやれと首を振った。お前がやったんだろとエルフは言いたくてしょうがなかった。
「そうだなぁ、雑魚潰しと今回みたいに生き残りでさまよってるクラスメイトを保護したりしてる。流石に熱砂クジラには敵わないから、出来るまでの事をやってるって感じかな。でも今回みたいに他の班員と合流できる事もあるから捨てたもんじゃないさ。こんな場所で話しているとモンスターに狙われる。立てるか?」
クラティスは立ち上がると手を差し伸べできた。
この頃になると、ゲップ以外はだいぶ余裕が出てきてノワレは二人の容姿を観察できた。
どことなく無骨な口調のクラティスだが、よく見るとチアガールの服装をしている。
青と黄色がベースでクールな感じを思わせるカラーリングだ。
「な、なにジロジロみてるんだ? 私は学ランのほうが良いって言ったのに、先輩方はこれを着ろって。丈の短いスカートってスースして調子狂うんだよなぁ……。スパッツはダメっていうし……」
彼女はぼやいた。パッチリとした目とツンと出た鼻で美人ではあったが、根っこはかなりボーイッシュらしい。
ドクはというと真っ白な白衣姿で完全に砂漠で浮いていた。
暑いのに長袖だ。片手に黒いカバンを持っている。あの中に怪しげなウイルスを飼っているに違いない。
終始ニコニコとしているのが不気味だった。
ノワレが立ち上がるとクラティスは地面に刺さった棒を引きぬいた。
「ボゴォフ!! ぼ、棒術ですのオッフ!!!」
「いや、違うね」
彼女はそう言うと結んであった紐を解いた。すると真っ赤で大きな旗が砂漠の風ではためいた。
吠える雨熊の横顔のマークが旗には描かれていた。
「バトルフラッガー。応援旗を武器にして戦うのさ」
よく見ると棒の両端は槍のように鋭くなっている。おまけに返しの付いた突起がいくつかあって、槍と同じ運用が可能に思えた。
クラティスは曲芸のように器用に長い応援旗をクルクルと掌で回転させた。
「チームの中では二番手の戦闘力だから副班長やってるのさ。残念ながらスララには敵わないけどね」
そんなやりとりをしているとギャーギャーと喚く音がどこから聞こえてきた。
三人はすぐに頭上を見上げると大型の鳥類が6体ほどこちらに飛来しつつあった。
「ちっ。あいつ、熱毒あるんだよ。ドク!! 万が一に備えてスタンバっといて!!」
「フフフフフ……了解しました…………」
「わたくしモゴォッフ!! 戦いマガァス!! あっ、弓がなゴォフ!!!!」
ノワレの言葉を聞いてクラティスは腕を出して彼女に静止を促した。
「私がやる。ノワレはドクと同じ位置まで後退!!」
仕方なくエルフの少女は後ろに下がった。
「ほんじゃま、ちゃっちゃといきますか」
チアガールの少女は開いた応援旗の持ち手をクルクルと回した。
だんだん速度が上がってくると回転された旗は旋風を生み始めた。
「爆・旋!! スピオール・トーネーディア!!!!!」
発生したかまいたちがイーグル達を襲う。
次の瞬間にはファンに巻き込まれた鳥のように粉々になって鳥たちは肉塊と化した。
「はい終わり終わりっと」
鮮やかにモンスターを退治すると少女は旗を手際よく結んで納めた。
「フフフフフ……パンが二個、丸見え…………」
ニヤけるドクの背中をバシンとクラティスが叩いた。
「バーカ。アンスコだよアンスコ」
そんなくだらないやりとりをしてる割には二人ともかなりの腕があるのは確かだった。
戦いが終わる頃、ノワレのゲップはおさまっていた。
同時に彼女は文句を言った。
「あなた達ね、助けてもらったことには感謝いたしていますわ。でも、ノワレノワレって人のエンゲージド・ネームを繰り返し呼ぶことなくなくって!?」
彼女の必死な訴えは三班の二人の笑いの前にかき消された。
「ははは!!! エルフのお嬢様は知らないかもしれないけど、””ノワレ”とか”ノーレ
って名前はライネンテの女子の名前としてはメジャーなんだよ。だからみんな呼びやすいから呼んでるだけ。からかってるやつなんて居ないし、ましてや婚約を申し込んでるやつなんてもっと居ないってわけだよ。 くくく……あははは!!!!」
「フフフフフ……一方的に勘違いされているのは貴女なのですよ……。フフフフフフ…………」
ノワレはまたもや顔を真赤にして黙り込んでしまった。
姉御肌で闊達なクラティス、変人でムッツリのドク、そしてお嬢様で世間知らずのノワレ……ここにドタバタトリオが誕生した瞬間だった。




