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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter4:奇想天外!! 摩訶不思議!! 魔術学院ライフStart!!
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虹色プレゼント

アシェリィはブロック塀の影の地べたににペタリと張り付くようにして潜伏していた。その時、空から激しい風切音が聞こえた。


何かの呪文だろうか。あわてて上空を見るも、背の高い建物に遮られて誰がどのように衝突しているのか全くわからなかった。


彼女自身もそろそろしびれを切らしてきていて、動き出そうかと思っていたその時だった。重厚感のある足音がこちらに迫ってくるのが聞こえた。


ゾシュッ……ザシュッ……ズズズ……ザッシュ、ゾッッシュ……


まるで重い甲冑を引きずるような鈍い音が徐々に大きくなってくる。


アシェリィはさきほどの反省を生かして少しだけ顔を出して塀の端から音の方向を覗いた。擬態はしているのでこのくらいなら気づかれないはずだ。


音の主はやはりというか案の定と言うかカブトムシとザリガニの間の子のような見た目をしたガリッツである。


いつのまにか彼の頭からは触覚が出ており、それをピクピクさせていた。


このまま隠れていればやり過ごせるかと思ったが、気味の悪い亜人はこちらへの最短距離を正確に一歩一歩、歩いてくるのがわかった。


どう考えても捕捉されているとしか思えない。


こうも簡単にカモフラージュが立て続けに破られると想定していなかったのでアシェリィは焦って次の手を考えた。


(えっと……えっと!! ヒスピスは鳥属性だから、虫(?)のあの人には有利かもしれないけど、体格差がありすぎる!! 正直、今はあの固そうな体を打ち破れそうな幻魔が居ない!! 稲妻の幻魔、フェンルゥーを使えばあるいはって感じだけど、今使ってしまうべきじゃない!!)


必死に思慮を巡らせる彼女に向けてガリッツはどんどん距離をつめてくる。塀までもうあと5mといったところだった。


「ううぅ……うぅぅ……ひっく……ううううう……」


突然、女性のすすり泣く声がアシェリィとは正反対の位置から聞こえてきた。その声に反応してガリッツはゆるやかに振り返った。


そこには少女の姿をした精霊が立っていた。だが、ただの少女ではない。樹木の体をもつ幻魔だった。


葉のような髪と、枝のような手、そして根を練り上げたような足をしてしくしくと黄金色の涙を絶えず流している。


キメラのような亜人はそれに気を引かれて近づいていった。彼はしばらく木の少女を観察していたが、すぐに彼女めがけて顔をつっこんだ。


塀の影のアシェリィは軽くガッツポーズをとった。


むせびのマリヴェル……病気の恋人と生き別れになった若き女性が首を吊ったとされる木の下で見つけた精霊! その目から流れる涙は甘い樹液で、なめると少しだけマナが回復する効果があるみたい。役立つかわからなかったけど、もしかしたら虫相手ならと思って……)


彼女の目論見はうまい具合にいった。樹液に夢中になったガリッツはマリヴェルの頬を伝う涙をなめまわして釘付け状態になり、すっかりこちらへの関心を失ったのだった。


その隙を狙って、アシェリィは腕をついて体を起こした。そしてしゃがみ歩きしながらその場を離れた。


ポロポロと体から石のウロコが剥がれたが、なんとか見つからずにその場を離れることに成功した。


その頃、同じく立て続けの襲撃にあったフォリオは上空を右往左往していた。


最高速を維持するにはそろそろ着陸して休憩したいところだったが、どこに降りても誰か居そうな気がしてしょうがなかった。


きっとあちらにいけば誰かいる。ならば、中間はどうだろうと鳥に襲われた地点と、矢で狙われた地点の間に降りることにした。


着陸して大きなため息をつくと彼はキョロキョロとあたりを見回した。あたりに人影は無かったが、直感的に危機を感じ取った彼は脇の荒れた草むらに飛び込んだ。


その直後、ブゥゥゥゥンという鈍い羽音を立てて、気味の悪い甲虫のような塊が土煙をあげて通り過ぎていった。


「あああ、ああ、あい、あいつ、とと、とべっ、とべるの……?」


そのまま素通りするかと思われたが、その亜人は突如着地して羽を甲羅の裏にしまいこんだ。そして、触覚を揺らしながらこちらをじっと見つめた。


「ままままままま、まず、まっ、ままず、まずい!!!! きききっ、ききっ、ききづかれた!!!!」


未知の生物が隠れている自分に気づいたのをすぐに察知したフォリオは再びホウキにまたがって飛び立ち、衝撃波が起こるほど高速で逃げ出した。


一方、感づかれた方はツノを天に突き上げて触覚を振る程度で他には何も出来ず、その場で立ち尽くしていた。


誰も居ない廃墟を歩くイクセントはまだ誰とも遭遇していなかった。


群青色の美しく長めの髪が白いブラウスと学院の群青色のズボンとマッチして調和のとれた色合いをしている。


彼は気だるそうにとぼとぼと広い路地を進んでいた。


さきほどから何回か、誰かが交戦している気配はあったが、今のところ自分の近くには誰もいない。そう思いかけたときだった。


ものすごいスピードで飛来する何かが見えた。建造物の合間を縫うようにしてでちらちらと姿を表したり消したりしている。


鳥にしては大きすぎるし、速度も尋常ではない。彼にはすぐにそれが人、ホウキにまたがった人間であることがわかった。


見る限り、こちらに一直線に近づいている。さきほどの風切音は彼を狙っての攻撃だったのだろうかと思いながら片手で陽光を遮りながら頭上の上空を眺めた。


「ちょうどいい……。あいつにくれてやるか。そのために”創り出した”グリモアだからな……」


誰に言うでもなくそうつぶやくとイクセントは右手を握って詠唱を始めた。


天駆あまかける魔の眷属達よ……。汝らは知るだろう空は汝らの楽園ではない、と。そして地に斃れる汝のからだに気づくだろう……」


小さな少年はそうつぶやくと握った手をゆっくりと開いた。


「来たれ!! 断魔のときッッッ!!!! シャッセ・シャセ・オウ・ソシエーフ!!!!」


その合図とともに手のひらから鮮やかに輝く光弾が打ち上げられた。フォリオ側からもこの光弾は視認できていた。


「っっぅっ!!!!! ああああ、ああああれは、ささささ、さくれ、いや、せせせせ……せせんこうだんだ!!!!!! ごごっ、ごごご、ごごゴーグルをっ!!!」


ホウキの乗り手は光の玉を見るやいなや、額に付けていたゴーグルを装着した。これはれっきとしたマジックアイテムで、特殊な光などから視界を保護する効果がある。


彼がゴーグルをかけた直後、光の玉は軽い炸裂音と共に虹色に激しく点滅した。もし、ゴーグルなしでこれを直視してしまったら気絶していただろう。


この異変はすぐに他の班員にも伝わった。二人以外の全員がチカチカと不自然に点滅する空を見上げた。


閃光弾の至近距離を抜けたフォリオは大きく息を吐いた。激しいフラッシュだったが、なんとかゴーグルのお陰で意識や視界を失わずにすんだのだ。


「ああああ、ああああぶないじゃないか!!!! ななな、なんてことを…………」


その直後、フォリオは何かの気配を感じて後ろを振り向いた。そして振り向くと同時に全身を刃で貫かれたような激痛を感じた。


バチッ。バリバリッ。ゴゴゴゴ……バチバチバチバチッッッ!!!!!


「うあ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ” あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”ぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


彼は後ろから追跡してきた電撃に串刺しにされた。そして感電して真っ黒焦げになりながら墜落していく。もうその時点で意識は無かった。


雷はやがて形を留めなくなり、激しい雷音と稲妻と共に虹色の空に四散した。


空の色がもとに戻っていくのをイクセントはそれをやれやれといった表情で見上げていた。


「……魔女の孫の孫へのとっておきのプレゼントだ。こざかしい空の連中にはこれに限る……。お前には何の恨みもないが、倒さねばバトルロイヤルが終わることはない。恨むなら教師たちを恨むんだな……」


その頃、戦いの様子を見ていた教員たちはハチの巣をつついたような騒ぎになった。


「ナッガン教授!! フォリオの肉体の損傷率74%!! すぐに収容しないと命に関わります!!!」


「……慌てるな。これでも手加減しているほうだろう。あの様子なら空中で粉々にするパワーはあった。重要な脳や臓器などは外している。全く、器用なことをするものだ」


監督官の教授はそう冷静に状況を見守った。しかし、周りの教師たちは戸惑いを隠せない。それはそばで見学していた女性もそうだった。


「ナッガン先生、あの子、確かに”創り出した”って言ってましたよね? あんな高度な術式を、しかもあんな短い詠唱で……? ちょっと考えられないんですが……」


ある教員は興奮混じりに報告してきた。


「分析出来ました!! あれはただの閃光弾ではなく、空中を飛んでいる物の位置をスキャンする光弾のようです。そして、範囲内に居る敵を察知して雷撃で強襲するという呪文です!!」


そうこうしているうちにフォリオの回収が終了したようで、隣に並んでいる仮設の医務室に彼が運ばれてきたようだった。


その報告を聞いて戦いを見ていた女性は真っ先に医務室に向かおうとしたが、ナッガンがそれを止めた。


「ああ見えてあいつも男だ。情けないところは見られたくないだろう。行ってやるな。それに、これからが本番だ。イクセント、ガリッツ、アーシェリィーそしてシャルノワーレ。この四人の能力はしっかり見ておけ。勝敗は俺にも全く予想がつかん。だが、エレメンタリィのレベルを超えた高度な戦いになるのは間違いない……」


彼はそう言うと、オールバックをかき上げなおして、再びスクリーンに見入った。声をかけられた女性は画面越しからでも伝わってくる能力と能力の衝突によるプレッシャーに身震いしていた。


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