恋色☆コンフリクト
砂漠で小さな五つの星が輝き始めた頃、教会「カルティ・ランツァ・ローレン」でもまた、輝きだす星があった。
「うおおおおおッッ!!! 喰らえ!! 狼炎爆掌ッッ!!」
青年はそう詠唱しながら駆け寄ると獲物を掴むワシのような構えて相手に食らいついた。
「フフフ……まだまだ……。甘い……♥ ノットラント・イチゴくらい♥」
対戦相手の女性は自分の二倍はあろうかという尺の大剣でこれを受け止めた。
だがあまりの衝撃と熱風で教会内の修練場は荒れに荒れた。
思わずギャラリーたちも高温のため逃げたり顔を覆ったりした。
「チッ。伊達じゃねぇな。だが、アンタの言うことを信じてみて正解だったぜ。自分のイメージする自分と一致する技を編み出せってな。まったくの異種流派だったが、ここまで馴染むとは……」
青年は焔纏う右手を握ったり開いたりした。
「あら~、つれないのね~。ザティスくん。未だにアンタ呼ばわり? アンナベリーちゃんって呼んで欲しいんだ・け・ど♥」
それを聞いて思わずザティスは震え上がった。何がイヤというわけではないが、あまりこいつとはこれ以上お近づきにはなりたくない気がした。
熱気でアンナベリーは聖職者用のローブの裾をめくった。
両手の手首にひどいリストカット痕がある。
聖職者と言えど、人の成れの果ての不死者を狩るのはメンタルに良くないらしい。
あの調子では何度も自殺しようとしたに違いない。
それでも、目の前の彼女はたくましく、まったくそんな雰囲気を感じさせない。
さすがのガッツとバイタリティと言わざるを得なかった。
そんな事を狂犬だったが、最近になって狼に昇格した男はぼんやり思っていた。
すると気づいた頃にはアンナベリーが武器を取り替えていた。
構えた瞬間、物凄い冷気があたりを包んだ。
「フフフ……ジパ産の氷菓をエンチャントした武器「”レッド・ビーンズ・アイス・ブレイド”よ……。斬るってよりは殴る武器なんだけど、それよりこの冷気がキモね……」
するとザティスがまとっていた手の焔が一気に引っ込んでいってしまった。
「マジかよ!! ならば、ウィンク・モーメント・アクセラレイトでッ!!」
彼は十八番の加速呪文で勝負をかけようとしたが、アンナベリーが一歩速かった。
気づくとザティスの足がカチンコチンに凍ってしまい、動けなくなっていた。
次の瞬間にはアイスバーのホームランを受けてザティスは教会の時計塔に衝突した。
思いっきりヒビが入り、めり込んだが何事もないように彼は修練場へと降り立った。
それを見てニヤリと毒々しい雰囲気の女性は声をかけた。
「は~い♥ 今日はここまで。集中力が散ってるのがまるわかり。じゃあこの後、私とお茶決定ね。これで何十連続でお茶してるかしら。あら、そんな嫌な顔しちゃいやよ。貴男が負けるのが悪いんですもの」
ザティスは模擬戦に負けるとおごりでアンナベリーをお茶に誘う暗黙の決まりが出来ていた。
ちなみにまだ彼が勝ったことはない。
「おい、ザティスのやつ、アンナベリーさんとデキてんじゃないのか?」
「う~ん、見た目は美人なんだけど中身がなぁ……」
「着任直後はもっと天真爛漫だったんだけどなぁ……」
「おいお前ら、いい加減にしろ。どんだけあの方に命守ってもらってると思ってんだ!!」
散々な言われようの声が聞こえてくるが、腕は認められているようである。
同時にザティスに対しても声が聞こえた。
「はぁ~、ザティスさんかっこいい~。あのちょいワルなとこが」
「ちょいワルなんて小物っていうか、アウトローな感じ」
「ねーねー。教会に居ないタイプで惹かれるわぁ~」
「グフフ……たまんねぇ~」
教会の若き女子達のうわさ話だ。どの娘も美人で可愛く、普通なら鼻の下を伸ばすところだが、ザティスは全く気にかけなかった。
その時、彼に聞き慣れた癒し系の声が聞こえた。
「ザティスさん!! ザティスさんじゃないですか!!」
彼は思わずその声の主に振り向いた。
「お、お前!!」
とても懐かしい顔を見て思わずザティスは顔が和んだ。




