残っていた火種
アシェリィ達は狼タイプのモンスター10頭近くにに囲まれていた。
その姿は体中にキノコが生えていた。大きいものでは50cmはあろうかというところだ。
「グルルルルルル!!!」
「バウ!! ガウ!!!!」
「ウオーーーーーーーーーン!!!!」
+グレーの毛色をして牙を向いた獣達がそこにはいた。
アシェリィがすぐに警戒の声を上げた。
「これは……ファングス・ファング!!! 体中のキノコとは共生関係にあって、キノコの胞子で獲物を痺れさせるって本で見たよ!! 呼吸器官を通じて胞子が侵入するから、みんな出来るだけ息を止めて!!」
息を止めろと言われてもこの暑さだ。呼吸が荒くならないわけがない。
そうこうしているうちにファングス・ファングは”獲物”の周りをクルクルと走り回り出した。
ますます胞子が飛び出したのか、既に異変が体に現れ始めた者が居た。
「ハァ……ハァ……。なんか体中が痛いですわ。ピリピリする感じもありますの……」
「お、オラもだなやぁ。か、体が思うように……ううう、動かなく……」
シャルノワーレと田吾作は呼吸量の関係からかいち早く痺れが回り始めた。
「チッ。胞子なんて魔法で吹き飛ばしてしまえば―――」
そうイクセントが言うとアシェリィは首を横に振った。
「ダメだよ!! この胞子はその場に留まる性質があるんだ。風系の魔法で吹き飛ばせないって探未のフォーブスの冒険譚に書いてあった!!」
みるみるうちに二人の状態は悪化し、膝をついて倒れ込んでしまった。
まだあまり影響の出ていないフォリオがわめき出した。
「こここ、こここのままじゃ、まままままマヒさせられて、ひひひひひっかかれたり、かかかみつかれて、おおおお、おおけがするんでしょ!? ぼぼぼっ、ぼくはそんなのイヤだよ!!!! こここっコルトルネーッ!!!!」
彼は素早くホウキにまたがると今度は上空でなく、地表スレスレを飛んで一目散に逃げ出した。
「チッ!! あのクズ!!」
少年剣士は苛立った様子で舌打ちした。
さっきから動かないと思っていたのでまさかと思ったがガリッツも完全に活動を停止していた。
全く人とは異なったメカニズムで呼吸しているとばかり思っていたからだ。
「ガリッツ!! ガリッツぅ!!」
思わずアシェリィは叫んで声をかけたがカブトムシザリガニは直立不動で反応はなかった。
その結果、戦闘可能なのはアシェリィ、イクセント、ニュル、キーモ、はっぱちゃんだけになってしまった。
リーダーのカークスは地面のシートの上に寝かせられていた。
「さぁどうする。俺らも時期にマヒしちまうぜ。したら逃げたボウズの言う通り引っかかれたり噛まれたりでジワジワやられるってわけだ。俺ぁそんなんごめんだな。とっとと決めるぜ」
ニュルはその場の全員にそう喋りながらアイコンタクトを送った。すると皆がコクリと頷いた。
そんな中、キーモが声を上げた。
「も、申し訳ないでござるが、拙者は戦闘モードに切り替えると位置情報がリセットされてしまうでござる。だから申し訳ないが守っていただきたいでござる!!」
メンバーたちはこれにもコクリと頷いて、直接戦えるのは3人だけとなった。
この緊迫した状況でなぜだかみんなが確実に生き残れるという確信と安心感を持っていた。
(みなさん……頑張ってください。これを切り抜ければ……)
アシェリィだけに声が聞こえていたがこれは明らかにドライアドの亜人”はっぱちゃん”の能力だった。
「来るぞッ!!」
イクセントの声と同時に灰色の狼達が鋭い牙と爪を向けて襲いかかってきた。
剣士は素早く抜刀しながら剣技を放った。
「嵐氷流麗斬ッ!!」
目にも留まらぬ連続斬りで風属性と冷気属性、そして剣技を組み合わせる高度なミックス・ジュースだ。
凍った狼を風属性の斬撃でスパスパと斬っていく。
これだけで4体の狼を屠った。
昨晩、腕を失っていたニュルは回復して十本足になっていた。
武器も防具もフル装備の状態の歩く装備品デパートである。
「オラァ!!!!」
三本の足を軸足にして猛烈な勢いで回転しつつ武器を振り回した。
これはかなり危なっかしくて、耐久力のない味方が巻き込まれたら大怪我は間違い無さそうだった。
これでまた3体ほどファングス・ファングを倒した。
アシェリィは愛用の釣り竿””スワローテイル”を取り出すと何も突いていない糸の先を掴んでサモナーズ・ブックを取り出した。
「意志のある石……ドンドマ。我が命令をもってして、その力、開放すべき刻、来たれりッ!! サモン・グレーオーシャン!! ドンドマ改!!」
召喚術師はブックに追記してカスタム幻魔を生み出した。
まだ初歩的でほんの少ししかパワーアップできないが、小石だったドンドマは拳ほどのつぶてに発展していた。
「ドンドマちゃんには意志がある。だから、こうやって投げれば……!!」
少女はそう言いながら釣りをしているときのようにキャスティング(投げる)をした。
投げられた石のつぶてはモンスターの頭をピンポイントで狙って片っ端から気絶させていった。
これでその場の敵は全滅した……はずだったが、先程の遠吠えで仲間を呼んだのか、また
10匹ほど追加で同じ種類の狼に辺りを囲まれてしまった。
「クッ!!」
イクセントは砂を地面に突き立て寄りかかるような姿勢になってしまった。
「ハァ……ハァ……痛たたたた……」
アシェリィもアヒル座りでへたりこんでしまった。
「ちくしょう……万事休す……か……」
ニュルもべったりと座り込んでしまった。
「ええい、かくなる上は!!」
あまり動いておらず余力のあったキーモはチェルッキィーの箱を構えた。
(ごめんなさい……私自身はマヒは効かないんだけれど、治してあげる事は出来ないわ……)
全滅確定と思われたその時だった。敷物の上に寝かされていたカークスが目覚めたのだ。
「ふわあぁ~~ああ。良く寝……ってえーーーーー!? どういうシチュエーションこれ!?」
彼女は驚いて目をまんまるにした。
すぐそばで倒れていたニュルが指示を出した。
「おい、リーダー、いつものぶっぱなしてくれよ。早く……」
カークスは今まで気絶していたので胞子を吸った量が少なかった。故に、誰よりも万全な状態だったのだ。
「な~んだかよくわかんないけど、いっくぞおおお~~~~!!!」
花火娘は腕をグルグル回しながら素早く詠唱した。
「アーティスティック:ジェノサイディング・スパーキング・ライト・ミーティア・ファイアワークス・フルバースト・マキシマム!!!!!!」
すぐさま彼女の周りに大爆発がおこって敵味方の区別なく、無慈悲に花火砲が火を吹いた。
モンスターは全て粉々になって息絶えた。
だが、この猛烈な爆撃で運良くKOされずにカークス以外に生き残った者が居た。
カークスはこの後、すぐにスタミナ切れでモンスターに襲われて倒れることとなる。
その場は逃げ切ったフォリオだったが、すぐに倒れることとなる。
だが、遠方にふっとばされた一人の生き残りはまた新たなる出会いをすることとなるのだった。




