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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
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ご挨拶は抜刀で

鼻のとんがった青年はギラギラと照らし尽くされた真っ青な青空を見上げた。


すると今度は小瓶を取り出した。中には水とキラキラ光る砂が入っている。


それ越しに彼は空を見上げていた。


とても集中しているようで、班員は静かに見守っていた。


「詠めた。星たちが集結しつつあるが、大きな困難にあうだろう。俺たちはいずれかの班と会うことができるが、今は会うべき刻ではない。なぜなら力と力の集まりは”魔”

を呼び寄せる。うかつに近づくのは得策では……うっ、ゴホゴホッ!!!」


班員達が近寄るとせきを押さえた彼の手は血液で朱に染まっていた。


「やめて!! アンジェナ!! それ以上、星を詠んだら!!」


少女は叫んだ。だが彼は服で血を拭うと振り向いて笑顔を見せた。


「知っての通り、俺の占いはほぼ当たる代わりに詠むたびに命を削る。でもな、今まで自分恋しさに詠まなかった時期もあった。でもそれで死んでった者は”星”の数ほどいるのさ。たとえ寿命が削れようともその時その時でベストを尽くさねば結局、後悔するのは俺自身なのさ……」


そういうと星を詠む青年は切なげに笑った。


アシェリィ達のキャンプではイクセントがまっさきに目を覚ました。


マナ切れこそ起こしたものの、さほど肉体にダメージを負っていなかったからだろう。


他の者達はうなされながら治療を受けている。かなり辛そうだ。


剣士の少年は見て見ぬふりして横になった。


昼過ぎ頃、全員の治療が完了した。


その時、”ライネンテ海軍レーション”が支給された。


お腹が減っていた一班の面々はテカテカとハチミツ色をしてテカる羊羹のような食糧を口にした。


甘じょっぱいめんつゆの原液のような味がした。おまけに日持ちのためかセロリのような風味がついていている。


「オエエエッッッ!!!! ブフッーーーーーー!! なな、なんですのこれは!!」


ノワレは空腹なので口いっぱいにレーションを頬張ったが、一噛みすると口で手を覆いつつ吹き出した。


「ううううう、うううう、ままままま、まままずいなぁ……」


フォリオは泣きべそをかきながらも我慢して食べている。


「フン!! こんなもの、食べるくらいなら空腹のほうがまだマシだッ!!」


そう言ってイクセントはレーションを放り投げた。


ガリッツは自分の分と、放り投げられた分のレーションをムシャムシャと食べている。


お気に入りというか、そもそも味がわからないのではないかと思えた。


なぜなら普段から何を食べているか怪しいところがあるからである。


食べられそうならなんでも食べているのではないかと思えるほどだった。


「なんだ、皆、そんなマズいかなぁ。私は嫌いじゃないんだけどな……」


ちびちびとかじるアシェリィに周りの目線が彼女に刺さった。


気にせず彼女はライネンテ海軍レーションを回復し、草だんごと同じ程度の量で満腹感を感じていた。


実のところ、彼女はライネンテまでの冒険の間、何度かこのライネンテ海軍レーションを食べていたのだ。


そのため、酷い味だとは想像がついたし、たとえ不味くてもこれを食べる価値は十分にあることを理解していた。


これは兵糧でもあるので少量でもしっかりした満腹感と栄養がとれるのだ。


もっとも、アシェリィ自身、この兵糧の味はまんざらではないと思っていたが。


頭に糖が回ってくると、アシェリィはひらめいた。


「あ、ラーシェさん。トランクの外に置いてあったんですが、私の釣り竿ありますか?」


ラーシェは少し驚いたようだった。


「釣り竿? 魚でも釣るつもり? あ~、でもまぁ使い慣れた品ならマジックアイテムとして転用することも可能だね。取り寄せてあげるよ。モモ、おいでモモ」


セミメンターの女性が呼ぶと砂中からピンク色の体毛をした可愛らしいピ・ニャ・ズーが現れた。しっぽにピンクのリボンをしている。


「いやぁ、あたし、ここよく来てるから専用のピ・ニャ・ズーもらっちゃったんだよね~。モモ、アシェリィの釣り竿を持ってきてよ」


モモはコクリと頷くと砂中に潜っていった。


「さて、前回のおさらいだけど、イクセント君以外は花火砲にやられちゃったね。時にはああいう連携を無視する人もいるって事を予測しておいたほうがいいよ。四班のカークスちゃんには要注意ね。あと、イクセント君はよく頑張りました。MVPね」


「フン!!」


うれしくなさそうに少年はそっぽを向いた。だが、なんだかメンバーの視線を感じる。


言いにくそうな彼らの発言をラーシェは代弁した。


「う~ん……こういっちゃなんだけど、イクセント君、めちゃくちゃ生臭いよ。これ熱砂クジラのニオイじゃない? あいつ砂漠に居るくせして生臭いんだよね~」


言われてみてイクセントは自分を嗅いだ。あまりの生臭さに吐き気を催した。


「あっ、ヒントヒント。実はこの班割りだけど、メンバーに一人は他の班と接触出来る能力を持つ人が組み込まれてるんだ。だから、こういうニオイがわかる人がいれば砂漠でも他の班と会えるかもしれないね」


彼女がそう言い終えるとピンクのケモケモが戻ってきた。


手には真っ青に輝く釣り竿が握られていた。


アシェリィはそれを受け取るとまっすぐ構えた。


グリップがあり、スピニングリールがついていて、竿には糸を通す穴が空いている。


うまくキャスティング(投げる)できればかなりの距離まで射程に入る。


ただ、今まで釣りにしか使って来なかったため、これが初の実戦投入となる。


「う~ん、マジックアイテムとして使えるかはともかく、タックル(釣り竿とリールのこと)としてはかなり高級品だからね。ちょっとやそっとじゃ壊れないよ。人食いつばめのキリング・スワローをモチーフにしてる”燕尾スワロー・テイル”ってブランドの竿とリールなんだ。5万シエールはしたかな?」


オルバの試練であったコパガヴァーナを釣り上げた愛用の竿である。


いざ手にしてみるとどうして今まで釣り以外に転用しなかったのかと思えるほどの質を感じた。


アシェリィが”スワロー・テイル”を受け取り、一部がレーションを食べ終えるとキャンプはニコニコと手を振るラーシェと共に砂中へ沈んでいった。


再び一班は砂漠に降り立った。


さきほどの「ニオイ」がヒントという事で、アシェリィはまっさきに骸骨犬、バルクを喚び出した。


周囲は突然のアンデッドの出現にギョッとして戦闘態勢をとった。


「待って待って!! これ私の幻魔だから。危害は加えないって!!」


それを聞くと各々が力を抜いた。だが、気持ち悪げにバルクを観察していた。


日中だからか、あまり元気が無さそうに見えるが、ニオイ追跡くらいはできるはずである。


イクセントについた臭いを嗅ぐと追跡を始めた。


骸骨犬はうまいぐあいにモンスターの臭いも避けて通った。


陽光の下で徐々にパワーダウンしているのが目に見えたが、なんとか他の班の近くまでたどり着いたらしい。


ピタリとアンデッドの犬はそこにとまった。


「これは……幻魔!!」


アシェリィが身構えると砂の中から縦長の石版のようなものが吹き出した。


高さ2.5m、横幅1.5mといったところだろうか。


「オマエ、ミズクサイ。キライ。シネ」


突然の死刑宣告のあと。砂の壁は倒れ込んできた。


全員がその攻撃をかわした後、身構えたがアシェリィは腕を横に出して下がるよう指示した。


そして肩掛けカバンからサモナーズ・ブックを取り出して召喚した。


「サモン!! ディープ・ブルー・アクアリウミィ!! シューティア!!」


子供の頭くらいの炎のような模様をしたフグのような魚が宙に出現した。


砂に倒れ込んだ石版はすぐに起き上がったが、急にすくみあがった。


「ヤ、ヤメロ。ミズテッポウヤメロ……」


「お望みなら熱湯でもいいけど?」


召喚術師が脅すと石版はガタガタと震えだした。


そのままアシェリィがブックを開いたまま突き出すとその中に吸い込まれていった。


滅多にお目にかかれない減摩との契約に班員達は目を丸くした。


「盾になれる砂の石版、サンドリス。ただし、水分を食らうと溶ける……か」


今までアシェリィは土・岩属性に目立った幻魔がいなかったのでこれは大きかった。


うまくやればゴーレム級との契約も可能になっていくだろう。


「さ、いこっか」


サモナーズ・ブックをしまって振り向いた彼女の耳に声が聞こえた。


「お~い!! おおお~~~~~いいい!!!!」


少女と班員達がこちらへ走ってきた。


イクセントはそのシルエットを見て嫌な予感がした。


きっと、他の班員は曇っている薄暗い時に爆撃されたのでカークスの姿かたちがわからないのだ。


互いの班は合流すると合流を喜んだ。


「あ、あたし、四班のリーダー、カークス・ジオだよ!! よろしく~~~!!」


アシェリィが手を差し出そうとした時だった。


イクセントがずいっと前に出て右手で彼女とガッチリ握手をした。


「よろしくな。僕はイクセント・ハルシオー……抜影ばつえい!!」


少年剣士は空いた方の左手の指で剣のつばを思いっきり弾いて、その勢いで飛び出した柄でカークスのみずおちに強烈な一撃をお見舞いした。


「ぐ、かはぁッ!!」


唾液を大量に吐き出して彼女は意識を失った。可愛げのある顔が台無しである。


そのまま彼女はイクセントに倒れかかるように寄りかかった。


周りの面々はただひたすらその光景に驚愕するしか無かった。


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