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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter1:群青の群像
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奇襲! アテラ・クイーンを討て!!

森の入り口で思い出したようにファイセルはリーリンカのカバンの中身を見始めた。


「えーっと、これだ。擬態香水ぎたいこうすい。旅の途中で買おうと思ってたけど手間が省けたよ。今回使うのは森林の香りの”フォレストパフュメ”。これを頭からかぶると匂いとか気配が森林に近づいて森のモンスターや索敵魔法さくてきまほうをやり過ごせるという便利なアイテムさ」


 ファイセルは小さい試験管に入った緑の液体を頭からかぶった。


液体は体に触れるとすぐに蒸発した。強烈な森の臭いがこびりつく。


「うわ~、青臭あおくさっ!!」


思わず大声を上げてしまい、焦ってすぐに脇の藪に伏せる。


(ファイセルさんしっかりしてください!)


 リーネがそうささやいた。


幸いアテラサウルスには気付かれていないようだが、あまりの臭さに鼻が馬鹿になってしまった。


森の匂いを何百倍にも濃くしたような匂いが乾燥したままベッタリくっついてしまった。


「まったく、どうしてリーリンカの薬はこう極端なんだ……」


まだ周囲の安全が確認できなかったのでやぶの中でファイセルは剣に手をかけた。


ここまでの道のりで剣を抜いたことは一度も無かった。


剣を投げては拾ったりを繰り返して使い方を模索もさくしてきた。


特に人気ひとけのない街道などでは遊ぶように剣を遠くに投げては拾ってを繰り返したりしていた。


「剣を使うんですか? 投げてばかりで剣を使ってるところを見た事ないですよ?」


不安そうに剣を見つめるリーネにファイセルは答えた。


「こいつが暴れる条件みたいなのを色々と探ってたんだけど、こいつはさやから完全に刀身が出ると暴れだすんだよ。つまり、自分の近くで鞘から出さずにーターゲットのそばまで投げて鞘から出るように命令すればこちらには襲い掛かって来ないんだ」


ファイセルは腰の剣に手をえながら解説した。


周囲にモンスターの気配が無い事を確認して狭い道幅を進む。左右は藪に囲まれていた。


 アテラサウルスはこういった場所に隠れて獲物がやってくるのを狙っている。


いくら気配が薄くなっているとはいえ、視界に捉えられれば襲われてしまう。


ファイセルは時々しゃがみながら進んだ。


 大人の身長程度のある恐竜が走ればそれなりに大きい音がするものだ。


やぶや草むらを走っていればかなり距離が遠くても察知することが出来る。


「おかしい、全く遭遇しない。もしかしたら先行した冒険者に気を取られているのかもしれない」


なんだか街道の奥の方が騒がしくなってきた。緊張感が一気に高まる。


薄暗い森の中に光が差し込んでいる箇所かしょに人影とモンスターが見えた。


ファイセルの予想は的中した。


「冒険者はあれだな! 人数は話通り3人。1人は倒れてて、2人が交戦中。アテラサウルスは3匹か。と言う事は近くに”クイーン”がいるな。そいつを先に叩く!」


アテラサウルスは必ず群れで行動する。


1匹のメスに対して3~4匹で群れをつくるのが一般的だ。


このメスは”クイーン”と呼ばれ、群れの中でのブレインの役割もこなす。


頭部に赤いトサカがあるのが特徴だ。


クイーンを崩せば一気に冒険者を囲む包囲網ほういもうが崩壊するとファイセルは考えあたりを探した。


「そう遠くには離れてな……いた!!」


1匹だけ集団から離れ、茂みの中で様子をうかがっている奴がいる。


隠れているつもりだろうが、トサカが丸見えだ。


擬態香水ぎたいこうすいのおかげか全くこちらには気付いていない様だった。


ファイセルは素早く制服を脱ぎ、その上着を地面に叩きつけるようにして投げつけた。


(そのまま泳ぐようにして地を這い、正面からターゲットに貼り付け!! 目を塞いで視界を遮り、腕で一気に締め落とせ!!)


ファイセルの制服、”オークス”は命令に従い、エイが水中を泳ぐようにヒラヒラと低空飛行してクイーンに接近した。


次の瞬間、空っぽの制服が魔物の首に抱きつき、強烈に締め付けた。


「ギャァッ!!ギャァギャァ!! ピュルルルルルル!!」


クイーンは異常事態を知らせる警戒音を出しながら暴れてオークスを引きはがそうとした。


しかしオークスはガッチリ首を締め上げており、外れそうにない。


警戒音を聞いたオスが冒険者から注意を離し、助けに向かった。


ファイセルはその混乱に乗じてクイーンに一気に近づく。


(よし! 上手くいったぞ。そしたらこいつの出番だ。行け! ”ザルザ”)


ファイセルは持っていた剣をさやごと恐竜の群れに放り込んだ。


剣は地面に落ちた後、ガラガラと音を鳴らしながらヘビのように鞘から這い出してきた。


刀身があらわになったかと思うと剣の刃は不気味に光り宙に浮き、近くの動く物を手当たり次第切りつけ始めた。


モンスター達は本体が鋭い刃なので中々有効な攻撃を与える事が出来ない。


その間も刃は確実にアテラサウルスたちにの群れに切り傷を与えていく。


(ひえ~、さやを抜くとこまでテストしなくてよかったよ。正直、あれは手に負えない、それはそうと、冒険者の人達を助けないと!!)


ファイセルは注意が完全にそれたのを確認して冒険者の近くに駆け寄った。


「大丈夫ですか!? 酷い怪我けがだ。これを飲んで傷薬を塗ってください!!」


ファイセルは飲み薬の回復薬と傷に塗る回復薬を冒険者達に手渡した。


「お、俺等はいい、フィーを、こいつを何とかしてやってくれ……」


明らかに重症な女性がいる。一番傷が酷く、意識もない。


ファイセルは焦りながらバッグを漁る。


「あった。これだ!!」


ラベルには『死にそうになったら飲め』と書いてある。


女性を仰向あおむけにして頭を手で抱え、試験管の中の霊薬を飲ませた。


傷がみるみるふさがっていく。呼吸も弱弱しいながら戻り、息を吹きかえした。


だが顔や肌が青ざめていて、血液が足りなくなっているようだった。


血の匂いを嗅ぎつけた別の群れのアテラサウルスにいつのまにか背後をとられていた。


ピンチかと思われたが「ゴキン!!」という音がして手ごたえを感じた。


オークスが最初のクイーンの首の骨をへし折って絞め殺したのだ。


向こうの群れの統率は完全に失われていて、暴れ剣のザルザにとっては動く的という感じだった。


「オークス!! そっちはザルザに任せて今度はこちらのクイーンを見つけて締め落とすんだ!!」


空飛とぶ制服はすぐにクイーンの死体から離れてヒラヒラと飛び、やぶの向こう側へ飛んで行った。


奇抜きばつな戦い方の数々に冒険者は度胆どぎもを抜かれた。 


「オークスだけじゃ間に合わないか!! ならば!!」


 ファイセルはベルトからブーメランの”リューン”を引っ張り出した。


ファイセルがカバーを外すと、諸刃もろはのブーメランが姿を現した。


「ギャギャッギャギャギャギャッ!!」


四方からアテラサウルスにほえられる。今にも襲い掛かってきそうな勢いだ。


ファイセルはそれを無視し、ブーメランを構えた。


「ひえええ!! やっぱり殺られちまうのか!!」


(回れ……回れ……高速回転だ)


すぐにブーメランが回転しだした。高速回転のあまり風切音が発生して円形の刃に見えてきた。


(今だ!! 僕らを中心として周辺をクルクル回りながらアテラサウルスを迎撃しろ!!)


 すぐさまリューンを解き放つ。ファイセルを中心としてブーメランは指示通りクルクル回りだした。


使い慣れないザルザとは別格の威力だ。


飛びかかってくるアテラサウルスをスパスパ切って深手を負わせていく。


一方でファイセルはオークスがクイーンを捕まえたような感覚を感じた。


(捕えた!! いいぞ、その調子で締め落とせ!!)


クイーンの危機を察知したようだったがこちらのオス達は深い傷を受けていた。


のたうちまわっていてとても助けに行けるような状態ではない。


またオークスが2体目のクイーンを締め上げる。


(リューン、トドメだ!! 転がってのたうちまわっている奴らの首をっ切れ!!)


あっという間にアテラサウルスの死体の山が築かれていた。

(ザルザのほうはどうしただろうか?)


森の藪の向こうを覗くとまだアテラサウルスを斬り続けている。


相手は相手でダメージは負っているものの、致命傷には至っていないようだ。


やはりザルザでは攻撃力にムラがあるなと考えながらリューンを群れの方に送って、ザルザを援護した。


恐竜3体を一瞬でほふり、ブーメランは戻ってきた。


ファイセルは器用にそれをキャッチした。


再び「ゴキン」と鈍い音がして茂みからオークスが戻ってきた。向こうのクイーンも締め落とせたようだった。


これだけ倒せばしばらくは連中が蔓延はびこる事はないだろうとファイセルは一安心した。


ザルザの回収にてこずるのではないかと思ったが、もう剣が動いている様子はない。


回収しに行こうとやぶの方を向いたとき、背後から戦士たちの悲痛な叫びが聞こえた。


振り向くと戦士が倒れていた女性を抱えている。出血量が多くて肌が青ざめていた。


「まずい!! このままでは死んでしまう!!」


ファイセルが駆け寄ってカバンの中を見るが、この状況を打開できるような薬は無かった。


先ほど飲ませた薬は傷を急速に塞ぎ、止まりかけた心臓の鼓動を助ける効果があったようだ。


しかし、大量に出血し過ぎた後だった故に血の気までは回復できていなかった。


「何とか、何とかならないのか!!」


ファイセルは放心状態で立ち尽くすしかなかった。

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