オウガーの居ぬ間のラウンドリィ
イクセントは容赦なく花火娘のみずおちを突き上げ、気絶させた。
周囲は驚きのあまり声を上げた。
「イクセントくん!! なんてことするの!!」
珍しくアシェリィが怒鳴った。だが、ここは譲ることが出来ない。少年は理由を話した。
「昨晩、お前らを花火で爆破したのはコイツだ。コイツをのさばらせておくとまた花火砲でズタボロになるぞ。現に、四班のヤツと話したが、何度全滅したかわからないって言ってたぞ。なぁタコ野郎」
イクセントはカークスを背負いながら顎でニュルを指名した。
気味の悪い10本足のデビルフィッシュが語りだした。
「おうともよ。そいつぁ事実に違いねぇ。俺はチビガキ剣士様の判断を支持するぜ。コイツを起こしておくとロクな事がねぇ。俺らは一応班員だからここまでやれなかったが、他の班のやつがやる分には問題ねぇだろ。な、おまえら?」
二人の男子は首を何度も縦に振ったが、残り一人の女性型の木の亜人はぐったりしていた。
「そそ、そうでござる!! いつまでも拙者らが被害にあうのはごめんでござるよ!!」
「んだんだ!! もう花火はさんざんだなやぁ……」
「……………………」
熱砂クジラが来ないのを確認すると一同は互い顔合わせをした。
まずはノビている花火娘、ジオ・カークスだ。桃色の髪の毛をしていていかにも快活な印象を与えていた。
次に足が十本あるタコ星人、ニュルである。彼はイクセントと握手を交わしていた。
どうやら前回の戦いで一緒に戦った仲らしい。
そして「キーモ・ウォタ」と名乗る少年は瓶底眼鏡をクイックイッっと上げながら変わった喋り方をしていた。
背丈は高いがヒョロヒョロで風で吹っ飛びそうだった。
もう一人の男子は田吾作と言った。
彼もガッリガリである。キーモ・ウォタよりもひどい状態だ。こちらは体格と言うより飢えている感があった。
一応ライネンテ海軍レーションが支給されているはずなのだが、どうしてこうなるのか。
最後に女性型の樹の亜人”ドライアド”の少女は葉っぱが黄色に変色している。このままでは枯れてしまいそうだった。
田吾作と班員も名前がわからないという亜人の少女は急を要するコンディションだった。
ドライアドにはアシェリィが当たり、イクセント以外は田吾作に、そしてキーモ・ウォタにはイクセントが当たった。
アシェリィは森林属性の幻魔を介して翻訳すると同時に水属性の幻魔、シューティアで彼女の足元めがけて勢いよく水を発射させた。
(ああぁ……助かりました。砂漠で枯れてしまうところでした……)
すぐに声が聞こえた。都合のいいことに、ガリッツよりよっぽど翻訳しやすかった。
(あなた、お名前は? 私はアーシェリィー・クレメンツ。みんなからはアシェリィって呼ばれてるよ)
みるみるうちに亜人の少女の葉っぱが青々と生き生きし始めた。
(わたしたちドライアドは個体の識別に名前は用いないの。だから、名前はないのよ)
召喚術師の少女は顎に指を当てて首を捻った。
(そういっても、名前がないと不便だよ。そうだな~、”はっぱちゃん”でどうかな?)
ドライアドの少女は満足げにコクリと頷いた。
(誰とも私と話せないからわからなかっただろうけど、わたしには癒やしの力とストレスを解消させる効果があるのよ)
アシェリィは彼女の言うことを通訳して班員に伝えた。
もしかすると活力を取り戻した今ならカークスの花火砲をくらってもカバーしきれるかもしれないという。
四班の班員達は歓喜の声を上げた。
次に田吾作は消えそうな声でつぶやいた。
「野菜がぁ……野菜が食えねぇと死んじまうだ……。種はあるが、こんな砂漠じゃ野菜が出来るわけねぇだ……」
彼は苦しそうに腰の革袋を擦った。
「ん? なんですって? 種があるならわたくしのシード・アウェイカーで野菜にしてさしあげないこともなくってよ?」
団子っ鼻の青年は最後の力を振り絞って種の袋をノワレにわたした。
「よっと! ですわ!!」
エルフの少女が種袋に力を込めると野菜が袋からポンポンと吹き出し始めた。
「うおおおおっっ!!! ん“ん”ん”ん“ やざいいいいいいいいいぃぃぃぃ!!!!」
彼は片っ端から野菜にかじりついた。そして貪った。
不思議な事に、彼は野菜を食べるたびに体に筋肉が付き始めた。
「ぬぅん!! ぬぅぬぅ!!」
すぐに彼はムキムキのマッチョマンに変化した。
「ふぅ……生き返っただ。これで戦えるだよ。エルフのべっぴんさんありがとんす。ちなみに野菜を武器にして戦うからこれからも手伝ってくんろ」
田吾作はノワレに深くお辞儀をした。
「あらよかったわね。ま、わたくしのシード・アウェイカーのおかげですわね!!」
ノワレは誇らしげに胸を張った。
最後にイクセントとキーモ・ウォタが会話に入った。
「その……すまない。お前とチェルッキィーしておくべきだったがつい、な」
相手は笑いながら首を横に振った。
「ハハハ……仕方ないでござるよ。女子相手でビンタされることもしょっちゅうですからな。この相手の位置を知るという魔法、かなり高度でござって、一度に6~7人しか記憶出来ないんでござるよ。ここにきてからリセットして以来、誰ともチェルッキィーしてないでござる。なので原則一班に一人で十分なのでござるよ。今度は頼むでござるよ?」
彼の確認に少年剣士は引きつった顔をして答えた。
「あ、ああ……」
「んでは。ムチュ~~~~~~♥」
イクセントは殴りそうになる手を背中で組んでなんとかこらえた。
「ポキッ」
唾液で溶けた棒状の菓子”チェルッキー”がイクセントの唇寸前で途切れた。
「ふぅ!! イクセント殿をマーキング完了でござる!! ご助力感謝しますぞ!!」
際どいところだった少年は呪文で暑さを感じないはずだったのに嫌な汗をかいた。
「うし!! 俺らの班の問題は解決ってとこだな!! 一班にゃ感謝するぜ!!」
ニュルが満面の笑みを浮かべたその時だった。
ザスッザスッザスッザスッ!!!
砂を蹴る足音がする。気がつくと一班と四班はモンスターに囲まれていた。
体中にキノコの生えた狼タイプの生物がこちらを威嚇してきたのだ。
集まった星たちの戦いが始まるのだった。




